第11回下北沢映画祭は2019年10月13日(日)〜14日(月)に開催
クリエイティブとカルチャーが暮らす街・下北沢を代表するイベントの一つであり、下北沢における映画の祭典「下北沢映画祭」は、2019年でついに11回目を迎えました。
そして映画祭開催期間の最終日にあたる10月14日、応募総数270本の中から賞へノミネートされた9本の映画による第11回下北沢映画祭コンペティションが行われました。
平成最後の年、そして令和最初の年に開催された本映画祭コンペティションでは、果たしてどのような作品が賞を獲得したのでしょうか。
この記事では第11回下北沢映画祭コンペティションの模様と受賞作品についてご紹介させていただきます。
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「下北沢映画祭」とは?
数々の劇場やライブハウス、服飾店、飲食店などが集積し、またそれらを求めて感度の高い、言い換えればクリエイティブな人々が集まる街・下北沢。
また、ギャラリーを併設するカフェやイベントスペースを設置した小売店が多く点在するなど、街全体が表現活動に非常に協力的であるため、厚みのある様々なカルチャーが生まれ続ける街としても知られています。
「下北沢映画祭」は、そんなクリエイティブとカルチャーがともに暮らす街で2009年から創立された、下北沢における映画の祭典です。
街の特長を活かしながらも地域の方々と深い協力関係を築き、下北沢を代表するイベントの一つに育て上げられてきた本映画祭も、2019年でついに11回目を迎えました。
映画祭史上初の台風襲来により「開催期間が3日間から2日間に縮小せざるを得なくなる」というトラブルに見舞われながらも、無事開催を迎えることができました。
第11回下北沢映画祭・コンペティションリポート
審査員を務めた4人の映画人。左から轟夕起夫氏(映画評論家)大槻貴宏氏(トリウッド代表)直井卓俊氏(企画・配給プロデューサー)深田晃司氏(映画監督)
実写、アニメーション、ドキュメンタリー…一切のジャンルを問わずに公募を行う本映画祭のコンペティション。その受賞式の前には、4人の審査員による作品講評、そして審査員陣と応募総数270本の中から作品がノミネートされた9人の監督によるトークセッションの時間が設けられました。
深田晃司監督からの寸評
多くの監督作が国内外で高い評価を受け、2019年には長編映画『よこがお』と初の連続ドラマ『本気のしるし』を発表した審査員・深田晃司監督は、美大生の孫娘と認知症が進む祖父の人間模様を描いた大森歩監督の『春』について、「主演・古川琴音と祖父役の花王おさむのやりとりが素晴らしく、可愛らしさとリアリティが同居している芝居だった」とコメント。
『門出』の女優であり演出も務めた村田唯監督
また村田唯監督自身が出演した二人芝居劇『門出』についても、「描きたいものを“別れの瞬間”へと絞り込むことで、短編作品にありがちな“盛り込みすぎ”に陥らず、密で素晴らしい作品となった」とコメント。さらに“全編ワンカット撮影”という常間地裕監督の意欲作『なみぎわ』も「手法と物語が見事にマッチしている」と高く評価しました。
映画プロデューサー・直井卓俊氏の寸評
映画企画・配給会社「SPOTTED PRODUCTIONS」代表を務める審査員・直井卓俊さんは、坂田敦哉監督の『宮田バスターズ(株)』について「自身が自主映画に出会い始めた頃に観た、やりたいことをやれている作品」と評価。
一方で、障害と向き合おうとするある母娘の姿を描いた野本梢監督の『次は何に生まれましょうか』については、「独自のテーマと視点に基づく作品だからこそ、より深く描いても良かったのでは」とコメントしました。
SFモンスター作品『宮田バスターズ(株)』の坂田敦哉監督
ミニシアター「下北沢トリウッド」代表の大槻貴宏氏の寸評
ミニシアター「下北沢トリウッド」代表の審査員・大槻貴宏さんは、アニメーション作品である2作を講評。川上喜朗監督の『雲梯』に対しては自身も体験したはずの「退屈な夏」とその印象を思い出せたとコメント。
また平松悠監督の『ひ なんて、なくなってしまえ!』についても、発想の素晴らしさとそれを見事エンタメ作品へと作り上げた手腕を評価しました。
独自の世界観で描いた『雲梯』の川上喜朗監督
映画評論家・轟夕起夫氏の寸評
映画評論家である審査員・轟夕起夫さんは白磯大知監督の『中村屋酒店の兄弟』について、「初の監督作とは思えない完成度」と評価。
そして田村将章監督の『そんなこと考えるの馬鹿』には、「人を試す作品ではあるものの、場面場面のショットは本当に素晴らしい」と評価しました。
2019年の受賞作は…?
初監督作品『中村屋酒店の兄弟』が高く評価された白磯大知監督
トークセッションが無事終了し、いよいよ待望の授賞式の時間へ。
5つの賞のうち、会場に訪れた人々の投票により決定される観客賞を獲得したのは白磯大知監督の『中村屋酒店の兄弟』。受賞に際し白磯監督は、「今後も面白い作品を作り続けたい」とコメントしました。
自ら踊り描いた『ひ なんて、なくなってしまえ!』の平松悠監督
また準グランプリを受賞したのは、平松悠監督の『ひ なんて、なくなってしまえ!』。
平松監督は同作の主人公と同じくひらがなの「ひ」が嫌いだったものの、アニメーションを通じて初めて他者から共感を得られたことが一番嬉しかったと同作への思いを語りました。
そしてグランプリ・日本映画専門チャンネル賞・下北沢商店連合会会長賞という三冠受賞を果たしたのは、大森歩監督の『春』。
左から第11回下北沢映画祭グランプリの大森歩監督、審査員の深田晃司監督、グランプリ作品『春』出演女優の加藤才紀子
大森監督は同作の物語がほぼ実話であり、映画制作を決意したのも自身の祖父の亡くなったことへの悲しみがきっかけであるとその制作秘話に触れながらも、生前の祖父と買い物に来ていた思い入れの場所・下北沢でファンだった深田晃司監督の審査によって賞を得られたことが本当に嬉しいと、受賞への感謝と喜びを表しました。
第11回下北沢映画祭・受賞作品一覧とあらすじ
大森歩監督『春』
第11回下北沢映画祭グランプリ・日本映画専門チャンネル賞・下北沢商店街連合会会長賞受賞作
【上映】
2019年(日本映画)
【監督・脚本】
大森歩
【キャスト】
古川琴音、花王おさむ、加藤才紀子
映画『春』のあらすじ
父の家に居候をする、美大生のアミ。
大人になるアミとは反対に、どんどんボケていき、子供返りするおじいさん。
やがて、二人の感受性が重なる。
平松悠監督『ひ なんて、なくなってしまえ!』
第11回下北沢映画祭準グランプリ受賞作
【上映】
2019年(日本映画)
【監督・脚本】
平松悠
映画『ひ なんて、なくなってしまえ!』のあらすじ
ひらがなの「ひ」が嫌いなデザイナーひふみは、「ひ」がきになってしょうがない。
ある日、彼女が迷い込んだのは、「ひ」が楽しく暮らすパラレルワールド。
「ひ」たちは彼女を「ひ」の世界へと誘う。
白磯大知監督『中村屋酒店の兄弟』
第11回下北沢映画祭観客賞受賞作
【上映】
2019年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
白磯大知
【キャスト】
藤原季節、長尾卓磨、藤城長子
映画『中村屋酒店の兄弟』のあらすじ
数年前家を出て一人東京で暮らす和馬は、親が経営していた酒屋を継いだ兄、弘文の元へ帰ってくる。
久々に訪れた実家は昔のままの懐かしさの中に確実に変わってしまったものがあった。仲の良かったふたりもどこか、よそよそしい距離感になってしまう。
刻々と変わっていく今に戸惑い、必死に否定して、生きようとするふたり。
まとめ
トークセッションの終盤、深田晃司監督は第11回下北沢映画祭コンペティションの総評として、「270本の中から選ばれた時点ですでに優れた作品である」と、作品がノミネートされた9人の映画監督たちに祝福と労いの言葉をかけました。
その上で、「賞自体は雲のようなものであり、どうしても審査員の主観と好みによって受賞の如何が決まってしまう」「だからこそ賞に選ばれなかったとしても、重く捉えることなく映画を撮り続けてほしい」と監督陣を励ましました。
無事幕を閉じた第11回下北沢映画祭と作品コンペティション。今回の映画祭をきっかけに、9人の映画監督たちはどのように成長し、どのような作品を生み出していくのでしょうか。
それはまだ誰にも分かりませんが、例えどのような将来を迎えたとしても素晴らしい作品は確実に生まれるということは、コンペティションの様子から確信することができました。
2020年に開催されるであろう第12回下北沢映画が、これから楽しみです。