Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

コメディ映画

Entry 2019/11/29
Update

映画『だれもが愛しいチャンピオン』感想とレビュー評価。ラストの展開に描かれた障がい者から教わる健常者の可能性

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『だれもが愛しいチャンピオン』は2019年12月27日(金)よりロードショー!

プロバスケットボールチームのコーチを務めた男が、ひょんなことから知的障がい者のバスケットボールチームを預かることに!?

『だれもが愛しいチャンピオン』は、奇想天外でユーモアあふれる物語の中にホロリと涙を流しそうな人情劇を盛り込んだハートフルコメディー映画です。

監督・共同脚本、編集を務めたのは『ミラクル・ペティント』『モルタデロとフィレモン』を手掛けたハビエル・フェセル 。主人公マルコを、『マーシュランド』『オリーブの樹は呼んでいる』のハビエル・グティエレスが演じます。

その他に、マルコが受け持つチーム・アミーゴスのメンバーには実際に障がいをもつ10人の俳優が、600人もの中からオーディションで選ばれキャスティングされています。

ユーモラスでハートフルなストーリーの中に、2000年のシドニー・パラリンピックでスペインが引き起こした実際の事件を織り込むなど、近年大きく注目されているパラスポーツというジャンルについて、改めて言及する内容も含まれています。

映画『だれもが愛しいチャンピオン』の作品情報


(C) Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE

【日本公開】
2019年(スペイン映画)

【英題】
CHAMPIONS

【監督・共同脚本】
ハビエル・フェセル

【キャスト】
ハビエル・グティエレス、アテネア・マタ、フアン・マルガージョ

【作品概要】
プロバスケットボールチームのコーチと知的障がい者のバスケットボールチーム“アミーゴス”との出会い、そしてトレーニングを通じて培われる絆を、コメディー要素タップリに描きます。

監督・共同脚本、編集を務めたのは『ミラクル・ペティント』『モルタデロとフィレモン』を手掛けたハビエル・フェセル 。主人公でバスケットボールのコーチ・マルコ役を『マーシュランド』『オリーブの樹は呼んでいる』のハビエル・グティエレスが演じます。

ストーリーには実際に2000年のシドニー・パラリンピックでスペインが引き起こし、パラリンピックから競技が除外されるきっかけとなった事件にも言及しています。

また、アミーゴスのメンバーには、実際に障がいをもつ10人の俳優が600人もの中からオーディションで選ばれキャスティングされてており、ユーモアだけでなく障がい者の生活、そしてパラスポーツというジャンルに深く言及する内容となっています。

作品は2018年、スペインのアカデミー賞とも言われるゴヤ賞で作品を含む3部門を制覇。特に受賞者には、障がいをもつキャストのヘスス・ビダルも含まれており、大いに注目を浴びました。さらに作品はスペイン国内でも大ヒットを記録し話題を呼びました。

映画『だれもが愛しいチャンピオン』のあらすじ


(C) Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE

プロバスケットボールチームのサブコーチを務めるマルコは負けず嫌い。ある日チームのゲーム中に、ヘッドコーチとお互いのコーチングをめぐって言い争いになり、相手を殴ってしまったあげくに飲酒運転事故を起こして逮捕されてしまいます。

チームを解雇され、裁判所からは90日の社会奉仕活動を命じられたマルコ。そしてその裁判所の命令で行き着いたのは、公共の体育館でした。

そこでマルコはこの体育館を本拠地とする知的障がい者のバスケットボールチーム・アミーゴスをコーチングすることに。

基礎的なトレーニングはおろか、会話すら満足にかみ合わない面々。途方に暮れるマルコでしたが、チームの責任者・フリオから彼らが普段は複雑な事情を抱えながらも仕事をこなし、自立した生活を送っていることを知らされます。

その話を聞いたマルコは、彼らへの見方を変え辛抱強くコーチングを続けます。そして途中からチームに合流した新メンバー、コジャンテスの荒くれファイトのかいもあり、チームは上昇ムードに乗り全国大会決勝に向かうことに。

その経過とともに、周囲がマルコを見る視線も変わっていきます。一方で、マルコは妻ソニアとの間に、ある一つの問題を抱えていたのでした。

映画『だれもが愛しいチャンピオン』の感想と評価

障がい者がエンタメで活躍できる


(C) Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE

いかにも“スペインらしさ”を感じさせるテンポの良さ。音節がはっきりしていることもあってか、例えばスペイン語は日本語に比べると非常に早口に聞こえますが、そのポンポンと進む言葉のテンポにうまく合わせたユーモラスな展開が、とても小気味良く感じられます。

そこで特筆すべきは、やはり俳優陣。これだけのテンポの良さを、実際に障がいをもった俳優陣で実現したということに、驚かれる方も多いでしょう。

賛否量両論あるかもしれませんが、通常の商業映画に鑑みても、全く遜色なく、むしろ一般俳優よりも魅力的です。

しかもその一人ひとりが、生き生きと役者としての表情を見せており、融通のきかない交通巡視員のマリン役を務めたヘスス・ビダルはゴヤ賞2019の新人賞を得るほどで、その才能と可能性を今後の映画出演に感じられそうです。

障がい者は、社会的にエンタテインメントという分野にはなかなか入れづらい空気も、場合によってはいまだにあることでしょう。

2012年に公開された映画『チョコレートドーナツ』のような例もありますが、これは障がい者がまだ社会に受け入れにくいという認識の上での描き方となっています。

それを考えると本作のように、本当の障がい者とともにしっかりとエンターテインメント・ストーリーを成立させたことは、障がい者と健常者の垣根を一段低くするような可能性も見えてくるはずです。

近年は障がい者に対しての視点も徐々に変わってきました。これは日本でも2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会を控えた今日、障がい者という位置づけは特に注目を浴びつつあります。

映画でも、例えばスポーツではありませんが、近年ハリウッドリメイクを果たした『最強のふたり』や、車いすテニスのシーンも印象的な『パリ、嘘つきな恋』など、新たな視点から障がい者との接し方を描いた作品も登場してきました。

以前は障がい者に対し「いかに社会に受け入れていくか」という視点でありましたが、先述の2作は「健常者と同じ社会の一員として、いかに彼らに接していくべきか」という視点へ、一歩進んだ関係に描かれています。

そしてこの『だれもが愛しいチャンピオン』は、一歩踏み込んだ視点で、彼ら障がいの有る人たちから“障がいの無いと思い込んでいる健常者”が教えを請うカタチで描かれています。

それは誰が人生を生きるなかで、“メインであり、サブであるか”と拘ることに意味はないと、声高々に人生を真実を歌いあげています。

人との向き合い方を考えさせるもの


(C) Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE

本作は単にコミカルなものにしているだけでなく、ある意味従来から議論されている「障がい者を、いかに社会に受け入れるか」という視点についても言及しているかは先ほども述べた通りです。

その大きな問いは、主人公マルコとその妻ソニアとの関係の奥にもありました。その秘密については劇中の物語の中で明らかにされますが、その展開からは障がい者のバスケットボールチーム・アミーゴスの面々の成長が、一つの答えを与えています。

そしてそれこそがこの作品のタイトル『CHAMPIONS』という言葉に集約されているようでもあります。登場人物それぞれに、こうした人々との生活というものを深く考えさせてくれる作品といえます。

まとめ


(C) Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE

映画のクライマックスには、息つく暇もないほどのバスケットボール・ゲームシーンが設けられています。

さすがに知的障がい者のプレーですので、例えば『コーチ・カーター』のようなスーパープレーが見られるわけではありませんが、それでもなかなかの白熱ゲームシーンを見せており、物語を盛り上げます。

そしてラスト間際では、あっと驚く展開に。きっと多くの人は“そりゃないでしょ!?”と肩透かしを食らいながらも、最後には納得しつい笑顔になってしまう自分に気づくでしょう。

楽しくも暖かく、そして人を好きになる。そんな表現がピッタリな作品であります。

映画『だれもが愛しいチャンピオン』は2019年12月27日(金)より公開されます!

関連記事

コメディ映画

Netflixおすすめ映画『この子をよろしく~突然!?育児トライアル』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。夫婦間の“家族計画”問題をコミカルに描く

仕事に生きる“妻”とパパになりたい“夫”のラブコメディー 結婚をして3年が経った夫婦の間に生じた、「家族計画」問題をテーマにした、『この子をよろしく ~突然!?育児トライアル~』をご紹介します。 結婚 …

コメディ映画

映画『ステキな金縛り』ネタバレあらすじ感想と結末解説。面白い“シナモンと幽霊の関係”が光る三谷幸喜代表作の法廷コメディ

落武者が法廷に登場する作品『ステキな金縛り』 映画『ザ・マジックアワー』以来、3年ぶりとなる三谷幸喜監督が脚本も兼務した、2011年公開の映画『ステキな金縛り』。 三流弁護士のエミが、担当する殺人事件 …

コメディ映画

映画『セラヴィ!』あらすじネタバレと感想。ラストの結末も

結婚式はまさに、“現代社会の縮図”のようなものです。 人生は人に泣かされ人と笑う、そんな時間をウェディングプランナー30年の大ベテランのマックスが、17世紀のお城を舞台にして豪華絢爛の結婚式をプロデュ …

コメディ映画

ビーチ・バム まじめに不真面目|評価解説と内容レビュー。キャストのマシュー・マコノヒーが熱演する人生の再起を描いたコメディ

映画『ビーチ・バム まじめに不真面目』は2021年4月30日(金)より公開。 過去に1冊だけ出版した詩集が評価され「天才」と呼ばれた詩人ムーンドッグの、再起をかけた奮闘を描いた映画『ビーチ・バム まじ …

コメディ映画

映画『ニューヨーク最高の訳あり物件』あらすじネタバレと感想。結末は爽やかに今を生きる女性たちにエールを送る

ニューヨーク・マンハッタンの高級アパートメントに同じ男に捨てられた女が2人。奇妙な共同生活の行方は如何に!? 映画『ニューヨーク最高の訳あり物件』がシネスイッチ銀座他にて全国順次公開されています。 『 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学