“奇跡の救出劇”サンダーボルト作戦を新たな視点で映画化
1976年発生のエンテベ空港ハイジャック事件と、事件解決に動いた「サンダーボルト作戦」の新事実とは――。
ブラジルの麻薬組織と警察の闘いを描いた「エリート・スクワッド」シリーズ(2007~10)で頭角を現した、ジョゼ・パジーリャ監督。
その監督の新作『エンテベ空港の7日間』が、2019年10月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開となります。
CONTENTS
映画『エンテベ空港の7日間』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ・イギリス合作映画)
【原題】
7 Days In Entebbe
【監督】
ジョゼ・パジーリャ
【キャスト】
ロザムンド・パイク、ダニエル・ブリュール、エディ・マーサン、リオル・アシュケナージ、ドゥニ・メノーシェ、ベン・シュネッツァー、ノンソー・アノジー
【作品概要】
1976年に発生したエンテベ空港ハイジャック事件の全容と、事件解決に動いたイスラエル国防軍によるエンテベ空港奇襲作戦(通称「サンダーボルト作戦」)を描く実録ポリティカルサスペンス。これまでにも3度映画化された同ハイジャック事件を、『エリート・スクワッド』(2007)でベルリン映画祭金熊賞を受賞したジョゼ・パジーリャ監督が、新たな視点で語ります。
キャストとして、ハイジャック主犯格のボーゼとブリギッテの2人を、『ラッシュ/プライドと友情』(2014)のダニエル・ブリュール、『ゴーン・ガール』(2014)のロザムンド・パイクがそれぞれ演じ、そのほか、『イングロリアス・バスターズ』(2009)のドゥニ・メノーシェ、『おみおくりの作法』(2013)のエディ・マーサンといったバイプレイヤーが脇を固めます。
映画『エンテベ空港の7日間』のあらすじ
1976年、イスラエル・テルアビブ発パリ行きの約240名が乗るエールフランス機がハイジャックされる事件が発生、ウガンダのエンテベ空港に着陸します。
ハイジャック犯4人のうち2名は武装組織PFLP(パレスチナ解放人民戦線)のパレスチナ人メンバーで、残り2名は革命を志すドイツ左翼グループのボーゼとブリギッテでした。
ハイジャック機は、“食人”の異名を持つ大統領イディ・アミンが待つウガンダのエンテベ空港に着陸し、乗客たちは老朽化した旧ターミナルに移され、武装犯の監視下に置かれることに。
犯人たちは500万ドルと、世界各地に収監されていた50人以上の親パレスチナ過激派の解放をイスラエル政府に求めます。
乗客の大半がイスラエル人と知った首相イツハク・ラビンは交渉の道を探りますが、国防大臣シモン・ペレスは、「ハイジャック犯と交渉すべきではない」と進言。
加えてペレスは、秘密裏に軍事的解決を行うようラビンに提案し、人質の救出策を練っていくのでした…。
ハイジャック事件の背景にあるイスラエル・パレスチナ問題
本作で描かれるエンテベ空港ハイジャック事件の発生は、中東国パレスチナと、その国内に1948年5月14日に建国されたユダヤ人国家イスラエルの対立が背景にあります。
イスラエル建国によってユダヤ人と対立していた70万人以上のアラブ人が難民としてパレスチナを追われ、その中から祖国解放を世間に訴えるべく政党・武装組織が次々と誕生。
とりわけ67年に設立されたPFLPは過激派グループの先鋒と呼ばれ、ロンドンやオランダなど世界各地でテロ行為を起こしますが、その一つがエンテベ空港ハイジャック事件です。
支持を失い、メンバーの多くが獄中にいたPFLPの創設者ワディ・ハダドがハイジャックを立案し、それに同調したドイツの極左テロ組織RZ(革命細胞)のボーゼとブリギッテも加わり、犯行に及びました。
70年代は、RZのような若者たちの革命勢力が世界各地で出没しており、彼らはパレスチナ武装組織と行動を共にし、日本からも赤軍派が参加しています。
“大義”を皮肉視点で斬るジョゼ・パジーリャ監督
このエンテベ空港ハイジャック事件およびサンダーボルト作戦は、『エンテベの勝利』(1976)、『特攻サンダーボルト作戦』(1976)、『サンダーボルト救出作戦』(1977)と立て続けに映画化され、チャック・ノリス主演のアクション映画『デルタ・フォース』(1986)は、この事件をモデルにあらすじを作っています。
過去の映画化では比較的エンタメ寄りに描かれたこの救出劇に、今回新たな視点を向けたのが、ブラジル出身のジョゼ・パジーリャです。
パジーリャ監督といえば、ブラジルの警察や政府の腐敗を皮肉ったアクション映画「エリート・スクワッド」シリーズが有名ですが、デビュー作のドキュメンタリー映画『バス174』(2005)では、2000年にリオデジャネイロで起こったバスジャック事件を扱っています。
参考映像:『バス174』予告
『バス174』でも、事件の背景にある貧困、麻薬問題、社会福祉制度の遅れ、警察の横暴といった様々なブラジルの社会問題を暴いたパジーリャ監督。
本作では、革命成就という“大義”のために殺人を犯してもいいのかというハイジャック犯側の葛藤を描きつつ、事件解決という“大義”が政治キャリアに影響を及ぼさぬよう詮索しあうイスラエル首相と国防大臣の関係にも目を向けます。
リメイク版『ロボコップ』(2014)でもアメリカを大いに皮肉っていたパジーリャ監督、ただ者ではありません。
ドラマに厚みを持たせるキャストたち
メッセージ性の高い本作を描くべく、主要キャストには実力派を揃えました。
ハイジャック犯ながらも人質に同情し、理想と目の前の現実の間で揺れ動くボーゼを演じるのはダニエル・ブリュール。
『イングロリアス・バスターズ』、『ヒトラーへの285枚の葉書』(2016)、『ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~』(2017)などでナチス側の人間を演じてきたブリュールですが、本作でのボーゼがナチを嫌悪している人物というのが、ひねりが効いています。
そのボーゼの相棒で、冷静沈着にして非情に振る舞うブリギッテ役をノーメイクで演じるのがロザムンド・パイク。
イギリス出身ながら7歳までヨーロッパ各地で育ったためドイツ語も堪能な彼女は、本作でもドイツ訛りの英語を巧みに操ります。
なお、パイクは本作以外にも、『荒野の誓い』、『プライベート・ウォー』、『THE INFORMER/三秒間の死角』と、出演作が集中的に日本公開されるので、これを機にイッキ見するのもいかがでしょうか。
そのほか、人質側を象徴する存在として、ボーゼと心を通わせていく航空機関士ジャック・ルモワーヌ役に、『ジュリアン』(2017)での怪演も印象深いドゥニ・メノーシェが扮しています。
武力闘争に隠れて見えない者たち
多くの人間を犠牲にしてきたイスラエル・パレスチナ問題ですが、両国の和平交渉はいまだ行われていません。
両国間の武力闘争の裏には、恐怖におびえる一般市民たちが存在する――そんな因果関係を、パジーリャ監督はエンテベ空港ハイジャック事件を題材に、見事に描いています。
随所で挿入される舞踊団のダンスにも、イスラエルとパレスチナへの皮肉を込めたという、パジーリャ監督のメッセージを感じ取ってみて下さい。
映画『エンテベ空港の7日間』は、2019年10月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー!