映画『引っ越し大名!』は2019年8月30日(金)より全国公開!
「超高速!参勤交代」シリーズを手がけた土橋章宏の小説『引っ越し大名三千里』を、主演に星野源を迎え、高橋一生と高畑充希を共演。
また『のぼうの城』で知られる犬童一心監督が演出を務め映画化しました。
国を丸ごと引っ越しさせる超難関プロジェクトに挑む大名家と、それを託された引きこもり侍の姿を描く、映画『引っ越し大名!』。“武士は引っ越しも命がけ⁉︎”な作品をご紹介します。
映画『引っ越し大名!』の作品情報
(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
犬童一心
【キャスト】
星野源、高橋一生、高畑充希、及川光博、小澤征悦、濱田岳、松重豊、西村まさ彦、山内圭哉、飯尾和樹、正名僕蔵、富田靖子、丘みどり、向井理、岡山天音、ピエール瀧、和田聰宏、松岡広大、中村靖日、矢野聖人、斉藤暁、鳥越壮真
【作品概要】
『超高速!参勤交代』などで知られ、ユニークな視点で新たな時代小説を手掛ける土橋章宏の小説、「引っ越し大名三千里」を原作に『のぼうの城』の犬童一心を監督に起用し映画化。
星野源、高橋一生、高畑充希など、今を時めく人気俳優たちと及川光博、小澤征悦、松重豊、西村まさ彦といった実力派俳優が脇を固める豪華キャストで贈る笑いあり、アクションあり、涙ありのエンターテイメント時代劇です。
劇中に登場する「引っ越し唄」の監修・振付を狂言師の野村萬斎が務めたことでも話題になっています。
映画『引っ越し大名!』のあらすじとネタバレ
(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会
五代将軍 家綱の時代、幕府は威信の誇示と国替えにかかる莫大な費用による大名の弱体化を狙い、諸大名に対し国替えを言い渡していました。
播磨姫路藩(現在の兵庫県姫路市)を治める越前松平家当主 松平直矩(なおのり)もこれまで何度も国替えを命じられていました。
天和二年(1682年)のある夜、直矩の元に江戸留守居役を務める仲田小兵衛が現れます。
幕府が国替えの沙汰を下そうとしているという仲田は、次の国替えの先を、豊後日田藩(現在の大分県日田市)と告げ、さらに石高が15万石からおよそ半分の7万石に減らされることを知らせます。
そして、その裏には幕府、小納戸を務める柳沢吉保の影があるといいます。
直矩は脳裏に柳沢の姿がよぎりながらも、この難局を打開できるのは誰かと思案します。
書庫番を務める片桐春之助は幼少のころより、人見知りで書庫に籠っては本ばかり読んでおり、家中では「かたつむり」とあだ名されていました。
そんな春之助のもとに、幼馴染で刀番を務める鷹村源右衛門が現れます。
少し前、国家老 本村、次席家老 藤原たち藩の重役が集まる会議に出席していた鷹村は国替えを取り仕切る「引っ越し奉行」の適任はいないかと問われ、春之助の名を出していました。
本ばかり読んでいるから必要な知識は持っているはず、そんな安易な理由で本村らの前に連れてこられた春之助は、引っ越し奉行就任を拒否しますが、ならばその場で切腹しろという本村に逆らえず、強引に引っ越し奉行にさせられてしまいます。
以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『引っ越し大名!』ネタバレ・結末の記載がございます。『引っ越し大名!』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会
その頃、仲田は直矩に今回の国替えは腑に落ちない点が多いことを吐露します。
直矩は依然、男色家である柳沢の誘いを断ったため、怒りを買ったのではないかと考えていました。
引っ越し奉行は姫路から日田への引っ越しに加え、石高が減らされるため藩に仕える藩士の数を減らし、かかる費用の捻出をしなければなりませんが春之助にはいい方策が思いつきません。
鷹村は前任者の板倉の一人娘、於蘭(おらん)の元を訪ね、亡くなった板倉が何らかの手引書を持っているのではないかと考え、春之助に於蘭の元を訪ねるように言います。
半ば強引に板倉家へ向かわされた春之助は、於蘭と対面、於蘭の美貌に一目惚れしてしまいます。
しかし、板倉が残した手引書を見せてほしいという春之助に対し、於蘭は怒りをあらわにします。
板倉はこれまで、引っ越しの際、その手腕を振るい、藩に貢献したものの、下士であったため、上士に手柄を横取りされ、評価される事無く、貧しい暮らしの中、病に倒れ、亡くなっていました。
板倉が死後も、上士に利用されると勘違いした於蘭は、そんなこととは知らなかった春之助を追い出します。
翌日、板倉の墓参りに訪れは於蘭は板倉の墓参りをする春之助の姿を目にします。春之助は上士がかつて板倉にした仕打ちに対し同じ上士として謝罪。
それを見ていた於蘭は、春之助が去ったあと訪れた鷹村が春之助が何の方策も打ち出せずにいれば、いずれ切腹を命じられるだろうと言っていたことを思い出します。
翌日、本村ら重役の前に呼び出された春之助は、引っ越しの方針を答えることができず切腹を命じられます。
春之助はなすが儘に腹を切らされそうになりますが、そこに於蘭が現れ、すでに春之助が方針を打ち出したとし、板倉が残した「引っ越し十か条」を見せます。
本村らはそれに納得し、春之助は切腹を免れます。上士、下士分け隔てなく接する春之助の姿に心動かされた於蘭は春之助を手伝うことにします。
「引っ越し十か条」にそって準備を進める春之助、鷹村、於蘭ですが最大の障害、運ぶ荷物の量の多さに悩みます。そこで春之助が思いついたのは藩士に家財の量を半分にさせることでした。
春之助らはなかなか家財を整理できない藩士の元へ出向き、強制的に家財を持ち去り、整理させます。
そんなある日、春之助たちの前に勘定方の中西監物(けんもつ)が姿を見せ、書付を差し出します。
その書付は城内の商人についてまとめたもので、商売の規模、どれくらいの金の融資に応じてもらえそうかまとめたものでした。中西は春之助の人柄に惹かれ、協力を申し出ます。
翌日、城下最大の廻船問屋(現在の運輸業)若狭屋を訪ねた春之助と中西は八千両の融資を願いますが、若狭屋は応じません。
しかし、土下座をして頼み込む春之助の真摯な姿と中西の提案により若狭屋から金の融資を受けることができました。
中西の提案とは播磨の酒を九州で売り、その利益を若狭屋と分配する事でした。
全費用の半額を調達した春之助ですが、借金をすることは後の世代にそのつけを回すことになると気が付きます。そこで費用を抑えるため、自分たちで荷運びをすることを思いつきます。
しかし、幕府は武士の荷運びを禁止しているため、藩士を農民に変装させ幕府の目を欺こうとします。
ある夜、次席家老の藤原は柳沢吉保の命令を受けた公儀隠密(平たく言えば幕府の忍者)と密会します。柳沢は越前松平家を廃絶に追い込もうとし、藤原はその手助けをし、旗本になろうともくろんでいました。
石高が半分になることにより、御役御免(リストラ)される藩士たちが不満をため、反乱が起きると目論んでいた藤原は、その責任を問われ、容易に越前松平家を断絶できると考えていました。
しかし、藤原は春之助から御役御免にする人数は当初の予定から、かなり減らせるという報告を受けます。心づもりが外れ驚く藤原と春之助の前に仲田が現れます。
仲田は引っ越しの費用を半分に抑えた手腕を見せた春之助のうわさを聞きつけ、江戸から姫路へやってきていました。
春之助は仲田との会話で越前松平家が先々、さらなる引っ越しがあり、その際再び石高が上げられることあるかもしれないと聞かされます。その時、春之助は誰一人、御役御免にしない方法を思いつきます。
こうして迎えたお役御免言い渡しの日。春之助は集まった藩士たち一人ひとりに百姓になるように言います。
反発する藩士ですが、越前松平藩が再び石高が加増された際に必ず藩に復帰させると約束します。そんな中の一人、山里一朗太は春之助と意を通じる数少ない人物でした。
春之助は山里に藩を離れ再び迎えに来るまでの間、皆をまとめてほしいと頼みます。山里は春之助の熱意に応え、藩を出ることを決意します。
こうして、越前松平家は引っ越し当日を迎えます。九州行きの船に乗るため港に向かう一行ですが、途中、何者かの襲撃を受けます。
思うように反乱を起こせなかった藤原が公儀隠密と結託し、直矩の命を奪おうとしていました。
窮地に陥る一行ですが、一人、鷹村だけがなぜか大はしゃぎしています。
なぜか準備万端の鷹村は襲撃を予見していた…訳ではなく、暴れたい一心に準備していました。そんな鷹村に調子を狂わせながらも襲い来る隠密に応戦する藩士たち。
不意を衝かれ、形勢は越前松平家が不利でしたが、鷹村が隠密の頭目を打倒したことで、隠密は引き下がっていきます。
無事を確かめる一同の元に仲田が駆け付けます。仲田は裏切り者の存在を示唆するとともになぜかこっそり立ち去ろうとする藤原に声をかけます。
慌てて逃げ出す藤原ですが、突如飛んできた手裏剣により絶命します。
藤原から、柳沢の名が出ることを恐れた隠密の頭目が最後の力を振り絞り手裏剣を投げていました。こうして、越前松平藩は無事に日田藩に到着します。
時が流れ十五年後、日田藩への国替えののち出羽山形藩(現在の山形県山形市)への国替えをしていた越前松平家は陸奥白河藩(現在の福島県白河市)へ国替えを命じられます。
今回は念願の石高が加増され、十五万石を与えられる事となりました。その知らせを聞いた春之助は、播磨姫路へ、百姓となっていた元藩士たちを迎えに行きます。
そこでたくましく暮らしておいた山里ら元藩士たちは復帰を喜びますが中には百姓として生きていくことを決めた者たちもいました。
出羽山形藩から陸奥白河藩への引っ越しを終えた越前松平家は帰ってきた藩士を迎えます。
直矩は春之助の手腕を評価しに国家老を任命します。いったんは断ろうとする春之助ですが、周囲の賛同の声もあり、国家老に就任します。
春之助は百姓になることを望んだ者たちが残した刀と十五年の間になくなってしまった者たちの名を記した石碑を準備し、直矩にすべての藩士が帰ってきたことを報告し、越前松平家の白河での日々が始まります。
映画『引っ越し大名!』の感想と評価
(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会
本作は無理難題を押し付けられた引きこもりの青年が、一大プロジェクトを完遂するまでの姿をコミカルに描いた作品ですが、登場キャラクターの感情の動きや信念といったところが濃く表現されていました。
例えば、まともに人と話すことができない春之助ですが、身分にとらわれず、人と接することができ、自らの信念を貫き通す芯の強さを持ち合わせており、困難な状況に陥る中でその頭角を現していく姿だったり、「人の痛み」を大切にしている姿に感動しました。
特に、藩士たちにお役御免を言い渡す場面で怒りのあまり、刀を抜き迫る藩士にも臆することなく、相手の心に向き合う姿、そして、盟友ともいえる山里に対して語る言葉はにじみ出る苦しみが伝わってきました。
また、高橋一生演じる鷹村源右衛門はこれまでの高橋一生のイメージを覆す強烈なキャラクターでした。
高橋一生と言えば穏やかな物腰の落ち着いた青年といったイメージが定着しているかと思いますが、本作ではそのイメージとは正反対の豪気な熱血漢、鷹村を演じています。
そんな鷹村ですが、「男と女の機微」には敏感で春之助と於蘭の仲を取り持つとともに、於蘭に熱中している春之助をそれとなくたしなめたり、繊細な一面を見せていました。
そんな意外な一面をうまく表現できていた、高橋一生の演技力の高さに感服した作品でした。
まとめ
(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会
本作は、時代劇ではありますが、現代の仕事術にも通じているようにも感じました。
なかでも、強く感じたのは、人の心を動かすのは、同じ人の心だということでした。
劇中に春之助が当時の武士がなかなか捨てられない上下の立場にこだわらず人に接する姿や、一方的に苦しみを強いるだけでなく、自らも同じ立場に立とうとする姿は、人の上に立つ者、人を動かすものとして大事なことなのではないかと感じました。
また、原作者であり、本作の脚本も務めた土橋章宏は時代小説の常識を打ち破るコミカルながらも、史実や時代背景に基づいた世界観の作りこみ、現代人の「プライド」や「覚悟」といったものとは異なるいわゆる「武士の矜持」や「武家の誇り」を巧妙に描き出しています。
そんな、土橋章宏の今後の活躍に期待するとともに、その土橋らしい時代劇が映画化され、多くのファンを魅了するのを期待しています。