ソ連解体後のリトアニアを舞台に描くクライムスリラー!
エミリス・ヴェリヴィスが脚本・編集・監督を務めた、2021年製作のリトアニアのR15+指定のクライムスリラー映画『悪魔の世代』。
引退を目前に控えた55歳の警察局長のギンタスは、市長選への出馬を決意。
しかし決意したその日の夜から、ギンタスの元仲間であるソ連時代の元秘密活動員たちの変死体が次々と発見されます。
ギンタスは正義感あふれる若き捜査官シモナスと共に捜査に乗り出すも、価値観の違いから衝突ばかり。
さらに地元のエリート政治家たちによって隠蔽された過去の恐ろしい事件が明るみになっていき………。
映画『悪魔の世代』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
映画『悪魔の世代』の作品情報
【公開】
2023年(リトアニア映画)
【脚本】
エミリス・ヴェリヴィス、ヨナス・バニス
【監督】
エミリス・ヴェリヴィス
【キャスト】
ヴィータウタス・カニュショニス、インゲボルガ・ダプクナイテ、アイニス・ストルピリシティス、ヴァイドタス・マルティナイティス、トマ・ヴァシケヴィチューテ
【作品概要】
『ナイト・ガーディアンズ』(2016)のエミリス・ヴェリヴィスが脚本・編集・監督を務めた、リトアニアのクライムスリラー作品。
新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2023/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2023」(2023年7月14日~8月10日、新宿シネマカリテ)にて上映された作品です。
『ギャンブラー』(2013)のヴィークタウタス・カニュショニスが本作の主演を務め、『マチルダ 禁断の恋』(2017)のインゲボルガ・ダプクナイテと共演しています。
映画『悪魔の世代』のあらすじとネタバレ
リトアニアの小さな田舎町。引退を目前に控えた警察署長ギンタス・クラサウスカスは、自身の55歳の誕生日会で、政治家を目指して市長選に立候補すると宣言します。
しかしその直後、ギンタスの親友であり、彼の幼き息子ベネイの名付け親でもある地方検事のライモナス・リオダンスカスが、自宅で凄惨な死を遂げているのが発見されました。
現場に駆けつけたギンタスは、彼の服のポケットに入っていた携帯電話を発見。その中には、ギンタスとライモナスの妻ロレータの不倫現場を隠し撮りした動画を添付したメールが残されていました。
さらに隠しカメラを見つけたギンタスは、密かにカメラと携帯電話を回収。市長選に不利になる不倫の事実を隠蔽するべく、動画もろとも携帯電話を下水口の中に捨てました。
翌日。ライモナスの葬儀後、若きエリート検察官のシモナスが検事局から派遣されてきました。
唯一現場から見つからなかった携帯電話に、事件の捜査への無関心さ、ライモナスの変死体を検視に回さずに埋葬したことから、シモナスは警察の初動捜査に問題があると考えました。
そこでシモナスは、ギンタスの許可なく墓を掘り起こし、ライモナスの変死体を検視に回しました。
検視の結果、ライモナスの死因は現場にあった猟銃で自殺したのではなく、何者かに長時間にわたって拷問されたことによるものだと判明。
そもそも猟銃には一発も撃たれた形跡がないどころか、撃針すらなかったのです。犯人は拷問の末に心停止状態となったライモナスを銃で撃ったのだと、検視官は言いました。
犯人が拷問に使ったのは毒蛇。ライモナスの喉を伝って体内に侵入した毒蛇は、胃酸から逃れようと食道に戻ろうとするも、括約筋に阻まれてしまいました。
そのため胃を破って容赦なく内臓を噛みまくり、肛門から出ようとしましたが、毒蛇は大腸の中で窒息死しました。
そのせいでライモナスの内臓は麻痺状態にあり、痙攣を起こして壊疽したこと。その間ずっと意識があったライモナスは、ずっと苦痛を感じていただろうと検視官は言いました。
検事総長と検視官の話を聞いて、事件の再捜査を始めたギンタス。その結果、現職の女性市長ラザ・キマンタイキと、スラバという男が捜査線上に浮上しました。
ギンタスはラザを問い詰めましたが、動画のことなど何も知らない様子。一方スラバは、濃い赤色のボディーのミニバンに乗った人物に給油所のそばで金と箱を渡され、その箱を持ってライモナスの自宅に侵入し、金の指輪を盗んだと自供しました。
さらにスラバは、「その箱の中に、何か生き物が入っていた気がする」とギンタスたちに言いました。
その日の夜。ギンタスの娘アグネが帰省しました。ギンタスとアグネは考え方の違いから仲違いし、不仲でした。
2人の仲裁役を担うギンタスの妻は、帰宅した夫にアグネがずっと目指していた名門大学への入学が決まったと報告。さらにアグネから、新生活に必要な費用の面倒と、学費の援助を頼みたいと相談を受けたことを話しました。
ギンタスは食卓に座る娘の顔を一切見ず、学費と生活費の援助をすると言いました。ただしそれには条件があります。
それは市長選のための広報活動で、マスコミに家族仲は良好であるとアピールすることです。
アグネは「パパの言いなりになんかならない。これからも自分の好きなように生きる」と言い、ギンタスからの提案を拒絶。親子の間にある溝はますます深まってしまいました。
その翌日。スラバの言っていたミニバンが、町の神父シモニスの車である赤のボイジャーであると特定されました。
ギンタスは早速シモニスに話を聞きに行こうとしました。そこへ、シモナスたち検察が令状を持って家宅捜索しにやって来ます。
匿名の情報提供者により、下水口に捨てられた携帯電話が証拠品として提示されたからだと、町の判事ユリウスとシモナスは言いました。
殺人の容疑がかけられたギンタスは、シモニスに話を聞きに行きました。問い詰められたシモニスは、「事件当日に車を売った」「ラザから、“最近ギンタスの様子がおかしい”と相談しに来た」とギンタスに言いました。
さらにシモニスは「募金箱に入っていた」と言い、旧ソ連のルーブル紙幣をギンタスに渡しました。
教会からの帰り道、ギンタスは赤のボイジャーを発見。追跡するも、応援に来たと思ったアルナスたち警察に身柄を拘束されてしまったのです。
警察の初動捜査に問題があることと、家宅捜索時にライモナスを撃った猟銃が見つかったこと。その猟銃が誕生日プレゼントとしてライモナスから贈られたものだと話さなかったこと。
ラザに暴力を振るい脅迫までしたことを、シモナスはギンタスの身柄を拘束した理由として彼に伝えました。
これに対しギンタスは、「どれも自分を嵌めるための状況証拠にすぎん」と容疑を否認するも、「浮気のことは関係ないにしろ、検事とあなたの間には拷問するほどの何かがあったはず」と言うシモナスの言葉に反論することはできませんでした。
その直後、教会の祭壇前にて、シモニスの変死体が発見されました。椅子に座った状態のシモニスの死体には、切断された頭部の代わりに、ヘラジカの切断頭が置かれていました。
事件発生前にシモニスに会っていたという目撃情報があったため、ギンタスはシモニス殺害の容疑がかけられ拘留されることに。
検視の結果、シモニスの首は後頭部から切断されていること、気絶しないように犯人にアドレナリンを注射され、シモニスは眼球が飛び出るほどの激痛を感じたこと。
シモニスの全ての腱と筋肉が切断されていること。シモニスの頭部は首の皮一枚で繋がっていたものの、結局膝の上に落ちてしまったことが判明しました。
映画『悪魔の世代』の感想と評価
物語の終盤まで謎だった旧ソ連のルーブル紙幣と、毒蛇、ヘラジカの切断頭、遺体に塗られたハチミツにたかった雄バチ。
それは30年前、KGBの工作員であったギンタスたちのコードネームを意味していたのです。
そして30年前にKGBから盗まれたファイルにもその単語が記されていたため、おそらく盗まれたのは5人の情報だったのではないかと考察します。
また、正反対なギンタスとシモナスの意外な共通点が、「30年前にファイルを盗んだ犯人の女性を殺した犯人の1人」と、「殺された女性の息子」ということ。
物語の後半までずっと、この連続猟奇殺人事件の犯人は5人に30年前の事件の犯人に仕立て上げられ、終身刑となったベンツロバだと登場人物たちも視聴者も誰もがそう思っていただけに、真犯人がシモナスだったというのがとても衝撃的でした。
しかもシモナスは一度もそんな素振りは見せませんでしたし、ベンツロバを含む5人を殺した時もずっと無表情で淡々としていたのがまた不気味で、底知れぬ復讐心に恐怖を感じます。
目を背けたくなるほどグロイ殺人事件現場に拷問内容、衝撃的な真犯人の正体に、予想がつかない物語の展開に最後まで目が離せませんし、他のサスペンススリラー作品にはない面白さがあるのが本作の見どころです。
まとめ
リトアニアの小さな田舎町で突如起きた連続猟奇殺人事件を捜査していくにつれて、元KGBの工作員5人が隠蔽した30年前の事件の真相が暴かれていく、リトアニアのクライムスリラー作品でした。
物語のはじめに、こんなテロップが流れていました。
「ソ連が崩壊した当時、旧連邦国の多くは危機的状況に直面していた」「混乱の中で裏のある人間が地方の政治を牛耳り、忌まわしい記憶を残した」
「この物語は関係者の証言を基に制作されたもので、実在の人物・団体とは関係はない」と。
そこから始まった物語に幕を下ろしたのは、なんと主人公の幼き息子ベネイでした。
ベネイがシモナスを撃ったのは父親を守るためだったのか、それとも銃の撃ち方を教わった時に言われた「弱い者は撃っちゃいけない。強い者は撃っていい」という父親の教えに則った行動だったのか、はたまたその両方なのか、真相は謎のままです。
目を背けたくなるほどのグロさがある場面があるものの、予想できない物語の展開と登場人物の設定に目が離せなくなるほどの没入感があるクライムスリラー映画が観たい人に、とてもオススメな作品となっています。