Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2018/10/29
Update

『恐怖の報酬 オリジナル完全版』あらすじと感想。1977年公開から再評価された傑作の魅力とは

  • Writer :
  • 篠原愛

映画『恐怖の報酬 オリジナル完全版』が、今秋11月24日(土) シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。

日本で初公開された1977年当時は、フリードキン監督に無断で約30分カットされた短縮版での上映でしたが、今回はフリードキン監督自ら監修した4Kデジタル・リマスター、上映時間約121分のオリジナル完全版として日本初公開されます。

40年間見ることが出来なかった伝説の超大作と言われている本作は、ここ数年 欧米各地で再評価の嵐を巻き起こしていましたが、とうとう日本にも上陸します!

映画『恐怖の報酬 オリジナル完全版』の作品情報


© MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

【公開】
1977年(アメリカ映画)
*2018年公開オリジナル完全版

【原題】
SORCERER

【原作】
ジョルジュ・アルノー

【監督・製作】
ウィリアム・フリードキン

【脚本】
ウォロン・グリーン

【音楽】
タンジェリン・ドリーム

【キャスト】
ロイ・シャイダー、ブルーノ・クレメル、フランシスコ・ラバル、アミドゥ

【作品概要】
監督は、『フレンチ・コネクション』(1971)でアカデミー5部門受賞、『エクソシスト』(1973)で全世界にオカルト・ブームを巻き起こした巨匠ウィリアム・フリードキン。

1997年、約30分もカットされた短縮版で公開されて以来、複雑な権利問題で日本では再公開もDVD発売もできなかった屈指の超大作。

2011年、ウィリアム・フリードキン監督自ら再上映に向けて動き出し、2013年に121分【オリジナル完全版】の4Kデジタル修復に着手。同年のヴェネツィア映画祭を皮切りに、毎年欧米各地で上映され、再評価の嵐を巻き起こしてきた作品。

映画『恐怖の報酬 オリジナル完全版』のあらすじ


© MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

ジャングルに囲まれた南米ポルヴェニール。

そこは犯罪者や、ならず者などが暮らす街でした。

ある日、ポルヴェニールから300キロほど離れた油田で、大火災が発生します。

石油会社の支配人は、この爆発の炎を鎮火するために、爆薬を運び込むことを決めます。

しかし、倉庫にはわずかな衝撃でも大爆発を起こしかねないニトログリセリンしかありません。

そこで石油会社は、1万ドルという多額の「報酬」を条件に、ポルヴェニールから消火用ニトログリセリンを運搬する希望者を募集します。

メキシコ・ベラクルスで標的を射殺した殺し屋ニーロ(フランシスコ・ラバル)。

フランス・パリで不正取引を追及され、逃亡した投資家マンゾン(ブルーノ・クレメル)。

イスラエル・エルサレムで爆弾テロを実行したアラブ・テロリスト、カッセム(アミドゥ)。

アメリカ・ニュージャージーで教会を襲撃し、ビンゴ売上金を強奪したアイリッシュ・マフ ィア、スキャンロン(ロイ・シャイダー)。

祖国を追われ流れ着いた4人の犯罪者は、ひとり1万ドルと新たな身分という「報酬」と引き換えに、危険なニトログリセリンの運搬を引き受けます。

2台のトラックに分乗した男たちを待ち受けていたのは、ぬかるみ・暴風雨・崩落寸前の吊り橋・道を塞ぐ巨大な倒木・反政府ゲリラなど、想像を絶する困難ばかり。

ジャングルの奥へ、道なき道300キロを突き進む男たちの運命やいかに…。

映画『恐怖の報酬 オリジナル完全版』の感想と評価


© MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

大胆な設定変更をしたフリードキン版『恐怖の報酬』

『フレンチ・コネクション』と『エクソシスト』を撮った後、「一体何をやればいいというのだろう」と4年もの間、映画を撮らずにいたフリードキン監督。

そんな彼の心に再び火をつけたのが、フランス映画の傑作と誉れ高いアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の『恐怖の報酬』(1953)でした。

フリードキン監督は本作の制作へ取りかかった際の心境を、以下のように語っています。

食い詰めた4人の男たちが、ニトログリセリンを積んだ2台のトラックに乗り、油田火災の消火に向かう物語。私にはこの物語が、互いに憎しみ合い、争っている国々が、核爆発事故を防ぐために手を組まねばならなくなることのメタファーのように思われたのだ。

クルーゾーの傑作とはキャラクターもエピソードも変えたかった、そしてリメイクではない、まったくのオリジナル脚本で勝負したかった。それば、堅気ではない男たちが、予測できない運命に逆らいながら生き残るために戦い続けるドラマだ。

本作はクルーゾー版に比べて、セリフを削りつつも各キャラクターの背景をきっちり描き、銃撃戦や大爆発など迫力のあるシーンでオープニングから観客を引き込みます。

ボロボロのトラックで暴風雨の中を進み、今にも崩れ落ちそうな大吊り橋を渡るクライマックス、予測不可能などんでん返しとも言えるラストなど、荒々しくもドラマ性のあるスケールの大きい作品となっています。

迫力と緊迫感をあおる当時の技術力


© MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

本作では、冒頭から銀行爆破や油田の大爆発、後半の大木の爆破など、さまざまな爆発シーンが盛り込まれています。

中には爆発の瞬間に、衝撃のあまり画面がブレてカメラ自体が揺れているのが分かるシーンもあります。

CG全盛の今から見ると荒削りに見えるのは否めませんが、マイナスに感じるどころか逆にリアルな臨場感が増し、その凄まじい迫力が伝わってくるという効果を感じることができます。

また、途切れることなく続く張り詰めた緊迫感を演出する音楽も、注目したいポイントです。

消耗していく4人の男たちの精神状態を、シンセサイザーが奏でる不穏な旋律で見事に表現したのは、ドイツのプログレッシヴ・ロックバンド、タンジェリン・ドリーム。

本作で初めてハリウッド大作のサントラを手掛け高く評価され、1980年代にはホラー・SF系の映画のサントラをさかんに手がけ活躍しました。

まとめ


© MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

本作『恐怖の報酬 オリジナル完全版』は、「密林の果てに、地獄を見た―。」というキャッチコピーの通り、極限状態の生き地獄から脱出しようと、冷酷非情な運命を前にしてもがく男たちの姿を描いた傑作です。

小説家スティーブン・キングや、映画監督のクエンティン・タランティーノや押井守、映画評論家の町山智浩など著名人らが絶賛する作品自体の素晴らしさとともに、オリジナル完成版が公開されるまでの40年の道のりも注目されている、今秋チェックすべき映画のひとつです。

映画『恐怖の報酬 オリジナル完全版』は、2018年11月24日(土) シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショーです。

お見逃しなく!

関連記事

サスペンス映画

映画『ジュリアン』ネタバレ感想とラスト結末までのあらすじ。ルグラン監督が参考にした名作シャイニングとの共通点

11歳の少年ジュリアンは隔週ごとに別居した父と会わなければいけなくなり、母親の情報を聞こうとしてくる父から母を守ろうとしますが…。 監督は本作でデビューした“第二のグザヴィエ”と呼ばれる俊英グザヴィエ …

サスペンス映画

『お嬢さん』あらすじネタバレ感想とラスト結末の考察。韓国映画おすすめのパクチャヌク監督の代表作!

韓国映画の勢いが止まりません!中でもパク・チャヌク監督の『お嬢さん』に注目です。 サラ・ウォーターズの小説『荊の城』を原作に、舞台を19世紀のイギリスから日本統治下の朝鮮半島に置き換え、豪奢でエキサイ …

サスペンス映画

映画『不都合な理想の夫婦』あらすじ感想と評価解説レビュー。ジュード・ロウが虚飾にまみれた野心家の夫を演じる極上心理スリラー

映画『不都合な理想の夫婦』は2022年4月29日(金)よりkino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開 『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(2013)のショーン・ダーキン監督が描く、理想的 …

サスペンス映画

『復讐の記憶』あらすじ感想と評価解説。イ・ソンミンの韓国映画リメンバーは《裏切り者・復讐心・追走劇》ノワール感テンコ盛り!

映画『復讐の記憶』は2023年9月1日(金)よりシネマート新宿他で全国順次公開! 一人の老人による復讐と、その事件に巻き込まれる若者の姿を描いた映画『復讐の記憶』。 韓国の歴史の闇をモチーフに、一人の …

サスペンス映画

映画『十二人の死にたい子どもたち』10番セイゴ役は坂東龍汰。演技力とプロフィール紹介

『天地明察』で知られるベストセラー作家の冲方丁(うぶかた・とう)の小説を原作とした映画『十二人の死にたい子どもたち』が2019年1月25日に公開されます。 演出は『イニシエーション・ラブ』『トリック』 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学