キャリー・マリガン主演、性暴力への痛烈な復讐劇を描いた映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』
“プロミシング・ヤング・ウーマン=前途ある若い女性”に対する性暴力に対する怒り、憤りを主人公キャシーの視点で描かれる痛烈なスリラー映画。
2021年・第93回アカデミー賞で作品、監督、主演女優など5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞しました。
Netflixドラマ『ザ・クラウン』でチャールズ皇太子の妻カミラ夫人役を演じ、ドラマ『キリング・イヴ/Killing Eve』シーズン2のヘッドライター&エグゼクティブ・プロデューサを務め、俳優・製作者として幅広く活躍するエメラルド・フェネルがオリジナル脚本で監督した初長編作『プロミシング・ヤング・ウーマン』。
『スキャンダル』(2020)、「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2018)で知られるマーゴット・ロビーが製作に名乗りを上げました。
“プロミシング・ヤング・ウーマン=前途ある若い女性”であったキャシーがある事件を境に、昼間はコーヒーショップで働き、夜は派手な化粧をして酔ったふりをし声をかけてくる男性に制裁を下すようになり、社会問題に切り込んだ痛烈でスリリングな復讐劇です。
CONTENTS
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』の作品情報
【公開】
2021年公開(アメリカ映画)
【監督・脚本】
エメラルド・フェネル
【キャスト】
キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリー、クランシー・ブラウン、ジェニファー・クーリッジ、ラバーン・コックス、コニー・ブリットン、クリス・ローウェル、クリストファー・ミンツ=プラッセ
【作品概要】
監督を務めたエメラルド・フェネルはNetflixドラマ『ザ・クラウン』シーズン3からカミラ・パーカー=ボウルズ役で出演。その他の出演作は『リリーのすべて』(2015)、『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』(2015)、『アンナ・カレーニナ』(2012)など。俳優だけでなく、ドラマ『キリング・イヴ/Killing Eve』シーズン2のヘッドライター&エグゼクティブ・プロデューサを務め、ファンタジー小説も出版するなどマルチに活躍しています。本作が初長編監督作となりました。
主人公キャシーを演じたのは『17歳の肖像』(2009)でブレイクし、『ドライヴ』(2012)で英国アカデミー賞助演女優賞ノミネート、『ワイルドライフ』(2019)インディペンデント・スピリット賞など多数の映画賞で主演女優賞にノミネートなど数々の映画賞にもノミネートされているキャリー・マリガン。本作も本年度の賞レースを賑わせ、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされました。
ライアン役に『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(2019)で初監督を務め、『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(2017)などに出演しているボー・バーナム。Netflixのドラマ『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』シリーズ、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017)のアリソン・ブリーらが顔を揃えます。
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』のあらすじとネタバレ
とあるバーで飲む男3人組の視線の先には泥酔した様子の女性、キャシー(キャリー・マリガン)。自分で誘っている自覚があるのか、自業自得だと言いながら3人組の一人がキャシーに声をかけます。
タクシーに乗って近くまで送ると言った男でしたが、途中で目的地を変え、自分の家にキャシーを招き入れます。
下心を隠さず、泥酔しているキャシーに酒を飲ませ、ベッドに押し倒します。行為の及ぼうとした瞬間キャシーは目を覚まし、低い声で「何をしている?」と男に聞きます。
突然目を覚ましたキャシーに男は恐怖を感じ、クレイジーなクソ女扱いします。
30歳目前のキャシーは両親と同居し、コーヒーショップで働き、恋人も友達もいないキャシーを両親は心配しています。
しかし、キャシーには両親も知らない顔があり、夜派手なメイクをし、露出の高い服を着て泥酔したふりをしては、声をかけ性的な行為に及ぼうとする男に制裁を下しているのです。
キャシーの行動には“ある事件”が関係していました。
その事件とは、共に医大に通い“プロミシング・ヤング・ウーマン=前途ある若い女性”であったキャシーの友人ニーナが医大生らのパーティで酔い潰れ、アル・モンロー(クリス・ローウェル)にレイプされた事件です。訴えたものの、ニーナも泥酔していたなどの理由からアル・モンローは処罰されませんでした。
ニーナはその事件以来一変し、大学を辞めキャシーも中退しました。
ある日、キャシーの働くコーヒーショップに同じ大学に通い、現在は小児科医となったライアン(ボー・バーナム)がやってきます。何故こんな仕事をしているのかと戸惑うライアンに対し、医大まで行ったのに中退してこんなところで働いているのはおかしいのかとキャシーは聞き返します。
キャシーの問いかけにライアンは失言だった、コーヒーに唾吐いてもいいよと冗談めかして言いますが、キャシーは言葉の通り、コーヒーに唾を吐きます。
ライアンは驚いた顔をしつつも、大学の頃からキャシーに好意を抱いていたライアンはコーヒーを飲み、食事に行かないかと誘います。
しかしキャシーはデタラメの連絡先を教えます。デタラメと気づいたライアンは再びキャシーの働くコーヒーショップを訪れます。ライアンの好意に、恋愛に対し前向きになろうとする気持ちと信じきれない気持ちで葛藤しています。
そしてライアンが大学時代の旧友らと今も付き合いがあること、あの事件に関わりのある人々の名前を聞き、キャシーは復習計画を練り始めるのでした。
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』の感想と評価
罪なき傍観者
本作は酔っている女性には何をしてもいいといった“レイプ文化”や蔓延るジェンダーバイアスの問題を浮き彫りにするとともに、痛烈かつスリリングな手法で制裁を加えるエンターテインメントになっています。
女性VS男性という単純に図式化してしまうのではなく、女性による同性に対する同調圧力や、罪なき傍観者に対してキャシーは制裁を加えているのです。キャシーがライアンも映っている動画を見せた時、ライアンは自分は何もしていない、その場にいただけだと言います。
レイプに加担していないから悪くない、酔っていたから覚えていない。そう言うライアンやマディソンは“罪なき傍観者”だと思っているわけです。その言葉を聞いてふと前半の泥酔したふりをするキャシーの姿が思い出されます。
キャシーはわざと派手なメイクをし、露出の多い服を着て、泥酔したふりをしていました。メイクと服で人は“バカ女”、“ビッチ”と判断します。実際のキャシーは頭も切れる女性ですが、見た目で決めつけられてしまうのです。
その見た目で酔っていれば、レイプされても自業自得、何をしてもいいと思うのです。泥酔したキャシーに対して下心を持って話しかける男性はいますが、「大丈夫?」と声をかける女性の姿は描かれません。
それは女性も泥酔しているキャシーに対し“自業自得”と思っている部分があるのではないか、罪なき傍観者になっているのではないか、と考えさせられるのです。
グッドガール
キャシー役を演じるキャリー・マリガンは誰にもこの役を渡したくないと強い思いで本作に臨みました。『17歳の肖像』(2009)をはじめ、『ドライヴ』(2012)、『未来を花束にして』(2017)など今までのキャリー・マリガンが演じてきた役をみても本作のような派手なメイクで泥酔して露骨に男性を誘うキャラクターのイメージはあまりありません。
本作で演じたキャシーも、昼間の服装はフェミニンで派手な一面は感じさせません。そのような2面性が本作の面白いところでもあります。いかに見た目で都合よく人を判断しているかが浮き彫りになるからです。
久しぶりに再会したマディソンは、大学の頃のはノリも良く飲み会でも派手に酔っていたことが会話から伺えます。
しかし、現在の夫は大学の頃のマディソンのことは知らず、結局男性が結婚したいと思うのは派手に飲んだりする子ではなくグッドガールなのと成功者の余裕を感じさせながらマディソンはいいます。
もし、ライアンが派手な姿のキャシーを見ても好きだと言っていたでしょうか。
また、本作では一切ニーナの姿を映し出しません。ニーナの外見を映し出していたら観客はどう思ったでしょうか、外見で判断しようとしてしまうのではないでしょうか。何故ニーナがレイプされてしまったのか、明確な真実は明かされません。
キャシーが学部長に言い放った“女に賢さはいらない”という言葉が突き刺さります。
ニーナは成績も良いまさに“プロミシング・ヤング・ウーマン=前途ある若い女性”でした。お酒に何かを入れることは簡単だとアル・モンローの友人は言っていました。
意図的な犯行だとしたら…最後まで明確に明かさないからこそ、背後にある今もなお蔓延るジェンダーバイアスの恐ろしさに憤りを感じさせるのです。
まとめ
“プロミシング・ヤング・ウーマン=前途ある若い女性”であったキャシーがある事件をきっかけに、性暴力に対して復讐をする痛烈なエンターテインメント映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』。
エンターテインメントに仕立てながらも明確な真実は映さないからこそ、背後にある問題を観客に感じさせる映画になっています。