スティーブン・ラングが狂気の隠居老人を演じるサイコスリラー!
ラッキー・マッキーが監督を務めた、2022年製作のアメリカのサイコスリラー映画『オールドマン』。
森の奥深くに迷い込んでしまったハイカーの青年は、一軒の山小屋に辿り着きます。
青年がそこに住む老人に助けを求めると、老人は「お前は殺人鬼かもしれない!」と言い猟銃を突きつけてきたのです。
やがて打ち解けてきた2人でしたが、徐々に老人に隠された恐ろしい秘密が明らかになっていき………。
「ドント・ブリーズ」シリーズのスティーブン・ラングが狂気の隠居老人を演じる映画『オールドマン』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
映画『オールドマン』の作品情報
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【公開】
2023年(アメリカ映画)
【脚本】
ジョエル・ビーチ
【監督】
ラッキー・マッキー
【キャスト】
スティーブン・ラング、マーク・センター、リアナ・ライト=マーク、パッチ・ダラー
【作品概要】
『ザ・ウーマン』(2012)や『オール・チアリーダーズ・ダイ』(2015)のラッキー・マッキーが監督を務めた、アメリカのサイコスリラー作品。
新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2023/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2023」(2023年7月14日~8月10日、新宿シネマカリテ)にて上映された作品です。
「ドント・ブリーズ」シリーズのスティーブン・ラングが本作の主演を務めています。
映画『オールドマン』のあらすじとネタバレ
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人里離れた森の奥深くにある一軒の山小屋に住む老人は、突如「ラスカル!」と叫んで飛び起きます。
老人は家中を歩き回り、ラスカルというお互いに助け合おうとそばにいて面倒を見ると約束した犬を探しましたが、見つかりませんでした。
老人はラスカルが世話をした恩を仇で返し逃げたと思って腹を立て、「逃げた代償はデカい。罰として俺がこの手でお前を殺してやる」と、ラスカルへの殺意を口にします。
ラスカルをどう殺してやろうかと考えている老人の家に、1人の青年が訪ねてきました。青年の名前はジョー、森の中で道に迷ってしまったハイカーです。
老人は、自分を殺してこいと妻が差し向けてきた殺人鬼かと疑い、ジョーに猟銃を突きつけます。
自分はただ森で道に迷い、煙突から煙が出ているのが見えたから助けを求めにきただけだと、ジョーは必死に老人に訴えました。
老人はひとまず、ジョーの言うことを信じ家に招き入れました。ただし、老人の家にいる間は、老人の質問に答える以外は口を開いてはいけないという条件付きで。
老人が住む山小屋は、人里離れた場所にある森の中でも辺鄙な場所にあり、長いこと誰1人として訪ねて来る人はいませんでした。
そのため老人とラスカルの生活を邪魔するものはありませんでした。ですがラスカルは家を出ていき、老人は独りに…。そんな時にジョーが訪ねてくるものだから疑り深くもなると、老人はジョーに話しました。
その一方で、老人は滅多に来ない来客が物珍しくて、いろいろ聞きたい気持ちもありました。
そのため老人は、ジョーにいくつか質問します。なぜこの山小屋を見つけられたのか、猟奇殺人鬼ではないという証拠はあるのか、セールスマンではないかと。
老人は昔、妻のために生活費を稼ぐために、副業としてセールスマンをしていました。
しかし次第に客を騙して物を売りつけることや、自分を欺くことに嫌気がさして辞めてしまいました。それからというもの、老人はセールスマンが嫌いになったのです。
ジョーは老人からの質問に対し、1つ1つ順に答えていきました。
「予定のルートから外れて道に迷ってしまった時に、煙が見えて助かったと思った。だけどそれ以外は記憶が曖昧で分からない」
「僕は人を殺すのも食べることもしないと誓って言える」「セールスマンじゃない。その証拠に、鞄の中には洗面道具と救急用品、携帯食しかない」と。
しかし老人が鞄の中を確認すると、ナイフが出てきたのです。
実はジョーは子供の頃、祖父の家に行くたびにこのスモーキー山脈の、18万エーカーを越える岩と木々に囲まれた森に釣りをしにきたことがありました。
その時、祖父から「この美しい森には危険が潜んでいるから、何が起こるか分からない」と、護身用にナイフを持つよう言われたのです。
ジョーはその話をして、必死に老人の疑いを晴らそうとします。しかし老人は疑り深く神経質なため、ナイフは没収されてしまいました。
老人はジョーに、森から出ないように言いました。しかし老人が背を向けた瞬間、ジョーは逃げようとします。
老人は瞬時に反応し、ジョーに威嚇射撃をして彼の逃走を阻止しました。
そして老人はジョーに詰め寄り、なぜ逃げようとしたのかと尋ねます。ジョーは正直に、老人が怖いからだと答えました。
今にもちびりそうなほど怯えているジョーの姿を見て、老人は弱者だと思い彼に和解を持ちかけます。
「お互いに危害を加えないと約束すること」「もうじき嵐がくるから、明日の朝嵐がやんだら出ていけばいい。それまでお前を傷つけたりしない」「帰り道は、この森に詳しい俺が教えてやる」という老人の言葉を信じ、ジョーは老人の好意に甘えて一晩泊めてもらうことに。
以下、『オールドマン』ネタバレ・結末の記載がございます。『オールドマン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
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この和解をきっかけに、2人は徐々に打ち解けていきます。老人は、何年か前にやってきたセールスマンの男の話をしました。
そのセールスマンは間抜けな顔をした太った男で、聖書を売りつけてくるほど熱心な信者のようでした。
老人は聖書は買わなかったものの、そのセールスマンを家に招き入れ、コーヒーとケーキを振舞いました。
老人はセールスマンが本物の信者なのか確かめるため、「お前が本当に神に愛されているならもっといい暮らしをしているはずなのに、どうしてこんな山奥で聖書を売り歩いているんだ?」と質問します。
セールスマンは、「今こうしているのもすべて主のおぼし召しです。主の意思に従い、彼の教えを広め愛を受けることが私の使命です」と答えました。
すると老人はセールスマンに近づき、「もし俺がとんでもない危険人物だったら」「もしそうだったら、神はお前を嫌ってるってことになるぞ」と言ったのです。
それまで笑顔だったセールスマンの男は顔面蒼白に。それを見て老人は笑いました。
しばらくすると、セールスマンはコーヒーに盛られていた麻酔薬が効いて眠ってしまいました。
老人は、火がついたストーブの側面にセールスマンを縛りつけ、セールスマンがしていた茶色のネクタイで目隠しをしました。
何時間も熱々のストーブに縛りつけられていたことで、セールスマンは次第にパニック状態に陥り、聖母マリアへの懺悔を何度も何度も繰り返し叫びます。
やがてセールスマンは意識を失い、首がガクンと垂れました。老人はセールスマンをつついて起こし、再び同じ言葉を繰り返し叫ぶ姿を愉快そうに笑いました。
そして老人は、「もしまた来たら次は帰さない」と脅したうえで、セールスマンに帰り道を教えて解放しました。それを笑いながら語る老人に、ジョーは恐怖しました。
老人はジョーの恐怖心と警戒心を和らげようと、セールスマンに持った麻酔薬は全て睡眠薬代わりに自分が全部飲んだからないこと、それに危害を加えないと約束したことを言い、彼にウイスキーを一緒に飲もうと誘います。
ジョーはそれに承諾し、老人の質問に答えながら自分のことを語っていきました。ニューオールバニというインディアナ州南部にある小さな町に生まれ、8歳の時にテネシー州チャタヌーガに引っ越し、美しい瞳と赤毛の髪が特徴の幼馴染ユージニアと結婚。
数年前にノックスビルに引越し、自分は義父が営む運送会社のトラック運転手として、彼女は地元の小学校の教師としてそれぞれ働いていることを。
そしてジョーは、「とてつもなく大きな何かが僕を窒息させ消し去ろうとしていて、どんなに頑張っても追い払うことができない。まるで僕の人生に陰謀を企てられているようなことを最近よく感じるのだ」と老人に言いました。
さらにジョーは、初めて感じたその気持ちを具体的にどんなものか述べたうえで、「僕の人生は重苦しい」と言いました。
ジョーはずっと、正しく生きようとしてきました。学校での成績も良好で問題を起こしたこともありません。
無職であったこともありませんし、常に礼儀正しく、規則には忠実に従ってきました。皆の期待どおりに生きてきたはずなのに、まだ押し潰されそうな重圧を感じると、ジョーは言いました。
ジョーの身の上話が終わったところで、嵐がおさまり雨が小降りになりました。老人はジョーを外に連れ出し、火をつけるための薪を運ぶのを手伝えといいます。
ジョーは薪を運ぶのを手伝いながら、最近妻との間に距離があるせいで気持ちを打ち明けられていないことを話しました。
その理由は、ジョーは貧乏でユージニアは裕福だという違いと、子供がなかなか生まれず不仲になったからでした。
ジョーはトラック運転手としての仕事の他に、いくつか副業をしていました。しかしユージニアは、ジョーの稼ぎに物足りなさを感じていました。
老人はジョーの話に共感し、彼を励ましました。そして老人は妻と別れた原因について、わがままで頑固な彼女が男を痛めつける方法を知ってしまったからだと言いました。
老人は改めて、ジョーにどうやってここへやって来れたのか尋ねます。ジョーは妻との関係に思い悩み、仕事帰りに車を走らせ、楽しい思い出が詰まったこの森に来て気を紛らわせようとしていたことを思い出しました。
車から降りてしばらく森の中を歩いていると、何かの唸り声のような音が聞こえてきました。
ジョーは頭の中で響くその声を追いかけているうちに道を外れてしまい、さらにどんどん大きくなっていくその声に恐怖し必死に走った末に、意識を失ってしまいました。
元の場所に引き返そうにも、自分がどこにいるかも分からなくなってしまったジョー。再び歩きはじめると滝が見えて、開けた場所に出ました。
そうしてこの山小屋の煙突から出る煙を見つけたのだと、ジョーは答えました。老人は、一言一句同じことを言ったジョーの話を興味深いと言いました。
ジョーが理由を尋ねると、老人はある昔話を語り始めます。はるか昔、スモーキー山脈に暮らすチェロキー族の間で、山脈のどこかに隠れている紫の湖の伝説が語り継がれていました。
その湖の水には特別な力が宿っていたため、チェロキー族は紫の湖を探し求めましたが、一向に見つかりませんでした。
なぜならその紫の湖の見つけ方を知っているのは、動物だけだからです。動物たちは決して、その方法を教えませんでした。
実はその湖の水は、飲めばどんな怪我も病気も治せる力があったのです。この伝説を知った当時、老人は目には見えないところにできた傷を負っていました。
そこで老人は、その紫の湖を見つけ出してこの傷を癒そうと考えました。しかしなかなか見つからず、老人は山中をくまなく探し回りました。
そんなある日、突然ジョーが聞いた唸り声が聞こえてきたのです。老人はその声を追ったものの、頭の中でどんどん大きくなっていく声に恐怖し逃げてしまいました。
やがて気を失い、目を覚ました老人は、殺意に満ちた目でこちらを見ている豹と出会いました。
老人は死にたくないと思い、襲い掛かってきた豹の首めがけて、足元にあった石を振り下ろしました。
豹は老人の上に倒れ込み、老人たちは血だまりの中に体を投げだしました。その豹の目から光が失われた時、老人の頭の中で響いていた唸り声はピタリとやんだのです。
それ以来、老人はこの森に住むことに。倒した豹の頭部は剥製にして家の壁に飾りました。
老人が食べ物を探しに席を外した際、ジョーはこっそり取り上げられた自分のナイフを取り戻します。そのナイフには血がついていました。
ジョーは老人の背に向かって話しかけながら、こっそり荷物とナイフを持って山小屋から立ち去りました。
老人が異変に気づいて振り向いたその時、黒い服を着た男がジョーと入れ違いで山小屋に現れます。実はラスカルの正体は、老人をいじめるその男だったのです。
ラスカルは情けない弱虫めと老人を罵り、「そんなだからかみさんに逃げられるんだ」と言いました。
老人がその理由を尋ねると、ラスカルは語り始めます。
「お前は彼女のために義父の会社で働き、彼女の親友と一緒に聖書を売り歩いたが幸せにできなかった」「事件のあと、森で迷ったのはお前だ」
しかし、老人はその日に何があったのか覚えておらず、ラスカルに自分が何をしたのか教えてほしいと懇願します。
するとラスカルは、小瓶に入った紫の湖の水を老人に見せてきたのです。ラスカルは自分だけが場所を知っているその紫の湖の水を飲むよう、老人に小瓶を手渡します。
そして、探し求めていた紫の湖の水を飲んだ老人に、ラスカルはリビングにあるチェストの中に入るよう強要しました。
ラスカルの手によって閉じられたチェストを老人が開けた時、老人は別の場所にいました。
その廊下の壁に飾られた男女2人の写真を眺めているうちに、老人はその写真の男、ジョーになり代わります。実はジョーは、老人の若かりし頃の姿だったのです。
ジョーは一緒に聖書を売り歩いていた妻の親友であるセールスマンと、妻が不倫している現場を目撃。妻の制止を聞かず、近くにあった猟銃でセールスマンを射殺しました。
そして怒りと悲しみが入り混じった表情を浮かべながら、ジョーは寝室から逃げ出そうとした妻の首を、護身用のナイフで突き刺して殺しました。
そして現在、老人はセールスマンがしたように妻の幻影に向かって許しを乞いますが、彼女に拒絶されてしまいます。
ユージニアがチェストの中に姿を消した後、ラスカルは記憶を取り戻したことで心身ともに疲弊した老人を寝かしつけ、立ち去っていきました。
それからしばらくして目覚めた老人は、同じ記憶のループを始めるのでした。
映画『オールドマン』の感想と評価
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物語の後半まで、異様なまでに用心深く神経質な老人が、いつどんな行動に出るのかと終始ハラハラドキドキさせられます。
また、老人が笑いながら、ジョーにセールスマンを拷問した話をする姿は背筋が凍りつくほど怖いです。
ジョーと視聴者に緊張が走るなか、物語は終わりに近づくにつれて少しずつ、老人への恐怖心が薄れていきます。
それはラスカルが登場した時、ジョーが老人の若かりし頃の姿であり、彼の苦悩もすべて老人のものだと明らかになったからです。
これまでジョーを恐怖で支配していた老人の姿はどこにもなく、ただラスカルと、自分を失望させた挙句殺したことを恨んでいる妻の幻影に怯え、老人はひたすら許しを乞いていました。
ラスカルが何度も老人もといジョーに同じ記憶を繰り返し見せて、山小屋に閉じ込めているのは何故か。その理由は作中では明かされませんでした。
ですが、ラスカルの表情は目深に被った黒い帽子のせいで見えませんが、剥製にされた豹の顔と目が、彼が喋るたびにちらついていました。
そしてラスカルは作中で「俺だけが紫の湖の場所を知っている」と言っていたことから察するに、ラスカルはジョーに殺された、伝説の紫の湖の場所を唯一知る豹なのではないかと考えられます。
そうなるとジョーが何度も同じ記憶を追体験させられ、苦しみから逃れられないのは、ラスカルが彼をずっと恨んでいるからではないでしょうか。
ジョーが記憶のループから抜け出す日は来るのか、ラスカルのジョーに対してどう思っているのかとても気になる物語でした。
まとめ
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老人の狂気と、それに恐怖する青年の苦悩と悪夢を描いたアメリカのサイコスリラー作品でした。
ジョーに見せた狂気と、ジョーと入れ替わりで登場したラスカルによって忘れていた悪夢を追体験させ、必死に許しを乞う老人の二面性を完璧に演じ分けたスティーブン・ラングに脱帽します。
また、本作は狂気の老人からジョーが逃れることができるのかどうかを描いたものなのかと思いきや、実はジョーは老人の若かりし頃の姿で、老人が拷問したと話していたセールスマンはジョーの妻の不倫相手だったという、誰も予想できない物語の展開とラストがとても衝撃的でした。
道に迷ったハイカーの視点で見ると、終始ハラハラドキドキさせられるスリルと緊張感が味わえます。また悪夢の記憶のループから逃れられない老人もといジョーの視点で見ると、辛くて胸が苦しくなります。このように、見る視点が変わると感じ方も変わってくるのが面白いです。
何度も繰り返される悪夢に苦しみ、記憶のループから抜け出せない老人をスティーブン・ラングが熱演したサイコスリラー映画が観たい人に、とてもオススメな作品となっています。