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Entry 2021/02/11
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映画『ダーリン』ネタバレあらすじ感想と結末ラストの考察。野生少女をローリン・キャニーが熱演し“人間の本質”に迫る|未体験ゾーンの映画たち2021見破録10

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第10回

埋もれかけた映画の中から、時に危険すぎる作品すら上映する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第10回で紹介するのは人間に秘められた本質に迫る、危険過ぎる映画『ダーリン』。

1989年に発表した小説「隣の家の少女」で、世間に衝撃を与えた作家ジャック・ケッチャム。この作品は2007年映画化されました。

あまりに凄惨な内容が暴力ポルノと批判されながらも、スティーブン・キングらは賞賛、作品を巡る評価は真っ二つに分かれます。

きわどい題材に挑むケッチャム。彼の小説を映画化した『襲撃者の夜』(2009)、『ザ・ウーマン』(2011)は共に、現代に生きる人喰族を描いた作品です。

この前2作に続く作品が『ダーリン』。凶悪なテーマを通し、人間の本質を見つめ続けたケッチャムの、集大成と呼べる問題作を紹介します。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら

映画『ダーリン』の作品情報


(C)2018 BY LITTLE BITER LLC. ALL RIGHTS RESERVED

【日本公開】
2021年(アメリカ映画)

【原題】
Darlin’

【監督・脚本・原作】
ポリアンナ・マッキントッシュ

【製作総指揮・原作】
ジャック・ケッチャム

【キャスト】
ローリン・キャニー、ポリアンナ・マッキントッシュ、ノラ=ジェーン・ヌーン、ブライアン・バット、クーパー・アンドリュース、ペイトン・ウィッチ、ジョン・マコーネル

【作品概要】
突如病院に現れた口のきけない野生児のような少女。彼女と周囲の人々との関係が、良識の裏にある闇を露わにします。衝撃的題材に挑んだ、ショッキング・スリラー映画。

ジャック・ケッチャムの原作を、「未体験ゾーンの映画たち 2016」上映作品『デス・ノート』のポリアンナ・マッキントッシュが監督。彼女は前2作の映画『襲撃者の夜』『ザ・ウーマン』、そして本作にも出演しています。

主人公を演じたのは『おやすみなさいを言いたくて』(2013)のローリン・キャニー。彼女に接する修道女を演じるのは洞窟ホラー映画『ディセント』(2005)のノラ=ジェーン・ヌーン。

ゾンビドラマ『ウォーキング・デッド』(2010~)に第7シーズンから出演のクーパー・アンドリュース、ドラマ『マッドメン』(2007~)のブライアン・バットが出演した作品です。

映画『ダーリン』のあらすじとネタバレ


(C)2018 BY LITTLE BITER LLC. ALL RIGHTS RESERVED

雪の積もる林の中の、血の跡が残る道を、野生動物のような姿の女が裸足で歩きます。2人は都会を目指していました。

受付の女性がホームレスの男と会話を交わす病院の前に、先ほどの女2人が現れます。大柄の”女”はうなり声で、小柄な女に病院に行くよう促しているようです。

少女の様に見える、薄汚れた小柄の女は自動ドアが理解できない様子です。戸惑っている間に、到着した救急車にはねられた少女。

意識を失った少女(ローリン・キャニー)の腕には、「Darlin」と文字を並べた腕輪がありました。

グラント医師(ジョン・マコーネル)と看護士のトニー(クーパー・アンドリュース)に、ストレッチャーで運ばれる少女は目覚めて逃げ出します。

野獣のように唸って逃げた少女に2人は戸惑います。行方を探すトニーは、保育器の中の赤ん坊を見つめる少女を発見します。

暴れる少女をなだめ、四つん這いになった彼女にあわせ、自らも姿勢を低くするトニー。

落ち着いた少女に名を聞きますが、答えはありません。彼女の背後から近づき鎮静剤を注射するグラント医師。

少女を病院に送り届けた、野獣のような”女”(ポリアンナ・マッキントッシュ)は、林の中に帰っていました。

死体でしょうか、防寒着を来た男の体を引きずる”女”。

病院では意識の無い、体を清めた少女の爪をトニーが切っていました。10代の少女に鎮静剤を使ったと批判したトニーに、グラント医師は彼女は危険だと答えます。

彼女の家族が現れないなら、聖フェロミーナ教会が世話をすることになると告げる医師。

医療に携わる者として、トニーは教条主義的で同性愛に批判的な態度の、病院に影響力を持つ教会を敬遠していました。

その夜、病院の近くにあの”女”が現れます。病室の窓から”女”を眺める少女。

“女”はナイフを取り出し、ベンチに寝るホームレスの男の喉を斬り裂きます。

それを見て興奮したのか、病室に現れた看護師のトニーに襲いかかる少女。しかしトニーがほほ笑むと、少女も笑顔を見せました。

“女”は死んだホームレスの腹の一部を切り取り、少女の病室の窓の外に置きます。少女は反応せず、窓のロールスクリーンを降ろします。

病院に聖フェロミーナ教会の司教(ブライアン・バット)が現れます。司教に保護している少女は、推定16、17歳位だと説明するグラント医師。

文明の利器を知らず、何もしゃべらない少女。失語症の可能性もあるが、人間社会を知らぬ野生児の可能性があると医師は推定し、司教はそう望んでいました。

修道女のジェニファー(ノラ=ジェーン・ヌーン)が来ました。教会の女子保護院に引き取られる少女の世話を、シスター・ジェニファーが行う予定です。

扉の窓に迫る少女は、司教には野蛮な野生児そのものに見えました。

病院食に興味を示さぬ少女の元にトニーが現れます。彼の用意したファストフードの肉を手づかみで食べる少女。

車の中の司教はジェニファーの隣で、野生児の少女を授かったと感謝の祈りを捧げます。

司教は彼女に人間性を与えて世間の注目を集め、存続が危ぶまれる聖フェロミーナ教会が、充分な資金を得れることを希望していました。

彼はシスター・ジェニファーに、野生児の少女を導く使命を与えます。

教会を救うのは使命の成功だと語る司教に、偽善的なものを感じるジェニファー。

病院を出た少女が、聖フェロミーナ教会の女子保護院に送られる日が来ました。

看護士のトニーが車で連れて来た少女を司教や修道女、そして保護院の少女たちが迎えます。

普段着を身に付けた少女は、車から降りるトニーの陰に隠れました。

聖フェロミーナ教会の、女子グループホームへようこそ、と挨拶する司教。

車に乗った少女は、少し動揺しているかもと告げるトニー。司教はシスター・ジェニファーに少女の案内を任せます。

シスターに歯をむき出しにして威嚇する少女を、トニーがなだめます。彼女を必ず成長させる、とトニーに約束するジェニファー。

虐待のような昔の失語症治療は行えない、とジェニファーに告げる司教。昔は治療に使ったコカインを、まだ入手できるかと質問します。

過去に薬物問題を抱えていた彼女は否定します。自らもオンラインで、様々な言語療法を調べたと説明しました。

司教は世間にアピールする、野獣のような少女の映像を欲していました。神の仕事を成すために敬虔な人々を騙すのは、悪魔だけの仕事ではないと言う司教。

何もしゃべらぬ少女の前で、カード遊びに興じる保護院の生徒たち。

彼女にルールを教えようとするパグを、歳を取ってイライラしていると言う他の生徒。一定の年齢を越えると退所するのが保護院の決まりです。

言い争いになりそうな生徒たち。他愛ない会話を交わしていると、シスター・ジェニファーが現れました。

少女が身に付けた腕輪の文字と同じダーリンと呼びかけ、付いてくるよう言うシスター。

シスターと司教はダーリンを鶏小屋に案内します。司教は宣伝用に、彼女の野獣のようなな姿を撮影しようとしていました。

怯えているとのジェニファーの言葉に構わず、ダーリンを鶏小屋に閉じ込める司教。

普通の少女に見えると、シスターに彼女を汚せと指示します。小屋に入りダーリンの腕や顔に、泥をなすりつけたジェニファー。

怒り出したダーリンをシスターは必死に制します。司教の望む姿になりました。

金網を破り逃げようと暴れるダーリンを、彼は撮影し続けます。迫ったダーリンに棒を突き付ける司教。

撮影を終えると小屋に入り、うって変わった態度でダーリンをなだめる司教。彼女は司教の胸に身を預けます。

シスター・ジェニファーに対し、司教は正しい事を行うのは簡単ではないと告げました。

そんな司教を固い表情で見つめるシスター。私たちは良いことをした、と強調する司教。

ダーリンにシャワーを浴びさせたジェニファーは、1人で泣いていました。

シャワーを浴びるダーリンは、雪山で”女”といた時に、遭難し倒れた男を見つけた時を思い浮かべます。その男とキスを交わすダーリン。

その頃ダーリンを探しに現れたのか、病院の外に”女”がいました。トニーは気配を感じますが、見つけることは出来ません。

ダーリンは喋れないまま他の生徒と同じ授業に参加します。老シスターは彼女を普通に扱い、いつもと同じ調子でルールを説明します。

暴力も悪口も、ドラッグも酒も、外食も俗な音楽も無し。そんな保護院のルールに構わず、隠れて自由に振る舞う生徒たち。

神と教会に栄光を。その言葉に続き老シスターは罪の進化、聖書の説く女の原罪を教え始めます。

老シスターは、他の子に行うのと変わらぬ態度でダーリンに体罰を加えようとして、威嚇されました。

他の生徒には痛快な光景です。ジェニファーが授業を引き継ぎ、エデンの園でイヴは蛇にそそのかされ、禁断の果実を食べたと説きます。

その原罪から女には、出産の苦痛が与えられた。ふざけて聖書を読んだ生徒のビリーは、ジェニファーに連れ出されました。

罰として司教の元に連れて行かないでくれ、と叫ぶビリー。そこに送り届けたジェニファーの手は震えていました。

女の原罪についてダーリンに教える老シスター。唸り声をあげた彼女は窓から逃げ出します。

その夜、司教はシスターたちと林の中でダーリンを探しますが見つかりません。同じ夜、”女”は街の中を歩いていました。

翌朝、寝ていた”女”を不審人物として声をかけた警官は、”女”に襲われ首を噛まれます。

喰いちぎった肉を食べる”女”。汚れたコートを着た彼女は死体をゴミ箱に入れ、サングラスと銃を奪い立ち去ります。

“女”はダーリンを送った病院に入ります。彼女を迷い込んだホームレスと思い、声をかけたグラント医師の腹をナイフで斬り裂く”女”。

さらに病院に慰問に来たピエロの胸に、”女”はナイフを突き立てます。

“女”は看護士のトニーを見つけると、彼のポケットからダーリンの腕輪を出し見せました。

トニーは彼女がダーリンを探していると知り、車に乗せ聖フェロミーナ教会に向かいます。車に乗りパニックになる”女”。

教会ではシスター・ジェニファーが、行方不明のダーリンを探すのに外部の力を借りるべきと司教に訴えていました。

司教は森をさまよっているだけで、我々は彼女を失っていない、共に祈ろうと言います。事態が表沙汰になるのを避けたい様子の司教。

保護院の生徒ビリーは林の中で隠れ、イヤホンを付け音楽を聴き煙草を吸っていました。そこにダーリンが現れます。

ビリーは彼女にイヤホンの片方を与え、ジャメス・ラケットの曲「Don’t Sass Your Mama」を聴かせます。

ダーリンも音楽が気に入ります。行き場所は他にあるか、私には無いと話しかけたビリー。

それでもここより悪い場所がある、とビリーは言葉を続けます。私は別れた母を追うが、あなたに母はいるのかと聞いた彼女は、ダーリンにスカーフをかけてやります。

トニーの車はパトカーに追われます。”女”がハンドルに手を出し運転を誤った結果、車は横転しました。

警官がトニーを助けます。しかし”女”の姿は消えました。

ビリーは林の中に煙草やプレイヤーを隠し、ダーリンの手を引き教会へ戻ります。

隠れていた”女”に、ホームレスの女モナが声をかけます。”女”を仲間と認めたモナ。

“女”の「ダーリン」との呟きを、モナは誘っていると受け取り、自分が仕切る女ホームレスのたまり場に案内しました。

戻ってきたダーリンを、シスター・ジェニファーは優しく受け入れます。昨日の撮影で行った振る舞いを詫び、2度としないと約束します。

ダーリンはジェニファーや少女たちに心を開き始めます。

“女”は女ホームレスの体を買おうと強引に迫った男に怒ったのか、銃を突き付け捕まえ暴行を加えます。

ダーリンは教会と少女たちの世界を、”女”はホームレスの世界を受け入れました。

以下、『ダーリン』のネタバレ・結末の記載がございます。『ダーリン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2018 BY LITTLE BITER LLC. ALL RIGHTS RESERVED

ジェニファーに指導され、司教の前で聖書を読むダーリン。

しかし”女”と共に暮らしていた時、遭難した男の遺体を貪った記憶がよみがえったのかトイレで吐きます。彼女は神に祈ります。

ジェニファーをシスターと呼ぶようになるダーリン。

司教は皆に神は悪に対し哀れみを持っていない、悪はあなたの中にいると説教します。

その言葉を純粋に信じたダーリンは、神はまだいるか、自分を救ってくれるかとジェニファーに訊ねました。

神はあなたを愛し、救ってくれると告げるシスター・ジェニファー。

あなたは特別だと語る司教に、ダーリンは自分の中の悪魔をどうすれば除けるか尋ねます。

キリスト教の教理を熱心に学べと答えた司教。その胸に飛び込み、礼を告げるダーリン。

私はあなたが必要だ、と言う司教の言葉を彼女は受け入れます。

彼女は誰よりも熱心に神学を学びます。しかしある夜、悪夢を見て悲鳴を上げるダーリン。

教会の女子保護院を、看護士のトニーが面会に訪れました。トニーは病院に、背の高い”女”が現れたと教えます。

彼女に襲われたかと聞かれ、否定したトニー。家族がいるか聞かれ、ペグという姉妹がいたと告げたダーリン。

ペグから中の物が出て死んだとの言葉に、出産で母子共死んだとトニーは悟ります。

私の中に悪魔がいると言うダーリンに、君の中に悪魔などいないと告げるトニー。

司教らに時間だと言われ、トニーは帰りました。

ダーリンはシスター・ジェニファーの元で、より熱心に神学を学びます。

一方で林の中でビリーと密かに合い、音楽を聴いて踊り楽しんでいました。

ビリーは煙草やプレイヤーは、食料配達人に胸を触らせた代償で得たと話します。

様々なことを話す関係になったビリーに、自分の中の物が出て、自分を殺すのが怖いと告げるダーリン。

ある日ダーリンは司教に呼ばれます。司教は彼女に、悪魔を遠ざける重要なテストを行うと告げます。

人間は原罪を負う前は無垢な存在で、裸だと告げた司教は、彼女に服を脱ぐよう促します。

そのお腹を見て驚く司教。彼女は妊娠しています。それは何だと問われ、悪魔だと答えたダーリン。

彼女は教会に教えた自分の中の悪魔を、流産でペグを殺した胎児と同じものと考えていました。

あなたは悪魔を追い出すと言った、と司教に指摘したダーリン。思わぬ事実を知り司教は逃げ出します。

彼女の妊娠は、女子保護院の仲間たちの知るところとなります。神は私を許し救うと訴えるダーリン。

一方保護院の女の子たちは、自分たちの知る現実的な解決方法、素人が行う危険な堕胎の方法を口にします。

もっとも母のそんな抵抗を乗り越え、自分たちは生まれたと言いました。

ビリーはあなたも赤ちゃんも救われると言い聞かせますが、ダーリンは自分は死ぬと恐れていました。

司教は何もなかったように、シスターたちの立ち合いでダーリンに浸水の儀式を行います。

これであなたの肉欲は死ぬと告げられ、司教の手で川の中に沈められるダーリン。

撮影していたシスター・ジェニファーも、彼女の妊娠に気付きました。

ダーリンのつわりは酷くなります。彼女に何をしたと司教を追及するジェニファー。

自分は手を出していない、彼女は妊娠8カ月だ、疑われたことを悲しく思うと答える司教。

まだ幼く、ドラッグに溺れていた頃のジェニファーに司教は手を出していました。

その事実を責めると相手が自分で良かった、他の男なら売春婦に転落していたと言う司教。

あなたは私にした事を表沙汰にするなと懇願した、許してくれれば、私も強くなると言ったはずだと追及するジェニファー。

しかしその後も司教は同様の行為を止めず、それを知った教会の上層部が、聖フェロミーナ教会の閉鎖を望んだと指摘します。

その言葉に私は使徒直系の子孫だと激昂し、破門すると脅す司教。その上で教会を救う使命に戻れとシスターを諭します。

清掃作業中、洗剤の容器の中の液体を味見したダーリン。

一方ホームレス姿の”女”は街中で妊婦を見かけ、彼女が向かったベビー用品店に入ります。

その店でベビーキャリアを掴み取り、そのまま出て行く”女”。

教会の告解室では、ダーリンが自分の妊娠した事情を司教に告白していました。

“女”と共に山で暮らしていた時、岩場から転落した男(ペイトン・ウィッチ)を見つけたダーリン。

負傷で動けない男を救い、自分の物とした彼女は共に過ごします。

彼とキスを交わし、彼の放った白い血を受け入れたと語るダーリン。その男を”女”が刺し、赤い血が流れます。

彼は死に、私は空腹で、男の死体を食べた。その時の私は悪かったと告白するダーリン。

その行為は姉妹のペギーの時と同様、罪にも愛のようにも感じられたと語り、彼らは天国にいるのか司教に問いました。

告白の重みに耐えられず、告解室を出た司教は、なぜお前はこの教会にいるのかと逆に訊ねます。

自分はここに来なかった。赤ちゃんを産むために病院に行ったのに、彼らは私を司教と神の元へ連れて行った、と答えるダーリン。

公園に現れた”女”は、砂場で無邪気にふるまう乳児に近づきます。抱こうとした時、子供の母が取り上げました。

公園から去ろうとして、野生児の少女が聖フェロミーナ教会に救われ、人間性と信仰を身に付けた、と報じる新聞を拾います。

“女”は記事の写真が、ダーリンの顔だと理解できました。

初聖体拝領の儀式に参加するダーリンに、保護院の少女たちは白いベールを被った衣装を着せ、十字架の付いたブレスレットをプレゼントします。

“女”から新聞を見せられた女ホームレスのリーダー・モナは、教会が子供を奪った、陰謀だと憤り、仲間と共に教会を目指します。

初聖体の拝領を受ける若者、その家族、そして元野生児であるダーリンの取材に来た記者が教会に集います。

成果を見せようと招いた枢機卿の前で、世にはびこる悪や同性愛など、倒錯的趣味に溺れる者を批判する司教。

それは同性のパートナーのロバートと訪れた、看護士のトニーには居心地の悪いもので、シスター・ジェニファーも厳しい顔で聞いています。

数ヶ月前に現れた、口もきけぬ野生児の少女が、神の力で教養を身に付け信者となる。

皆さんは教会の力と神の憐みの心を目撃するために、ここに集まったと自らの成果を強調する司教。

仲間が去るとダーリンは、式に出る前に漂白剤を飲みました。

聖体の拝領が始まります。子供たちが終わると、司教は参列者に来たばかりの頃の、暴れるダーリンの姿を映像で見せます。

ダーリンが呼ばれました。司教が彼女に聖体を与えようとした時、シスター・ジェニファーが立ち上がります。

司教の子供たちに行った性的虐待の証拠を持っている、と叫ぶジェニファー。

彼女を追い出し、式を続けようとする司教。ジェニファーは録音した司教との会話を流します。

ダーリンは聖体を与える司教の手に噛みつきます。参列者に逃げ出す者も現れます。

苦しみ出すダーリンを見て、出産が始まったと気付くビリー。トニーも彼女の元に向かいます。

枢機卿も立ち去る中、女ホームレスたちが乱入し、騒ぎは大きくなります。

出て行けと叫ぶ司教に、旗竿を持って迫る”女”。記者の首をナイフで斬り、司教の体に旗竿を突き刺しました。

“女”の凶行にホームレスたちも驚いて逃げ出します。教会に残った者に見守られながら出産するダーリン。

子供は”女”が取り上げました。生まれた女の子を、どこか遠くに連れて行ってとダーリンは頼みます。

看護士のトニーや、シスター・ジェニファーらに見守られたダーリンを残し、誕生した子を連れ”女”は去っていきました。

この作品は1946年に生まれ、2018年に世を去った本名ダラス・メイヤーこと、ジャック・ケッチャムに捧げられています。

映画『ダーリン』の感想と評価


(C)2018 BY LITTLE BITER LLC. ALL RIGHTS RESERVED

この映画を見た人は、例外なく打ちのめされたでしょう。

純粋な野生児の少女の正体もさることながら、キリスト教的価値観やそれらに支えらた、人間の道徳観念に疑問を突き付けます。

さらに宗教組織(カトリック系です)の組織的な偽善・腐敗を痛烈に批判。この物怖じしない大胆な主張には、観客が怯みます。

さらにキリスト教の原罪とは異なる形で描いた、産む性としての女性描写。

産む行為は、性にも死にも密着しており、生は他の命を奪い食する行為につながる。女性はその現実に、男性よりも正面から向き合わねばならない。

これらを残酷なまでに描いた『ダーリン』、恐らく男性監督が描けば非難を浴びるでしょう。しかしこのテーマに向き合ったのは、女優ポリアンナ・マッキントッシュ。

女優だけでなくクリエイター、ファッション業界でも活躍し、若者の自殺防止支援団体のサポート活動をしている、彼女無くして本作は誕生しませんでした。

ジャック・ケッチャムの問題作を深く追及

参考映像:『襲撃者の夜』(2009)

本作に注目するのは、ドラマ『ウォーキング・デッド』ファンが多いでしょう。同作のシーズン7から登場の、ポリアンナ・マッキントッシュとクーパー・アンドリュースが出演しています。

本作の原作は、過激な描写で物議を呼んだジャック・ケッチャム。彼のデビュー小説「オフシーズン」(1981)は、現代のアメリカに生きる人喰族と、都会の若者の闘いを描いた作品です。

その世界は「襲撃者の夜」(1991)に発展、この小説は後に同じタイトルで映画化されます。この時人喰族の”女”役で、ポリアンナ・マッキントッシュが出演しました。

その続編を、『MAY メイ』(2002)のラッキー・マッキー監督とケッチャムが共同で執筆、それが「ザ・ウーマン」(2010)です。

小説はラッキー・マッキーが『ザ・ウーマン』(2011)として映画化。この作品でもポリアンナ・マッキントッシュが”女”を演じます。

この作品では人喰族の”女”の存在が、現代人に潜む野蛮さ、残酷さをさらけ出し、シリーズは深みを増していきます。

ケッチャムの世界にインディーズ映画界の才人が集結

参考映像:『ザ・ウーマン』(2011)

『ザ・ウーマン』で描かれた世界を、女性を取り巻く差別的環境も含め発展させた作品が『ダーリン』です。

前2作のプロデューサーからオファーがあり、本作では監督も引き受けたポリアンナ・マッキントッシュ。作品は前作をコンセプトを引き継ぎました。

本作で司教を演じたブライアン・バットは、TVドラマ『マッドメン』で、1960年代の同性愛者を演じています。

自らを同性愛者と公言し、同性の配偶者を持つ彼が、どんな意図で出演したかは明白でしょう。

医師役のジョン・マコーネルはインディペンデント映画を中心に活躍する俳優で、ジョン・グッドマンの親友です。

保守的な立場から物申すラジオパーソナリティーとしても人気です。本作出演は彼の俳優としての度量を示すものでしょう。

ラッキー・マッキーは製作に参加、彼は本作に音楽を提供したジャメス・ラケットとは、大学で映画・アニメーション製作を学んだ際に知り合い、共同で多くの仕事を手がけました。

本作のインディーズ映画的な雰囲気は、こういった人々の参加で生み出さました。

インドでの事件をヒントに、本作の物語を描いたポリアンナ・マッキントッシュ。信仰への攻撃ではなく、権力・権威の偽善性や女性の権利について描いたと説明しています。

本作の製作が動き出した時には、体調が悪化していたジャック・ケッチャム。しかしセットを訪れた際は笑顔で、周囲を明るくたと振り返っています。

本作の脚本執筆に際しアドバイスを求めると、ケッチャムは「書くだけだ」と答えます。その言葉に後押しされた、と語るマッキントッシュ。

ジャック・ケッチャムは10代の頃、『サイコ』で知られるホラー小説家ロバート・ブロックの知己を得て師事、2人は長らく交流を続けました。

その親愛と敬意に満ちた関係は、かつてロバート・ブロックがH・P・ラヴクラフトとの間に築いたものと同様だった、と言われています。

そして現在、亡きジャック・ケッチャムから直接影響受けた、新たな世代のクリエイターたちが活躍しています。

まとめ


(C)2018 BY LITTLE BITER LLC. ALL RIGHTS RESERVED

残虐シーンよりも、人の世の良識や社会通念の先にある、本質的な闇をテーマとして取り上げたことが衝撃的な映画『ダーリン』。

軽いホラー映画と思って見た人には、鈍器で殴られたような体験だったでしょう。

この陰惨な物語に、当事者である若い女性たちが、軽い調子でたくましく向き合う姿が。作品に明るさを与えてくれます。

これは主人公を演じたローリン・キャニーほか、キャスティングディレクターに選ばれた若い女優たちにより描かれました。

エンドロール後に登場する映像は没シーンか、撮影中のお遊びと思われますが、これが本作ラストの後日譚であれば、少し救われた気分になります。

過去の哲学者がキリスト教の価値観を無条件に受け入れ、それを前提に人間を考察していたと批判した、ドイツの哲学者ニーチェ。

彼の「神は死んだ」、「善悪の彼岸」という言葉は、『ダーリン』をという映画を読み解く手助けになるでしょう。

ニーチェの「深淵をのぞく時、深淵もまた、こちらをのぞいているのだ」という言葉は、様々な形で引用され有名です。

何らかの興味や秘めた欲望を満たすため、ホラー映画を見ている方の中には、その行為こそが自分という人間を再認識させる、と気付いた方もいるでしょう。

「ホラー映画を見る時、ホラー映画もまた、こちらを見つめているのだ」

『ダーリン』を鑑賞すれば、間違いなくそんな思いに向き合わされます。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…


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次回、第11回は水没寸前の洞窟に巨大人喰ワニ出現!絶体の危機を描くアニマルパニック映画『ブラック・クローラー』を紹介します。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら




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日本映画大学