2大スターが10億フラン強奪犯役に挑む
フランス映画界の2大スター、アラン・ドロンとジャン・ギャバンが共演を果たした、フランス映画史上に名を刻むクライムサスペンスの名作。
カジノ襲撃計画の顛末をスタイリッシュにスリリングに描きます。監督はアンリ・ヴェルヌイユ。
最後の大仕事に挑む老ギャングのシャルルと、彼が相棒に選んだチンピラの青年フランソワ。彼らの魅力の虜になる本作の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『地下室のメロディー』の作品情報
【公開】
1963年(フランス映画)
【原作】
ヨン・トリニアン
【監督】
アンリ・ヴェルヌイユ
【脚本】
アルベール・シモナン、ミシェル・オーディアール、アンリ・ヴェルヌイユ
【キャスト】
ジャン・ギャバン、アラン・ドロン、ヴィヴィアーヌ・ロマンス、モーリス・ビロー、ジャン・カルメ
【作品概要】
1963年のゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞したフランスの名作クライムサスペンス。監督はアンリ・ヴェルヌイユ。
年老いたギャングと、チンピラ青年がタッグを組み、カジノの賭け金10億フランを強奪する計画に挑みます。スリリングな攻防をスタイリッシュに描いた傑作です。
『現金に手を出すな』(1955)のジャン・ギャバンと『太陽がいっぱい』(1960)のアラン・ドロンの2大スターが共演。印象に残るモダンジャズのメロディーと、主人公の名優らの魅力に酔いしれる一作です。
映画『地下室のメロディー』のあらすじとネタバレ
5年の刑期を終えて出所した老ギャングのシャルルは、かつての仲間マリオから、カンヌのパルムビーチにあるカジノの賭金10億フランを強奪する計画を持ちかけられます。
刑務所で知り合った恐い物知らずのチンピラ青年フランシスと、車修理工場を営むフランシスの真面目な義兄ルイも仲間に引き入れ、シャルルは周到な準備の末に計画を実行に移しました。
富豪客を装ったフランシスはカンヌのホテルに滞在し、カジノの踊り子と恋人になって楽屋裏に出入りできるようになります。また、カジノの常連にもなりました。
そして決行当日。カジノのオーナーが地下金庫から売上金を取り出そうとしたところをフランシスは銃で脅し、シャルルと共に見事に大金を奪い去りました。完全犯罪は成功したかにみえましたが、その後思わぬ事態が起こります。
映画『地下室のメロディー』の感想と評価
予想外の結末を迎えるスリリングな傑作サスペンス
あまりにも有名なテーマ曲に乗せて描かれる、いったいどうなるのかと最後までハラハラ楽しませてくれる傑作クライムサスペンスです。モノクロの画面に深い味わいがあります。
出所したばかりのシャルルは、でっぷりとした体つきの老ギャングです。愛する妻は変わらず彼を家で待っていてくれましたが、まっとうになってほしいという彼女の懇願も聞かず、シャルルはすぐに次の大きな獲物を見つけてきます。
カジノ襲撃という最後の大仕事の相棒にシャルルが選んだのは、刑務所で出会ったチンピラのフランシスでした。運転手がほしいシャルルは、フランシスの義兄ルイも仲間に引き入れます。
金に執着心があり、危険な仕事に魅了されているシャルルとフランシス。金の受け取りを辞退するほど真面目なルイとの性格の対比もストーリーのスパイスになっています。
常に冷静なシャルルが計画を立て、恐いもの知らずのフランシスが計画通りに動きます。時にぶつかり合いながらも、二人は10億フランという大きな獲物をとうとう手に入れました。
奪った金を同じバッグに入れっぱなしにしたり、人目につきやすいプールサイドで落ち合ったりと、ストーリーには突っ込みどころが満載なのですが、この設定のゆるさこそが古い映画の最大の魅力といえるかもしれません。爽快感さえ感じさせる秀逸なラストシーンを見たら、そんな小さなことはまったく気にならなくなるでしょう。次々に水面に浮かび上がるフラン札が幻想的に見えてきます。
シャルルはこれを機に諦めて引退を決めたのでしょうか。フランソワは今回で懲りてカタギの人生に戻ったのでしょうか。それとも負けず嫌いの彼らは、もう一度大きな仕事に挑んだのでしょうか。二人のその後がとても気になるラストシーンです。
フランスの2大スター・ギャバンとドロンの煌めき
ジャン・ギャバンとアラン・ドロンの魅力が炸裂する本作。二人のバランスが素晴らしく、思わず魅入られます。
ギャバンは肉付きのよい老人でありながら、まだまだ現役感を感じさせる魅力にあふれており、美しい妻に愛され続けていることにも納得です。この年齢だからこそ出せる老獪さと共に、ラストシーンで水面に浮かび上がる札を見つめる姿に漂う哀愁感がたまりません。あのサングラスの奥に隠された切ない目を、思わず想像してしまいます。
全編を通して目を奪われるのは、華麗なアラン・ドロンの姿です。カジノの楽屋裏に入るために踊り子の一人を口説く様や、身軽にあちこちに忍び込む美しい姿に目が釘付けになります。
とても印象的なシーンがあります。大仕事の前にバーカウンターに立ち寄ったフランシスを誘おうとした伯爵夫人は、彼が立ち去った後にこう言いうのです。「私の見る目も落ちたものね。下品な男だわ」
どんなに身を着飾っても隠しきれない下品さがにじみ出てしまうフランシスの姿は、大ヒット作『太陽がいっぱい』で富豪のふりをしようとしても品のなさを隠しきれなかった主人公トム・リプリーに重なります。恐ろしく美しい容姿なのに、どこか酷薄そうな瞳と薄い唇。このアンバランスさこそドロンの真骨頂といえるのかもしれません。
まとめ
ジャン・ギャバンとアラン・ドロンの魅力が画面からにじみ出る傑作『地下室のメロディー』。老獪な策士と目立ち過ぎる美貌を持つチンピラのバランスの絶妙さに、思わずうならされること間違いなしの一作です。老シャルルがフランシスに教える富豪のフリをするコツなどは、まるでシニカルな人生訓のようにさえ聞こえます。
シャルルの家には愛し愛される美しい妻が待っており、フランシスの家には放蕩息子に悩まされながらも見捨てずにいる母親の姿があるのも対照的です。年老いてもスリルを捨てられないシャルルと、無鉄砲で考え無しの若者。本能のままに欲しいものに手を伸ばし続ける彼らの姿は、まるで恐い物知らずの子どものようです。
社会のはみ出し者同士がタッグを組んで獲物に食らいついていく様に、いつの間にか心奪われてしまうに違いありません。