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Entry 2024/06/23
Update

【ネタバレ】ドント・スティール|感想評価とあらすじ結末解説。おすすめシチュエーションスリラーが描く“目が語る真実”に憑かれた者の狂気

  • Writer :
  • 秋國まゆ

強盗たちが金細工師の老夫婦に翻弄されるシチュエーションスリラー!

ヴィンセント・リッキウトが脚本・監督を務めた、2022年製作のイタリアのPG12指定のシチュエーションスリラー映画『ドント・スティール 強盗の果て』。

ある人物からの情報をもとに、金細工で生計を立てる老夫婦宅に押し入った強盗たち。老夫婦を縛り上げ、鉄の扉で仕切られた工房から金細工を盗もうとするも、老夫婦の反撃に遭い工房へ閉じ込められてしまいます。

実はその老夫婦には、隠された顔がありました。彼らの素性を知った強盗たちは、仕掛けられた罠に翻弄されていきます。

映画『ドント・スティール 強盗の果て』のネタバレあらすじと作品の魅力をご紹介いたします。

映画『ドント・スティール 強盗の果て』の作品情報


(C)Almost Famous – Dea Film. All Rights Reserved.

【日本公開】
2023年(イタリア映画)

【監督】
ヴィンセント・リッキウト

【脚本】
ヴィンセント・リッキウト、ジェルマーノ・タッリコーネ

【キャスト】
ステファニア・カッシーニ、ジュゼッペ・パンビエリ、タニア・バンバチ、ジャンルカ・バンヌッチ、ステファノ・フレーニ

【作品概要】
ヴィンセント・リッキウトが脚本・監督を務めた、イタリアのシチュエーションスリラー。新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2023/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2023」で上映されました。

本作はスクリーム・ホラー映画祭をはじめ、グリム映画祭にニューヨーク映画祭、カルカッタ国際映画祭などで受賞。『エロチカ・ポリス』(1976)のジュゼッペ・パンビエリ、『わたしはダフネ』(2021)のステファニア・カッシーニのほか、タニア・バンバチやジャンルカ・バンヌッチらが出演しています。

映画『ドント・スティール 強盗の果て』のあらすじとネタバレ


(C)Almost Famous – Dea Film. All Rights Reserved.

夜9時過ぎ。ある人物からの情報で、金細工を生業としている老夫婦の家に強盗に押し入った3人の男女。

子どもの頃から素行が悪く、生きるために盗みを働いていた彼らは、首尾よく老夫婦を椅子に縛りつけ、ダイニングキッチンの奥に隠された工房から金細工を盗んでいきます。

しかし、工房とダイニングキッチンを仕切っていた鉄の扉は自動で閉まる仕組みだったため、3人は中に閉じ込められてしまいました。そのことを知っている老夫婦は、協力して縄を解きました。

そこへ、彼らと顔見知りの森林警備隊員のマッテオ巡査がやってきます。近辺を巡回していたマッテオは、老夫婦の家の近くで不審な車を発見し、2人に何かあったのではないかと心配して立ち寄ってくれたのです。

老夫婦は工房に閉じ込めた強盗たちのことは言わず、何もないから心配いらないと言って彼を帰しました。

家主である金細工師アントニオは、絵画の裏に隠した工房を映すモニター越しに、強盗たちが仲間割れするように挑発します。実はアントニオは、強盗たちの素性を知っていました。

リーダーのステファノの父親は亡くなっており、母親は詐欺罪で捕まっていること。ステファノの友人であるロベルトは両親から嫌われており、ドラッグの売人であること。

しかもロベルトはドラッグを売る以上に、コカインを吸っておりいつも金欠状態。そのため、娼婦のように男性の性処理をし、コカインを買う金を稼いでいたこと。

紅一点のアリアンナはステファノと恋人関係にあり、ジェリーという子猫を飼っていることを。

この3人は子どもの頃、ある男から金細工を盗んだ後の逃走中に男と揉み合いになり、アリアンナが男の腹をナイフで刺したという出来事をきっかけに、運命共同体だと誓いを立てていました。

しかし3人にはそれぞれ、仲間に隠していることがありました。もちろん、アントニオはそのことも知っていました。

3人は以前ボウリング場での強盗を計画したのですが、ステファノが計画前日までに見かけなかった武装した連中がいたことにより計画は中止されました。しかしギャンブル関係でトラブルがあったステファノは、2人に黙って単独で強盗を実行していました。

また「自分だけのもの=赤ん坊」が欲しかったアリアンナは、無精子症の恋人ステファノではそれが手に入らないと分かると、3人で質屋を襲った打ち上げでクラブに行った日、酒に酔った勢いでロベルトと浮気をしていました。

しかしその後、アリアンナはステファノに浮気がバレることを恐れ、彼に親戚のところへ行くと嘘を言って、妊娠したロベルトとの間の子どもの中絶手術をしに行ったのです。

それらの隠し事をアントニオによってバラされ、3人の仲は険悪に。ステファノとアリアンナは真実を言わず、それどころかアリアンナが自身にとって都合のいい嘘をステファノに吹き込んだため、激怒した彼はロベルトを殺そうとします。

しかし、なぜかステファノの銃に弾はなく、反撃しようと放ったロベルトの銃弾は彼の胸に打ち込まれ死んでしまいました。

以下、『ドント・スティール 強盗の果て』ネタバレ・結末の記載がございます。『ドント・スティール 強盗の果て』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)Almost Famous – Dea Film. All Rights Reserved.

アリアンナとロベルトが揉めていると、工房の外にいるアントニオとその妻ジョヴァンナの会話が聞こえてきました。アントニオがマイクの音を消し忘れたのです。

アントニオたちは3人の資料を見ながら「ステファノは一番健康そうだったのに残念」「でもアリアンナも健康体で理想的。ロベルトはダメだな」と話し合っていました。

そこへ、マッテオが再訪問。数ヶ月前に報告のあった強盗団が犯行時に被っていたものと似たマスクが、老夫婦の家にあったのをさっき見つけたからです。

身の危険を感じたアリアンナとロベルトは、大きな物音と声を出して助けを求めます。しかし老夫婦によってモニターは絵画で隠され、声や音は音楽で掻き消されてしまいました。

ロベルトは苛立ち、工房にあった棚を倒しました。強盗団と似たマスクに、ジョヴァンナの顔と手首にある痣、そして大きな物音が聞こえたモニターの向こうにいる謎の男女2人。

マッテオはアントニオに疑いの目を向けます。そこへキッチンに行っていたジョヴァンナが戻ってきて、笑顔でマッテオの腹を包丁で刺して殺しました。

工房からの脱出を目指すアリアンナたちは、地下室へと続く工房の隠し扉を発見。わずかな希望を抱いて階段を下りていきました。

すると2人が地下室に来ることが分かっていたかのように、真っ暗だった地下室に明かりがともり音楽が流れます。そして、そこに並べられた3台の手術用ベッドのうち、白い布がかけられた一番奥のベッドが動いたのです。

アリアンナがその白い布をめくり、布の下にいる人の顔を見ようとしたその時、地下室に睡眠ガスが噴射されます。

眠らされた2人が目を覚ました時、空いていた2台のベッドに縛りつけられていました。

アントニオは2人の問いかけに答えず、一番奥のベッドに縛りつけた女性の目を弄っていました。仕事に没頭し自分の世界に入ってしまった夫にかわり、ジョヴァンナが笑顔で2人と話をしました。

「芸術家である彼はあの日以来ずっと、仕事のことばかり考えてる」「何年も働けなかった時があったけれど、それから解放されて戻ってきてからは、彼は最初の情熱を完全に取り戻したわ」

「なぜ生きるために人々に危害を加えるのか、あなたたちは疑問に思ったことはない?」「あなたたちも心の奥底まで自分の内面を見てもらえれば、本当の自分を知ることができるわ」

そう言って、ジョヴァンナはアントニオが両目をくり抜いたのち、目を模した金細工を取り付けた女性の顔を2人に見せました。2人はなぜこんなイカレたことをするのかと尋ねます。

ジョヴァンナは「犯罪者の仲にも善人はいるかもしれないけれど、彼女のように心の邪悪な部分が見つかって皆死んだから、私は信じていないわ」「夫は人生を捧げて、人の本質を知るこの方法を見つけ出した」と答え、本当の自分を知る機会をくれる彼に感謝するべきだと怒りました。

ロベルトは思わず、女性が死んだのは自分の祖母と同じ「発作」を起こしたからだと反論。しかしロベルトの言葉は、先ほどから老夫婦に無礼な態度を取っていたことも相まって、ジョヴァンナの逆鱗に触れてしまいます。

老夫婦は叫ぶ2人の口をテープで塞ぎ、ロベルトへの拷問を開始。アントニオは今度こそ失敗しないように、慎重に彼の両眼をくり抜いていきます。

そこへ、アリアンナたちの仲間が姿を現します。なかなか戻ってこない3人にしびれを切らして、依頼人のユーリを撲殺してから、老夫婦の家へ駆けつけたのです。

ところが仲間だったはずの男は、アリアンナたちを助けようとはせず、ジョヴァンナのもとへ。実は男の正体は、ロベルトに今回の強盗を持ちかけたアントニオ夫婦の一人息子ジュリオでした。

ジュリオはアリアンナに「お前らのせいで父さんは20年間地獄を味わい、復讐の鬼となった」と語り始めます。

20年間にも及ぶ精神科病院での生活で、アントニオは魂と人の内面を語るジョヴァンナに出会いました。またジュリオは父の「仕事」を手伝うために、父の憎き相手であるアリアンナたちと仲良くなり、彼らの行動や関係、弱点といった情報を集めました。

息子の情報をもとに、憎き3人を仲間割れさせることができてアントニオは大層喜びました。しかし、ステファノが死んでしまったのは誤算でした。

饒舌に笑いながら語るジュリオを、老夫婦は呼び寄せます。そしてアントニオはジュリオに自分の仕事を教えながら、ロベルトを生かしたまま金細工の目を入れた人形にすることに成功しました。

最大の難関を乗り越え、生きた金細工の人形を作れたことに大喜びする親子は気づきませんでした。アリアンナが彼らの目を盗んで、作業台から工具を盗み、手錠を外していたことを………。

完全に油断していたアントニオは、アリアンナからの奇襲を受け、工具で片目を潰され絶命しました。全ての拘束を解いたアリアンナはロベルトを連れて逃げようとするも、彼は未だ現状を理解できず、すぐに動き出すことはできません。

激怒したジュリオはアリアンナに襲いかかるも、反撃に遭い頭部を負傷。アリアンナは命からがら地下室から脱出して玄関を開けました。

これでやっと自由だ……と思いきや、背後に忍び寄ったジョヴァンナに麻酔薬を注射され、地下室のベッドに戻されてしまいました。

翌日。ジュリオは亡き父の代わりに、母のサポートを受けながらアリアンナへの拷問を開始。アリアンナは金細工の両目を埋め込まれた生きた人形となり、親子と一緒に暮らし始めました。

映画『ドント・スティール 強盗の果て』の感想と評価


(C)Almost Famous – Dea Film. All Rights Reserved.

強盗であるステファノ・ロベルト・アリアンナの、老夫婦の家の工房への強盗。首尾よく隠されていた工房を見つけ出し、金細工を盗んでいった時は、上手くいきすぎやしないかと疑問でした。

しかし3人は何の疑いもせず、目の前にある金細工を鞄に詰め込むことに夢中。気づいた時にはすでに遅し、自動で閉まる仕組みとなっていた鉄の扉は閉まり、彼らは閉じ込められてしまいました。

この時までは「この老夫婦、策士だな」と感心させられます。ですが雲行きが怪しくなってきたのは、彼らが強盗に入られたことをマッテオに隠し、ステファノたちの情報も秘密も全て知っていたところからです。

老夫婦は笑いながら、まるで世間話に花を咲かせるかのように、3人の処遇を話し合っている場面から、視聴者も思わずゾッとする恐怖の時間がはじまります。

しかも一見穏やかな老夫婦であるアントニオたちが、死んでも誰も悲しまない犯罪者を、生きた金細工の人形にしようとする恐ろしい顔があったなんて、誰が想像できたことでしょう。しかもやり方も、そうされたロベルトたちの顔もとてもグロくて怖いです。

一方でジュリオの登場によって、アントニオが3人を長年恨んでいたことが明らかとなります。

子どもの頃の3人は、ある男から金細工を盗んで逃走。その途中でアリアンナが金細工を落としてしまい、その後ステファノとロベルトが男と揉み合いに。するとアリアンナは、ナイフで男を刺したのです。

金細工を盗まれた挙句、腹を刺された男がアントニオだという明確な描写はありません。もしそうだとしたら、ジュリオの言う「お前らのせいで父さんは20年間地獄を味わった」の台詞と、親子が3人を罠にはめた理由にも合点がいきます。

ただそうだったとしたら、被害者であるはずのアントニオはなぜ20年間も精神科病院にいたのか彼が狂ってしまったのは元々なのか、3人への復讐心からか、それとも元々狂っていたジョヴァンナに影響されてなのか

物語が終わっても、親子の謎は深まるばかりです。いろいろと考察して楽しめるところも物語の見どころとなっています。

まとめ


(C)Almost Famous – Dea Film. All Rights Reserved.

生きるために人々に危害を加え、強盗を働いてきた3人の男女が、なめてかかった老夫婦の壮絶な仕掛けにまんまとはめられ、壮絶な結末を迎えるイタリアのシチュエーションスリラーでした。

物語が始まる前「口では真実を隠せても、目は必ず真実を語る」というテロップが流れています。確かにステファノたちの口から出るのは、真実を隠した嘘ばかりでした。

その描写からもアントニオたちは、その人の内面を知るために真実を語る目をえぐって試したのではないかと考察できます。ロベルトも女性も、そしてアリアンナも、両目以外は何も危害を加えられた様子はありませんでした。

生き残った親子は、これからも常軌を逸した行為を続けていくのか。それともアリアンナで成功したため、もうしないのか。真相は闇の中です………。

両目を抉られ、その空いた穴に金細工を入れられた3人の姿はもちろん、終始笑顔で残酷なことばかりするジョヴァンナと、彼女の役を演じたステファニア・カッシーニの怪演っぷりが凄く不気味で怖いです。



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