旧ソ連史上最悪の連続殺人鬼を追うサイコスリラー!
36人の女性や少女を殺した犯人は、まだ捕まっていなかった……。
映画『殺人鬼の存在証明』は新鋭ラド・クヴァタニアが脚本・監督を務めた、2021年製作のロシアのサイコスリラーです。
1991年。何者かに襲われ負傷した女性が森の近くで保護されました。
彼女に怪我を負わせた犯人の手口は、すでに3年前に捕まったはずの連続殺人犯の犯行手口と一致。誤認逮捕だったことが判明します。
事件の捜査責任者であるイッサは、新たな容疑者のワリタを追い詰め尋問するも、彼の口から驚くべき真実を聞かされ………。
映画『殺人鬼の存在証明』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
映画『殺人鬼の存在証明』の作品情報
【日本公開】
2024年(ロシア映画)
【脚本】
ラド・クヴァタニア、オルガ・ゴロジェツカヤ
【監督】
ラド・クヴァタニア
【キャスト】
ニコロズ・タヴァゼ、ダニール・スピヴァコフスキ、ユリヤ・スニギル、エフゲニー・トゥカチュク、ヴィクトリア・トルストガノヴァ、アグラヤ・タラーソヴァ
【作品概要】
本作が長編デビューとなる新鋭ラド・クヴァタニアが脚本・監督を務めた、ロシアのサイコスリラー作品。50人以上を殺害した容疑で逮捕されたアンドレイ・チカチーロをはじめ、数々の連続殺人犯をモデルに、刑事や精神科医、犯罪学者にインタビューをしながら本作に登場する犯人の人物像を作り上げました。
『葡萄畑に帰ろう』(2018)のニコロズ・タヴァゼが主演を務めています。
映画『殺人鬼の存在証明』のあらすじとネタバレ
1991年。何者かに襲われ背中と足に怪我を負った女性が森の近くで保護されます。
女性を殺そうとした手口が、10年以上殺人を続けていた連続殺人犯の手口と酷似していることが明らかになり、すでに逮捕された犯人は誤認逮捕だったことが判明しました。
その事件の捜査責任者であるソ連検察庁の上級捜査官イッサ・ダビドフは、新たな容疑者である言語学者アンドレイ・ワリタを追い詰め尋問します。
ワリタには子供時代、獣医で仕事に追われていた母親に虐待されていたという過去があり、女性に嫌悪感と憎悪を抱いていました。
予備検査の結果、遺体と一致したワリタのナイフを、イッサは彼の目の前で遺体の写真と一緒に並べていきました。そして人形を使って、犯人の犯行手口を説明しました。
犯人はまず、殺さずに苦しめるために女性の頭を殴る。うつぶせに倒れた女性の口の中に土をつめ、その背中をナイフで刺す。仰向けにして女性に止めを刺し、ナイフをひねる……そうして、髪が短く若い女性や少女36人が殺されたのです。
ですが1人の女性だけ、体が切断されていました。ワリタと同じ工場で働いていた彼の元恋人ニーナ・グリバーノワです。
グリバーノワの自宅の床に血液のルミノール反応があったことから、彼女は自宅で殺され切断されたと考えられます。その現場にあった靴跡と同じサイズの靴が、ワリタの家にあった。これだけ状況証拠を並べても、ワリタは一貫して容疑を否認しました。
そこでイッサたちは、紙を折り爪でしごく音が苦手というワリタの弱点をついた尋問を行い、自白を迫ります。この尋問に耐えきれず、ワリタは涙を流しながら自身の人生を語っていきました。
医者から「男性より女性に近い。腰が細く、胸には乳汗がある」と言われたこと。そのせいで、軍隊では誰も自分を男として扱ってくれなかったことを。そう語ったワリタは、ふと割れた瓶に目が留まり、その瓶に頭をぶつけ自殺を図ります。
その直後、突如車が家に突っ込んできました。車から出てきたのは、復讐に燃える被害者の母親でした。イッサたちの説得もむなしく、被害者の母親は持っていた銃を発砲。捜査班の1人が腹を撃たれてしまいました。
時を遡り1981年。首都から派遣されてきたイッサは、1978年からここ3年間起きている連続殺人事件の捜査の全権を任されました。
イッサと共に事件の捜査に当たることとなった警察の捜査班の1人であるイワン・セバスチャノフがビデオカメラで撮影した、1978年の11月初めに湿地で発見された売春婦ジュロワ・ダリアの遺体と現場の印象を見たイッサは、捜査班にこう指示します。
まず病院に連絡し、性依存症の患者を全員登録すること。白い国産車が目撃されているという情報から、幹線道路に警官を配置すること。売春婦に扮した婦人警官を全バス停に配置し、警官はそこをパトロールすること。
これらのイッサの指示は「包囲作戦」と呼ばれました。しかしその作戦中、イッサが倒れて病院で療養している時に、森の中で女性の遺体が発見されたのです。
これを受け、イッサは犯人を理解するために、自分が捕まえた連続殺人鬼「チェスプレイヤー」と面会し取引を持ちかけます。
捜査に協力すれば、チェスプレイヤーの大きな火傷痕がある顔を、ソ連で一番の整形外科医に治療してもらう、という取引。そもそもその火傷痕は、イッサと化学工場でやり合った時にできたものでした。
1984年。とある高級レストランで、美術史家のベラが売春相手の男に真実を言って逆上され、止めに入った刑事のカムラエラと男が刃物で争う騒ぎが起きました。
仲間が騒ぎを起こしたと現場に呼び出されたイッサはみるみるうちにベラに惚れ込み、同じ孤児院で育った看護師の妻ナディアを裏切り不倫関係に。
1986年。包囲作戦は成果をあげているはずなのに、なかなか真犯人に辿り着かず捜査が行き詰ってしまったイッサたち。イッサとイワンは、性病理学者のグリゴリエワに助言を求めました。
グリゴリエワは2人に、事件内容をもとに犯人の人物像を予想し、容疑者を絞り込むという自分が考えた実験的な方法があるといいました。
さらにグリゴリエワは、自身の病院の男性患者ミロン(本名不明)について話をしました。病院で救急隊員をしていた彼は同居人を殺し、同居人の医学書を読んで医師のフリを続けました。
ミロンは自分というものがなく、標的を見つけると観察し、興味が湧けばその標的に同調しなりきることができるのです。
同じ救急車に乗っていた同僚ですら気づかなかったミロンの成りすましを、被害者の妹が気づいて彼を殴り、腕を折りました。この痛みによって、ミロンは初めて素が出たといいます。
その後、イッサの上司は体裁を気にして、包囲作戦を続けることも新たな捜査方法を試すことも許さず、あと3か月以内に犯人を捕まえろと圧力をかけました。そんな中、植林地の近くで新たな遺体が発見されたとの報告が。
子供の頃、交響楽団のコンサート衣装を着たまま、遺体となって川の中で発見された母親を、ただ呆然と川岸で立ち尽くすしかなかったイッサ。イッサは、自分のような被害者遺族が出ないように、そして母を殺した犯人を捕まえるために警察官になりました。
しかし次第にその正義は、行き詰まる捜査、上層部からの圧力によるストレスで歪み、早く事件の捜査を終わらせようと全ての殺人の罪を着せる人間を求めるように……。
1986年。そんなイッサと上層部に嫌気がさしたイワンは、売春婦を使った囮捜査を決行。見事引っかかった白い車に乗った男を連続殺人犯として逮捕し尋問しました。
その白い車のトランクの中には縄とナイフや斧などの刃物が入っていて、男は犯人像だけでなく、現場に残された犯人の靴のサイズまで一致していたからです。この男が連続殺人犯だというイワンの主張を、イッサは聞く耳をもってくれません。
それどころか、ただ事件現場を見学していたから一部の事件の証言ができる男と、爪で女性の腹を裂いたことで6年間精神病棟にいる彼の双子の兄弟こそが犯人だと決めつけ、その男を釈放してしまったのです。
イワンはついに堪忍袋の緒が切れて彼をぶん殴り、自ら警察を離れました。
映画『殺人鬼の存在証明』の感想と評価
母親を殺された自分のような被害者遺族が出ないように、徹底的に連続殺人犯を追い詰めていく主人公のイッサ。彼のその正義心が、息詰まる捜査に上層部からの圧力による過度なストレスによって歪み、罪に罪を重ねていくようになっていく姿を見ていて可哀そうだなと感じます。
しかしそんな彼への印象が、物語の後半でガラリと一変。不倫相手のベラを真剣に愛していたにもかかわらず、子供たちと離れたくないからと最初から離婚して一緒になる気はなかったというクズっぷりが露見します。
さらにイッサは、ベラと揉めたことで彼女を負傷させ、脈がないから死んだと思い込んで連続殺人犯の被害者に見せかけるために、彼女の背中にナイフを刺したという恐るべき行動に出たのです。
しかもベラを殺害した罪も、無実の双子の兄弟になすりつけて刑務所に送ろうとするなんて、イワンたちが怒って断罪しようとするのも頷けます。
一方イワンは、警察を離れた後はしばらく酒に溺れた生活を送っていましたが、囮捜査に協力してくれた売春婦が殺されたことで彼は再び正義の警官として奮闘します。
まさかイッサたちがあの手この手を使って自白させようとしていたワリタが、実はイワンによって本物のワリタに成りすますよう仕向けられたミロンだったなんて、ビックリして開いた口がふさがりません。
過去と現在を交互に描くことによって、恐るべき真実が明かされていくその物語の展開もまたサスペンス映画ならではの面白さがあって、ワクワクドキドキハラハラします。
まとめ
ソ連史上最凶の連続殺人鬼を追う刑事たちの戦いを描いた、ロシアのサイコスリラー作品でした。
本作は7つの章に分けて描かれています。「第1章 ボス」ではイッサが連続殺人事件を捜査する警察の捜査班のボスとなったこと、「第2章 否認」はワリタに成りすましたミロンが容疑を否認すること、「第3章 怒り」ではイッサたちや被害者遺族の怒り。
「第4章 取引」ではイッサとチェスプレイヤーの取引、「第5章 抑うつ」では過度なストレスにより抑うつ状態となったイッサとイワンの衝突、「第6章 受容」ではイワンが真犯人であるワリタを追い詰め射殺、ミロンだと気づいたイッサの自作自演。
そして最終章である「第7章 処刑」では、ワリタを逃がし無実の双子に、不倫相手のベスを殺したことを含むすべての殺人の罪をきせようとしているイッサを、イワンがキラと協力して処刑する話がそれぞれ描かれています。
そんな本作は、実はラド・クヴァタニア監督が1978年から1990年にかけて50人以上を殺害した容疑で逮捕されたアンドレイ・チカチーロをはじめとする数々の連続殺人犯をモデルに、刑事・精神科医・犯罪学者にインタビューしながら犯人の人物を組み立てた、実話に基づいたものです。