メグ・ライアンが清純派から脱皮を遂げた官能スリラー!
『ピアノ・レッスン』(1994)のジェーン・カンピオン監督が官能的に描くスリラー『イン・ザ・カット』。「ロマンティック・コメディの女王」として人気を博したメグ・ライアンが、イメージを一変させ大きな話題となった作品です。
主人公の女性大学講師が危険な香りのする刑事と出会い、殺人事件をきっかけに女の性(さが)を次第に露わにしてゆく姿を赤裸々に描きます。
共演はマーク・ラファロ、ケヴィン・ベーコン、ジェニファー・ジェイソン・リー。また『ある貴婦人の肖像』(1997)でカンピオン監督と組んだニコール・キッドマンが製作に関わっています。
平凡な女性講師が巻き込まれた凄惨な事件の真相とは、いったいどのようなものだったのでしょうか。妖艶なメグ・ライアンの姿に圧倒されるとともに、サスペンスフルな展開に心引き込まれる本作の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『イン・ザ・カット』の作品情報
【日本公開】
2004年(アメリカ映画)
【原作】
スザンナ・ムーア
【監督】
ジェーン・カンピオン
【脚本】
ジェーン・カンピオン、スザンナ・ムーア
【キャスト】
メグ・ライアン、マーク・ラファロ、ケヴィン・ベーコン、ジェニファー・ジェイソン・リー、ニック・ダミチ
【作品概要】
大学講師の女性が近隣で起きた猟奇殺人事件をきっかけに、心の殻に封じ込めてきた感情を露にしていく様を描く官能スリラー。監督・脚本は『ピアノ・レッスン』(1994)のジェーン・カンピオン。原作はスザンナ・ムーアの小説で、脚本も共同で担当しています。
製作に『ある貴婦人の肖像』(1997)でカンピオン監督と組んだ女優ニコール・キッドマンが携わっています。
『ニューヨークの恋人』(2002)など人気作で知られる「ロマンティック・コメディの女王」メグ・ライアンが主演を務めるほか、『死ぬまでにしたい10のこと』(2003)のマーク・ラファロ、『ミスティック・リバー』(2003)のケヴィン・ベーコン、『ロード・トゥ・パーディション』(2002)のジェニファー・ジェイソン・リーらが出演。
映画『イン・ザ・カット』のあらすじとネタバレ
他人と距離を保って生きてきた英語講師のフラニー。腹違いの妹のポーリーンだけは本音を話せる関係でした。
ある日、フラニーの家の近くで猟奇的な殺人事件が起こったため、刑事のマロイが話を聞きにやって来ました。すると、事件当日にフラニーが被害者と同じバーにいたことがわかります。
フラニーは店で睦み合う男女を見ていましたが、顔は判別できず、男の手首にあった「スペードの3」のタトゥーだけが記憶に残っていました。
フラニーはマロイに誘われて飲みに行きましたが、同僚リッチーと卑猥な会話を続ける彼を置いて先に帰ります。
しかし帰り道に暴漢に襲われ、逃げだそうとしたフラニーは車にひかれてしまいました。けがなく済んだ彼女は、電話でマロイを呼び出します。
それからふたりは、肉体の関係を持つようになりました。
フラニーは「事件当日にバーでマロイを見た」とマロイ本人に話します。彼の手首には、バーで見た男と同じスペードの3のタトゥーがあったからです。しかし、マロイはそれは自分ではないと答えます。
フラニーはポーリーンにマロイとの関係を話します。またフラニーは自分にしつこく言い寄るジョン・グレアムという変人にも頭を悩ませていました。
ポーリーンの提案で妹の家に身を寄せたフラニーは、しばらくぶりにマロイに電話しました。すると、新たな猟奇殺人が起こったことがわかります。
映画『イン・ザ・カット』の感想と評価
大人の女性へ脱皮したメグ・ライアンが魅せる官能
ジェーン・カンピオン監督ならではの熱い官能シーンに圧倒される本格サスペンス作品です。
数々の恋愛ドラマでキュートな姿を見せ、「ロマンティック・コメディの女王」と呼ばれたメグ・ライアンが、セクシーな演技に体当たりで挑戦しています。
ライアン演じる主人公の英語教師フラニーは人とあまり関わろうとせず、妹のポーリーンだけに心を開いていました。静かに暮らしていた彼女は、殺人事件を捜査する刑事のマロイと知り合い、深い関係になっていきます。
これまでの清楚なイメージを一新し、ヌードを惜しげなく披露しての官能シーンを魅せるライアンの姿に驚かされることでしょう。彫りの深い顔立ちのマーク・ラファロ演じるマロイと生み出す大人同士の濃密な空気感に思わず引き込まれます。
殺人犯と被害者らしきふたりが睦み合う姿を偶然バーで見かけてしまったフラニーは、その後も思いもよらない事態に巻き込まれていきます。
電車の広告に書かれた謎めいた詩の数々。幾度も繰り返されるバラバラ殺人。暗闇に浮かび上がる手首のタトゥー。まるでジグソーパズルのように、重要な情報の断片が現れては消えていきます。
マロイに心奪われながらも、最後まで信じ切ることができなかったフラニー。彼女から犯人にタトゥーがあることを聞かされていたマロイは、自分自身と同じタトゥーを持つ同僚のリッチーこそが犯人だと気づいていたはずです。それでも彼は、親友を捕らえることができませんでした。
フラニーはリッチーが真犯人だと気づけず、命の危険にさらされてしまいます。しかし、抱えていたマロイのジャケットに入っていた銃に救われました。リッチーを撃ち殺すという、自分の心も傷つける方法によって。
最後マロイの待つ部屋へと戻り、静かに彼の隣に横たわるフラニー。彼女の心はショックで空っぽだったはずですが、無意識のうちに彼を求めていたのでしょう。彼だけが自分の痛みを和らげてくれる存在だったことに気づいていたのに違いありません。
豪華俳優らが演じる個性的な脇役たち
ミステリー要素ふんだんの本作には、怪しい人々が多数登場します。
フラニーが誰よりも信用している腹違いの妹のポーリーン。彼女は恋愛体質で、フラニーともあっけらかんと際どい会話を繰り広げます。ポーリーン役を、『ヘイトフル・エイト』(2015)などで知られる実力派のジェニファー・ジェイソン・リーが好演しています。
事件当日にフラニーと一緒に、容疑者らのいたバーに立ち寄っていた黒人の学生コーネリアス。彼は提出レポートに血痕がついていたことから、警察に取り調べを受けることとなりました。
そして、フラニーにつきまとっているストーカー男のジョン・グレアム。猟奇殺人の真犯人ではないかと観る者をミスリードする重要な存在です。そんなジョンを『フットルース』(1984)の名優ケヴィン・ベーコンが怪演しています。
演技派たちが演じる謎めいた脇役たちから目が離せません。
まとめ
近所で起きた凄惨な猟奇殺人事件に巻き込まれていくヒロイン・フラニーの恐怖と、内側に抑圧されていた性(さが)がさらけだされていくさまを描き出す極上の官能スリラー『イン・ザ・カット』。
抑えた官能を描く名手ジェーン・カンピオン監督が、清純派女優メグ・ライアンと初タッグを組んで生み出した作品です。
フラニーの内面が徐々にさらけ出されていくさまは、さながらメグ・ライアンのこれまでのイメージを引き剥がしていく様子とリンクしているかのようで、画面から目が離せなくなります。
強い意志と強運によって生き延びることができたフラニー。大きな犠牲を払って手にした命を、どうか大切にしてほしいと願わずにはいられません。