五十嵐律人の小説『法廷遊戯』が映画化決定!
作家であり弁護士である五十嵐律人の小説『法廷遊戯』が、『神様のカルテ』(2011)『白夜行』(2010)『桜のような僕の恋人』(2022)の深川栄洋監督によって映画化されます。
主演は永瀬廉(「King & Prince」)、ヒロインに杉咲花、謎の死を遂げる天才児を北村匠海が演じます。
法律家を目指してロースクールに通う、 久我清義と織本美鈴。2人の“過去”を告発する差出人不明の手紙をきっかけに、 彼らの周辺で不可解な事件が続きます。清義が相談を持ち掛けたのは、同じスクールに通う異端の天才児・結城馨。真相を追う3人ですが、それぞれの道は思わぬ方向に分岐して──?
映画『法廷遊戯』は、2023年11月10日(金)から全国公開。映画公開に先駆けて、小説『法廷遊戯』をネタバレありでご紹介します。
CONTENTS
小説『法廷遊戯』の主な登場人物
【久我清義(くがきよよし)】
法都ロースクールから司法試験に合格して弁護士になる。児童養護施設の出身。
【織本美鈴(おりもとみれい)】
清義のスクール同級生。清義と同じ児童養護施設の出身。
【結城馨(ゆうきかおる)】
清義のスクール同級生。学生のうちに司法試験を合格した超逸材。
小説『法廷遊戯』のあらすじとネタバレ
法都ロースクールの模擬法廷で、『無辜ゲーム』というゲームが始まろうとしています。
この法都ロースクールの最終学年には約20人の学生が在籍しています。司法試験突破をめざす彼らですが、ロースクールの実績は5年続けて合格者ゼロ。本気で法律家を目指しているのかと疑いたくなる学生たちの中で、真剣に法律家を志す優秀な学生はほんの一部だけでした。
司法試験合格を期待される法都ロースクールのエースと言える、久我清義(くがきよよし)と織本美鈴(おりもとみれい)の2人。それにもう1人エース級の結城馨(ゆうきかおる)の3人が学校側の期待を背負っています。
結城馨は学生でありながらすでに司法試験を突破している超逸材な人物でした。この『無辜ゲーム』の発案者も馨です。『無辜ゲーム』とは加害者・被害者・審判者の3名からなる変則的な裁判のゲームを指します。(「無辜」とは「むこ」と読み、罪のないこと。また、その人のこと)。
ゲームは、例えば誰かが人の金を盗むといった行為をすることで、加害者の犯行となって始まります。犯人はゲームであることを示す天秤のマークを現場に残さなければなりません。
金を盗まれた被害者には、無視(泣き寝入り)するか、通報するか、無辜ゲームを受けて立つかという3つの選択肢が与えられます。裁判官にあたる審判者に対して、被害者は加害者の犯行を立証。犯行の手順を説明して、証人から証言を引き出し、犯人を指名します。
犯行の立証、犯人の指名が終わると、審判者による勝敗の宣告がされます。立証が充分であれば、告訴者の勝利となり、敗者である犯人には罰が言い渡されます。無辜ゲームの罰は同害報復(目には目を)を基本としているため、たとえば窃盗への罰なら「被害者に金一万円を払う」ことになります。
逆に立証が不十分だった場合は、告訴者の敗北となり、告訴者に「金一万円」の罰が与えられます。誤った犯人を指名した場合はもちろん、正しい犯人を指名していたとしても、犯行の立証に不足があった場合は告訴者の負けです。
そして疑わしきは罰せず。冤罪を防ぐためには必要な措置で、学生たちは「無辜の救済」と呼んでいました。学校側もエリートの馨が発案ということもあり、『無辜ゲーム』の存在を見逃しています。
ある日、その剣先は清義と美鈴にも向けられ、2人は『無辜ゲーム』をすることになりました。
清義は、16歳の頃に起こした児童養護施設の施設長をナイフで刺した事件を暴露されます。名誉棄損の被害を受けた告訴者として、審判者の馨に『無辜ゲーム』の開廷を申し入れました。
清義を貶めようとした犯人を捜し出し、清義は無辜ゲームに勝利。しかし、清義は犯行に用いられた児童養護施設での集合写真や傷害事件を報じる新聞記事をどうやって手に入れたのか?と気になり、犯人の同級生に尋ねました。その答えは「正体のわからない何者かから与えられた」でした。清義は、誰かが過去の罪を暴こうとしているという気がします。
次の日の朝、大学に行く途中の電車の中で清義は、痴漢被害にあったふりをしようとしている女子高生を見ました。ターゲットの男性のスーツの襟元には弁護士のバッジがついているのを見つけた清義は、女子高生に待ったをかけました。
女子高生の名前は佐倉サキ。生活が苦しそうで訳ありな様子のサキから、清義はほろ苦い過去の犯罪を思い出します。
サキの一件で大学に遅れていった清義。美鈴が欠席していると知り、授業業終了後彼女のアパートへ向かいました。
そこで知ったのは美鈴の被害でした。それは清義よりももっと悪質でした。住んでいるアパートのドアスコープにアイスピックが突き刺されたほか、自転車をパンクさせられるなどといった嫌がらせ行為に加え、ネット記事の投函というものもありました。
記事が報じていたのは女子高生による痴漢詐欺。記事そのものは美鈴とは無関係のようでしたが「美鈴の過去を知っている」というメッセージだと捉えると不気味です。
清義はネット記事ポスティングの現場を押えようと張り込み、失敗に終わります。ですが、美鈴のアパートの住人が怪しいとにらんだ清義は、美鈴の上の部屋に目をつけました。
そしてその部屋を利用していた浮浪者を取り押さえた結果、彼が投函の実行犯とわかりました。しかし、金で雇われたその浮浪者「何でも屋の佐沼」でさえ、クライアントの正体は知りませんでした。
清義と美鈴の過去の罪を知るその黒幕はそれから姿を現さず、清義と美鈴は無事に法都ロースクールを卒業しました。その後、清義と美鈴は司法試験にそろって合格。一方の異端児、馨は大学に残り研究者(法学者)になる決断をします。
約1年後。司法修習を終えた清義のもとに、結城馨から「久しぶりに、無辜ゲームを開催しよう」と、メールが届きました。
無辜ゲームの詳細は分からず、清義は無辜ゲームにかこつけた同窓会なのだろうと思います。別の地方で司法修習を受けている美鈴も出席するとあって、断る理由もなく出席することにしました。
当日の土曜日、清義は母校の法都ロースクールへ行きました。模擬法廷の扉を開けると、同級生の姿は見当たらず、胸元にナイフが突き刺ささり仰向けに倒れた馨が倒れていました。血まみれの馨のそばには美鈴の姿もありました。
ぺたりと座り込んだ美鈴は、清義の顔をまっすぐ見つめて言いました。「私が殺したんだと思う? 私のことを信じてくれる? もう少しで、警察がここに来て逮捕される。お願い、清義。私の弁護人を引き受けて」。
小説『法廷遊戯』の感想と評価
五十嵐律人の小説『法廷遊戯』は、法律家を志した3人の若者の複雑怪奇な人生ドラマを描いています。
ロースクールで法律家を目指す成績優秀で将来を期待された3人ですが、ある殺人事件によって、3人のうちの久我清義は弁護士になり、織本美鈴は被告人になり、結城馨は謎だけを残して命を失いました。
なぜ美鈴は馨を殺害したのでしょう。「殺していない」と言う美鈴のために、清義は弁護人を引き受けますが、調査をするうちに、美鈴と一緒に背負った過去の罪が浮かび上がってきます。やがて判明する殺害された結城馨の正体に驚き、ますます自分たちが犯した罪の深さを思い知ることになりました。
痴漢詐欺をしていた美鈴と清義の2人の標的となった馨の実父は、世間からの信用も無くしやがて自ら命を絶ちました。美鈴と清義の計画を目撃した馨ですが、法律は人が人を裁くことに気が付き、父親の無念を晴らすために、加害者2人と司法に報いを受けさせようとしたのです。
学校で行われていた『無辜ゲーム』に清義と美鈴が参加させられた時から、馨の復讐が始まったと言えます。
『無辜ゲーム』はいわば、人が人を裁く裁判ゲームです。「目には目を、歯には歯を」という言葉に表される罪に対する同害報復は、無辜ゲームでの罪に対する罰の基準でした。馨は美鈴たちが犯した罪を深く知ってもらいたく事件を起こし、法廷での裁判に持って行ったのです。
罪を罪と認めながら、罰の受け止め方が明らかに異なる清義と美鈴。どちらの選択が正しいのかは、作中にあった通り、神様でないと分かりません。
いったい、人が裁く法の裁きとは何なのでしょう。それぞれの良心に委ねられた罰を受けることになった結末から、司法制度の落とし穴や罪と罰の意味、それに弁護士バッチでもある天秤の意味が問われる斬新な法廷ミステリーでした。
映画『法廷遊戯』の見どころ
小説では過去と現在が入り混じって起こった事件を巡り、3人の若者の苦悩が交錯します。映画ではこんな複雑な関係の3人を、永瀬廉、杉咲花、北村匠海がそれぞれ演じました。
永瀬と杉咲は本作で初共演。永瀬と北村はスペシャルドラマ『FLY! BOYS,FLY! 僕たち、CAはじめました』(2019)以来、4年ぶりの共演です。さらに、杉咲と北村の共演も『十二人の死にたい子どもたち』(2019)以来、4年ぶりとなりました。
同窓生のような若手キャストを束ねるのは、深川栄洋監督。監督はこの映画で「法律は何を守り、何が守れなかったのか」をを描いています。
また、原作者の五十嵐律人も、「法律は社会の根底に流れるルールであると同時に、不安定で理不尽な世界を生き抜くための武器となる」「事件の謎が解き明かされたとき、法律や裁判の印象が変わっていたら、そして、黒と白の間にある灰色について考えていただけたら、とても嬉しい」と語りました。
監督も原作者も、皆の安全を守り平等であるべき世の中にするために作られた法律が、決して全て正しいと言っているわけではありません。
人間が裁く法律だから、裁ききれない正義もあるのです。そんな正義を貫こうとしているのが、主人公の久我清義で、「King & Prince」の永瀬廉が演じています。
『弱虫ペダル』(2020)や『真夜中乙女戦争』(2022)など、立て続けに主演を務めた永瀬廉。等身大の若者の生き様を演じるにあたり、‟罰を受ける潔さ”をどのように魅せてくれるかと、期待は高まります。
映画『法廷遊戯』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原作】
五十嵐律人:『法廷遊戯』講談社 (2020/7/15)
【監督】
深川栄洋
【脚本】
松田沙也
【プロデューサー】
橋本恵一、本郷達也
【キャスト】
永瀬廉(「King & Prince」)、杉咲花、北村匠海
まとめ
五十嵐律人の第62回メフィスト賞受賞作『法廷遊戯』。2020年夏にエンタメ界に激震をもたらせた長編法廷ミステリーをご紹介しました。
法廷を舞台とした復讐劇によって、三者三様の人生ドラマが展開します。
映画では、『白夜行』(2010)や『桜のような僕の恋人』(2022)の深川栄洋監督が、法律家をめざす3人の若者が選ぶそれぞれの道を切なく描きだしました。
法の元で裁かれる罪とそれによって与えられる罰。それぞれの「罪と罰」の受け止め方が招く結末に涙することでしょう。
映画『法廷遊戯』は、2023年11月10日(金)から全国公開!