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【ネタバレ】復讐の記憶|あらすじ結末感想と評価解説。韓国映画が魅せる“60年越しの復讐”を誓う老人と巻き込まれた青年

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

60年越しの復讐を誓う老人と、巻き込まれた青年を描くサスペンスドラマ

イ・ソンミンが80代の老人に扮し、アルツハイマー症を発症しながらも、60年越しの復讐を誓うピルジュを見事に演じました。

ナム・ジュヒョクが演じたのは、ピルジュと同じアルバイト先で働き、ピルジュの運転を引き受けたことにことによって復讐計画に巻き込まれていく青年・インギュ。

アトム・エゴヤン監督の『手紙は憶えている』(2016)をベースに、日韓の歴史をなぞらえながらスリリングなサスペンスに仕上げました。

家族を理不尽に殺されたピルジュの過去は重苦しく、現代にもなお続く問題を感じさせます。

しかし、重苦しいサスペンスになっていないのは、ピルジュとインギュ、年の離れた2人のバディの良さにあります。

また、真っ赤なポルシェに乗ったカーアクションなど韓国映画らしい盛り上がりも楽しめるところです。

映画『復讐の記憶』の作品情報


(C)2022 ACEMAKER MOVIEWORKS & MOONLIGHT FILM ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2023年(韓国映画)

【英題】
Remember

【原題】
리멤버

【監督】
イ・イルヒョン

【脚本】
イ・イルヒョン、ユン・ジョンビン

【キャスト】
イ・ソンミン、ナム・ジュヒョク、ソン・ヨンチャン、ヤン・ソンイク、パク・ビョンホ、パク・グニョン、チョン・マンシク、ユン・ジェムン

【作品概要】
おぼろげな記憶と手紙を頼りに家族を殺したナチスへの復讐の旅に出る男の姿を描いたアトム・エゴヤン監督の『手紙は憶えている』(2016)をベースにしたサスペンス。

アルツハイマー症を発症し、記憶がおぼろげななか、復讐計画を遂行しようとする設定は同様だが、日本統治時代を生き抜き、朝鮮戦争、ベトナム戦争を経験した主人公を通して日韓の近代史を浮き彫りにします。

監督を務めたのは、『群盗』(2015)、『ビースティ・ボーイズ』(2009)で助監督をつとめ、『華麗なるリベンジ』(2016)で監督デビューを果たしたイ・イルヒョン。

『華麗なるリベンジ』においてもファン・ジョンミンとカン・ドンウォンのコンビが印象的でしたが、年齢差60歳の親友同士というイ・ソンミンとナム・ジュヒョクのコンビに注目です。

映画『復讐の記憶』のあらすじとネタバレ


(C)2022 ACEMAKER MOVIEWORKS & MOONLIGHT FILM ALL RIGHTS RESERVED.

ファミリーレストランで働き、勤続17年を迎える最高齢のアルバイトのハン・ピルジュ(イ・ソンミン)は、アルツハイマーを発症し、とうとうアルバイトを引退することにします。

同じくファミリーレストランで働く20代の青年・インギュ(ナム・ジュヒョク)とは60歳も歳が離れていますが、お互いを「フレディ」「ジェイソン」と呼び合う親友同士のような仲でした。

ある日、ピルジュのもとに電話が入り、妻が亡くなったことを知らされます。ピルジュは、記憶が薄れていっても決して忘れることのできない出来事がありました。

それは理不尽に家族が殺されたことです。そのことに関与した人に必ず復讐すると誓ったピルジュは、妻を見送り、計画を実行することを決意し、忘れないように自分の指に復讐すべき人物の名前を刺青で入れ、土の中に埋めた日本統治時代の関東軍の銃を掘り起こします。

そして、ピルジュは、インギュに会いたい人がいるが、運転ができないので運転してほしいと頼みます。インギュが親の借金があり、お金に困っていることを知っていたピルギュはバイト代は出すと言います。

貯めたお金でレンタルしたというポルシェを見たインギュは驚きます。そしてスポーツカーに乗ることがピルギュのバケットリストだったのかと呟きます。

インギュに病院に向かってくれとピルギュは頼みます。その病院には、ソンシン病院の会長が入院していました。ピルギュの狙いは会長でした。監視カメラを巧みに避け、従業員口から侵入したピルギュは死角になる席に座ると居眠りをしてしまいます。

ふと清掃員に声をかけられ、気がつくと病院はもう閉院の時間になっていました。記憶がおぼろけで自分がどこで何をしているのか分からずにいたピルギュでしたが、少しずつ思い出します。

そこにインギュがやってきます。自分の復讐計画に関わらせたくなかったピルギュは動揺し、車で待つように言います。そして従業員通路などを駆使して会長の部屋に忍び込みます。

会長はかつてピルギュの父親を左翼に仕立て上げ、日本軍に売り渡した人物でした。ピルギュは会長の頭に枕を押し当て、綿をつめたペットボトルで消音加工した銃で撃ち殺します。

後日何も知らないインギュは自分が訪れた病院で殺人事件が起きたこと、そして監視カメラに映っていた若い男性が容疑者として疑われていることを知ります。ピルギュになかなか聞き出せずにいるインギュはまたしてもピルギュの言う通り車を出します。

待つように言われた場所で車を止めていると銃声がし、驚いて車を出すとそこには銃を持ったピルギュの姿がありました。ピルギュは早く車を出すようにします。動揺しながらも車を走らせるインギュでしたが、途中でピルギュが気を失ってしまいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『復讐の記憶』ネタバレ・結末の記載がございます。『復讐の記憶』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2022 ACEMAKER MOVIEWORKS & MOONLIGHT FILM ALL RIGHTS RESERVED.

ピルギュが目を覚ますとそこはインギュの家でした。インギュは工場に勤めていたが仕事中に事故に遭い足を悪くしてしまった父親の治療費のために借金をしていました。

インギュの家に金貸しが乗り込み、インギュがお金を払えないと分かると家のものを壊し始めます。その様子を見たピルギュは外に出て金貸しの車の窓ガラスを破壊します。

物音に気づいた金貸しらが出てくると札束を渡し、「修理費はこのくらいで済むだろう。借金の残りの金も後日払おう」と言います。その言葉を聞いた金貸しらは帰って行きました。

ピルギュは、お金の入ったリュックをインギュに見せ、働いて貯めた金を終わったら全てやるからもう少し頼みを聞いてほしいと言います。今警察に自首しても共謀者とみなされるだけだというピルギュの言葉に渋々承知したインギュ。

残っているのはあと3人だというピルギュにインギュは頭を抱えながらも付き合うことに。次に狙うのは朝鮮の女性を騙して従軍慰安婦として戦地に連れていった日本の元警務隊長のトウジョウ・ヒサシと、それに協力し、ピルギュの姉を死に追いやった元国防部長官のキム・チドクでした。

トウジョウは、自衛隊創設60周年セレモニーのため渡韓していました。そのセレモニーに潜入しお手製の爆弾を使ってトウジョウを射殺します。会場には、韓国の警察も警護に来ており捕まりそうになりながらもピルジュはインギュを呼び寄せ救急隊員のフリをさせて抜け出します。

自分が狙われていることを知ったキム・チドクは暗殺者を雇って警察より先に犯人を捕まえようとします。街中で買い物をしていたピルギュとインギュは警察から逃げている最中に追っ手に追突され捕まってしまいます。

今にも殺されそうになって時、インギュは起点をきかせてテープのコピーがある、2人の身に何かあればメディアに公表されるとでまかせを言います。でまかせを信じた暗殺者を金貸しのところに連れて行きます。

金貸しらと暗殺者で乱闘騒ぎになりましたが、テープのコピーがないことがバレてインギュは窮地に立たされます。そこにピルギュがやってきてインギュは難を逃れます。

「こんな目に遭わせてしまって申し訳なかった」とピルギュはいい、通報したから救護が来たら手当を受けるといいと言い残しその場を去ります。

手当をうけ、警察に事情を話したインギュは、ピルギュがキム・チドクの銅像のセレモニーでキム・チドクを射殺したことを知らされます。キム・チドクを射殺したピルギュはもはや逃げようとしませんでした。

ターゲットはもう一人いるはずだ…と疑問に思っていたインギュは最後のターゲットである全てを傍観していた男、キヨハラタカヨシとは、ピルギュ自身のことであったと気づきます。

最後に自殺をして終わらせるつもりだと気づいたインギュはピルギュのもとに急いで向かいます。そして頭に銃を突きつけたピルギュに「罪を犯しても罰を受けない人がいるからこそこの計画をしたのだろう。自分も罪を犯したから死ぬべきだと言うのは逃げだ。罪を犯したのなら堂々と法の審判を受ければいい、それが正しい生き方です」と訴えます。

インギュの言葉に思いとどまったピルギュは法の審判をうけ、服役することになります。インギュはピルギュの面会に行きますかアルツハイマー症が進行したピルギュはインギュの問いかけに答えることはありません。

それでもインギュはピルギュを抱きしめ、また会いに来ると言います。そんなインギュの背中をピルギュは静かに抱きしめるのでした。

映画『復讐の記憶』の感想と評価


(C)2022 ACEMAKER MOVIEWORKS & MOONLIGHT FILM ALL RIGHTS RESERVED.

平凡な若者が持つ意味

ナム・ジュヒョク演じるインギュは、本作の元になっている映画『手紙は憶えている』(2016)には登場しない人物です。ではこの平凡な青年が持つ意味合いは何なのでしょうか。

復讐計画に巻き込まれ混乱しながらも、ピルギュの抱えているものを受け止めようとするインギュの姿はそのまま観客の視点とも重なり、観客と物語の架け橋のような存在になっているのです。

インギュ自身も父親が仕事中に怪我を負い多額の治療費を払うことになったというのに雇い主の企業は労災を認めようとしない、理不尽さに耐え借金を返そうと頑張っています。

世の中の理不尽さに揉まれている影の部分を持っているからこそインギュは、家族を殺され罪を犯したのに罰を受けず、己の私腹を肥やす人々に対するピルジュの並々ならぬ思いを前に協力することを選択したのでしょう。

それでも罪を犯したから自分は死ぬべきだと言うピルジュに対し、罪を犯したのなら堂々と法の裁きを受ければいいと強く言う場面はインギュの正しさであり、そうなるべき未来への制作者のメッセージとも取れます。

復讐自体を肯定しているわけではなく淡々と描きながらも、未来への思いをインギュの姿に託しているのです。フラットな視点で過去の出来事を見つめ、報復ではなく法の裁きをと訴えかける姿は理想論かもしれませんが願いでもあるのです。

韓国映画では、“”の感情が色濃く表され、法で裁けぬ理不尽さ、泣き寝入りする弱者を描き、それゆえに自ら鉄槌を下すしかない悲しさと怒りは数々の映画に描かれてきました。

ピルギュの復讐は歴史的背景も踏まえた“恨”だけでなく、救えなかったやるせなさ、何もしなかった自分も同罪だという許されることのない自責の念がうかがえます。

友人がピルギュが復讐を誓ったのは、キム・チドクの朝鮮戦争後の凱旋パレードを見た時だとインギュに言います。キム・チドクを殺して自らも自殺しようと考えていた矢先に妻の妊娠が分かったのです。

妻と子供のために生きる決意をしたピルギュでしたが、復讐への思いは消えることがなかったのです。それほどまでに当時の記憶はピルギュを蝕んでいました。

その思いが自分だけで死ぬわけにはいかない、復讐を成し遂げた後一番死ぬべき男であるキヨハラタカヨシ、すなわちピルギュ自身が死ぬべきだと考えていたのでした。

インギュの並々ならぬ思いと復讐をメインに描きながらも本作がやるせなさだけで終わらないのは、やはりインギュの存在があるからこそなのでしょう。

インギュとピルジュ、年の離れた2人のコンビネーションの良さだけにとどまらず、インギュの存在があるからこそ本作は復讐だけの映画ではなく、未来への希望と祈りが感じられる映画になっているのです。

まとめ


(C)2022 ACEMAKER MOVIEWORKS & MOONLIGHT FILM ALL RIGHTS RESERVED.

本作でイ・ソンミンは実年齢の50代より遥かに年上の80歳の老人を演じました。特殊メイクも施されていますが、眠るたびに記憶がおぼろげになる様子や、ゆったりした動作などはまさに老人そのものでした。

しかし、それ以上に凄みを感じたのは、復讐に対する並々ならぬ思い、やるせなさ、怒り……復讐を誓った人物と対峙した時のさまざまな感情が入り混じったイ・ソンミンの凄みはまさにイ・ソンミンにしか出し得ない凄まじさがありました。

復讐を終え、全てを忘れてしまったかのような心が抜け落ちた放心状態の姿は哀しくやるせなさを感じるものでした。

面会に来たインギュも、もどかしさを感じながら、かつてのように話しかけてくれるのではないかと期待を捨てきれずにいる姿が哀しく胸を打ちます


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