綾野剛×北川景子が謎の医師の正体を追及する!
2020年11月13日(金)よりロードショー公開を迎えた映画『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』。人を安楽死させる闇サイトを運営する謎の医師「ドクター・デス」と、その正体を追い続ける2人の刑事を描いたクライムサスペンスです。
人気ミステリー作家・中山七里の「刑事犬養隼人」シリーズ4作目にあたる『ドクター・デスの遺産』を、綾野剛と北川景子の主演で映画化。
出演俳優が刑事側しか明かされていないなど、さまざまな仕掛けがなされている本作の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』の作品情報
【公開】
2020年公開(日本映画)
【原作】
中山七里
【監督】
深川栄洋
【脚本】
川崎いづみ
【キャスト】
綾野剛、北川景子、岡田健史、前野朋哉、青山美郷、石黒賢
【作品概要】
中山七里の小説『ドクター・デスの遺産』をもとに、謎の医師の正体に迫る2人の刑事を描いたクライムサスペンス。監督は『狼少女』(2005)で長編映画の初監督を務めたのち、『神様のカルテ』(2011)などのヒューマンドラマ作品で高い評価を得ている深川栄洋。
主役の犬養隼人を演じるのは、NHK連続テレビ小説『カーネーション』で脚光を浴びて以降、さまざまな映像作品で活躍し、「第37回日本アカデミー賞新人俳優賞」も受賞している綾野剛。犬養隼人の後輩女性刑事・高千穂明日香をTVドラマ『美少女戦士セーラームーン』に出演後、森田芳光監督作『間宮兄弟』(2006)で映画デビューし、数々のドラマや映画で主演を務めてきた女優・北川景子が演じています。
映画『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』のあらすじとネタバレ
警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人。犬養には腎不全で闘病中の、亡くなった妻との1人娘、沙耶香がいました。
犬養は、沙耶香の見舞いに病院を訪れていましたが、後輩の女性刑事・高千穂明日香から事件発生の知らせを受け、呼び出されます。
高千穂は犬養とプライベートでも親交があり、沙耶香の事を「沙耶香ちゃん」と呼び、手作りのお守りもプレゼントされるほどの親しい仲でした。
犬養と高千穂は「お父さんが殺された」と子供から通報があった事件を調べる事になり、遺族のいる葬儀場を訪れます。
通報したのは馬籠大地という少年で、重い病気を患い自宅で療養していた父親・馬籠健一が「殺された」と主張します。ですが、母親の馬籠小枝子は「お父さんは病気で亡くなった」と、大地に言い聞かせます。
状況が整理できない大地は葬儀場を飛び出します。犬養は大地を追いかけ、健一が亡くなった日の事を聞き出します。
健一が亡くなった日、主治医とは別の医者が、看護師と共に自宅に来ていました。そして、1人目の医者と看護師が来た後に、健一が死んでいたと大地は証言します。
病死ではなく、事件の可能性を感じた犬養は、火葬される直前だった健一の死体を運び出し、検死にかけます。
検死の結果、健一の死体から塩化カリウムが検出された事で、犬養と高千穂の上司、麻生は「殺人事件の可能性あり」と判断し、麻生班は捜査に乗り出します。
犬養と高千穂は、小枝子を事情徴収します。当初は「何も知らない」と主張し続けていた小枝子でしたが、やがてとあるサイトにアクセスし、癌に苦しむ健一の安楽死を依頼した事を証言します。
そのサイト名は、「ドクター・デス」でした。
映画『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』感想と評価
重病に苦しむ患者を安楽死させる、謎の医者「ドクター・デス」を追う2人の刑事を描いた映画『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』。
本作は、大きく分けて2部構成となっています。
前半では「ドクター・デスは何者なのか?」という部分が物語の主軸になっており、地道な捜査を経て、徐々に「ドクター・デス」の正体を明らかにしていく、クライムサスペンスの王道とも言える展開が味わえます。
序盤から、観客をミスリードさせる演出が効果的に使われており「ドクター・デス」の後ろ姿や声から、誰もが「男性の老人」というイメージを持つでしょう。
正直、最初の場面では「これは正体、バレバレじゃないか」と思えるほど顔の一部が完全に映し出されてしまっていたのですが、これらの思い込みや刷り込みをもたらす演出が、「ドクター・デス」の真の正体である雛森への疑いをどんどん遠ざけていくという、見事な効果を生んでいます。
また最初に「ドクター・デス」の正体と思われた寺町を、人気ドラマでの悪役で話題になった、あるベテラン俳優が演じている為、その疑いにさらなる確信を抱いてしまいました。そういった出演俳優に対する観客のイメージも、巧みに計算されていると言えます。
そして「ドクター・デス」の正体が看護師の雛森である事が発覚して以降、物語は「ドクター・デスの目的」が明らかにされる展開へと進んでいきます。
雛森は、重病で苦しむ患者を安楽死させる、自称「救世主」です。
安楽死の問題は度々日本でも議論が起こるほど、本当に難しくデリケートな問題です。本作で「ドクター・デス」に感謝をし、正体を明かそうとしない遺族のように、家族が苦しむ姿に耐えられず、安らかな死を望む場合もあるでしょう。
ただ、映画『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』は、安楽死の是非を問う作品ではありません。たった2時間の映画で答えを出すには、安楽死という問題はあまりにも難しく、本当にデリケートな問題だからです。
ただ、本作は作中で雛森が語る「人には生きる権利と死ぬ権利が平等にある」という言葉に関して、ハッキリと否定をしています。その意味は、ラストで沙耶香が、自分の未来について語る場面から読み取れます。
未来は、生きる事を選択し続けた時にだけ、辿り着く事が出来ます。沙耶香の思い描く未来の姿を聞いている犬養は、本当に幸せそうな笑顔を見せます。しかし、本作で「ドクター・デス」へ家族の安楽死を依頼した遺族は未来が閉ざされた事で、唯一残った故人の思い出があるがゆえに苦しんでいる様子が描かれています。
安楽死の問題に関しては、当事者しか分からない感情もあるとは思いますが、本作では物語を通じて、生きる事の大切さ、それを支えている「未来を信じる」という想いをメッセージとして伝えようとしているのです。
まとめ
映画『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』において自身を「救世主」と称する雛森は、人助けというよりも、「自身の思想の実現」を通じて快楽を欲していた側面があります。
本作で描かれている連続安楽死事件と雛森の人物像は、1990年代に実在した、8年間で130名の安楽死・自殺ほう助を行ったことで「Dr.Death」と呼ばれたジャック・ケヴォーキアン医師がモデルになっていると思われます。
ジャック・ケヴォーキアン医師は、「末期」と診断された患者以外にも安楽死や自殺ほう助を行っており、それゆえに「自身の持つ死の欲求を満たしていただけだった」という見解もあります。その後、ジャック・ケヴォーキアン医師は実刑判決を受け、ミシガン州内の刑務所に収監されました。
重い病に悩む人々とその家族が抱く感情は、当事者にしか分からない側面が必ずあります。ですが誰にとっても、人が人に死を与える事、人が人の運命を終わらせる事は、たとえ法律が「犯罪」と認定しなかったとしても、「罪」ではないとは認めがたい事であるはずです。
そう考えると、作中で子どもである沙耶香を洗脳し、積極的に死へと誘おうとした雛森には改めて戦慄させられます。自らの思想や欲求を実現すべく、他者を巻き込み死をもたらす。それは「安楽死の是非」という問題以前の、エゴイズム以外の何物でもありません。
また映画『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』は確かに「安楽死」という難しいテーマを扱っていますが、人として許しがたい存在である雛森と、それを追い詰める刑事である犬養と高千穂の戦いを描いた、クライムサスペンスとしてエンターテインメントに振り切った作品でもあります。
作品全体も重たい空気になりすぎないように、軽快な演出も盛り込まれており、雛森を演じる女優が明かされていないなど、作品を楽しむ仕掛けもされています。
また、正義感が強すぎるがために感情が剥き出しになる犬養、冷静で後輩ながらも犬養の監視役の役割を果たしている高千穂の、バディものとしても見どころのある作品となっています。
本作は、前述したように安楽死の是非を問う作品ではありません。その点に関して、受け取り方は様々だと思いますが、観客を引っ張る物語や演出は見応えがあり、上映時間の2時間は、常に感情を揺さぶられ続ける作品でした。