名匠ポール・バーホーベン監督のエロティックスリラー『氷の微笑』
『ロボコップ』(1988)のポール・バーホーベン監督による世界的に大ヒットしたエロティックミステリーの金字塔『氷の微笑』が、公開30周年を記念して全世界で4Kレストア版が劇場公開されます。
『トータル・リコール』(1990)でバーホーベン監督と組んだシャロン・ストーンが、ミステリアスでセクシーな悪女を魅惑的に演じ、一躍スターダムに躍り出た一作として知られています。
彼女に翻弄される刑事を演じるのは、『危険な情事』(1988)のマイケル・ダグラス。
破滅への道だと知りながら、邪悪な魅力に満ちたヒロインの虜になっていく悲しい男の姿をスリリングに描きます。二転三転する手に汗握るミステリアスな展開と、ストーンの魔性の魅力に魅入られる名作についてご紹介します。
映画『氷の微笑』の作品情報
【公開】
1992年(アメリカ映画)
【監督】
ポール・バーホーベン
【脚本】
ジョー・エスターハス
【編集】
フランク・J・ユリオステ
【出演】
マイケル・ダグラス、シャロン・ストーン、ジョージ・ズンザ、ジーン・トリプルホーン、デニス・アーント、レイラニ・サレル、ブルース・A・ヤング、チェルシー・ロス、ウェイン・ナイト、ダニエル・フォン・バーゲン
【作品概要】
『ロボコップ』(1988)のポール・バーホーベン監督による世界的に大ヒットしたエロティックミスリラー。
『トータル・リコール』(1990)でバーホーベン監督と組んだシャロン・ストーンが、一躍脚光を浴びた出世作です。
後に監督として「スピード」シリーズなどを手がけるヤン・デ・ボンが撮影を担当しています。
主演は『危険な情事』(1988)のマイケル・ダグラス。2023年にカンヌ国際映画祭で名誉パルムドールを受賞した名優です。
共演はジョージ・ズンザ、ジーン・トリプルホーン、デニス・アーント、レイラニ・サレル。
映画『氷の微笑』のあらすじとネタバレ
サンフランシスコ。ナイトクラブを経営する元ロックスターのボズが、自宅の寝室で惨殺されまているのが発見されます。彼はセックス中に両手をベッドに縛られ、アイスピックで31ケ所もメッタ刺しにされて殺されていました。
刑事ニックと相棒のガスは、被害者の恋人で事件当時のアリバイが不確かな作家・キャサリンを訪ねますが、彼らを迎えたのは彼女の友人ロキシーでした。彼女はキャサリンは別荘にいることを伝えます。
別荘を訪ねた彼らは、ミステリアスな美女キャサリンと出会い尋問しますが、賢い彼女は刑事たちを翻弄します。
心理学者のキャサリンは亡くなった両親から受け継いだ資産を持ち、元恋人の有名ボクサーはリングで死んでいました。いつもゴシップの渦中にいる彼女は、ミステリ作家でもあり、昨年元ロックスターがアイスピックで恋人に殺される小説を書いていました。
小説を書いたキャサリンを陥れるために、彼女以外の人間が犯した犯行ではないかと、精神科医師らは推察します。
キャサリンを別荘に迎えに行ったニックは、自分が観光客を撃った事件について書かれた新聞記事がテーブルに置かれているのに気づきます。
彼女を署に車で連れて行き、尋問を始める刑事たち。彼を殺していないと答えながら、キャサリンは下着をつけないままスカートの足を組み替えるなど、男たちを翻弄します。
ニックが過去に観光客を射殺した事実を知るキャサリンは、彼に自宅まで車で送らせ、車中で過去の事件について尋ねて、私たちはふたりとも無実だと言って微笑みます。
禁酒していたニックでしたが、その後彼は酒場で酒を飲み、精神科医である恋人・ベスを暴力的に抱きました。ベスはキャサリンと大学時代の同窓生だと話します。愛のないセックスにベスは憤り、彼を追い返しました。
その後、キャサリンの母校の教授がアイスピックで殺害されていたことがわかります。ニックはキャサリンを尾行し、彼女が家族全員を殺害したヘイゼル・ドブキンスと交流があることを突き止めます。
キャサリン宅を訪れたニックは、彼女が自分をモデルにした小説を書こうとしていることを知ります。殺人の心理を聞き出そうとするキャサリンを、ニックは恐ろしい形相で睨みつけました。
キャサリンが自分のことを知り過ぎていたことから、ニックはベスが情報を漏洩したと気付きます。その情報は、そりの合わないニルセン警部に渡っていました。怒りに任せてニルセンに殴りかかったニックは追い帰されます。
その後、ニルセンが街中の車中で銃で撃たれて死亡し、ニックに疑いがかけられます。
映画『氷の微笑』の感想と評価
予測不能のエロティック・サスペンス
シャロン・ストーンを大人気スターに押し上げた大ヒット作『氷の微笑』。数多くの殺人事件で容疑をかけられる美しく妖艶な才女キャサリンをこの上なく魅惑的に演じ、大きな話題を呼びました。
セクシー俳優マイケル・ダグラスが、ストーン演じる悪女キャサリンの魅力に溺れていくさまをミステリアスに描きます。
殺人事件と濃厚なベッドシーンがミルフィーユ状となっている劇薬のような作品です。ストーン演じるキャサリンの恋人ボズが、アイスピックで惨殺されるという痛ましい事件から物語は始まります。
容疑者として疑われながらも、キャサリンが犯人だという証拠は上がりません。キャサリンを追う刑事ニックは、次第に彼女の持つ邪悪な魅力の虜になっていきます。
キャサリンには新たな疑惑が次々に持ち上がり続け、周辺では何人もの人々が死んでいきます。
大勢の人々が死んでいきますが、その殺害の理由や手法は解明されず、大ぶろしきを広げっぱなしの印象は否めません。キャサリンと親しかったロキシーやドブキンスが「衝動的に」家族を殺す罪を犯したという点を考えると、キャサリンにもその理由は当てはまるといえるかもしれません。
ニックを追い詰めることで、自身の作品の濃度を高めたかったということも考えられますが、いずれにせよ最後まで具体的にキャサリンが犯人だと指し示す描写はないままです。
本作は謎解きやミステリ要素を楽しむことよりも、悪女に翻弄されて堕ちていく男の姿をメインに描いた作品だと捉えるべきなのでしょう。
得体の知れない恐怖を観る者に与え続けることには成功しており、ヒロイン・キャサリンの持つ特異で歪んだ美が際立っていることは間違いありません。
恐怖の中にあってもキャサリンの魅力に抗えないニック。彼は自分が破滅に向かって走っていることを知りながら、彼女を追い続けます。自分の魅力を知り尽くすキャサリンは、彼の止められない衝動を舐るように吸い尽くしたのでしょう。
謎ばかりの連続殺人事件ですが、自分を嫌い、まっとうなことを親友に訴えかけるガスだけはキャサリンにとって邪魔者以外の何物でもなく、彼女は冷酷に彼を排除したのだろうと思わずにはいられません。
刺激たっぷりのセクシャル描写
本作は『トータル・リコール』(1990)で名が知られ始めたばかりだったシャロン・ストーンを、世界的セックスシンボルに押し上げたことであまりにも有名です。
『トータル・リコール』(1990)でストーンと組んだポール・バーホーベン監督が、彼女の輝きをあますことなく引き出しました。女優シャロン・ストーンの魅力を堪能する一作といっても過言ではないでしょう。
同じくセックス・シンボルと呼ばれたマリリン・モンローとは違い、性そのものを臆すことなくダイレクトに前面に打ち出して、大きな衝撃を世界に与えました。
取調室で下着をつけないミニドレス姿で足を組み替えて見せるシーンは、あまりにも有名です。取調べにあたる警官らの狼狽ぶりは無理もなく、気の毒に思えてくるほどです。
そのほかにも、ニックの見える絶妙な場所で全裸になってからスルリとドレスを着るシーンや、これでもかというほど繰り返される濃厚なベッドシーンなど、ストーンの潔いセクシャルなシーンが続きます。
キャサリンの魅力に堕ちていくマイケル・ダグラスの名演も見逃せません。『危険な情事』(1988)『ディスクロージャー』(1995)など、女性に翻弄される役に定評のあるダグラスが、蜘蛛の糸に捕われ食べられるのを待っているかのような哀れなニックを、リアルに演じています。
まとめ
毒蜘蛛のように周囲の人々を破滅に導く、邪悪で美しい女性小説家をめぐるミステリアスなスリラー『氷の微笑』。世界的大ヒットとなったエロティック・サスペンスの金字塔が、30年の時を経て4Kレストア版となって帰って来ます。
幼いころから高いIQを持っていたことでも有名なシャロン・ストーンが、知的で狡猾なヒロインのキャサリンを、クールにセクシーに見事に演じています。
マイケル・ダグラス演じる刑事のニックを始め、男も女も皆彼女に魅入られてしまうことが自然に感じられてしまうほどに、キャサリンは禍々しく抗いがたい魅力に満ちています。
銀幕越しの非現実世界であることに感謝しながら、どうぞシャロン・ストーンの放つ眩しいほどの魅力を堪能してください。