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Entry 2024/10/23
Update

『4匹の蠅』あらすじ感想と評価考察。ハエの象徴意味をラストシーンから読み解くアルジェント映画の傑作

  • Writer :
  • からさわゆみこ

イタリア・ホラーの生ける伝説の初期代表作『ダリオ・アルジェント 動物3部作』が2024年11月一挙上映

今回ご紹介する映画『4匹の蠅』は、イタリアンホラーの巨匠ダリオ・アルジェントの初期に手がけた3つの作品「動物3部作」、『歓びの毒牙』(1969)『わたしは目撃者』(1970)に続く最後の作品です。

本作の原題「Quattro Mosche Di Velluto GrigIo」を直訳すると、「灰色のビロードの上の4匹の蝿」という意味です。邦題からも解るように3つ目の動物(生き物)は「蠅」でした。

3作品は後に世界でヒット作となる『サスペリア』『サスペリア2』『フェノミナ』などが、ブラッシュアップされた作品だとわかります。

映画『4匹の蠅』の作品情報

(C)2022 le Bureau Films-Heimatfilm GmbH + CO KG-France 2 Cinema

【公開】
1973年(イタリア映画)

【原題】
Quattro Mosche Di Velluto GrigIo

【原案】
ルイジ・コッツィ、マリオ・フォグリエッティ

【監督・脚本】
ダリオ・アルジェント

【キャスト】
マイケル・ブランドン、ミムジー・ファーマー、ジャン=ピエール・マリエール、バッド・スペンサー

【作品概要】
「動物3部作」の中でも注目したい点は、映像と音楽の融合が際立っていることで、アルジェント監督独自の“残酷さと優美さ”の増した演出が見どころです。

主役のロベルト役には2003年から2012年の「きかんしゃトーマス」シリーズのテレビシリーズ映画版共にナレーターを務め、主にテレビドラマを中心に活躍している、マイケル・ブランドンが務めます。

ロベルトの妻・ニーナを演じたのは、『MORE モア』(1969)『渚の果てにこの愛を』(1970)のミムジー・ファーマーが演じます。

また、探偵アロージオ役には『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)に出演して知名度をあげ、フランスではセザール賞など、数々の賞を受賞した名優ジャン=ピエール・マリエールが務めます。

映画『4匹の蠅』のあらすじ

(C)2022 le Bureau Films-Heimatfilm GmbH + CO KG-France 2 Cinema

人気ロックバンドでドラマーをしているロベルトは、サングラスをかけ黒いハットを被って黒い服を着た、不審な男に1週間ほど尾行されていました。

バンド仲間とのリハーサルの日も、ロベルトはサングラスの男の視線に、いらだちがマックスになっていました。

夜、リハーサルが終わり外に出ると、薄暗い建物の影から自分を見ているその男に気がつきます。男は足早に立ち去ろうとしますが、ロベルトが後を追うと男は劇場に入って行きます。

誰もいない舞台に男を追い詰めたロベルトは、つけ回す理由を問いますが、男はそれを否定しシラ

ロベルトは男からナイフを奪おうとし、もみ合いになると誤って男を刺し、オーケストラBOXに落下させてしまいます。

すると、無人だと思っていた上階の席から、不気味な仮面を被った人物が現れ、その現場を写真に撮られてしまいます。

ロベルトは血まみれのナイフを握ったまま、自失呆然となりながら自宅へ帰り、就寝しようとベッドに入るも、自分のしたことに動揺し寝つくことができません。

隣では何も知らない妻のニーナが眠っています。すると突然、枕もとの電話が鳴りだします。ニーナが眠たげに電話に出ますが無言電話でした。

そんな中、ロベルトの家ではホームパーティが行われます。ロベルト宛てに古い身分証明書が送られてきたり、メイドのアミリアがリーナに何かを告げています。

知人がロベルトに声をかけ、他のゲスト達と談笑します。その中の1人がサウジアラビアではまだ、斬首刑が公開されていると、旅の土産話をします。

かけていたレコードが終わり、交換しようとしたロベルトは、重ねてあったレコードの間から、あの殺人現場の写真が出てきます。

その晩、リビングの方で物音がして、ロベルトが様子を見にいくと、愛猫が暗闇に向かって威嚇していました。

ロベルトはそちらの方へ向かうと、何かの仕掛けに触れると、同時にワイヤーのようなものが、彼の首に巻きつき絞められていきます。

苦しさでもがくロベルトの耳元で「今すぐにでも殺せるが、まだ生かしておいてやる」と、囁かれて命拾いしますが、一連のことは誰にも話すなと釘を刺されます。

ロベルトは冷静になろうとソファに座ると、物音で起きてしまったニーナが現れます。心配した彼女はロベルトに何があったのかと聞きます。

寝つけないだけだと言うロベルトの顔を見て、他に心配事があるようだと問い詰めます。ロベルトは1週間つきまとっていた、見ず知らずの男と口論となり誤って刺殺してしまったことを打ち明けます。

ニーナは夫の命が狙われていると悟ると、2人で家を出ようと提案しますが、ロベルトは逃げても無駄だと脅迫されていると言い、犯人の狙いが何なのか考え始めます。

そんな2人の会話をメイドのアミリアが盗み聞きしていました。翌日、テレビのニュースでは川から身元不明の男の遺体が見つかったと報道され、ロベルトは気が気ではありません。

ロベルトが動揺しているとニーナは引っ越したいと訴えます。その様子を見聞きしていたアミリアは翌日、犯人の正体を掴みその相手に脅迫電話をかけて金を要求します。

しかし、アミリアは約束の時間に取引場所の公園に行くも、犯人は訪れることはなく、時間だけが進み辺りは暗くなり、公園の門が閉められます。

人気もなく薄暗い園内を抜け、出口がわからなくなったアミリアは、植栽の影から自分の名前を囁かれます。焦った彼女は狭いすき間を見つけると、無理やり通り抜けます。

すると通りに面した高い塀にたどり着き、助けを求めると通行人が気づきますが、塀が高すぎてどうすることもできず、アミリアの悲鳴が生い茂った樹々から響きます。

ロベルトはサウジアラビアで斬首される悪夢でうなされる日々になり、アミリアの殺害事件を発端にして警察の捜査が自宅に入ります…。

しかし、ロベルト自身も命を狙われながらも、心当たりや理由のわからないことに納得がいかず、警察に捕まる前に事件の真相を知るべく追及を始めます。

映画『4匹の蠅』の感想と評価

(C)2022 le Bureau Films-Heimatfilm GmbH + CO KG-France 2 Cinema

ギミックと伏線のないストーリー

ダリオ・アルジェントの作品と言えば、殺人がありその犯人に迫っていくまでの間に、様々なギミックや伏線が登場します。

歓びの毒牙』と『私は目撃者』がそうであったのに対して、『4匹の蠅』にはその要素がなく、印象としては“唐突感”や“不自然”という流れになっています。

犯人に繋がりそうな怪しい人物として、近所の主婦や足の不自由な男、バンド仲間が登場しますが、その人物たちはただの添え物程度で、絡みはありません。

また、アミリアの公園にいたシーンでは、人々が唐突に消え急に周囲が暗くなる、そういった見せ方で、前2作にはなかった不自然さが際立ちます。

したがって伏線回収系ではないので、見続けるうちに犯人の目星がついてしまいます。ただ、動機はなんなのか?と真剣に探ってラストを迎えると、唖然とする結果が待ち受けます。

しかしその感覚は、特定の人に向けた“無理解”の目を表現したとも思えます。無理解な人々というのは、きっとこういう感覚になるのだろう……そんな“戒め”を感じました。

ギミックや伏線のないストーリーラインは、殺人者の中には人の理解を超えた、理由や動機があるというリアルを伝えます。

“蠅”が象徴するもの

“蠅”は目障りな虫のイメージがあり、冒頭でロベルトがドラムを叩くシーンで、目の前で蠅が飛んでいて目障りに感じるシーンがあります。

彼はシンバルに止まった蠅を射止め殺します。そして、ロベルトにつきまとっていた男も蠅のように鬱陶しい存在で、偶然とはいえナイフで刺してしまいます。

蠅は“たかる”というイメージもあります。証拠をつかんだアミリアも犯人に金を要求したがゆえ、殺されてしまいました。目障りな存在は殺されていく…そんなセオリー通りのシナリオです。

さらに、キリスト教において「蠅」は、死をまねく象徴であり、邪悪なものを指す象徴でもあります。4匹の「蠅」は被害者の数なのか?ラストシーンで深い意味につながるかもしれません。

まとめ

(C)2022 le Bureau Films-Heimatfilm GmbH + CO KG-France 2 Cinema

『4匹の蠅』にはサウジアラビアの斬首刑の話も出てきます。斬首される理由は主に何があるのか…、紐解くとそこには宗教や文化が左右する理不尽さがありました。

ダリオ・アルジェントが得意とする、パラノイヤやトラウマ、遺伝的要素、出生の過程と環境が作品に盛り込まれています。まるで「負」が連鎖すると象徴するかのように…因果応報も感じさせる映画です

そして本作は、理解に苦しむ感想もあるかもしれません。ところが冷静に考えてみてください。この作品はありえない話ではなく、実際に起きていることが描かれています。だから、興醒めさせるのです。

映画『4匹の蠅』は、『ダリオ・アルジェント 動物3部作』として、2024年11月8日(金)より新宿シネマカリテ、菊川Strangerほかで順次公開予定です。



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