映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国ロードショー!
難解な映画として評判の、クリストファー・ノーラン監督作『TENET テネット』。
今までの映画に無かった科学的・SF的な要素を取り入れ、解読可能な謎を散りばめながらも、最後の解釈は観客の手に委ねるノーラン監督。
そこには監督の出世作『メメント』(2000)から続く、時間の逆行を描こうとする姿勢が見て取れます。
時間の逆行はSF的なテーマであると同時に、ストーリー上の重要な柱にもなっています。
それではそんな視点を通して、『メメント』から『TENET テネット』に至るノーラン作品を振り返りましょう。
映画『TENET テネット』のあらすじ
テロ事件の現場で、何者かに捕らえられた”名も無き男”。彼が目覚めた時、人類の運命を左右する事実が告げられます。
それは人知れず、未来から現れた敵と人類の存亡をかけた戦いが行われている事実でした。
未来で時間の逆行を可能とする装置が開発され、人と物の未来からの移動が可能になります。未来人は現在の世界に協力者を得て、人類の滅亡を企てていたのです。
“名も無き男”は未来人に協力する敵の正体を暴こうと、世界を飛び回り時間を越えて活躍します。そして時間の逆行を駆使した、かつてない戦闘が勃発します…。
詳細なストーリーを知りたい方は、こちらをお読み下さい。
映画で時間を操るノーラン監督
音楽や文学のように、時間の経過と共に受け手の感覚や感情に変化をもたらす時間芸術。彫刻や工芸品、絵画や建築のように空間を表現の場とする空間芸術。
その両者が、様々な形で融合した表現形式である映画は、総合芸術と一般的に呼ばれています。
映画の登場は、作者が任意に表現する時間を操ることを可能にしました。作り手の望む時間の流れを、繰り返し同じタイミングで観客に与える芸術の誕生です。
単純で物珍しいコミカルな表現として、早回しや逆再生が映画誕生早期に登場します。
そして映像の編集を通じて、物語に流れる時間の経過を操作する手法も一般化しました。
それは映画の誕生と共に素朴な表現として登場し、演劇をさらに発展させた物語の創造を可能性を、映画の作り手に気付かせました。
映画という表現形式を愛して止まないノーラン監督。
それは困難な場所でロケを敢行し、実物を映像に捉えることに執念を燃やし、壮大なセットを組むことにも発揮されています。
それは映画の誕生と共に、偉大な映画監督がこだわり続けた事業でした。
CGであらゆる物が画面に実体化でき、デジタル化が進んだ映像は撮影後加工可能となった今も、先人と同じ手法で映画を撮り続けるノーラン監督。
その執念は時間の表現にも発揮されています。彼の作品では映画草創期の作品と同じく、時間を描くことに大きな力を割いています。
時間の逆行は自らを探る道
過去の歴史が現代の事件に関連する物語を描いた、グラハム・スウィフトの小説『ウォーターランド』に、強い影響を受けたと語っているノーラン監督。
彼は繰り返し映画の中で”時間”を操ります。製作費僅か6000ドルと言われる長編デビュー作『フォロウィング』(1998)は、時系列をバラバラに並べた物語が、真実に迫って行く展開でした。
同名のノルウェー映画をリメイクした『インソムニア』(2002)では、不眠症に襲われ時間の感覚を失った主人公を描きます。
そして『インセプション』(2010)では夢の階層という設定を通じ、異なる速度の時間が流れる世界で展開するスペクタクルを描きました。
しかし失われる記憶という設定を通し、時間に逆行して進む物語と、時系列に沿って進む回想が交差する映画『メメント』こそ、『TENET テネット』の原点となる映画です。
カラー映像で描かれた時間に逆行する主人公の行動と、主人公の回想だと思われる、時間に巡行したモノクロ映像のシーン。
この2つのストーリーがリンクし、実は輪となった一つの循環する物語と気付かせる展開は、難解だが面白い作品だと映画ファンの注目を集めました。
前向性健忘という記憶障害を持ち、10分間しか記憶を維持できない『メメント』の主人公。
彼はそんな状況でも妻を殺した犯人を捜し出し復讐を遂げようと動きます。
主人公にとって時間への逆行は真実への接近であり、同時に忘れ去った復讐の動機を明らかにするものでした。
自分の内に沸き起こる復讐の感情の正体は何なのか。『メメント』での時間の逆行は、主人公の怒りの源を探るものでした。
その正体に気付いた時、観客は驚かされることになります。
複雑な時空の中で人間を描く
時間をテーマにすることを好むノーラン監督作品は、『インセプション』そして『インターステラー』(2014)とSF色が強くなります。
『インターステラー』では宇宙空間の非常に強い重力が、時間の流れを遅くする設定を生かして描かれました。
映画の世界ではあまり描かれていなかった、時間に対する新たな概念を紹介した映画『インターステラー』。
SF作家、アーサー・C・クラークが描いた世界を映画化した『2001年宇宙の旅』(1968)。
そしてカール・セーガン博士の原作を映画化した『コンタクト』(1997)に匹敵する、画期的かつ重要なSF映画が『インターステラー』だと評されています。
しかし『インターステラー』はSF大作映画でありながら、同時に時間と空間を越えた家族の愛を描いたものでした。
難解なSF映画であっても物語の軸は家族や人の絆。ノーラン作品が難解と言われながらも、多くの人々を魅了する理由でしょう。
『インセプション』も複雑な夢の世界を描きながらも、主人公にとっては家族との居場所を探す旅路。
また主人公らにターゲットにされた男にとっては、自分が本当に成し遂げたいことに気付かされる旅路でした。
重力の力や夢の世界で、進行速度が変化し複雑な様相を見せた時間。その世界での登場人物による、自分自身の追及。
『インセプション』と『インターステラー』の後、ノーラン監督は『メメント』で描いた、時間の逆行する世界での自分探しの旅を描くことに挑戦します。
その作品こそ彼の最新作、『TENET テネット』でした。
まとめ
サスペンス映画として描かれた『メメント』では、時間の逆行は自分の正体を求める旅路だけではなく、ミステリーの謎を解く仕掛けでした。
そして『メメント』では、シーン毎に時間をさかのぼる編集で見せた時間の逆行。
『インセプション』や『インターステラー』を経て、現代物理学の力を借りて起こりうるであろう、時間の逆行を映像化の試みが行われます。
こうして完成した『TENET テネット』が描く時間の逆行は、一見すると映画草創期のサイレント映画の時代からあった、逆再生映像と同じものに過ぎません。
しかしそれは、巡行する時間と並んで同じ画面に登場します。誰もが思い描いた時間の逆行が現実のものとなった時に、何が起きるのかを綿密に追及したものでした。
その映像を生み出すため、撮影には膨大な技術的挑戦が行われたことは言うまでもありません。
こうして時間の逆行の、新たな映像化を成し遂げた『TENET テネット』。同時に循環する時間の中で、物語の中の主人公の歩みは今までにない複雑なものになりました。
しかし身構える必要はありません。難解なSF映画ではなくスパイ映画の形式で、真相の追及と敵との対決を描いた娯楽映画として観客に提供されています。
『メメント』の主人公は時間の逆行の果てに真相にたどり着き、循環する輪のような世界に自らを、自分の意志で置くことを選びました。
『TENET テネット』の主人公は時間の逆行の果てに何に気付き、どのような世界に身を置くことになったのか。
本作の結末にたどり着いた時、時間をテーマとする映画を撮り続けるノーラン監督の、映像表現とストーリーの更なる発展を遂げた事実が確認できるでしょう。
映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国ロードショー!