映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国ロードショー!
映画がデジタル化し、CGの使用が進む中、IMAX65㎜フィルムカメラでの、実物を使用した撮影にこだわりを見せる、クリストファー・ノーラン監督。
その映像を楽しむために、IMAXシアターに訪れたファンも多いはず。また通常スクリーン上映では、独特の画面サイズに合わせて、シネスコサイズ全開の画面に上下に黒みを出しながらも、画面全体を収めて見せる上映もありました。
正規のIMAX上映ができる映画館のない日本では、映写方法を意識させる映画を生み出す、映画館上映とフィルム文化にこだわる人物こそノーラン監督ならではといえるでしょう。
コロナウイルス感染症の逆境の渦中で、全世界での劇場公開に踏み切られた『TENET テネット』。今回は映画を愛する、ゆえに誰も楽しめる映画を作るノーラン監督の作品の魅力をご紹介します。
映画『TENET テネット』のあらすじ
テロ事件の現場から、仲間を救うために敵に捕らえられた”名も無き男”。目覚めた彼にはキーワードはTENET(テネット)である、新たな使命が命じられました。
彼を理解する仲間を得て、黒幕を突き止めるべく世界各地に向かう”名も無き男”。目的を果たすべく、ある女への接近を試みます。
時間の逆行を可能とする技術を駆使して、人類を脅かす謎の存在。彼はその正体を暴き、陰謀を阻止することができるのか。
そして”名も無き男”は、未だ人類が経験しなかった戦場に身を置きます…。
スパイ映画として楽しめる作品
難解な映画と思われがちですが、観客はすんなりとその世界に入り込めます。
まず派手なテロ事件が発生し、そこで活躍した主人公は謎の組織の一員となり、信頼できそうな相棒と行動を共にし、謎を秘めた組織の追及に動きます。
目的のために世界各地に飛び、とある女に接近します。そして敵の懐に飛び込みますが、戦いはそこから始まります。
将に「007」シリーズを思わせるスパイ映画そのものの展開。その流れに従って展開する映画と思えば、誰でも楽しめる物語になっています。
クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(2010)も、スパイ映画の形式で描かれていました。どうです、気軽に見に行ける気分になりましたか?
しかし「007」のジェームズ・ボンドとは決定的に違う点が一つ。主人公は美女と次々と浮名を流す人物ではありません。
コンプライアンスを気にする時代だから?違います。自ら脚本を書くノーラン監督、男女の色恋や大恋愛に興味の無い人物です。
第二次世界大戦の戦場を描いた『ダンケルク』(2017)に、恋愛を持ち込まないのは当然ですが、彼の作品に登場する男たちは、基本女性にデレデレしません。
彼の描く男性たちは、秘めた想いや自己犠牲の愛に生きる、ストイックな人物たち。過去全ての作品にその要素があります。
こんな形の愛もある、という思いに殉ずるノーラン作品の登場人物に、惚れている男子も多いのではないでしょうか。
そしてノーラン作品に登場する女性は、決断し行動する強さを秘めているのが特徴です。その決断が悲劇を引き起こすこともありますが、自立した芯の強い女性像を描いていると言えるでしょう。
もっとも『ダークナイト ライジング』(2012)では、トム・ハーディ演じる強敵ベインが、黒幕たる女性のパシリに過ぎなかったという展開に、失望したファンも多かったようですが…。
こういった悪役の造形には、神話・古典劇のキャラクターの描写が生かされています。本作の悪役は、シェイクスピア劇で有名なケネス・ブラナー。いかなる人物として描かれるのでしょうか。
『TENET テネット』はなるほど、ノーラン監督作品だと思わせる人物が登場する作品です。これに多くの男性、女性が満足するでしょう。
実物へのこだわりが生む映像世界
映画の中の出来事は、何でもCGで出来ると思われがちな世の中にあって、実物を映像に捉えることに意義を見出すノーラン監督。
『ダンケルク』では実際の飛行機を飛ばし、存在しない飛行機はリモコン模型を使い、その質感を画面に収めます。
SF映画の『インターステラー』(2014)も、宇宙船や人工知能ロボットTARSを模型で表現し、未来の地球や未知の惑星を工夫を凝らしたロケで表現しました。
奇抜な映像は印象に残る『インセプション』も、実物にこだわった映像の積み重ねがあり得ない世界に現実味を与えました。
このこだわりは『TENET テネット』にも健在です。スパイ映画のサービスシーンにしか思えない、トーネード(双胴の帆走高速ヨット)の疾走シーンはかつての70㎜映画、IMAX映画作品を思い出させる映像です。
多くのシーンを反射的にCGだろ、と思いがちですが、実は実写であるシーンの数々。一番の見物は巨大な旅客機が建物に突っ込むシーンです。
実物のジャンボジェット、ボーイング747旅客機を使用して撮影された破壊シーン。その迫力には圧倒されます。
しかも映画では同じ場面が2回、別の形で登場します。なぜ2回?それこそこの映画ならではの楽しみです。2度目のために撮影したのかと思うと、そのち密な展開に驚かされるでしょう。
映画を大画面で見る事の楽しさを、映画館にとって逆風が吹く時代に、再確認させてくれた作品が『TENET テネット』です。
映画文化の素晴らしさを確認させてくれる作品
参考映像:『すばらしき映画音楽たち』(2017)
新型コロナウイルス感染症の影響で、今後の映画業界、映画興行は元の形に戻れないと言われている時代。
技術の進歩に逆行しているかに見えるノーラン監督。本作のテーマも”時間の逆行”ですが、これは時代錯誤な姿勢でしょうか。
様々なこだわりが、全て大画面に反映される映像、音響も音楽も含め、映画を体験する楽しみを思い出させてくれました。
またCGには無い迫力、実物がもたらす質感をの良さが体感できます。クライマックスは『インセプション』の雪山の戦場を、砂漠の戦場に置き換えスケールアップしたと評して良いでしょう。
そこに今回の映画ならではの、映画史上初の試みが加わります。映画館で見る価値あり、できれば大画面やIMAXで見たくなること必至です。
今やスマホで撮った映画が登場し、今後配信そしてスマホで見ることを前提にした映画も登場するでしょう。
一般的にオーケストラ音楽は、時代遅れなものと信じられています。多くの楽団員が集まり演奏する形式は、それを維持するだけで大変です。
クラシック音楽のファンには申し訳ないですが、オーケストラのコンサート演奏と言えば過去の作品の演奏ばかり。新たな新作が誕生し、世界に広まる余地は狭くなりました。
しかし実は世界中で何千万という人が、オーケストラ音楽の新作を耳にしています。それは映画音楽を通じてです。
当然ながら映画音楽の世界にも様々なジャンルがあり、オーケストラの演奏も機械で再現できる時代です。
それでも映画音楽の作曲家には、映画を通じてオーケストラ文化の継承に務めている人物がいます。それはドキュメンタリー映画『すばらしき映画音楽たち』で描かれました。
映画はオーケストラ音楽など、失われかねない様々な芸術文化を継承する役割を担っていました。
今後映画は、映画文化そのものを継承する役割を担うことになるでしょう。果たして可能でしょうか。
それはクリストファー・ノーランのような、映画を愛しこだわる人物が登場する限り、これからも可能でしょう。
そして『TENET テネット』など大画面上映にこだわった、ストーリーなど様々な仕掛けのあるノーラン映画は、ゆえに繰り返し見たくなる、配信やソフトで鑑賞するのに相応しい作品にもなります。
コロナの時代の先にも、映画館で映画を見ることを、多くの人々が楽しんでいると信じています。この作品を見てそれを確信しました。
まとめ
映画『TENET テネット』が単なるSF映画に収まらない、様々な魅力に富んだ作品だとお判りいただけたでしょうか。
映像やストーリーにも様々な仕掛けがあります。その詳細を考察し、追及する楽しみがある作品。繰り返し見る、友達と議論するにも相応しく、映画好きな方なら深く楽しめること間違いありません。
また現在、ハリウッドでは多様性に配慮した映画作りが叫ばれています。しかしそれは、無理やり多様なキャラクターを創造し、物語に配置することでは達成できないでしょう。
本作はノーラン監督の「ダークナイト・トリロジー」3部作と『インセプション』同様、ワールドワイドな世界を描いた結果、多様な人物を劇中に登場させています。
多様性を描いた映画の実例として、そして世界をマーケットにした映画のあり方のモデルとして、本作は評価されるでしょう。
すこし高尚な紹介を続けましたが、本作の描いた時間の逆行は、決して正解ではないはず。凄い映像で描かれたものの、冷静に考えれば考えるほど、馬鹿馬鹿しい表現でもあります。ツッコミを入れながら楽しむ姿勢も忘れないで下さい。
よく見ればゾンビ映画か何かのエキストラのように、1人が妙な動きをしている、そんな発見があるかもしれません。
間違いなく近々に本作のパロディや、同じ設定を利用したコメディ映画が作られるでしょう。
逆に言えばそれらを生む、革新的なインパクトを持つ作品なのです。様々な視点で、2020年そしてコロナの時代を代表する作品になるであろう『TENET テネット』をお楽しみ下さい。
映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国ロードショー!