日本が世界に誇る奇才・黒沢清による『散歩する侵略者』をご紹介します。
以下、あらすじや結末が含まれる記事となりますので、まずは『散歩する侵略者』の作品情報をどうぞ!
1.映画『散歩する侵略者』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【総監督】
黒沢清
【キャスト】
長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、長谷川博己、前田敦子、満島真之介、児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史
【作品概要】
国内外で常に注目を集める黒沢清監督が劇作家・前川知大氏率いる劇団「イキウメ」の人気舞台を映画化。
数日間の行方不明の後、夫が「侵略者」に乗っ取られて帰ってくるという大胆なアイディアをもとに、誰も見たことがない新たなエンターテインメントを誕生させた。
夫の異変に戸惑いながらも夫婦の再生のために奔走する主人公・加瀬鳴海に長澤まさみ。侵略者に乗っ取られた夫・加瀬真治に松田龍平。
一家惨殺事件の取材中に侵略者と出会うジャーナリスト・桜井に長谷川博己。桜井が密着取材を申し入れる若き侵略者たち–天野に高杉真宙、立花あきらに恒松祐里。5人は黒沢組初参加、それぞれが映画初共演という新鮮な顔合わせ。
さらに前田敦子、満島真之介、児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史ら豪華オールスターキャストの競演が実現。
2.映画『散歩する侵略者』のあらすじとネタバレ
数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。
急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海。
夫・真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけていく。一体何をしているのか…?
その頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発する。
ジャーナリストの桜井は取材中、天野という謎の若者に出会い、二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきらの行方を探し始める。
やがて町は静かに不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。
「地球を侵略しに来た」
真治から衝撃の告白を受ける鳴海。
当たり前の日常は、ある日突然終わりを告げる。
3.映画『散歩する侵略者』の感想と評価
原作・劇団イキウメの一ファンである黒沢清が監督した映画版「散歩する侵略者」。
まず、誰もが惹き付けられてしまうこの作品の圧倒的な魅力が、概念を奪うという斬新な設定。
宇宙人から概念を奪われた者はそのことを全く理解できなくなってしまいます。
家族の概念を奪われた者は家族に対して激しい拒絶を見せ、所有の概念を奪われた者は逆に人生がイキイキとしだすという皮肉。
この設定が抜群に面白く、我々観客はその事について考えさせられる仕掛けになっています。
この作品には人間を乗っ取った3人の宇宙人が出てきますが、性格はバラバラ。
女子高生の立花あきらは暴力的で短絡的。アバンタイトルの出し方含め最高にワクワクさせてくれるオープニングから物語は始まります。
本作のアクションパートも担っている大事な役割です。
対する青年の天野は飄々としていてつかみどころがない。粗野なジャーナリスト桜井とのバディものとして楽しませてくれます。
ラストは一体どっちだったのか?
そこの捉え方でより物語の深みは増してくるかもしれません。
そして、中年の真治は天然でかわいらしい。関係が上手くいってない妻の鳴海との物語は本作で最も重要なパートです。
夫婦の再生のお話をトリッキーな方法で構成し、壮大な愛の物語へと昇華させていきます。
黒沢監督らしい不穏な演出も随所で冴え渡っています。
怪しく風が吹き始め、照明は目まぐるしく変化していき、車中はお決まりのスクリーン・プロセス(昔の映画で使われた特撮技法)、噛み合わない会話、謎のジャンプカットなどなど。
とにかく気味の悪さと居心地の悪さを感じ、どこか抽象性が増していきます。
それと同時に変な笑いが生じるのも黒沢清映画の不思議な魅力(東出昌大はやっぱスタイル良すぎ!)。
そして、出演している俳優のいずれもがどの作品でも毎回素晴らしい演技を披露しています(もちろん本作も)。
ぜひ劇場で観て、映画ならではの面白さを味わっていただきたい一作です。
まとめ
黒沢清映画の魅力を言葉で表すのは至難の技であり、それこそ映画的としか表現出来ない体験です。
そのため好みははっきり別れてしまうので万人にはおすすめは出来ませんが、本作はわりと娯楽性の高い作品ですので、入門としてはピッタリだと思います。
しかし、その独特の映画スタイルは唯一無二であり、一度ハマるとなかなか抜け出せなくなりますよ…。