諦めなければ失敗じゃない。
幸せな未来に続く扉がきっとある。
1956年の発行以来、これまで多くのSF作品に多大な影響を与え続けてきた、ロバート・A・ハインラインの名作SF小説『夏への扉』が、日本で実写映画化となりました。
すべてを奪われ冷凍睡眠にかけられた天才科学者。30年後に目覚めた時、未来は一変していました。過去の謎を解き、未来を取り戻すため、主人公はタイムトラベルを決意します。
SF作品の古典中の古典とされる名作が、約60年の時を経て日本を舞台に初の映画化となりました。『夏への扉』、原作と映画の違いを解説します。
CONTENTS
映画『夏への扉 キミのいる未来へ』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
ロバート・A・ハインライン
【監督】
三木孝浩
【キャスト】
山﨑賢人、清原果耶、藤木直人、夏菜、眞島秀和、浜野謙太、田口トモロヲ、高梨臨、原田泰造
【作品情報】
原作は、ロバート・A・ハインラインの名作SF小説『夏への扉』。監督は、『フォルトゥナの瞳』(2018)『君の瞳が問いかけている』(2020)の三木孝浩監督。実写映画化での主人公・高倉宗一郎を『キングダム』(2019)の山崎賢人が演じます。
小説の舞台を日本に移して再構築し、人生のすべてを奪われた科学者が時を超えて未来を取り戻す姿を描き出します。
映画『夏への扉 キミのいる未来へ』のあらすじとネタバレ
「僕は大切な人を失くす運命にあるらしい」。高倉宗一郎は、幼い頃両親を亡くし、父の親友だった松下夫妻に育てられました。しかし、優しかった松下夫妻も飛行機事故で他界。
慕ってくれていた松下の娘・璃子はまだ幼く、伯父の和人に引き取られました。それからの宗一郎は、拾った牡猫のピートと2人暮らしです。
窓の外に見える白く散らつく雪にピートは顔をしかめています。そして、家中のドアを開けろと宗一郎にねだるのでした。扉のどれかが夏に通じていると信じているようです。
ピートは扉を開け、世界が同じであっても決して諦めません。その時、玄関の扉が開き光が差し込みます。やって来たのは、高校生の璃子でした。
璃子は、父の影響で科学者としてロボット開発に取り組む宗一郎を、ずっと応援してきました。璃子は宗一郎のことが誰より好きでした。そんな璃子を宗一郎は、いつまでも子ども扱いです。
1995年3月。宗一郎は璃子の伯父・和人から新規事業の申し出を受けます。まだ開発途中のAIロボットの売却に反対する宗一郎でしたが、恋人の白石の裏切りに合いすべてを失ってしまいます。
白石は裏で和人と手を組み、宗一郎の技術を売り儲けようと企んでいました。「ハメられた」。宗一郎はやけを起こし酒を飲み暴れます。璃子にもひどく当たってしまいました。
そして、ピートを連れ冷凍睡眠会社を訪ねます。何もかも忘れて30年後に目覚めるためでした。しかし、アルコール血中濃度が高すぎ、冷凍睡眠を止められます。
「冷静になって大切な人を思ってみて下さい」。医師の忠告に宗一郎は璃子を思いだし、ちゃんと和人たちと決着を付けようと決意します。
和人の家では、白石が祝杯をあげていました。そこに帰ってきた璃子は、2人が宗一郎をだましたことを知ります。宗一郎のもとへ駆け出す璃子。それに気付いた和人が璃子を追いかけます。
白石だけが残った家に宗一郎がやってきました。白石は、宗一郎に和人の処方していた糖尿病の注射を打ち眠らせます。
ピートが鞄から白石を目掛けて飛び出します。「ぎゃーっ」。散々暴れたピートは、外へ逃げ謎の男が運転する車でいなくなりました。「誰よ、あの男?」。
ピートの活躍も空しく、宗一郎は白石により冷凍睡眠にかけられてしまいます。その頃、璃子は宗一郎の家の前まで来て、和人に追い詰められていました。突然、宗一郎の家が爆発します。
2025年2月25日。宗一郎は冷凍睡眠から目覚めます。「いったい何が起こったんだ。ピートは?」。現れたのは、ピートという名の人型ロボットでした。
「はじめまして、私がリハビリをお手伝いします」。ロボットピートはとても人間的です。嫌がる宗一郎に「めんどくせぇ」と悪態までつきます。
宗一郎の元に璃子からの手紙が届けられます。急いで向かうと、そこには璃子の名を使い呼び出した、白石の姿がありました。
白石は、宗一郎を冷凍睡眠にかけた後、会社の株券を手に入れられず合併も傾き、和人が病死後は貧しい暮らしに醜い老婆となっていました。
白石から璃子は家の爆発に巻き込まれてから行方不明だと聞いた宗一郎は愕然とします。30年前のあの日。璃子に何が起こったのか。
「研究はあきらめなければ失敗じゃない」。璃子との思い出が蘇ります。宗一郎は、璃子へと続く扉を探し出す決心をします。
調べを進めるうちに宗一郎は、ピートの初号機開発者が自分であることを知ります。30年前はまだ開発途中だったはずです。
開発会社であるアラジンという社名も知りませんでした。現社長の坪井は、30年前子どもの頃、宗一郎に会っていると言います。覚えがない宗一郎。株主の名前をたどると、創業者は佐藤太郎という人物のようです。
さらに、ピートの二号機以降の開発責任者には佐藤璃子と記されています。苗字は違うが、璃子という名は偶然でしょうか。
「まるで僕がもう一人いるようだ」。戸惑う宗一郎でしたが、時間転移装置を開発しているという遠井教授と出会うことで、自分の答えに確信を持つのでした。
映画『夏への扉 キミのいる未来へ』原作比較
1956年発行のロバート・A・ハインラインのSF小説『夏への扉』。主人公の天才科学者が、冷凍睡眠や時間転移装置で30年を行ったり来たりと、SFの醍醐味を凝縮したような名作です。
原作では、1970年から2000年のタイムトラベルが描かれていますが、映画化では1995年から2025年の間となっています。ロバート・A・ハインラインは当時、すでに10年先40年先を見据えて書いていたことになります。
原作で主人公のダンは「文化女中器」という掃除器を1970年に発明していますが、まさに現代のルンバです。その性能の細やかな描写は、まさに未来を見てきたかのよう。科学の進歩を予想した発明品の数々にも驚かされます。
そんなSF小説の名作『夏への扉』を、日本を舞台に再構築し、三木孝浩監督によりどのように映画化されたのか、原作との違いを比較していきます。
猫のピート
原作『夏への扉』は、『猫SF』とも言われるぐらい世界中の猫好きに愛されている作品でもあります。
登場する牡猫のピートは、冬が嫌いで夏へと続く扉を探し続けます。猫の特徴でもあるツンデレが愛くるしく、時に勇敢に主人公を助けます。
映画化では猫のピートはもちろん可愛らしく登場しますが、なんと2025年の未来ではロボットのピートも登場します。原作には登場しないAIロボットです。
映画オリジナルのAIロボットピートは、姿形だけでなく実に人間らしい感情をみせます。「めんどくせぇ」と悪態をついたり、誰かと尋ねられ「宗一郎の子供です」と、どうみても年上の風貌なのに答えたりとユーモアも満載です。
このロボットピートを演じてるのが藤木直人。瞬きなしの真顔演技は、彼の美しい容姿もあわさりロボットと人間の見事な融合を実現しています。
宗一郎と璃子
SF小説でありながら恋愛小説としても楽しめる『夏への扉』。原作では、主人公ダンを慕う少女リッキイの年齢はまだ9歳でした。
映画では、主人公の宗一郎を慕う璃子は高校生の設定で、宗一郎の養父が璃子の父親ということもあり、幼い頃から共に暮らした妹的存在として登場します。宗一郎にとって璃子は唯一の家族でもありました。
原作のダンより若くイケメン科学者となった主人公・宗一郎と、原作のリッキイよりお姉さんで賢い璃子とのバランスが、原作よりもストーリーに入りやすく共感できるものになっています。
また演じた山﨑賢人と清原果耶が、本当の微笑ましい兄妹のようで相性が良く感じられました。
タイムトラベルの理由
原作では、主人公ダンが過去へとタイムトラベルした理由は、リッキイとの未来を守るためでした。
未来で目覚めたダンは、リッキイの消息をたどるうちに、なんと自分と結婚していたという事実に行き当たります。
そのことを現実にするためには、自分が過去に戻り、騙した人たちからリッキイを守り、いずれリッキイにも冷凍睡眠に入ってもらう約束をしなければなりませんでした。
映画では、宗一郎が冷凍睡眠から目覚めた未来では、璃子は死んだことになっていました。璃子に何が起こったのか。本当に璃子は存在しないのか。璃子を救うべく宗一郎は過去へと戻ります。
「僕は大切な人を失くす運命にあるらしい」と孤独だった宗一郎が、璃子のことは諦めませんでした。
タイムトラベルにより、ダンも宗一郎も、未来を創り出していたのは自分だったということに気付きます。過去は未来と繋がっていました。
まとめ
ロバート・A・ハインラインのSF小説『夏への扉』の、世界初映画化『夏への扉 キミのいる未来へ』を紹介しました。
日本を舞台に再構築することで、ストーリーも分かりやすく感情移入しやすいSF作品となりました。
主題歌はLiSAの「サプライズ」。パワフルで憂いのある歌声が、エンドロールの余韻を盛り上げてくれます。
過去は未来と繋がっている。諦めなければ、未来を変える扉が見つかるもしれません。