荒廃した世界を舞台としたトム・ハンクス主演のSFドラマ
トム・ハンクス主演の映画『フィンチ』が、2021年11月5日(金)からApple TV+で配信中です。
生物の大半が絶滅した世界で生き残ったロボット技術者が、愛犬とロボットともに繰り広げる旅を描いたSFドラマを、ネタバレ有りでレビューします。
映画『フィンチ』の作品情報
【配信】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Finch
【監督・製作総指揮】
ミゲル・サポチニク
【製作】
ケビン・ミッシャー、ジャック・ラプケ、ジャクリーン・レビン、アイボア・パウエル
【製作総指揮】
ロバート・ゼメキス、アダム・メリムズ、クレイグ・ラック、アンディ・バーマン、ジェブ・ブロディ、フランク・スミス、ナイア・キュキュコフ
【脚本】
クレイグ・ラック、アイボア・パウエル
【キャスト】
トム・ハンクス、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、シェイマス(犬)
【作品概要】
荒廃してしまった世界に生きるロボット技術者フィンチが、愛犬や自ら開発したロボットたちと共に繰り広げる旅を描くSFドラマ。
フィンチをオスカー俳優のトム・ハンクス、フィンチが作り出したロボット“ジェフ”をケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、それぞれ演じます。
製作総指揮を、トムとは監督として『フォレスト・ガンプ 一期一会』(1994)、『キャスト・アウェイ』(2000)、『ポーラー・エクスプレス』(2004)でタッグを組んだロバート・ゼメキスが担当。
監督は、大ヒットテレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」の演出を手がけ、長編映画はこれが2作目となるミゲル・サポチニクです。
本作は当初、『Bios』のタイトルで2020年10月にユニバーサル・ピクチャーズ配給で劇場公開予定でしたが、新型コロナウィルスの影響で延期を繰り返した末に『フィンチ』に改題、Apple TV+で2021年11月5日(金)から配信されました。
映画『フィンチ』のあらすじとネタバレ
太陽フレアの影響によりオゾン層が破壊され、気温が上昇した地球。生物の大半が滅亡し、地上の文明が崩壊した世界となっています。
そんな中、アメリカ・ミズーリ州セントルイスで、紫外線防護服を着た男が犬型ロボットを引き連れ、無人のスーパーマーケットにて品物を物色。
目ぼしい物を回収した後、車で移動中に警告音が。巨大な砂嵐が間近に見えるのを確認するや、地下シェルターに急いで逃げ込みます。
男はロボット技術者のフィンチ・ワインバーグで、犬のグッドイヤーと犬型のロボットのデューイと共に、シェルターで生活しているのです。
放射能に侵され病身の体のフィンチは、無人となった図書館から本を収集し、それらの情報をAIに取りこんだ人型ロボットを開発し、ロボットに歩き方や喋り方とともに、いくつかの指示を与えます。
そのうち1つは人間を傷つけないことと、もう1つはフィンチ不在時にグッドイヤーの命を守ることで、後者はどの指示よりも優先させるよう命じます。
やがて40日も続く超巨大な嵐が迫っていることが分かったフィンチは、異常気象も人も少なく安全と思われる西のサンフランシスコへと向かうことに。
上にソーラーパネルを積んだキャンピングカーで出発する一行。
ロボットは、車中で見つけた世界各国の橋の絵はがきについて尋ねます。その中で、ゴールデンゲートブリッジのはがきの送り主を聞かれ、フィンチは「叔父から貰った」と答えます。
途中で見つけたシェークスピア劇場にて、フィンチはロボットに食料や必要品の探し方を教えます。そこに、巨大竜巻が接近していると知った一行は、ロボットの力を借りて車を地面に固定し、なんとかやり過ごします。
ロボット自らの希望で「ジェフ」という名前を付け、目的地に向う一行でしたが、フィンチが体調を崩したために道中のダイナーで休むことに。ところが、ジェフが見よう見まねでキャンピングカーを走らせてしまいます。
幸い大きな事故にはならなかったものの、フィンチに「考えて行動しろ。犬を守る役目を果たしてくれればいい」と怒られ、ジェフは落ち込みます。それからはフィンチから教わり、運転を覚えていきます。
その夜、フィンチは異常気象よりも飢えた人間の方が恐ろしいとして、安易に人間を信じるなとジェフに諭すのでした。
映画『フィンチ』の感想と評価
『フィンチ』(2021)メイキング
本作『フィンチ』は、太陽フレアによって生命の大半が滅亡してしまった世界が舞台です。
ジャンルでいう、いわゆる“ディストピアもの”でありながら、主人公のフィンチが、愛犬グッドイヤーとロボット犬デューイ、そして新たに開発した人型ロボットのジェフと共に、安住の地を求めて旅をするロードムービーでもあります。
生身の人間として登場するのはフィンチのみですが(ほかに登場する人間は後半の回想シーンのみ)、ある意味で人間以上に人間味あふれるキャラクターがジェフです。
あらゆる文献をAIにインプットされ、知識こそ豊富ですが、会話の仕方や歩き方は分からない。当然ながら何度も失敗を繰り返すものの、その度にフィンチに注意されて教わることで、人間のように幼児から青年へと成長していきます。
終盤でフィンチは、「想像力だけでなく、経験も大切だ」とジェフに語ります。
生きていくにはインプットされた知識だけではなく、見たり聞いたり体験することも必要。それは人間に限らず、動物やロボットも同じ。そうした過程を経た者たちが共存することで、世界は成り立っていく。
本作は荒廃した世界を舞台に、人間、犬、そしてロボットによる、生きる意味を問うドラマなのです。
それにしてもフィンチ役のトム・ハンクスは、これまでにも無人島での生活を強いられたり(『キャスト・アウェイ』)、パスポート無効によりJFK空港から出られなくなったり(『ターミナル』)と、限定空間で孤独になる男ばかり演じているのが面白いです。
まとめ
『フィンチ』(2021)メイキング
本作のエンドクレジットで、ドン・マクリーンの1971年発表曲『アメリカン・パイ』がフルで流れます。
この曲はマーベル映画の『ブラック・ウィドウ』(2020)でも使われていましたが、こちらではフィンチとグッドイヤー、そしてジェフの関係を分かりやすいほど歌詞に表しています。
「世界が崩壊した最大の理由は異常気象ではなく、人間のエゴ」というメッセージは、過去のディストピア作品にも見受けられます。
しかし本作では、フィンチを看取って本当の意味で独り立ちしたジェフが、それまでずっと懐かなかった犬のグッドイヤーと共に、「人間だって捨てたもんじゃない」と、希望を持つ者を求めて去っていきます。
派手でエキサイティングなシーンこそないものの、ディストピア作品の新たな佳作として数えられる一本です。
映画『フィンチ』はApple TV+で独占配信中。