熱狂はここから始まった!不朽の名作と呼ばれる第1作を紹介
1985年7月にアメリカで公開されるや大ヒット、同年12月にお正月映画として日本公開、1986年の洋画No.1ヒット作となった作品が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。
今や映画を志す人々には「脚本のお手本」とされ、”完璧な娯楽映画”と評されている本作。
その人気は根強く続編2本製作され、後のポップカルチャーに多大な影響を与え、現在も熱心なファンが多数存在します。全ての伝説はこの作品から始まりました。
CONTENTS
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の作品情報
【公開】
1985年(アメリカ映画)
【原題】
Back to the Future
【監督・脚本】
ロバート・ゼメキス
【キャスト】
マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン、クリスピン・グローバー、トーマス・F・ウィルソン、クローディア・ウェルズ
【作品概要】
ごく平凡な青年マーティと、歳の離れた友人でお騒がせ天才科学者のドクが、この映画で代名詞となった乗用車、デロリアンを改造したタイムマシンに乗って、大騒動を繰り広げるタイムトラベル・コメディ映画。
製作総指揮はスティーヴン・スピルバーグ。彼の監督作『1941』(1979)の脚本を手がけ、後に『フォレスト・ガンプ 一期一会』(1994)や『キャスト・アウェイ』(2000)、『ザ・ウォーク』(2015)など大ヒット作、最新VFXを駆使した作品を何本も発表する、ロバート・ゼメキスの監督作品です。
マイケル・J・フォックスが演じたマーティと、クリストファー・ロイドが演じたドクは、本作に登場した姿で世界の人々に記憶され、今も愛され続けています。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のあらすじとネタバレ
1985年10月25日の朝、カリフォルニア州の架空の街・ヒルバレーに住んでいる、高校生のマーティ・マクフライ(マイケル・J・フォックス)。
TVからはトヨタ車の販売店のCMが流れ、当時テロ支援国家とされたリビアのテロ組織が、研究施設からプルトニウムを奪ったとの、物騒なニュースを伝えていました。
マーティは兄と姉を持つ3人兄弟の末っ子で、太ったオバサンで頭の固い母ロレイン(リー・トンプソン)と、さえないセールスマンの父ジョージ(クリスピン・グローバー)と暮らしています。
そんなマーティには、歳の離れた気の合う友人がいました。周囲からは変わり者の科学者と思われているエメット・ブラウン博士、通称ドク(クリストファー・ロイド)の家を、登校前に訪れたマーティ。
ドクの愛犬、アインシュタインが彼を迎えます。エレキギターが趣味のマーティは、ドグが作ってくれた特大アンプを試しますが、変人科学者の発明だけにロクな結果になりません。
そこにしばらく姿を見せなかったドクが現れます。彼は半ば強引に、マーティに今夜午前1時15分、ショッピングモールの駐車場に来て、秘密の実験を手伝うよう頼んできます。
この騒ぎで高校に遅刻したマーティ。恋人のジェニファー(クローディア・ウェルズ)はそんな彼の振る舞いを気にかけていました。
彼女の心配通り、教頭のストリックランド先生に絞られるマーティ。
教頭は変人のドクと付き合い、授業より音楽に夢中のマーティを厳しく注意します。同じ高校を卒業した父ジョージも、同じような問題児だったと家族ぐるみで侮辱されます。
そんな言葉に構わず、バンドのオーディションを受けたマーティ。しかし彼の演奏は認められません。そんな彼をジェニファーが慰めます。
彼はドクの口癖である言葉、「もし自分の気持ちをしっかり持てば、何事も達成できる。何事も為せば成る」を口にします。
誰も彼を理解しない中、ドクだけがマーティを応援していました。その言葉を信じ音楽で成功し、父も母も逃れられなかった、ヒルバレーの街から飛び出そうと望んでいるマーティ。
ヒルバレーには30年前に落雷を受け、止まってしまった古い時計塔があります。選挙で当選したヒルバレーの黒人市長ウィルソンに、時計塔の保存を訴える会が活動していました。その運動のチラシをマーティは受け取ります。
明日の晩、父の車を借りジェニファーとデートすると約束したマーティ。ところが父ジョージの車は事故を起こして、壊れていました。
父とは古くからの付き合いらしい、上司のビフ(トーマス・F・ウィルソン)が車を借り、飲酒運転で事故を起こしたのです。しかも責任を部下のジョージに押し付けるビフ。
気の弱い父は丸め込まれました。そんな夫を母のロレインは、自分の父が車でジョージをはねたのがきっかけで、つまらない男と恋に落ち結婚したと嘆いていました。
若い時の気の迷いで人生を棒に振ったと口にする母は、マーティの恋愛などもってのほかと、厳しい態度をとります。
そんな両親の姿を見せられ、マーティは気落ちして眠ってしまいます。しかドクからの電話で目覚めました。実験に協力する約束を忘れていたのです。慌ててビデオカメラを掴んで、モールの駐車場へと向かうマーティ。
そこにはドクと、彼の乗用車のデロリアンが待っていました。しかしデロリアンは何やら物々しい姿です。それは次元転移装置を持つ、タイムマシンに改造されていました。
まずは愛犬アインシュタインを乗せ、実験を開始するドク。時間は10月26日1時20分。アインシュタインをタイムマシンで、1分後の世界に送ろうというのです。
車が時速88マイル(約142㎞)に加速すれば、タイムトラベルは理論上可能だとドクは語ります。半信半疑のまま、実験をビデオカメラで撮影するマーティ。
するとデロリアンは姿を消し、マーティは驚きドクは興奮します。そして1時21分、無事愛犬を乗せた車が現れました。
実験は成功しました。ドグはトイレで滑って転び頭を打ち、タイムマシンの原理を思いついた記念すべき日、30年前の1955年11月5日について語ります。
ドクは自らがデロリアンに乗り込み、人類初のタイムトラベルに挑戦します。25年後の世界、2015年に旅立とうとしていました。
しかし2人の前に怪しげな一団が現れます。それはリビアのテロ組織でした。タイムマシンを動かすには1.21ギガワットの電力が必要で、その燃料がプルトニウムでした。ドクは彼らを騙してそれを手に入れてたのです。
テロリストはマーティの目の前でドクを射殺します。慌てて車に乗り込み、必死に走らせて逃れようとしたマーティ。
マーティは知らぬ間に設定された年月を変え、次元転移装置を作動させていました。デロリアンが速度88マイルに達した時、彼は車と共に姿を消します。
マーティの乗ったデロリアンは畑の中に現れ、そのまま牛小屋にぶつかります。田園風景が続きますが、なにやら見覚えのある景色も現れます。マーティは燃料の切れたデロリアンを隠し、町の中心部に向かいました。
落雷で停止したはずの時計塔は時を刻んでおり、新聞の日付は1955年11月5日。古風な姿をした人々から、ダウンベストを着たマーティは、救命胴衣を付けていると思われる始末。まぎれもなく、1955年のヒルバレーに到着したのです。
何とかして元の時代に戻らねばなりません。この時代にいるドクに助けを借りようと、ダイナーに入り電話をかけたマーティ。
しかしドクは電話に出ません。彼はダイナーでマクフライ、と呼ばれます。振り返るとそこには若い姿のビフが、同じく若き日の父ジョージに声をかけていました。
ビフと不良たちはジョージをからかい、彼に宿題を押し付けて去って行きました。抵抗せず言いなりのジョージに、ダイナーの黒人従業員が声をかけます。
このままだと連中は、お前を馬鹿にしたまま生きていくことになる、と熱く警告する従業員。マーティは彼が、未来のヒルバレー市長ウィルソンだと気付きました。
正義感と向上心を持つ若いウィルソンに、あなたは将来市長になると告げたマーティ。その言葉を聞いて、良い目標だと彼は悟ります。マーティが未来の市長に、目標を与えたのかもしれません。
その間にジョージは姿を消していました。慌ててマーティはダイナーを出て、彼の姿を探します。未来の父はあろうことか、木に登って女性の着替えを覗いていました。
そして木から落ち、車にはねられそうになったジョージを、マーティが助けます。しかし身代わりに彼がはねられて気を失います。気付くと美しい娘に介抱されていたマーティ。
それは未来の姿から想像もできない、若き日の母ロレインでした。マーティは母から聞いた、父とのなれそめ話を思い出します。彼がジョージに代わって、ロレインの父の車にはねられたのです。
将来は自分の母になるはずの、自分に好意を持ったロレインの様子を見て、マーティは大いに焦ります。未来から来た自分は、過去の人々に大きな影響を与えていました。
ロレインの一家の家から飛び出したマーティは、なんとか自分の時代に帰ろうと、この時代のドクの元へと向かいます。
いきなり見知らぬ若者に押しかけられ、1955年のドクは困惑します。未来のアメリカ大統領がロナルド・レーガン(当時のレーガンは人気低迷中の俳優)と聞かされ、更に疑いを強めたドク。
そこでマーティは、ドクから聞いたタイムマシンの原理を思いついた日のエピソードを聞かせます。そして実験を撮影したビデオを再生して見せ、ようやくマーティはドグを納得させました。
自分が成し遂げた偉業に喜ぶドク。しかしビデオに映る未来の自分の、タイムトラベルに1.21ギガワットの電力が必要との発言に耳を止めます。
そんな電力を、この時代に得ることは出来ません。つまりマーティが1985年に戻ることは不可能です。それを得るには落雷でも利用するしかありません。
それを聞いたマーティの手元には、時計塔の保存運動のチラシがありました。1955年11月12日22時4分、ヒルバレーの時計塔には落雷が落ちるのです。
これを利用すればタイムトラベルは可能で、マーティは1985年に戻れます。ドクは告げました。次の土曜日には未来に帰してやる、「Back to the Future」だと。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の感想と評価
参考映像:『バック・イン・タイム』(2015)
タイムパラドックス描写はこれが正解なのか、誰にも判りません。見事に複線を回収し登場人物が成長を遂げる、完璧な娯楽映画であるとの評価に多くの方が納得するでしょう。
まだCGが無かった時代に、ミニチュアや合成などの特殊効果を駆使して作られた映画としても、実に興味深いものがあります。「スティーヴン・スピルバーグ提供」と宣伝される映画が、世界を席巻した時代を代表する1本です。
皆に愛され記憶された映画には、様々な製作エピソードが詰まっています。またこの映画は多くの熱狂的なファンを生み、中にはこの映画で大きく人生が変わった人物もいました。
そんな背景を紹介した、公開30周年を記念して作られたドキュメンタリー映画が『バック・イン・タイム』です。本作のファンでなくても、映画好きには興味深い内容ですからご覧下さい。
何も知らなくてもストーリーを追うだけで楽しめる、完璧な娯楽大作SF映画。しかし1985年当時を知らない方も増えてきました。より深く楽しめるように、映画の時代背景を紹介します。
1985年のドン底と、1955年の希望に満ちたアメリカを描く
映画の舞台となる1985年といえば、ちょうど日本のバブル経済直前の時代。本作のマーティはトヨタの日本車に憧れ、ビクターのビデオカメラを持って登場します。
当時アメリカはレーガン大統領の時代。冷戦の末期で国防費は増大、目障りだったのはリビアの独裁者、カダフィ大佐に支援されたテロリスト。そんな時代でした。
当時は現代の自由主義経済に発展する経済政策、レーガノミクスが行われていました。この政策と冷戦の終結、湾岸戦争での勝利が、90年代にアメリカの自信を取り戻させます。
しかしこの当時は、アメリカの製造業は日本に負かされ衰退し、規制緩和政策の結果、個人経営の商店はチェーン店に潰され、多くの人々が昔ながらの安定した生活を失っていました。
そんな時代に生きていたマーティが、1955年という時代にタイムトラベルするのです。
この時代は米ソの冷戦があるとはいえ、朝鮮戦争も終わりアメリカこそNo1と実感できる、古い価値観に守られた豊かな暮らしを、多くの人々が享受していました。
この映画はタイムトラベルのドタバタ騒ぎだけでなく、その時代を追体験させる効果もありました。多くのアメリカ人がその郷愁に熱狂したのです。
原作小説のブラックな要素を徹底的に排除してまで、アメリカの現代史を美しく描いた、ロバート・ゼメキス監督の作品が『フォレスト・ガンプ 一期一会』。本作のヒット要因を臆面もなく追及した結果、というと皮肉に聞こえるでしょうか。
そして本作や『フォレスト・ガンプ 一期一会』の回顧趣味を、日本で映像化した作品が『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)。その舞台は1958年の東京下町です。『バック・トゥ~』とほぼ同じ時代であることに注目して下さい。
アメリカのチャレンジ精神を体現
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は単に回顧趣味映画や、SF映画として収まる作品ではありません。タイムマシンとして車のデロリアンが登場しますが、実は当初はタイムマシンに、なんと冷蔵庫を想定していました。
それではカッコ悪い、動く車が良いのでは、とゼメキス監督が選んだのがデロリアンでした。それ以上の意味は無かったのですが、それが映画に良い効果を与えました。
理想の車を作りたいと巨大自動車企業GMから独立した、ジョン・ザッカリー・デロリアンが1975年に立ちあげた会社、デロリアン・モーター・カンパニー。
その会社が唯一、1981年に発表した車こそDMC-12。映画に登場する車、通称デロリアンです。結局この車は8000台余りしか作られなかったと言われ、様々なスキャンダルもあって、デロリアン社はこの車だけを残し倒産します。
しかしデロリアンは大手企業に逆らってまで、自分が望む物作りに拘った男の物語として、衰退するアメリカの製造業を奮い立たせるシンボルとなりました。
それは劇中のドク、見るからに変人ですが、街に埋もれたベンチャー発明家の姿と重なって、新たな物を生み出すアメリカ魂を、象徴した存在となります。
アメリカの製造業の衰退、と書きましたが、当時アメリカ映画界はスピルバークやジョージ・ルーカスを中心に、技術的にも興行的にも世界で群を抜いた成長を遂げていました。
まだCGの無かった時代ですが、特殊効果や撮影技術も進歩します。その中でゼメキスは、宇宙などのド派手な世界ではなく、日常世界を描くための特殊効果の使用に、深いこだわりを持っていました。
例えば本作のマーティの母ロレインは、1985年の太った姿、1955年の若い姿、そして1985年の歴史が変わった後の姿を、すべてリー・トンプソンが特殊メイクを駆使して演じています。
『ポーラー・エクスプレス』(2004)以降は3DCGアニメ技術を追求し、『ザ・ウォーク』では新たな実写3D映像技術での表現を求めたゼメキス監督。
その映画作りへの情熱は今も健在です。アメリカン・スピリッツを体現したこの監督は、決して懐古趣味の映画を作ることで、満足できる人物ではなかったのです。
まとめ
今見ても面白い完璧な娯楽映画、それが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です。現在見ると舞台となった1985年まで郷愁の対象となり、新たな感動を人々に与えています。
この完璧と評される映画の脚本を書いたのが、ロバート・ゼメキスと当時の相棒で、大学の同級生であったボブ・ゲイルでした。
映画のラストは未来での冒険を想像させますが、これは映画のラストお約束シーンであって、決して続編を意図したものではありませんでした。
しかし本作は熱狂的なファンを多数生みました。そして1987年、ビデオソフト化された際に、ラストに「TO BE CONTINUED」の文字が加えられます。
これは製作サイドのジョークだったのですが、それを見たファンから「続編が製作されるのか!」という問い合わせが殺到、製作側は手応えを感じます。
そこでロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルのコンビは、完璧に終わった、完璧な映画の続編を作るという、実に困難なミッションに挑むことになりました。