連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile176
「戦時中から開発されていた秘密兵器」と言う設定はいつの時代になっても心を揺さぶります。
今や使い古された設定ではあるものの、何回観てもロマンを感じるこの設定は戦後間もない作品から、アニメや小説、そして映画で使われ始めました。
今回は地上侵略を始めた未知の国と地上最強の秘密兵器がぶつかる1960年代の傑作SF映画『海底軍艦』(1963)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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映画『海底軍艦』の作品情報
【公開】
1963年(日本映画)
【監督】
本多猪四郎
【特技監督】
円谷英二
【脚本】
関沢新一
【キャスト】
高島忠夫、藤山陽子、小泉博、上原謙、藤木悠、佐原健二、田崎潤、小林哲子、天本英世、平田昭彦
【作品概要】
冒険小説から武侠小説まで幅広く執筆した小説家・押川春浪による小説を、『ゴジラ』(1954)を手がけたことで知られる本多猪四郎と円谷英二のタッグが映像化した作品。
1935年のデビュー以降、戦前戦後の日本映画界を支えた俳優の上原謙が、物語の鍵を握る失踪した軍人の神宮司大佐を演じました。
映画『海底軍艦』のあらすじとネタバレ
海辺でモデル撮影をしていた写真家の旗中と助手の西部は、海から這い出てきた蒸気を上げる人間と海に落ちて行くタクシーを目撃します。
翌日、タクシーを引き上げた刑事の伊藤は、旗中や西部の証言を信じはしませんでした。
しかし、連続して発生した土木工事関連人物の誘拐事件で目撃された犯人が蒸気を上げていたことから、伊藤は旗中のもとを訪れ詳しい調査を始めます。
この事件について独自で調査を進めていた海野は、海軍から突如消えた潜水艦「伊号403潜水艦」と神宮寺大佐が、何か秘密の任務についているのではないかと疑っていました。
神宮寺大佐の知り合いでもある光國海運の楠見と、その助手である神宮寺真琴を追っていた旗中と西部は、2人が「ムウ帝国」の工作員を名乗る人物に誘拐されそうになっている現場に遭遇。
取っ組み合いの末、工作員の銃を奪った楠見でしたが、工作員は命を顧みようとせず、海のなかに入っていきました。
旗中たちの報告を受けてもなお、1万2000年前に滅んだ「ムウ帝国」の存在を伊藤刑事は信じようとはしませんでしたが、そんな伊藤刑事に一通のビデオレターが届きます。
ビデオには、「ムウ帝国」が地熱の力を使い地上の人間よりも遥かに高度な文明を作っていることや、地上人が開発している「海底軍艦」の破棄と地上の植民地化を求める脅迫が残されていました。
世界各国に脅迫が届き、脅迫を裏付けるように各地で「ムウ帝国」による破壊活動が行われ始めます。
国連は世界最新鋭の原子力潜水艦「レッドサタン号」に「ムウ帝国」の本拠地を見つける指令を発令。
「ムウ帝国」の船を発見した「レッドサタン号」は本拠地を見つけるため船を追跡しますが、あまりにも深い深度まで潜る「ムウ帝国」の船を追いきれず、水圧によって圧壊してしまいます。
世界最新鋭の技術を持ってしても追いきれなかったことで「ムウ帝国」の技術力が証明されますが、その一方で楠見は「ムウ帝国」が恐る「海底軍艦」こそこの状況の打開になるのではないかと考えます。
真琴を追い回していた天野兵曹を捉えた楠見たちは、天野の証言からかつて反乱を起こし消えた神宮寺が今も生きていると聞き出します。
旗中、西部、楠見、伊藤、真琴に海野を加え、天野は神宮寺が拠点を構える孤島に案内することになります。
天野の案内で島の奥深くの基地へと辿り着いた楠見たちは神宮寺と邂逅。
神宮寺はいまだに第二次世界大戦の敗北をみとめておらず、日本海軍再興のために「海底軍艦」こと「轟天号」を開発しており、それゆえに「ムウ帝国」との戦いに「轟天号」を使う気はありませんでした。
楠見たちを招き「轟天号」の試運転を開始した神宮寺。
「轟天号」は水中だけでなく空中へと浮かぶ機能と、「冷線砲」を始めとした多種の兵装を搭載しており、地上のあらゆる戦艦を凌駕する性能を持っていました。
しかし、神宮寺はあくまでも日本再興のためにしか「轟天号」を使う気はなく、楠見と神宮寺の話し合いは平行線のまま交わることはありませんでした。
映画『海底軍艦』の感想と評価
空を飛び海を潜る最強の戦艦「轟天号」
本作の目玉は何と言ってもタイトルにもなっている「海底軍艦」こと「轟天号」です。
誰にも知られず辿り着くことも困難な島で秘密裏に開発されていた戦艦「轟天号」は、物語の中盤まで登場せず本領を発揮するのは終盤の短い時間のみとなっています。
しかし、行動開始からのインパクトは凄まじく、「轟天号」は中盤までに丁寧に描かれた「ムウ帝国」の技術力の高さを意に介さない活躍を繰り返すこととなります。
陸海空の3つの層をたった一機で圧倒する「轟天号」は、本作で強い印象を残しただけでなく1977年には『惑星大戦争』(1977)、2004年には『ゴジラ FINAL WARS』(2004)に登場。
「ゴジラ」や「モスラ」と言った怪獣と同様に、本多猪四郎と円谷英二作品を代表するメカニックの一つです。
時代の遥か先を行く芸術的な特撮
前回ご紹介させていただいた『妖星ゴラス』(1962)から僅か1年の期間で公開された本作ですが、『妖星ゴラス』でも圧倒的な技術力を見せた円谷英二による特撮は本作でも活きています。
水中での「轟天号」と守護竜マンダとの戦い、「ムウ帝国」の船による東京湾での船舶の爆発シーンなど、本作が「SF」として成り立つためのシーンひとつひとつが当時の最先端を思わせるものであり、60年前以上に製作されたことが嘘のように感じるほどです。
衣装やセットのみで「ムウ帝国」の生活スタイルを想像させる美術も美しく、目で楽しむ娯楽映画としての技術の粋を目にすることが出来る作品でした。
まとめ
アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズによって1965年にアメリカでも劇場公開された本作は興行収入としても成功を収め、現代でも海外の特撮ファンに特に人気のある作品として知られています。
原作小説では「ムウ帝国」の立ち位置が「ロシア」であったこともあり、「戦争」と「兵器」について特に今の時代に考えてしまう本作です。
そんな映画『海底軍艦』は「午前十時の映画祭14」に選出され、2025年より劇場での上映が決定。
公開劇場と公開時期を調べた上で、ぜひ劇場に足を運んでみてください。
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