『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で大変なことになっているMCU本家を尻目に通常運転の愉快なアクションSFコメディを展開するアントマンシリーズ第2作。
今回は完璧すぎる新ヒーロー「ワスプ」も登場し、モノの大きさを操るシリーズならではのギミックの魅せ方も大幅レベルアップ!
今までのマーベルにはなかったお宝争奪戦の要素を加え、コメディとしてもパワーアップしています。
MCU史上1番一般人っぽい主人公の身の丈を超えた大きなストーリーにも注目です。
映画『アントマン&ワスプ』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
Ant-Man and the Wasp
【監督】
ペイトン・リード
【キャスト】
ポール・ラッド、エヴァンジェリン・リリー、マイケル・ダグラス、マイケル・ペーニャ、ウォルトン・ゴギンズ、ボビー・カナベイル、ジュディ・グリア、ティップ・“T.I.”・ハリス、デビッド・ダストマルチャン、ハナ・ジョン=カーメン、アビー・ライダー・フォート、ランドール・パーク、ミシェル・ファイファー、ローレンス・フィッシュバーン、スタン・リー
【作品概要】
犯罪アクションと『ミクロの決死圏』や『ミクロキッズ』などの身体縮小SFの要素を混ぜ合わせ、見事なアメコミヒーロー映画を作ってみせた『アントマン』(2015)。
その1作目よりスケールアップしつつ、本家アベンジャーズに比べてさらっと見られるコメディアメコミ映画としてのスタンスを崩さず作った快作です!
監督は1作目と同じペイトン・リード。そして1作目からのおなじみのキャストに加え、ミシェル・ファイファーやローレンス・フィッシュバーンら大物俳優も参戦しコメディ要素もドラマ要素もパワーアップしています。
映画『アントマン&ワスプ』のあらすじとネタバレ
1987年冷戦期、初代「アントマン」ハンク・ピム博士とその妻にして初代「ワスプ」のジャネットは小型化能力を活かして政府のエージェントとして活動していました。
あるときソ連の分離独立派がアメリカに向けてミサイルを放ちます。
アントマンとワスプは小型化してそのミサイルに張り付き止めようとします。
しかし止めるにはチタンで覆われたミサイルの内部に入る必要があり、そのためには分子レベルで縮小する必要がありました。
そのレベルで縮小した場合、元に戻れる可能性はほぼありません。
アントマンの縮小装置はその時不調を起こしていたため、ワスプは彼が止めるのも聞かずに縮小。
ミサイルは無事アメリカに行く前に墜落しましたが、ジャネットは無限に縮小し続け素粒子の世界に飲み込まれてしまいます。
ハンクは娘のホープには母は死んだと説明し、救うことを半分諦めていました。
しかし30年後、2代目アントマンとなったスコット・ラングが、任務中にジャネットと同じように無限に縮小し続ける世界に飲み込まれるも無事生還します。
ハンクはそこに希望を見出し、スコットとホープと協力すれば素粒子の世界にいるジャネットを救えると考え研究を再開していました。
しかし2年前、アベンジャーズのヒーロー活動を管理するソコヴィア協定に反対したキャプテンアメリカと賛成派のアイアンマンが武力対立した“シビルウォー”が勃発。
スコットはハンクとホープに秘密でキャプテンアメリカ側でそれに参戦。
結果的に反政府分子として逮捕され、釈放後も2年間の自宅軟禁となりFBI捜査官ウーによって監視される生活になっていました。
その軟禁生活も終盤、スコットは読書したりドラムを叩いたりしながら時間を潰し解放の時を待っていました。
離婚して離れて暮らしている娘のキャシーも遊びに来てくれますし、解放後は元泥棒仲間のルイスが経営している警備会社で働くことになっています。
そして開放まで残り3日となったある夜、彼は奇妙な夢を見ます。
それはかくれんぼでクローゼットに隠れる幼女とその子を探し出して抱きしめる中年女性。2人とも見覚えのない人間でした。
翌日スコットはいつものように暇を潰していると、窓から入ってきた虫のようなものに首筋を刺されて気絶してしまいます。
それはハンクから小型化スーツを貰って2代目「ワスプ」となったホープでした。
スコットの体にはFBIに居場所がわかる発信機がつけられていましたが、今はホープに訓練された巨大アリが代わりに発信機をつけて家でスコットになりすましていました。
ホープはスコットを誘拐しハンクのラボに連れて行きます。
スコットは家を出たことがFBIにバレたらまずいので帰りたがりますが、彼らは聞く耳を持ちません。
逆に勝手にシビルウォーに参加したことを責められてスコットはタジタジになります。
ハンクはジャネットを救うために量子世界と繋がるトンネルを開発。さらにその中に入っていくためのロケットももうすぐ完成しようとしていました。
スコットが夢で見た少女は子供時代のホープで中年女性はジャネット。
量子世界がひらいたことにより、その中でまだ生きていたジャネットの意識が同じように小型化したことのあるスコットの脳内に流れ込んでいたのでした。
スコットが逮捕されたことでFBIに追われる立場にあったハンクとホープは、ジャネット救出のためスコットと再び手を組むことにします。
彼らは量子トンネルの完成に不可欠な部品を買うために闇市のディーラーであるソニー・バーチの下へ向かいます。
スコットがラボはこのまま放置するのかと聞くと、ハンクは手元のリモコンを押します。中規模ビルだったラボは一気に縮小しキャリーケースぐらいの大きさになりました。
スコットとハンクは車で待機しホープが交渉に行きますが、FBIと内通していたバーチは彼らの弱みを盾に量子トンネルの研究成果を要求してきます。
ホープはワスプスーツで武力行使に出てバーチ一味を圧倒しますが、部品の入手の寸前、まるで幽霊のように物質をすり抜ける謎の刺客が現れ襲いかかってきます。
ホープの窮地にスコットも参戦しますが歯が立たず、ゴーストは2人をまいて車で待機していたハンクを襲撃して縮小させたラボを奪い去ってしまいます。
この危機に、3人はハンクがかつてS.H.I.E.L.D.でパートナーであった学者ビル・フォスターのいる大学を訪ねます。
ビルの助言でラボの位置を割り出す手がかりを得ましたが途中で何者かに通報されたのか大学にFBIがやってきます。
途中でスコットたちは逃げ出す羽目になります。
ハンクは昔のアントマンスーツがあればそれを利用して研究所を追跡できるかもしれないと言います。
スコットは実はオリジナルスーツを処分しておらず、小さくして娘からもらったトロフィーの裏に隠していました。しかし彼女はそれを劇の発表のため学校に持って行ってしまっていました。
ワスプとアントマンは学校に侵入しますが、アントマンは縮小制御装置が不調で、小柄な小学生くらいのサイズで止まってしまいます。
しかしパーカーを着て小学生になりすまし、娘の荷物からトロフィーを取り出し旧アントマンスーツを取って脱出します。
ハンクはラボの場所を割り出し、ゴーストがいる場所にスコットとホープが侵入します。
ゴーストはスーツを脱いでガラス張りの部屋で寝ています。
正体は若い女でした。2人はラボをもって逃げようとしますがゴーストに気づかれて攻撃され気絶。
ハンクも捕まり、ゴーストのアジトで縛られた状態で目が覚めます。ゴーストの横にはフォスターも立っていました。
ゴーストの本名はエイヴァ・スター。彼女の父はS.H.I.E.L.D.でハンクと働いていた学者でしたがハンクと喧嘩しクビになり、その後独自で量子学の研究を続けていました。
しかしある日、父が開発した量子トンネルが暴走。父も母もその事故で死亡し、エイヴァ自身も一度体の分子が分解されてしまったため、体が物をすり抜けてしまう特殊体質になっていたのです。
フォスターはそんな彼女を引き取り、親子同然に育てつつ、彼女の体を元に戻そうと研究していました。
フォスターはゴーストの世話をし、精神安定のための部屋を作りました。
しかし彼女は年々分子が不安定な体になっていき、いつか完全にバラバラになってこの世から消えてしまう危険性が出てきていました。
しかも彼女は能力ゆえにS.H.I.E.L.D.にエージェントとして訓練され人殺しまでしてしまっているのです。
そしてゴーストはハンクの量子トンネルを使えば自分の体の分子も安定し助かるかも知れないと思いラボを盗んだのでした。
ハンクはジャネットを救う前にトンネルを使えば彼女を救えなくなると考えてゴーストたちに協力するのを反対します。
そして機転を利かせて拘束を解き、アントマンたちは形勢逆転。ゴーストを倒してラボを奪って脱出しました。
映画『アントマン&ワスプ』の感想と評価
この映画は、ヒーロー映画としても、アクション映画としても、コメディ映画としても、SF映画としても非常に優れた映画でした。
2作目らしく、「アントマン」シリーズならではの物や人の拡大縮小の工夫を活かした見せ場も増えています。
まさかのビルがキャリーケースになるという破天荒さや、実際の車をケースに入れて好きなものをその時々に元に戻して使うという男の夢にあふれた描写も楽しいです。
そしてクライマックスのカーチェイスでは、あんなものやこんなものが巨大化?という意外性もあり、最後はアントマンがウルトラマンのように巨大化してくれるサービスもあります。
そして今回はスコットだけじゃなく、ホープもハンクもルイスもルイスの子分もキャシーも、みんなそれぞれ活躍してキャラに合った見せ場もあるのがファンとしては嬉しいところです。
今回は圧倒的な悪役がいない代わりに、量子トンネルの奪い合いの話になっているのもMCUの作品としては斬新です。
ほかのシリーズがどんどん強敵が出てきてインフレしていく傾向がある中、昔ながらのお宝争奪戦でそれに付随してバトルがあるだけなので最終的に誰も死なずに着地しています。
ファミリーで安心して見られるコメディアメコミとしては理想的な形です。
またコメディ俳優としてスコット役のポール・ラッドとルイス役のマイケル・ペーニャはさすがの実力を発揮しています。
ペーニャの話の要点が掴めない説明ギャグは前作に引き続き最高ですし、スコットがジャネットに乗り移られて母性たっぷりの顔になるところも表情と口調一つで見事に表現していて爆笑です。
そして今作登場の新キャラのキャスティングも渋いながらツボをついています。
個人的には行方不明になったホープの母ジャネット役に元祖キャットウーマンのミシェル・ファイファーを持ってくるのが憎いですね。
後は憎めない悪党を演じさせたら天下一品のウォルトン・コギンズに、近年は強面を封印していい人役も多いローレス・フィッシュバーンもさすがの名演です。
新キャラのゴーストの能力もワンピースのロギア系能力者の実写版みたいで面白かったですね。
過去の名作へのリスペクトもたくさん!
本作のクライマックスでは、サンフランシスコの高低差の激しい坂道を利用したラボ奪い合いのカーチェイスと、超小型化して素粒子の世界に行ったハンク・ピム博士の描写が交互に描かれます。
この展開の中で本作は映画史を変えた2作品へのリスペクトが捧げられています。
サンフランシスコの坂道カーチェイスは、スティーブ・マックイーンの『ブリット』(1968)のオマージュです。
ブリットという破天荒なアウトロー刑事の活躍を描いた作品ですが、『ブリット』が登場するまでは映画のカーチェイスは、スタジオの中でスクリーンバックで道路の映像を流しその前でセットの車の運転席を置いて運転しているフリをする、というのが主流でした。
この作品でハリウッドでは初めて実際にサンフランシスコでロケ撮影によってカーチェイスが撮られました。
イギリスからピーター・イエーツという元レースドライバーの監督を呼んで撮られた本作では、実際に100km以上で車を走らせ、手持ちのドキュメンタリーカメラで撮られているので有無を言わせぬ迫力があります。
そして『ブリット』以降は実際にロケ撮影で車をクラッシュさせながらカーチェイスを撮るというのが主流になっていきました。
『アントマン&ワスプ』でも『ブリット』を連想させるロケ地を選んでカーチェイスが撮られています。
また坂道が急すぎて車が宙に浮く瞬間に小型化するなどのアントマンならではのギミックを加えて非常に楽しい映像に仕上がっています。
そしてハンクがどんどん小型化して見たことないような世界に吸い込まれて陶然としていく描写は、言わずと知れたSF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』(1968)のスターゲートの場面のオマージュです。
スターゲートの場面では、木星まで行った主人公のボーマン船長が宇宙人が作った特殊なゲートに飲み込まれて、宇宙の歴史を見させられ、急に地球のホテルのような空間にたどり着き、人類を超えた存在に進化し地球に帰ってくるという展開があります。
『アントマン&ワスプ』でもスターゲートのような超現実的光景を見せながらこの世の果てのような量子世界に行って、急にハンクがかつていた家の中でジャネットやスコットに責められる幻覚を見るという展開になります。
さらにスターゲート的空間から帰ってきたジャネットが人智を超えた力を身につけてるというのも『2001年宇宙の旅』のオマージュと言えるでしょう。
『ブリット』も『2001年宇宙の旅』もどちらも1968年公開で今年で制作50周年。
『ブリット』はアクション映画の歴史を変えた作品、『2001年宇宙の旅』は初めての本格宇宙描写に高度な科学解釈を加えてSFの地位を一気に押し上げた歴史的一作です。
アクションとSFの歴史を変えた50年前の作品を同時にオマージュして、さらにアントマンならではの要素を加えて超楽しい見せ場にするとは、非常に志が高いうえに恐るべき手腕と言えるでしょう。
そしてエンドクレジットでは、劇中の場面ダイジェストをミニチュアで再現してくれるというサービス精神もあります。
SFや特撮映画というのは長くミニチュアが使われて撮影されていました。
アントマンもその歴史の延長線上にある作品だということを感じさせてくれ、さらに歴史への敬意も感じる素晴らしい工夫です。
まとめ
どんどんヘビーになっていく「アベンジャーズ」本家と比べさらっと楽しめるファミリー映画の『アントマン&ワスプ』ですが最後は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』とクロスオーバーしてきました。
「アントマンとワスプは帰ってくる」と製作陣も言っているので過度な心配はせず、来年のアベンジャーズ新作を待ちましょう。
アントマンも大活躍する可能性大です。
本家を楽しむために『アントマン&ワスプ』を見るのもいいですし、単純に本作だけ見てSFギミックに満ちたアクションコメディとして楽しんでもよし。
夏の終わりの寂しい気分を吹き飛ばしてくれる傑作です!