日本ではNetflixが独占配信し、強烈なビジュアルが一部で話題となった『アナイアレイション -全滅領域-』。
今回は、SFとしての雰囲気が圧倒的なこの作品の魅力を紹介させていただきます。
映画『アナイアレイション -全滅領域-』の作品情報
【公開】
2018年3月12日(Netflix限定)
【原題】
Annihilation
【脚本・監督】
アレックス・ガーランド
【キャスト】
ナタリー・ポートマン、ジェニファー・ジェイソン・リー、テッサ・トンプソン、オスカー・アイザック
【作品概要】
ジェフ・ヴァンダミアの小説『全滅領域』を、アレックス・ガーランド監督が実写化したSF映画。
主演は『レオン』(1994)で大ブレイクし『ブラック・スワン』(2010)で多彩な演技を披露したナタリー・ポートマン。共演に長い芸歴と確かな演技力を持ち合わせたジェニファー・ジェイソン・リーなど。
映画『アナイアレイション -全滅領域-』のあらすじとネタバレ
無菌室のような場所で、防護服を着た男性に取り調べを受けるリナ。
彼女の記憶は曖昧で、少ない携行食でどう過ごしたのか、一緒にいた仲間はどうなったのかを防護服の男に聞かれますが、ほとんど覚えていないようです。
リナは大学で生物学を教える教授でした。
軍人である夫のケインが極秘任務に出かけ、消息を絶ってから1年が経ちますが、リナはまだ望みを捨ててはいませんでした。
ある日、そんなリナのもとにケインが現れます。
ケインは記憶が曖昧なようで、何を聞いてもはっきりせず、どこにいたのか、どうやって帰ってきたかすら分からない様子でした。
リナはケインに水を差しだすと、その水の飲み口からケインが吐血していることに気が付きます。
すぐに救急車を呼び、病院に急行するリナですが、救急車が武装した兵士やヘリコプターに取り囲まれ、リナも捕らえられてしまいます。
見知らぬ施設で目を覚ましたリナ。
リナのいる部屋を訪ねてきたドクター・ヴェントレスと名乗る心理学者の女性は、ケインは保護しているが多臓器不全で芳しくない状況であると言いました。
ヴェントレスから、極秘任務の内容をケインからどこまで聞いたのか様々な質問をされるリナはその答えの見返りに、ケインの症状を回復させるためのヒントとして、ケインがどこに派遣されていたのかを質問します。
ヴェントレスは施設の外が見渡せる場所にリナを連れ出し、まるでオーロラに包まれたかのような奇妙な現象が起きている領域を目の当たりにさせ、説明を始めます。
およそ3年ほど前に、ブラックウォーター国立公園の灯台から突如発生した謎の領域。
徐々に広がりつつあるその領域は「シマー」と呼ばれ、ドローンや動物、果てには軍による調査隊が派遣されましたが一切の成果は無く、また調査隊はケインを除き1人もシマーから出てくることは無かったということでした。
「サザンリーチ」と言うこの施設は、シマーを研究、打開することを目的としており、様々な人が滞在しています。
サザンリーチ内でアニャ、ラデック、シェパードと言う3人の女性と知り合ったリナは、彼女たちがシマー内を探索する次の調査隊のメンバーであることを知りました。
そのことをヴェントレスに話し、自身も調査隊に加わりたいことを話すリナの願いをヴェントレスは快諾します。
こうしてリナを加え、ヴェントレスがリーダーとして率いる5人の女性たちで、シマー内の探索が始まります。
目的は、全てが始まった灯台を調査し、領域の反対側に抜けること。
調査隊のメンバーは武装し、シマーの内側へと入っていきました。
以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『アナイアレイション -全滅領域-』ネタバレ・結末の記載がございます。『アナイアレイション -全滅領域-』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
見知らぬ地点のテント内で目が覚めるリナたち。
食料の消費量から4日は経ってることが判明しますが、その間の記憶は誰にもありません。
カメラなどの電子機器は動作していますが、外部との連絡は一切取れず、コンパスすら正常に機能しない状況でした。
太陽の光と、時計の針の位置から割り出せる方角を頼りに、灯台を目指すリナたちは、沼地で不思議な形態の花を発見します。
全ての花が1つの株から咲いているにも関わらず、咲いている花の種類がそれぞれ違う、独特の進化を遂げている花でした。
直後、ラデックが水中にいる何かに引きずり込まれます。
全員が力を合わせ、ラデックを救出すると、水中から出てきたのはワニでした。
大学で教鞭をとる前は陸軍に所属していたレナがワニの頭部を銃撃すると、ワニは息絶えます。
ワニの亡骸を調べると、およそワニでは考えられない歯の構造をしていて、先ほど見つけた花と同様に、シマーの中で変異した生物であることを確信します。
歩みを続け、かつてサザンリーチが食堂として使っていた建物を今日のキャンプ地とすることに決めたヴェントレス。
建物内を調査すると、ケインの所属していた前回の調査隊もこの食堂を拠点としていたことが分かります。
次の調査隊へ、と書かれた映像ディスクを再生するラデックたちは、ケインが仲間の腹をナイフで切り裂くと、その体内では蛇のようなものが動き回っている映像を目にします。
動揺するアニャはその映像を幻覚だと主張し、映像を深く追求することを拒みます。
食堂の奥を調査するリナたちは、人が壁と同化したような痕跡を見つけるのでした。
夜、顕微鏡で自らの血を見たレナは、見張りに立つヴェントレスと共にシェパードが何者かに連れ去られるのを発見します。
翌日、1人が行方不明になったことから、引き返すべきだとアニャは主張。
しかし、ヴェントレスは何も成果が無いことを理由に引き返すことを拒否し、全員に自由にするように言うのでした。
判断を求められたレナは、アニャとラデックに引き返すよりも、反対側に抜ける方が早いと言い納得させ、4人での調査は進みます。
次の村への道中で、シェパードの遺体を発見するレナ。
その後も歩みを続け、村に辿り着いた4人は人の形に生え育った花を発見します。
ラデックは、通信などあらゆるものが遮断される領域であるはずなのに、太陽の光が通過していることからある推測をします。
シマーはあらゆるものを遮断するわけではなく、領域内に入った全てのものを乱反射させるプリズムのようなものではないか、と語るラデック。
それは人すらも例外ではなく、人のDNAが乱反射した結果、人型に花が成長したのだと推測しました。
夜、アニャは、レナが先発調査隊員のケインの妻であったことを隠していたことから、3人を拘束します。
たびたび、調査隊が帰らなかったことを、隊員同士の殺し合いが原因ではないかと述べていたアニャは、自分かそれとも自分以外が狂ってしまったのだと疑惑を持ち始めていたのでした。
全員を拘束した家の外からシェパードの声が聞こえると、アニャは駆け寄ります。
しかし、それはアニャの声を発する別の生物で、アニャは射撃を試みますが、首を引きちぎられ殺害されてしまいます。
拘束から解かれたラデックは、レナに襲い掛かろうとするその生物の頭部を打ち抜き射殺します。
癌により余命が少ないヴェントレスは、自分が自分であるうちにこの謎を解き明かしたいと、レナとラデックを置いて、灯台へと向かいました。
そして、シマーと同化しつつあることを知るラデックも、レナを置き、どこかへと行ってしまいます。
1人になったレナは灯台に辿り着きます。多く残された人の痕跡から、以前の調査隊もここに辿り着いたことが分かります。
灯台の中で、黒く焦げた死体と、調査隊の映像を見つけたレナは映像を再生します。
そこに映っていたのはケインでした。
疲れた様子のケインは、カメラの後ろにいる人間に「レナを探し、会いに行け」と言うと、白リン弾で自死します。
その様子をカメラの後ろで見ていたのもまた、ケインなのでした。
灯台内の穴に侵入したレナは、ヴェントレスと再会します。
ヴェントレスは、この領域は広がり続け、やがて人類は全滅するのだと語ったあと、体内から光る「何か」を吐き出し消失します。
その「何か」はやがて人型となり、レナの行動を模倣し始めます。
灯台から脱出するため、「何か」を殴るレナでしたが、逆に反撃され昏倒してしまいます。
レナを壁際に追い詰め、やがて姿かたちすらもレナとなった「何か」にケインが残した、白リン弾を持たせ、ピンを引きます。
燃えはじめた「何か」から逃走し、灯台から脱出したレナは灯台が燃えるのと同時に、シマーによって変異した灯台の周りの草木も燃え尽き始めているのを目撃します。
こうしてサザンリーチの施設に戻ったレナは、防護服を着た男に取り調べを受けていました。
「何か」が宇宙生命体で、明確にレナを襲ったのではないかと述べる男に、「何か」はただ行動を模倣しただけだと言うレナ。
その目的は考えもつかず、破壊していたわけではなく、創造をしていたのではないか、と言います。
灯台の焼失後、体調が回復し意識を取り戻したケインと再会するレナ。
ケインが死ぬ映像を見たレナは、目の前にいるケインに「あなたはケインではないわね」と聞きます。
そうだと答えるケイン。
しかし、レナはケインが問いかける「じゃあ、君は?」と言う質問に答えることが出来ないままケインと抱き合います。
そして、レナの瞳の虹彩は既に人間のものではなくなっていました。
映画『アナイアレイション -全滅領域-』の感想と評価
今作の監督を勤めたアレックス・ガーランドは、2015年には『エクス・マキナ』でアカデミー視覚効果賞を受賞しています。
『エクス・マキナ』は自然と近未来の風景を、静寂を背景に表現し、精神的な圧迫感や不安感を強く感じる印象的な映画でしたが、今作も印象と言う点において、右に出る作品はなかなかないのではないか、と思うほどでした。
やはり、特筆すべきは謎の領域である「シマー」内部の動植物のビジュアルで、不気味なほどの華やかな色遣いや、「人間」でないものが「人間」の形をしているというおぞましさ、などが目に焼き付きます。
しかし、それでいてどこか美しさも感じ、「シマー」の内部は普通じゃないにも関わらず、不思議と「自然」を強く感じます。
調査隊のメンバーが1人1人減っていくモンスター・パニックのような作品でもあり、哲学的な作品でもある、かなり挑戦的な映画を体験できる作品でした。
まとめ
今作の制作の際、制作会社はジェフ・ヴァンダミアの『全滅領域』の他に、続編である『監視機構』と『世界受容』の映画化権も取得しています。
突如現れた「シマー」を巡る壮大な3部作となるであろう、この映画シリーズの1作目を、今のうちにチェックしてみてはいかがでしょうか。