映画『宇宙の彼方より』は2023年6月3日(土)より下北沢トリウッドを皮切りに、6月10日(土)より大阪シアターセブン、6月17日(土)より横浜シネマノヴェチェント、7月1日(土)よりシネマ神戸にて全国順次公開!
宇宙から飛来した奇妙な隕石がもたらした“色”によって、人々の心身が蝕まれてゆく恐怖を描き出したSFホラー映画『宇宙の彼方より』。
「クトゥルー神話の生みの親」ことH・P・ラヴクラフトの小説『宇宙の彼方の色(The Color Out of Space)』(1927)を原作とし、製作から10年以上が経った現在も世界の映画祭で評価され続けている作品です。
このたびの劇場公開開始を記念し、映画『宇宙の彼方より』の新字幕監修を務めた作家・翻訳家の森瀬繚さん、漫画『ARMS』などで知られる漫画原作者・脚本家の七月鏡一さんによる上映後トークショーが実現。
本記事では、公開初日の2023年6月3日(土)に下北沢トリウッドで開催された同イベントの模様をお届けいたします。
CONTENTS
公開初日満席!森瀬繚×七月鏡一による記念トークショー
新字幕監修:森瀬繚さん(作家/翻訳家)
《信頼できない語り手》という“野心的”なラスト
2023年6月3日(土)に“世界初”の劇場公開を迎えた映画『宇宙の彼方より』。封切館である下北沢トリウッドでの公開初日には記念すべき「満席」を記録し、同日の上映後トークショーには本作の新字幕監修を務めた作家・翻訳家の森瀬繚さん、漫画『ARMS』などで知られる漫画原作者・脚本家の七月鏡一さんが登壇しました。
森瀬さんは映画『宇宙の彼方より』を手がけたフアン・ヴ監督について、元々はクトゥルー神話作品のファン・ムービーで注目を集めていた映像クリエイターであり、現在もラヴクラフトの『未知なるカダスに夢を求めて』(1926〜1927)などの小説群で描かれた「ドリームランド(幻夢境)」を題材とした映画を製作中であると説明しました。
さらに映画『宇宙の彼方より』作中には、ラブクラフトによる作品群にまつわる多くの“小ネタ”が登場する点についても指摘。
主人公ジョナサン・デイビスが訪れる「ヘンリー・アーミティッジ記念図書館」に冠された「ヘンリー・アーミティッジ」という名は『ダンヴィッチの怪異』(1929)の登場人物の名から、その図書館でジョナサンが面会する人物「ダンフォース」は『狂気の山脈』(1931)の登場人物の名から引用しているなど、フアン監督のラブクラフト愛が映画の随所に見られると解説しました。
またトークは、「観客が信じてきた物語を劇的に覆す《信頼できない語り手》が明かされる」という映画オリジナル展開が描かれる本作の結末の話題に。その結末は原作小説を知っている人間ほど驚かされる内容であり、映画『宇宙の彼方より』がただ原作小説に忠実なだけでなく、”野心的”な作品として海外映画祭で評価された理由の一つでもあると七月さんとともに語られました。
ラヴクラフトの“盟友”の作品にもオマージュ?
七月鏡一さん(漫画原作者/脚本家)
一方の七月さんは、映画『宇宙の彼方より』の映像が作中に登場する正体不明の“光”の怪物である「色」を除いて全編がモノクロームで描かれた点について、ラヴクラフトの原作小説『宇宙の彼方の色』に登場した怪物「色」が発していた色彩は「人間の視覚では認識できない色彩だったのでは」と指摘。
その上で映画『宇宙の彼方より』は、映画作中の「人間が生きる現実世界」の色彩世界の次元をモノクローム世界へと一段下げることで、高次元から現れた怪物「色」の“異色性”を強調しており、そのアイディアは本作にとって不可欠なものだったと評しました。
また「農夫ガードナーの妻ナビーが、自身の頭に巨大なスズメバチが止まっているにも関わらず何の反応も示さない姿」を映し出した映画作中の場面は、名作映画『サイコ』の原作者としても知られる作家ロバート・ブロックの作品へのオマージュではないかと言及。
ロバート・ブロックは『ピックマンのモデル』(1926)などの作品群を読みラヴクラフトへファンレターを送ったのを機に彼と親交を深め、自身でもクトゥルー神話作品を執筆した「ラヴクラフト・サークル」の一員でもあったと解説し、フアン監督のマニアぶりを考慮すればオマージュの可能性は十分にあり得るだろうと語りました。
映画『宇宙の彼方より』の作品情報
【日本公開】
2023年公開(ドイツ映画:2010年制作)
【原題】
Die Farbe
【原作】
H・P・ラヴクラフト『宇宙の彼方の色(The Color Out of Space)』
【制作・監督・脚本・編集】
フアン・ヴ
【キャスト】
マルコ・ライプニッツ、ミヒャエル・コルシュ、エリック・ラスタッター、インゴ・ハイセ、ラルフ・リヒテンベルク
【作品概要】
架空神話「クトゥルー神話」の生みの親こと怪奇幻想作家H・P・ラヴクラフトの名作小説を、クトゥルー神話を愛するベトナム系ドイツ人監督フアン・ヴが実写映画化。奇妙な隕石がもたらす変異と恐怖を描いた原作の魅力を描きつつも、二つの「戦争」の時代も作中の舞台として新たに登場させるなど独自の解釈も盛り込んでいる。
本作は製作から10年以上が経った今なお、ヨーロッパの数多くの映画祭に入選し、2022年に開催された28年の歴史を持つフランスの映画祭レトランジュ・フェスティバル・パリでも上映された。そして今回、原作小説発表から95周年の2023年に日本での“世界初”の劇場公開に至った。
また今回の劇場公開にあたって、映画の新字幕監修を日本のクトゥルー神話研究の第一人者として知られる作家・翻訳家の森瀬繚が担当した。
映画『宇宙の彼方より』のあらすじ
その色はどこへ去ったのか……。
1975年、アーカム。ジョナサン・デイビスは父親の失踪を知る。父親の足取りは第二次世界大戦中に駐屯していたドイツ、シュヴァーベン=フランケン地方の森へと再び赴いていた。
かつて、そこで父親が目撃した不可思議な現象とは一体なにか。全ては宇宙の彼方より飛来した隕石から始まった……。
まとめ
2023年6月3日(土)下北沢トリウッドでの公開初日も「満席」となり、森瀬繚さん、七月鏡一さんによる上映後トークショーも盛況の中で幕を閉じた映画『宇宙の彼方より』。
今回の初日満席を機に、下北沢トリウッドでは3週目までの上映期間の拡大も新たに決定。さらに同館では6月4日以降も、連日多くの監督・俳優陣が登壇しての上映トークショーを開催予定です。
また6月10日(土)の大阪・十三シアターセブンでは「クトゥルー狂言」で知られるSF作家・浅尾典彦さんのトークショー、6月17日(土)の神奈川・横浜シネマノヴェチェントでは『ウルトラマンギンガ』など多くの特撮作品に携わってきた石井良和監督のトークショーを開催予定。
さらに兵庫・シネマ神戸では7月1日(土)より、本作と同じくラヴクラフトの小説『宇宙の彼方の色』を原作とするニコラス・ケイジ主演作『カラー・アウト・オブ・スペース─遭遇─』(2019/ファインフィルムズ配給との同時上映が企画されています。
ラヴクラフトとその作品を愛する「ラヴクラフティアン」垂涎の上映企画が目白押しな映画『宇宙の彼方より』の今後に注目です。
映画『宇宙の彼方より』は2023年6月3日(土)より下北沢トリウッドを皮切りに、6月10日(土)より大阪シアターセブン、6月17日(土)より横浜シネマノヴェチェント、7月1日(土)よりシネマ神戸にて全国順次公開!