震撼の都市伝説ハイブリッドホラー『オクス駅お化け』の初日舞台挨拶レポート
世界中で驚異的レビューを獲得した伝説のホラーウェブ漫画を原作に、構想9年を経たのちJホラーを代表する作り手の一人・高橋洋が脚本に参加し、待望の実写映画化が実現した『オクス駅お化け』。
大都市ソウルに実在する地下鉄の《オクス駅》を舞台に、バズらせることが全ての駆出しの記者がある人身事故の真相を追ううちに、不気味な怪死が次々と起こり始めます……。
虐げられた者たちの憎悪が蠢く、日韓合作の本作の公開を記念し、2023年10月6日(金)に公開初日を終えた後、脚本を手がけた高橋洋が登壇。ゲストに駅を舞台としたホラー映画『オトシモノ』(2006)の監督・古澤健を迎えて対談が行われました。
高橋洋と古澤健は、師弟関係とも言える深い仲。本記事では、ホラーの真髄を知り尽くす2人の”師弟対談”の模様をお贈りします。
CONTENTS
映画『オクス駅お化け』初日舞台挨拶レポート
原作と映画の“時代”の違いをどう描く
まず、高橋洋監督は本作の映画化の経緯について「ウェブトゥーンに短編として発表された漫画を長尺の映画にという依頼でした」と、笑顔で述べました。
企画が動き出すとすぐに韓国・ソウルでシナハンをしたと言い「オクス駅は韓国に実在する駅。そこを見て回り、撮影もそこでOKと言われて。韓国独特の寛大さを感じながら、日本では考えられないような流れで構想がスタートしました」と振り返ります。
また原作漫画は駅に「ホームドア」がなかった時代に描いた作品であり、現在はホームドアが設置されています。設定に悩んだ時、地下には「廃駅」があるという二重構造で話作りが進んだと、原作と映画との時代の違いにも触れました。
“シンプル”な物語の構築を目指す
高橋監督は、10代に向けた作品であれば、シンプルにする必要があると考えていたと言います。「脚本協力の白石晃士さんがシンプルな構造に組み直してくれ、そこに脚本のイ・ソヨンさんが入ってくるといった流れ。全編で番号のネタの呪いがかかったり、解けたりするという構造にしました。後半に登場する女の戦い的な部分はイ・ソヨンさんのアイデアです(笑)」と、一緒に作り上げていく日韓合作らしい制作過程を説明した。
ネタ元について高橋監督は「戦後まもなくに新宿で起きた“寿産院事件”。一種の託児所で起きたいわゆるネグレクトの事件です。大量の幼児が死んでしまったことを、呪いの根源の設定にできないかと考え、日本の事件を韓国に置き換えてみました」と話し、実体験もネタとして取り入れたそう。
「白いワンピースの女性が線路に飛び込むのを目撃したことがあって。あの女性が最後に見たのは自分だということがすごく怖くて今でもずっと(恐怖が)残っています。自分の中に膨らんだ妄想を取り入れ、そこからシンプルにしていく工程を経て今の形になりました」と物語構築の経緯を明かしました。
“土着”のリアリティとキャラクターの面白さ
本作を「とても面白い映画だった」と感想を伝えた古澤監督。自身が怖いと思ったポイントについて「霊媒師みたいな男が、呪いにかかるかからないの違いは“運がいいかどうか”だと言う。妄想が膨らんで面白いと思った部分のひとつです」とニヤリ。
劇中で驚いたのは、韓国の駅には遺体を入浴させて清潔にする「湯灌師(ゆかんし)」がいることだと声を揃えた高橋監督と古澤監督。
古澤監督は「そういう仕事があることに、土着的なリアリティを感じました。頭で考えたフィクションじゃない気がして。人生の先輩的な人が身も蓋もないことを言うところとかもすごく面白かったです」と、韓国と日本の駅のシステムの違いに触れつつ、楽しめた作品であると強調しました。
映画に登場するキャラクターがすごく面白いとも語った古澤監督が、そのキャラクターの“配置”について高橋に質問する場面も。
「湯灌師や女社長のキャラクターを考えたのはイ・ソヨンさんです」と答えた高橋は「さっき話したように、飛び込みを目撃してから、いまだにホームに電車が入ってくるのが怖いんです。ホームと車両の隙間はどうしても覗いてしまったりします。そんなところも脚本に書いていたのですが、活かして残してもらっています」とニッコリ。
そして高橋は、自身が担当したのは全体の骨格や設定が多いとし「駅は大半の人が通過する場所。止まるのは駅員さんくらいしかいない。そこでドラマを起こさなければいけないから、起こせることに限りがある。物語を組む上で難しいと感じた点です。地下の廃駅が出てきたことで結構幅が広がって。映画を観てもらえばわかると思いますが、実はオクス駅のプラットホームでは何も起きていないんです。むしろ地下で起きているという構造です」と駅を舞台にすることの難しさを語りました。
古澤監督も納得といった様子で大きく頷き「題材は駅だけど、だんだん駅から離れていろいろなところに行ってると思いました(笑)。僕も『オトシモノ』のときはそうせざるを得なかった。駅に居続けるのは難しいですよね」と補足しました。
韓国からのJホラーへの“めくばせ”
本作の実際の撮影は釜山で行われました。日本と韓国での映画作りの違いについて「そもそも日本で実名の駅で飛び込み事故などを扱った作品は作れません。激怒されてしまいます」と答えた高橋。
古澤監督も「『オトシモノ』は千葉のニュータウンで撮影しました。赤字路線だったので、協力的だったのはありがたかったけれど、カメラも線路に降りちゃいけないなど、制約はかなり厳しかったです。でも、ホームドアがなかったから、物語は起こしやすかったと思います」と当時と今との駅の安全対策の違いが物語のきっかけに与える影響にも言及。
高橋は、地下をうろついていた人がはねられるシーンに不満があると言います。「僕は実際に遭遇した経験があるから言えるのですが、ものすごい警笛、ものすごいブレーキ音がなります。それが恐怖感を煽ります。でも、映画にはそれがない。通過していくんだ、止まらなきゃダメじゃん!って思いました」と笑顔でツッコミを入れ、観客の笑いを誘いました。
古澤監督は「お客さんによって、反応するポイントが違うと思います。いろいろな人の記憶や妄想に作用する映画だと思いました」と、本作の楽しみ方にも触れます。
映画作りに違いはあれど、韓国では「映画『リング』っぽい」というコメントもたくさんあると言います。
この反応について高橋は「オクス駅は漢字で書くと『玉水駅』となって“いい水が湧く場所”という意味になります。オクス駅建造のために埋め立てをした場所だから、監督も井戸を登場させてリングっぽい感じでやってくれたんだと思います」とコメント。
古澤監督は「Jホラーを気に入っている、好きだというのが伝わってくる描写がいろいろなところにあります。めくばせを感じるというのかな。観客も韓国では日本とは違う受け止め方があるのかなと思います」と日本のホラーが韓国の製作陣にも、観客にも多大な影響を与えていることを実感していると笑顔を見せながら語りました。
アジアからの脚本依頼が続いている高橋監督は、MCから促され古澤監督と制作した完成したばかりの新作もしっかり宣伝して、トークイベントを締めくくりました。
映画『オクス駅お化け』の作品情報
【日本公開】
2023年(韓国映画)
【原題】
The Ghost Station
【監督】
チョン・ヨンギ
【脚本】
高橋洋、イ・ソヨン
【脚本協力】
白石晃士
【キャスト】
キム・ボラ、キム・ジェヒョン、シン・ソユル
【作品概要】
ホラー漫画を原作とした映画『オクス駅お化け』。構想9年を経て、『リング』(1998)の高橋洋が『アパートメント』(1996)のイ・ソヨンとともに脚本を手がけ、『貞子vs伽椰子』(2016)の白石晃士の脚本協力も得て実写映画化となりました。
ナヨン役を韓国で大ヒットしたドラマ『SKYキャッスル 上流階級の妻たち』(2018)のキム・ボラが演じます。ウウォン役を5人組バンド「N.Flying」のメンバーでドラマ『君と世界が終わる日に』(2021)でも話題を呼んだキム・ジェヒョン。監督は『人形霊』(2004)のチョン・ヨンギ。
映画『オクス駅お化け』のあらすじ
駆け出しのウェブニュース記者のナヨンは、ボーイフレンドのウウォンを助手として、アクセス数を稼ぐため、地下鉄オクス駅での人身事故の記事を書くことにしました。
取材を進めていくと被害者以外に「線路に子どもがいた」という奇妙な目撃談がでてきます。
ある目撃者は、取り憑かれたように謎の数字を連呼しています。
事件の真相を追ううちに、2人の周囲で次々とおぞましい変死が起こり始めます。
まとめ
2023年10月6日(金)に公開初日を迎えた『オクス駅お化け』。
大都市ソウルに実在する地下鉄の「オクス駅」を舞台にした本作の脚本を手がけた高橋洋と、ゲストの古澤健が登壇した公開初日後の舞台挨拶レポートをお贈りしました。
日本と韓国の映画作りの違い、駅の作りの今昔、撮影秘話など、ホラーにおいて師弟関係と言える2人の対談は、ホラー好きにはたまらない魅力あふれるものでした。
『オクス駅お化け』のオープニングは、実はエンドロールにつけるつもりだった映像だったそうです。そうした構成の“どんでん返し”もある映画『オクス駅お化け』を、ぜひスクリーンでご鑑賞ください。