韓国伝統の歌が紡ぎ出す、ある老夫婦の愛の物語
2025年2月7日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋ほかで全国順次公開が開始された韓国映画『君への挽歌』。
韓国インディーズ映画史の最多受賞記録を塗り替えた本作は、高齢化が進む韓国社会での認知症介護と、韓国の口承伝統芸能パンソリを題材に、ある老夫婦が直面する「愛する魂との別れ」を描いた鎮魂のヒューマンドラマです。
(C)2022 Film Company Soonsu
このたび、2025年2月9日(日)にグランドシネマサンシャイン 池袋で公開記念舞台挨拶が実施され、本作の日本配給プロデューサーで俳優・松尾百華が司会のもと、来日したキャストのチョン・アミとチャン・テフン、イ・チャンヨル監督が登壇。
同イベントのオフィシャル・リポートが到着しました。
CONTENTS
映画『君への挽歌』とは?
映画『君への挽歌』予告編
高齢化が進む韓国社会で多くの者が向き合う「認知症」と、韓国の口承伝統芸能「パンソリ」を題材にした『君への挽歌』。イ・チャンヨル監督が、パンソリの歌い手である夫と認知症を患った妻の、生と死の間で歌い上げられる愛の物語を紡いだ作品です。
韓国ではまだ認められていない安楽死などにも言及し、命の尊厳の現実を観る者に問いかける内容には国を越えて人々の心を震わせ、世界各地の映画祭で計51冠もの賞を受賞。韓国インディペンデント映画史上、最も多くの賞を獲得した映画となりました。
主人公ドンヒョク役を演じた俳優ソン・ドンヒョクは、認知症を患った自身の母親を15年間支え、本作の撮影開始直前に見送った過去を持っています。
また、ドンヒョクの妻ヨニ役は、日本でも話題となった韓国ドラマ『ペントハウス』などで知られるチョン・アミ。200本以上の演劇作品に出演したベテランとして、認知症により否が応でも変化していく、一人の女性の姿を自然かつ壮絶に演じています。
また本作の日本配給を手がけるのは『輝け星くず』『幕が下りたら会いましょう』『笑うマトリョーシカ』などに出演する俳優・松尾百華と、彼女が有志と立ち上げた映画制作・配給会社「SCRAMBLE FILM」。
「人と人をつなぐ存在」として俳優活動を続ける松尾は、口承により人から人へ受け継がれてきた伝統芸能パンソリ、一言では語り尽くせない老夫婦の愛の結末を描いた本作に感動し、日本での配給を決意。自身と同社にとって初の海外配給作品となった。
映画『君への挽歌』公開記念舞台挨拶・公式リポート
チョン・アミ(ヨニ役)
(C)2022 Film Company Soonsu
誰も避けられない「死」で問いかける映画
2025年2月7日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋で劇場公開を迎えた韓国映画『君への挽歌』。2月9日(土)の映画上映前には公開記念舞台挨拶が実施され、本作の日本配給プロデューサーである俳優・松尾百華によるMCのもと、日本公開に際して来日したキャストのチョン・アミとチャン・テフン、イ・チャンヨル監督が登壇しました。
『君への挽歌』の制作経緯を改めて聞かれたチャンヨル監督は「人間は、人生で一度は絶対に死ななくてはなりません。そんな短い人生の中で、どのように生きて死んでいくのかを、誰も避けることのできない死によって問いかける映画を作りました」と本作に込めた想いを語りました。
キャスト陣の自身の役に対する印象について、200本以上の演劇作品に出演したベテランであり、本作では主人公ドンヒョクの妻ヨニ役を演じたチョン・アミは「認知症を患ったヨニは、特別な人生を生きてきた女性ではありません」「だからこそ、多くの共感を得られる彼女の人生における夢や痛みを通じて、見る者に人生をどうやって生きていくべきなのかを教えてくれるのです」とコメント。
主人公夫婦の娘スギョンの夫パク役を演じたチャン・テフンは、時には現実的な言葉を投げかけつつも妻スギョンを助け、支えようとするパクを演じる上で「『血のつながらない家族』として、どれだけ義父母や妻の痛み・悲しみを共に分かち合うべきなのか」に悩んだと告白。そんな微妙な立場・心境にあったパクのことを、できれば愛してくれたら嬉しいと来場者の方々に伝えました。
「演技の神様」との共演
チャン・テフン(パク役)
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また監督の視点から見たキャスト陣の魅力を尋ねられ、チャンヨル監督はアミを「演技の神様」「韓国でヨニを演じられるのは彼女しかいないと感じた」と絶賛。テフンについても「演技に対する情熱を持ち、純粋な心と人柄で演技に向い合い続けている、最高の俳優の一人」「また『娘婿』という役柄をよく理解した上で演じてくれた」と本作での演技を称えました。
続けてアミも「私の好きな演技の姿勢を見せてくれる、非常に素敵な俳優」とテフンの魅力を語り、彼女の言葉に対してテフンも「『最高の舞台俳優』と多くの人々に噂される程の実力を持つ人であり、本作でヨニ役を演じると聞いて『きっと良い映画になる』と期待が高まった」「俳優としても人としても尊敬している先輩です」と答えました。
イ・チャンヨル監督
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やがてトークは、本作の撮影時のエピソードや、記憶に強く残っている場面の話題へ。チャンヨル監督は、韓国での伝統的な葬儀の際に亡くなった方を乗せる「喪輿」が描かれる場面を挙げ、撮影当時は直前まで大雨が降り続け困難な状況だった中、撮影が始まった途端が雨が止んだこと。そして雨上がりの地面は光を反射し、想像を遥かに超えた美しい映像を撮影できたと明かしました。
テフンは「これから映画を観るんですよね?」とネタバレに配慮しつつも、自身が演じるパクが初めて作中に登場する場面を挙げ、作品全体を通して重たいテーマを描いている本作において、激しい揉み合いの後に訪れる「緩急」のコミカルさをぜひ楽しんでほしいとコメント。
一方でアミは、完成した映画を観て1番印象的だった場面として、作中でのヨニと娘スギョンの対話の場面を選び「着飾っておらず決して美しい姿ではないはずのに、ヨニと彼女を演じる自分自身が1番美しく感じられました」「チャンヨル監督が本作に込めたメッセージを、1番体現している場面です」と語りました。
言語に違いを越える普遍的な感情
松尾百華(日本配給プロデューサー/俳優)
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そして、『君への挽歌』が世界各地の映画祭で評価され、韓国インディーズ映画史における最多受賞記録を記録を塗り替えたことについて、チャンヨル監督は「世界各地の方々が、作品に何かを感じとってくださったのだと思います」と答え、本作を観たある夫婦に「家では妻が『女王様(=恐妻)』の状態だったが、この映画を観て夫婦仲が良くなった」と言われたという微笑ましいエピソードを明かしました。
今回が初の来日となったテフンは「言語に違いがあっても、映画を通じて普遍的な感情を伝えることができた」「本作で、映画の力を感じとることができた」と述べ、映画と共に日本の人々と出会えたことへの喜びを改めて伝えました。
登壇者・集合写真(*左1番目:通訳 平山綾栞)
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さらにアミは一時期日本語を勉強している時期があったと告白し「日本に来る機会をもらえたことが嬉しく、韓国に帰国したら日本のことを改めて学びたい」とコメント。日本語で「ありがとう」「みんな、頑張りましょう」と来場者の方々に向けて感謝の言葉を贈りました。
上映の時間が迫る中、最後に来場者の方々へのメッセージを求められたチャンヨル監督は「今回の舞台挨拶で韓国語通訳を務めてくれた俳優・平山綾栞さん、そして今回の舞台挨拶のMCはもちろん『君への挽歌』の日本公開に向けて奔走してくれた松尾さんの二人に拍手をお願いします」とコメント。思わぬサプライズに照れ笑いを浮かべる松尾・平山への拍手が場内を包む中、イベントは無事幕を閉じました。
映画『君への挽歌』の劇場公開情報
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【東京】グランドシネマサンシャイン 池袋:2月7日(金) 〜
【静岡】静岡東宝会館:2月14日(金)〜
【大阪】第七藝術劇場:2月15日(土)〜
【北海道】サツゲキ:2月28日(金)〜
【愛媛】シネマサンシャイン重信:2月28日(金)〜
【香川】ホール・ソレイユ:2月28日(金) 〜
【京都】アップリンク京都:3月7日(金)〜
【長野】千石劇場:3月14日(金)〜
【愛知】ナゴヤキネマ・ノイ:3月29日(土)〜
【栃木】宇都宮ヒカリ座:4月11日(金)〜
【熊本】Denkikan:近日公開
映画『君への挽歌』の作品情報
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【日本公開】
2025年(韓国映画)
【監督・脚本】
イ・チャンヨル
【プロデューサー】
イ・ハンヨル
【キャスト】
ソン・ドンヒョク、チョン・アミ、キム・ユミ、ミン・ギョンジン、チャン・テフン
映画『君への挽歌』のあらすじ
韓国の口承伝統芸能「パンソリ」の優れた歌い手としてのツアー公演、大学教授としての学生たちへの国楽の講義と、長年にわたり多忙の日々を送ってきたドンヒョク。
彼は「晩年を故郷で過ごしたい」という妻ヨニの願いを受け入れ、夫婦二人での美しい田舎暮らしを始める。ないがしろにしがちだった妻との時間を取り戻そうとするドンヒョクだったが、ほどなくして彼女の言動の異変に気づく。
今何を話していたのか、何をしていたのかを忘れてしまう。感情を制御し切れず、時には暴力まで振るってしまう……ヨニは、認知症を患っていた。
何もかもを捨てて、愛する妻の介護に向き合うドンヒョク。しかし認知症が進行し、別人のように変わっていくヨニに、彼の心は疲れ果てていく……。
まとめ
(C)2022 Film Company Soonsu
2025年2月7日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋で劇場公開を迎えた韓国映画『君への挽歌』。同館で2月9日(土)に実施された公開記念舞台挨拶には、日本公開に際して来日したキャストのチョン・アミとチャン・テフン、イ・チャンヨル監督が登壇しました。
同イベントでMCを務めたのは、本作の日本配給プロデューサーである俳優・松尾百華。彼女が有志と共に立ち上げた映画制作・配給会社「SCRAMBLE FILM」にとって初の海外配給作品である本作は、今後も全国各地の劇場にて順次公開されます。
認知症介護という高齢社会の韓国・日本共通の社会問題はもちろん、「愛する魂との別れ」という人生を生きる誰もが経験し、共演できるテーマを描いた『君へ挽歌』。ぜひ映画館にて「生者のための鎮魂歌」をご覧になるのはいかがでしょうか。