『海底悲歌(ハイテイエレジー)』は2021年4月23日(金)、上野オークラ劇場にて公開
映画界で活躍する多くの人材を輩出している大阪芸術大学。その卒業制作として堂ノ本敬太監督が手掛けた作品が『海底悲歌(ハイテイエレジー)』です。
ポルノ映画・ピンク映画の製作現場からは、後に映画界など様々な分野で活躍する人材を輩出しています。そして誕生した作品には、日本国内のみならず、海外でも高く評価されているものも数多くあります。
そんなピンク映画という分野に真剣に挑んだ堂ノ本敬太監督。しかし卒業制作展の学外上映企画の1本として大阪の映画館で上映されるはずが、突然上映拒否される事態に見舞われました。
この扱いに疑問を覚える人、そして作品を惜しむ人々の尽力で、ピンク映画の老舗・上野オークラ劇場にて急遽公開が決定する、劇的な逆転劇が発生しました。
コンプライアンスという言葉が叫ばれる一方で、様々な表現が委縮しがちな現在。そんな環境で生まれた1本の映画は、現在の日本映画界に様々な問いを投げかける存在になりました。
今もっとも注目を集めるピンク映画、『海底悲歌(ハイテイエレジー)』を紹介いたします。このジャンルにまだ触れていない方も、ぜひご注目下さい。
CONTENTS
映画『海底悲歌(ハイテイエレジー)』の作品情報
【公開】
2021年4月23日(日本映画)
【監督・編集】
堂ノ本敬太
【脚本】
松田香織、堂ノ本敬太
【スタッフ】
佐藤知哉(撮影)、山村拓也(照明)、宮下承太郎(美術)、鵜川大輝(録音)、松井宏将(特機)、近藤綾香(衣装)
【出演】
燃ゆる芥、長森要、生田みく、住吉真佳、小林敏和、波佐本麻里、フランキー岡村、四谷丸終、桜木洋平、佐野昌平、中岡さんたろう、伊藤大晴、川瀬陽太
【作品概要】
大阪芸術大学の卒業制作として製作され、Daigei Film Award2021 IMAGICA賞受賞した作品です。
カナザワ映画祭「期待の新人監督」2020で、最終審査対象作4作品の中の1本に選ばれたの堂ノ本敬太監督作品。
この前作『濡れたカナリヤたち』は「期待の新人監督」2020において、
しかし堂ノ本監督は中編ピンク映画『濡れたカナリヤたち』に、まだやり残しがあると感じていました。そこでこの作品の一部キャラクターの役名を引き継ぎ、新たに完成させた長編映画が『海底悲歌(ハイテイエレジー)』です。
前作に引き続き、自らを刹那的で情動的な瞬間の体現者と呼ぶ女優、燃ゆる芥が主演。ピンク映画やアダルト作品で活躍する生田みく、そしてピンク映画に自主映画から大作映画まで、幅広い演技活動で知られる川瀬陽太が出演した作品です。
映画『海底悲歌(ハイテイエレジー)』のあらすじ
元高校教師の文乃(燃ゆる芥)は、今は温泉街でコンパニオンとして働きながら、父義昭(川瀬陽太)と2人で暮らしていました。
認知症を患い、自分に迫る父の振る舞いに悩みながらも、彼女は今の暮らしを捨てることが出来ずにいました。
ある日、元教え子の木村(長森要)と再会した文乃。木村との交流が彼女に安らぎを与えるかに見えましたが、それに嫉妬した梨奈(生田みく)は、文乃と父の関係を暴露します。
周囲に弱みを握られ、旅館の客からは関係を迫られ苦しむ文乃。父との関係は木村にも知られますが、彼は文乃を受け入れ一緒にこの街から出ようと提案しました。
そして彼女の家を訪れた木村は、文乃に迫る義昭の姿を目撃します。そして起きてしまった出来事から、逃避行を選んだ2人。様々な出会いの果てに文乃と木村の旅路は、果たしてどのような結末を迎えるのか…。
映画『海底悲歌(ハイテイエレジー)』の感想と評価
ピンク映画との出会から生まれた映画
本作と今の自分は、中学生時代の経験から生まれたと語っている堂ノ本監督。その多感な時期に様々な経験をした彼は、思い立って東日本大震災の被災地を訪れました。
そこでお世話になった年配のご婦人も、震災で息子さんを亡くした人物でした。その故人の部屋で見つけた滝田洋二郎監督のピンク映画、『連続暴姦』(1983)が大きな体験だったと告白しています。
それまで映画を意識して見る事は無かったと語る監督。滝田洋二郎監督作品に触れている内に、自分が魅かれているのはこの作品を手がけた、佐々木原保志撮影監督の映像だと自覚するようになりました。
震災の被災地を訪れた体験の後に心機一転、進学を目指していた堂ノ本監督ですが、それは自分の進む方向とは違うと感じるようになります。
そして佐々木原撮影監督が、大阪芸術大学で教授として指導していると知りました。ならばぜひお会いしたい、との思いから大阪芸大への進学を決意します。
このような経緯で映画に目覚めた監督は、入学後の実習でピンク映画を撮ろうと決意します。しかしその思いは大学の指導者の間に波乱を引き起こしました。教育機関がこのような作品を学生に撮らせてよいのか、という激しく反対する動きも生まれたそうです。
大阪芸大で教鞭をとる映画人も多くがピンク映画の出身者。自分たちの携わっていた仕事を否定して良いのかとの意見もあれば、この状況を面白がってくれた人々もいた。そういった方々が後押ししてくれた、特に客員教授の金田敬監督は終始応援してくれたと、監督は振り返っています。
こうしてまず誕生したのが、38分と短めの中編ピンク映画『濡れたカナリヤたち』です。カナザワ映画祭で評価を得たものの、まだ不完全燃焼の部分がある、なによりそれ以前から温めてていた企画があると挑んだのが、卒業制作となる長編映画『海底悲歌』でした。
上映拒否を乗り越え、ピンク映画館での公開が決定
習作である『濡れたカナリヤたち』の情感を残しつつ、監督が描きたい物語を、前作の主演女優・燃ゆる芥を招いて描いた長編映画『海底悲歌』。どうせピンク映画として撮るなら、本格的な作品にしようと企画が動き出しました。
教授の金田監督から連絡先を教えてもらったおかげで、長らくファンであった俳優・川瀬陽太を起用できたと語る堂ノ本監督。川瀬さんにはコロナ禍でスケジュールが読めない中、出演を快諾して頂き共に仕事が出来て、大変嬉しかったと振り返っています。
前作を上回るスケールで完成したピンク映画『海底悲歌』は、Daigei Film Award2021 IMAGICA賞受賞など高い評価を得て、大阪の映画館で3月に行われる、大阪芸大卒業制作展の学外上映企画の1本にも選ばれました。
しかし映画の内容を知った劇場から、3月の上旬に突然上映を拒否されたとの連絡が入ります。それが明らかになると、自分よりも周囲の大人たちが先に動いてくれたと、当時の状況を語ってくれた堂ノ本監督。
映像学科学科長でもある大森一樹監督は、東京の学生映画祭で上映できないか交渉に当たりますが、余りに急な話で叶いませんでした。それに平行して金田監督が、ならばピンク映画館で上映しようと動き始めます。
上映中止が決まったその日に、経緯を川瀬陽太にメールで報告すると「勲章と思え」と励ましてもらった、と話す監督。川瀬さんも知り合いの伝手をたどり、都内劇場で上映出来ないか動いてくれていたと、その後の動きを説明してくれました。
大阪芸大教授陣など映画関係者が動き出した状況に、自分も何かせねばと、この経緯をブログに書いた堂ノ本監督。その内容は大きな反響を呼びました。また川瀬陽太自身もSNSでこの件を取り上げた結果、関係者の間で話題となります。
そして金田監督がピンク映画を扱う、大蔵映画株式会社(オーピー映画)に本作上映の話を持ち掛けると、既に様々な経緯を知っており、依頼を好意的に受け止めピンク映画館の殿堂・上野オークラ劇場での公開が急遽決定しました。
大蔵映画関係者からは、エロチックなシーンが撮りたいだけの学生映画だろう、と思って本作を見てみると本当に愛のあるピンク映画だと驚き、このジャンルを手掛ける会社としてぜひ上映したいと言って頂き、本当に嬉しかったと監督は語っています。
第一線でピンク映画を扱うプロからも認められた『海底悲歌』。この映画が多くの関係者から応援され劇場公開に漕ぎつけられたのは、上映拒否の経緯だけでなく、高い質をもつ映画が埋もれるのを惜しむ人々の思いにあった事は間違いありません。
まとめ
上映拒否騒ぎから一転、ピンク映画館での公開が決定し話題の映画『海底悲歌』の製作背景と、公開に至る経緯を監督の証言を踏まえて紹介させて頂きました。
この作品が公開される背景に多くの人物がいた事実を知ると、現在メディアで紹介される機会が少なくなったピンク映画に関わった人々の、誇りと愛情を改めて確認することが出来ました。長い歴史を持つポルノ映画~ピンク映画と呼ばれる、邦画成人映画の世界に興味をお持ち頂ければ幸いです。
そして多くの人々を、この映画を何としても世に出そうと突き動した、高い完成度が本作に存在しています。ピンク映画ファンを自認する人、ピンク出身の映画監督のファンである人、そしてピンク映画を知らない人にも、この作品の持つ凄みは伝わるでしょう。
日活ロマンポルノのムードを受け継いだ、演者が自らを赤裸々に曝すことで生まれるピンク映画ならではの情感、それを生み出す映像美が本作の中に息づいています。
本作は上野オークラ劇場では3本立て興行の1本として、他のピンク映画と対等に扱われて上映されます。何よりこの事実こそ、本作の実力と関係者の思いを示しているでしょう。
ぜひ話題を呼んだ大阪芸大生の卒業制作作品であるピンク映画、『海底悲歌(ハイテイエレジー)』にご注目下さい。
『海底悲歌(ハイテイエレジー)』は2021年4月23日(金)、上野オークラ劇場にて公開