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Entry 2018/11/15
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映画隠れた名作【フィルムノワールおすすめ洋画5選】男たちダンディズムに浪漫が香る

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

葉巻をくわえて手には銃、コートに手を突っ込み退廃的な街を1人歩くアウトサイダーの男…。

今回、5作品をピックアップしてご紹介する映画のジャンルは、“フィルム・ノワール”。

ハリウッドの名作映画に劣らぬ、ひとジャンルを築き上げたロマン香るフィルム・ノワールの定義とは?

ノワール作品には欠かせない、ご存知ボギー主演の定番作品から、映画史に残る傑作まで5作品を厳選してご紹介します。

フィルム・ノワールとは

参考映像:『飾り窓の女』(1944)

“ノワール”とはフランス語で“黒”を意味する言葉

フィルム・ノワールは1940年〜1950年代後半にかけて制作されたアメリカの犯罪映画群のことを指します。

ヴィジュアルの特徴としては1920年代に全盛期を極めた“ドイツ表現主義”の影響が色濃いため、はっきりとした陰影のコントラストが印象的

アメリカの大恐慌時代に起こった事件を基にしている作品もあり、主人公は皆アンチ・ヒーローばかりです。

彼らは内に秘めた矛盾に苛まれていたり、登場人物は皆疎外感や孤独感を抱えていたり、男性を惑わし運命を狂わせる“ファム・ファタール”の女性の存在もフィルム・ノワールの大きな特徴の1つです。

参考映像:ネオ・ノワールの代表作『チャイナタウン』(1974)

通常、フィルム・ノワールは1940年〜1950年代後半に作られた作品のことを指しますが、それ以降に作られた“フィルム・ノワール的”な映画は“ネオ・ノワール”と呼ばれます。

ロマン・ポランスキーの『チャイナタウン』(1974)や『ブレードランナー』(1982)が代表例です。

おすすめ【フィルム・ノワール】①『マルタの鷹』

映画『マルタの鷹』の作品情報

【公開】
1941年 (日本公開:1951年)

【原題】
The Maltese Falcon

【監督】
ジョン・ヒューストン

【キャスト】
ハンフリー・ボガート、メアリー・アスター、ピーター・ローレ

【作品概要】
『キー・ラーゴ』(1948)や『白鯨』(1956)を手がけた名匠ジョン・ヒューストンの初監督作品。

主人公を演じたのはフィルム・ノワールの時代を代表する俳優の1人ハンフリー・ボガート。フリッツ・ラング作品『M』(1931)で鮮烈なデビューを果たした名優ピーター・ローレの独特な存在感も光ります。

映画『マルタの鷹』のあらすじ


©ブレーントラスト

サンフランシスコの私立探偵サム・スペードは、ある日家出した妹を連れ戻したいという美女の依頼を受けます。

相棒のマイルズが肩代わりし、ロイド・サースビーという男を尾行しますがその夜サースビーとマイルズは死体となって発見されました。

マイルズの妻と三角関係にあったサムは警察から嫌疑をかけられてしまいます。

犯人を追うサムの前には再びあの美女、そして謎の男たちが現れ…やがて彼は膨大な価値を持つ彫像品“マルタの鷹”の争奪戦に巻き込まれていきます。

ハードボイルドといえばこの人、ハンフリー・ボガート

フィルム・ノワールの先駆的作品『マルタの鷹』。アメリカの小説家ダシール・ハメットの同名探偵小説を原作としており、映画化するのは本作で3回目となります。

“マルタの鷹”という黒い鷹の彫像をめぐって探偵サムの周りで次々と起こる殺人事件。自分に疑いをかける警察、マフィア双方を相手に軽快かつ巧妙に喋りつつ真相に迫っていくサムを演じるのはハンフリー・ボガート。

少々女性ったらしな面も持ちつつ、スーツで身を固め煙草をくゆらせる姿は惚れ惚れするほど格好良いものです。

最後にサムが選ぶ決断とは…。ロマンとダンディズム香り立つ作品です。

おすすめ【フィルム・ノワール】②『深夜の告白』

映画『深夜の告白』の作品情報

【公開】
1944年 (日本公開:1953年)

【原題】
Double Indemnity

【監督】
ビリー・ワイルダー

【キャスト】
フレッド・マクマレイ、エドワード・G・ロビンソン、ジーン・ヘザー、バーバラ・スタンウィック

【作品概要】
マリリン・モンロー主演の『七年目の浮気』(1955)や『お熱いのがお好き』(1959)などラブコメディ作品が多く知られている巨匠ビリー・ワイルダーはサスペンスの名手でもあります。

主演のフレッド・マクマレイはそれまでの明るい二枚目のイメージを覆す役所を熱演。本作は監督賞を初め主演女優賞、脚本賞などアカデミー賞計7部門にノミネートされました。

映画『深夜の告白』のあらすじ

深夜、とあるビルに車で乗り付けた男。

彼はよろめきながら保険会社のオフィスにたどり着き録音機をセットし、ある“告白”を始めました。

それは自分の犯した罪のこと…敏腕保険外交員のウォルターは、訪問先で美しい人妻フィリスに出会います。

彼女は夫に内緒で彼に傷害保険をかけたいと言い、その様子にウォルターは一旦彼女を拒絶します。

しかしフィリスの魅力に抗うことができずウォルターは彼女と共に殺人を仕組み、ことはうまく運んでいるように思えたのですが…

数々のサスペンスは、この映画から始まった

主人公によるナレーションで始まり、男性たちの運命を狂わせるファム・ファタールの登場と特徴が詰まったフィルム・ノワールの代表作。

夫の殺害を保険外交員に依頼し、その彼と不倫関係におち、殺人にも動じることのない。フィリスのキャラクターはそれまでの映画からは想像しがたい悪女でしたが、バーバラ・スタンウィックは自ら金髪のウィッグをかぶり堂々とファム・ファタールを演じ切りました。

保険金目当ての殺人、色恋沙汰が引き金となる殺人というテーマは今では多くの物語に見られますが、その原点は『深夜の告白』と言っても過言ではありません。

ウォルターとフィリスの殺人計画がシリアスに進んで行く中で、緩急をつける役割を担っているのがエドワード・G・ロビンソン演じるウォルターの友人であり調査員のキーズというキャラクター。

その台詞で観客の興味を引きハラハラさせ、そして結末に見られるウォルターとキーズの男の友情は深い余韻をもたらします。煙草に火をつける彼らの仕草に注目してご覧ください。

おすすめ【フィルム・ノワール】③『狩人の夜』

映画『狩人の夜』の作品情報

【公開】
1955年 (日本公開:1990年)

【原題】
The Night of the Hunter

【監督】
チャールズ・ロートン

【キャスト】
ロバート・ミッチャム、シェリー・ウィンタース、リリアン・ギッシュ、イブリン・バーデン、ピーター・D・グレイブス、ビリー・チャピン、サリー・ジェーン・ブルース

【作品概要】

この映画を手がけたのは『ヘンリー八世の私生活』でアカデミー賞主演男優賞を受賞、1920年〜60年代にかけて映画・舞台俳優として活躍したチャールズ・ロートン。

『狩人の夜』はロートンの最初にして最後の監督作品になります。狂気の伝道師ハリー・パウエルを演じたのは『史上最大の作戦』(1962)『大いなる眠り』(1978)などに出演、タフガイから悪役まで幅広い役を演じたロバート・ミッチャム。

また映画史には欠かせない作品『国民の創生』(1915)や『イントレランス』(1916)に出演したサイレント時代から活躍するスター、リリアン・ギッシュが出演しています。

公開当時アメリカでは興行成績が上がらなかったものの、フランソワ・トリュフォーなどヌーヴェルバーグの映画作家たちはその芸術性の高さを絶賛したと言います。

映画『狩人の夜』のあらすじ

1930年代、大恐慌銀行真っ只中のウェストバージニア州。

強盗を働き1万ドルを奪った男ベンは娘パールの人形の中に金を隠し、息子ジョンに金のありかを口外するな、と言い残して警察に連行されます。

ベンはやがて死刑になりますが、残された家族に忍び寄る不審な影が。男の名前はハリー・パウエル。

彼は刑務所でベンが大金をどこかに隠したことを嗅ぎつけ、福音伝道師になりすまし、ベンの妻ウィラに接近します。

パウエルとウィラは結婚しますが、息子のジョンはパウエルを疑いの目で見ていました。

ある日子供たちに金のありかを聞き出そうと脅迫しているのをウィラに見つかったパウエルは彼女を殺害。彼の正体は未亡人を次々と殺し金を奪い取る殺人鬼だったのです。

童話?ノワール?異色の一作

童話に聞き入る子供達から始まり、満天の星空や野原で戯れる動物達、そして兄と妹が“敵”から逃げるプロットなど、本作はフィルム・ノワールとファンタジーが溶け合ったような不思議な作品です。

ドイツ表現主義を受け継いだ映像、ロバート・ミッチェル演じるパウエルとリリアン・ギッシュ演じる子供たちを守るレイチェル夫人のにらみ合いの場面は絵画のような美しさです。

この幻想的な映像を撮影したスタンリー・コルテス、独特のBGMを作曲したウォルター・シューマンの功績は現在も高く評価されています。

また右手と左手に“LOVE”と“HATE”のタトゥーを刻み、胡散臭い説教を説くニセ伝道師パウエルの狂気っぷりと迫力は凄まじいもの。

このタトゥーは後世の数々の作品でオマージュされ、またハリー・パウエルのキャラクターはアメリカ映画協会が選ぶ悪役ベスト100で29位にランクインしています。

他のフィルム・ノワールとは異なる異色のカルト作品、『狩人の夜』ぜひチェックしてみてください。

おすすめ【フィルム・ノワール】④『現金に体を張れ』

映画『現金に体を張れ』の作品情報

【公開】
1956年 (日本公開:1957年)

【原題】
The Killing

【監督】
スタンリー・キューブリック

【キャスト】
スターリング・ヘイドン、コリーン・グレイ、ヴィンス・エドワーズ、ジェイ・C・フリッペン、テッド・デコルシア、マリー・ウィンザー、エリシャ・クック

【作品概要】
ライオネル・ホワイトの小説『逃走と死と』を原作とする映画『現金に体を張れ』は、『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか 』(1964)や『2001年宇宙の旅』(1968)を始め、数々の名作を世に送り出した名匠スタンリー・キューブリック監督のハリウッドでの初作品。

主人公は『博士の異常な愛情』ではリッパー准将を演じ、また『ゴッドファーザー』にも出演するスターリング・ヘイドン。

またキューブリックの次作品『突撃』(1957)に出演したジョー・ターケルや、『マルタの鷹』(1941)や『三つ数えろ』(1946)などノワール作品に多く出演するエリシャ・クックなど名脇役たちが顔を揃えます。

映画『現金に体を張れ』のあらすじ

前科者のジョニーは競馬場から200万ドルの強盗を企てました。集まったのは人生に問題を抱える男たちばかり。

競馬場の会計担当やバーテンといった内通者の協力で綿密に計画を練り、彼らはダービーの最中に騒ぎを起こし、その間に金を盗むことにしました。

しかし計画実行の前日、仲間の1人の妻がそれを聞いてしまいます。

不貞を働いている妻は愛人の男とよからぬことを思いつきます。

太く短く生きる、そう決めた男たちが起こす何もかもうまくいくように思えた犯罪。それなのに…。

結末に唖然⁈キューブリックの手腕が光る

当時320,000ドルという低予算で製作された本作は、強盗を取り扱いながら一滴の血が流れることもありません。

分単位で出来事が進んでいきながらパズルのようにシーンがはまってゆく、彼らが競馬場から連携して金を盗み出すシーンは圧巻。

この構成は、その後の1991年公開のクエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』に影響を与えています。

硬派なモノクロ映像、そしてあっと声出るそのラストシーンは何とも言えない余韻を残し、キューブリックならではの審美的な映像に目を見張るはず。

実態のない現金を追う男たちが転落する道をぜひ見届けてください!

おすすめ【フィルム・ノワール】⑤『サンセット大通り』

映画『サンセット大通り』の作品情報

【公開】
1950年 (日本公開 : 1951年)

【原題】
Sunset Boulevard

【監督】
ビリー・ワイルダー

【キャスト】
ナンシー・オルソン、ウィリアム・ホールデン、グロリア・スワンソン、エリッヒ・フォン・シュトロハイム

【作品概要】

『深夜の告白』に続きビリー・ワイルダーが手がけた本作は、同年のアカデミー賞で11部門にノミネートの内3部門を受賞。

その他、“AFIアメリカ映画100年シリーズ”や英国映画協会が選ぶ“映画史上最高の作品ベストテン”など、数々のランキングに選出されている作品です。

落ちぶれたサイレント時代の大女優を演じるのは、自身もサイレント時代に活躍した伝説的女優グロリア・スワンソン。

また鬼才として知られる監督エリッヒ・フォン・シュトロハイムが元監督役で出演している他、三代喜劇王の1人バスター・キートンもカメオ出演しています。

映画『サンセット大通り』のあらすじ


©文輝堂

ハリウッドのサンセット大通りのとある豪邸のプールに1人の男の死体。時は遡り半年前、売れない脚本家のジョーは借金の取り立てに追われ、ある屋敷に逃げ込みました。

そこはサイレント時代の大女優ノーマ・デズモンドが執事のマックスがひっそりと暮らしている屋敷でした。

ノーマはとうの昔に忘れられた存在でしたが、彼女がファンが自分をずっと待っていると思い込んでおり、銀幕への復帰を目論んでいたのです。

ジョーは、ノーマに囲われる形で彼女が書いた脚本“サロメ”の手直しをすることになり…。

映画史に欠かせない不朽の名作

『深夜の告白』と同じく、事件の中心的人物の“告白”、主人公のモノローグで幕が上がる『サンセット大通り』。

“忘れられた存在であるのに復帰できると思い込んでいる”スター気取りの女優というキャラクターである、ノーマ・デズモンドの女優選びは非常に難航したと言われています。

監督ワイルダー本人も、ノーマ役を引き受けたグロリア・スワンソンは、伝説的人物であるためにオファーに応じるとは思っていなかったそうです。

仰々しくヒステリックな表情や、終盤の鬼気迫る演技は脳裏に焼きつくこと間違いなしです。

スターの没落を無慈悲なまでに描いた本作は、映画の歴史に名作であり、フィルム・ノワールをも代表する傑作です。

まとめ

インモラルで退廃的、哀愁漂うアウトサイダーの主人公たちが活躍するフィルム・ノワール作品群。

緻密に練られた脚本と、光と影が演出する硬派な美しさに目から、耳から引き込まれる作品ばかりです。

かつてあった時代に思いを馳せながら、ご紹介した映画をぜひご堪能ください。


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