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Entry 2024/03/09
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映画『ヴァイブレータ』ネタバレあらすじ感想と評価解説。寺島しのぶが行きずりの性愛を通して再生する女を潔く演じる

  • Writer :
  • 谷川裕美子

性愛から始まる純愛ストーリー

赤坂真理の小説を映画化した、アルコール依存症の女性レポライターと長距離トラック運転手が織りなす行きずりの愛の物語。

監督は『あちらにいる鬼』(2022)、『月の満ち欠け』(2022)の廣木隆一。第60回ヴェネチア国際映画祭に出品されたほか、ヨコハマ映画祭、ブルーリボン賞など多くの映画賞を獲得しました。

『赤目四十八瀧心中未遂』(2003)『あちらにいる鬼』(2022)の寺島しのぶが体当たりで難役に挑戦。大森南朋演じるトラック運転手とふたり、孤独な男女の情感豊かなドラマを切なく織り上げます。

全編濃密なふたり芝居となっており、主演の寺島しのぶと大森南朋の高い演技力が浮き彫りとなります。

性愛から始まった純愛によって、壊れかけた女が再生していく姿を追う本作の魅力をご紹介します。

映画『ヴァイブレータ』の作品情報

【公開】
2003年(日本映画)

【原作】
赤坂真理

【監督】
廣木隆一

【脚色】
荒井晴彦

【キャスト】
寺島しのぶ、大森南朋、田口トモロヲ、戸田昌宏、高柳絵理子、牧瀬里穂、坂上みき、安藤玉恵、村上淳

【作品概要】
アルコール依存症で食べ吐きを繰り返す、心が壊れかけた女性ルポライターが、長距離トラック運転手との行きずりの愛を通して再生していく純愛ストーリー。

あちらにいる鬼』(2022)でも本作の廣木隆一監督とタッグを組んだ寺島しのぶが、圧巻の演技を見せています。

ヒロインをトラックに乗せるドライバーに、『初恋』(2020)の大森南朋。

映画『ヴァイブレータ』のあらすじとネタバレ

自分の頭の中で聞こえる「声」に悩まされ、不眠や過食、食べ吐きを繰り返していたアルコール依存症のルポライター・早川玲。

ある雪の夜、コンビニでワインを買おうとしますが、「声」に邪魔されてなかなか選べません。店に現れたひとりの若い男に目を留めた彼女は、「彼を食べたい」という直感に従い、先に店を出た彼を追いました。

その男・岡部の乗る大型トラックの助手席に玲は乗り込み、すすめられるがままに焼酎を飲みました。

人への恐怖を語る玲が、触りたいと必死でつぶやくのを聞いた岡部は、後部座席に彼女を誘い、カーテンを閉めました。

ふたりは熱く抱き合い、行きずりの関係を結びます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『ヴァイブレータ』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『ヴァイブレータ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

夜が明ける頃、玲はトラックから降り、昨夜食べたものを路面に吐きました。「道連れにして」と言う玲を、岡部は受け入れます。

遠い地まで荷を積んだトラックを走らせる岡部についていく玲。岡部は自分が結婚して子供がいることや、ストーカーにつきまとわれていることを話します。

無線を楽しんだりしながら、岡部はトラックを走らせ続けます。雪国に入り、彼は以前ヤクザだったことや、手を染めた悪事について玲に面白おかしく話して聞かせました。

玲は自分がアルコール中毒で食べ吐きをしていたことについて話しました。取材で患者の話を聞いた後、自分も吐くと安心してよく眠れるようになると気づいたと岡部に言います。

玲は昨晩から吐かなくなっていました。

無線でしゃべらせてもらった玲は、急に不安感に襲われてラジオをつけました。頭の中に声が聞こえ始め、玲は猛烈な吐き気に襲われます。岡部は口笛を吹いて、無線を切りました。口笛は無線を終わらせる合図であることに、玲は興味をそそられます。

ガソリンスタンドに降りた玲は、気持ち悪いと言って泣きながら岡部を叩き、その後自分の頭を叩き続けました。やっと吐いた後も、彼女は「気持ち悪い」と言って泣き続けました。

立ち寄ったモーテルで、岡部はやさしく玲を風呂に入れてくれました。どこまでもやさしい岡部の胸で、玲は泣きじゃくります。

翌日。そば屋で玲は、自分に男がいると話した後、それは嘘だと言いました。あなたに妻や子供がいるのも嘘よね、と言う玲に、岡部はうなずきます。

食事の後、玲に大型トラックを運転させようとする岡部。無理だと言う玲でしたが、ハンドルを握って恐る恐る走らせます。次第に彼女の顔に笑みが浮かび始めました。無事に運転し終えた彼女は、満ち足りた表情になっていました。

彼女の頭の中にこだましていた声は、いつの間にか消えていました。

トラックは、ふたりが最初に出会ったコンビニにたどり着きます。車から降りた玲と運転席の岡部は無言で見つめ合いました。

やがてトラックは走り去り、ひとり残された玲は小さく口笛を吹きました。自分がいいものになった気がしていました。

玲はワインをすんなりと選び、レジに並びました。

映画『ヴァイブレータ』の感想と評価

壊れかけた心を抱える女性の、ゆきずりの性愛から始まる純愛ストーリーです。キリキリと胸が痛むような恋が綴られていきます。

不眠で悩む主人公の玲は、アルコールや過食嘔吐で抱えきれない不安感を紛らわせていました。頭の中に聞こえる「声」にも悩まされています。

ある雪の夜、コンビニで酒を選んでいた玲は、金髪のやんちゃそうな青年・岡部にひきつけられます。「彼を食べたい」という強い衝動にかられた彼女は、岡部の大型トラックに乗り込んで行きずりの関係を持ち、そのまま彼について日本各地をめぐります。

溺れる者が必死でわらをつかむのと同じように、玲は岡部にしがみついたのでしょう。いつ死んでいてもおかしくなかった彼女が感じた「食べたい」という気持ちは、「生きたい」という思いそのものでした。

寺島しのぶが、どこか壊れてしまっている玲の切なく熱い色気を見事に体現しています。いつも泣いているかのような表情が欲情をそそり、誰かにしがみつかなければ生きられない壮絶な孤独を感じさせます。

愛してほしいと悲鳴のような声が全編に渡って聞こえ続けるかのようです。玲の頭の中に響く「声」と、現実の玲の言葉を重ねることで、女性心理を細やかに描写しています。

玲の心を一瞬にしてとらえた岡部を演じる大森南朋も魅力的です。やんちゃな姿の大森南朋が新鮮に映ります。寺島との濃密なふたり芝居は、実力派同士だからこそ成り立ったといえるでしょう。

やばい女かもしれないのに、受け入れてしまう気の良い岡部。孤独なはずの旅路が、ふたり旅になった途端に明るく楽しいものに変わり、彼が心底嬉しがっていることが伝わってきます。

若いながら、ヤクザや悪事も経験し、その末にカタギの仕事を選んだ岡部には、老成した包容力がありました。岡部の大きな優しさに包まれて、玲の魂は少しずつ再生していきます。

大型トラックを運転できた玲の目は喜びに輝きました。思いがけないことを達成する力が自分にあることに気づき、驚きと自信が彼女の魂を明るく照らしたのです。

もとのコンビニで下ろしてもらった玲は、迷うことなく酒を選び、レジに並びました。もう以前の彼女ではありません。玲こそが、そのことを誰よりもよく理解していました。

もう二度と会うことはないふたり。それでも、お互いの一部となってこれからも生き続けるに違いありません

まとめ

今にもガラスのように砕け散ってしまいそうだった女が、ひとりの男との出会いによって再生していく姿を綴る『ヴァイブレータ』

主人公の玲には最初から、岡部のもつ不思議な癒やしの力が見えていたのでしょうか。金髪のやんちゃ男が、次第に天使のように見えてきます。

玲が再生するのを見ることで私たちもまた救われ、次の一歩を踏み出せるような気がしてくるかもしれません。そんな光を感じさせてくれる一作です。



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