全ての素性が不明の謎の金持ち、トミー・ウィゾーが製作したラブストーリー『ザ・ルーム』。
2003年に公開されて以降、世界中のどこかで常に上映され続けているという、映画ファンに愛された駄作が「未体験ゾーンの映画たち2020」のクロージング作品として、日本初上映されています。
「駄作界の市民ケーン」「最高の最低映画」と評される、ラブストーリー映画『ザ・ルーム』をご紹介します。
映画『ザ・ルーム』の作品情報
【公開】
2003年(アメリカ映画)
【原題】
The Room
【監督・脚本・製作・製作総指揮】
トミー・ウィゾー
【キャスト】
トミー・ウィゾー、ジュリエット・ダニエル、グレッグ・セステロ、フィリップ・ハルディマン、キャロリン・ミノット
【作品概要】
映画作りの知識も技術も持ち合わせていない謎の人物トミー・ウィゾーが、監督と脚本、主演を務め、6億円とも呼ばれる製作費をかけて作られたラブストーリー。
男女の裏切りと別れを描いた作品ですが、映画の完成度が低すぎて、アメリカでは、初公開時から観客が爆笑した事で話題になりました。
評判が評判を呼び、結果的にツッコミを入れながら鑑賞する事が定番になったカルト的な作品です。
映画『ザ・ルーム』あらすじ
サンフランシスコの銀行員ジョニーは、同棲している恋人のリサとの結婚を控え、幸せな毎日を送っていました。
ジョニーは、貧乏な学生・デニーを本当の子供のように可愛がる優しい性格の男ですが、リサは、ジョニーとの毎日に退屈さを感じ、ジョニーの部屋を訪れたリサの母親クローデットに「彼と別れたい」と相談します。
クローデットは、銀行員であるジョニーの職業に魅力を感じ、リサの意見を聞きません。そして、リサに「自分は乳がんである」と告げ、ジョニーの部屋を出て行きます。
リサは、自身を操り人形のように考えている母親にも不満を持っていました。
リサは、ジョニーの留守中、同じマンションに住んでいるジョニーの親友・マークを呼び出し、浮気をしていました。
マークは、ジョニーを裏切る行為に走っている自分を恥じますが、リサの誘惑に勝てずに悩んでいました。
リサは「ジョニーが銀行内で昇進すれば贅沢な暮らしが出来る」と考えるようになりますが、ジョニーは昇進できす、落ち込んだ状態で帰宅します。
昇進しなかったジョニーに失望したリサは、ジョニーを元気づけるように見せかけ、お酒を飲んで酔わせます。
その後、リサは周囲の人間に「酔っぱらったジョニーに、乱暴された」と触れ回りますが、ジョニーの事を知る人たちは「繊細なジョニーが、そんな事をしない」と信じません。
ジョニーから離れたいリサは、クローデットに、マークと浮気をしている事を告げます。その話を、偶然聞いていたジョニーは、ショックを受け、電話に盗聴器を仕掛けました。
映画『ザ・ルーム』感想と評価
男女の裏切りと別れを描いた、ラブストーリー『ザ・ルーム』。ですが、あらすじを読んでいただいた方は、気付くかもしれませんが「クローデットの乳がん」や「麻薬に手を出したデニー」など、その後、全く作品内で触れられない、その場面だけのエピソードが存在し、意味不明の展開が続きます。
また、クライマックスとなるジョニーの誕生会で、マークとリサの浮気を最初に目撃するのが、それまで全く登場していない、名前も関係性も分からない男だったり、外の背景が何故か合成処理されており、不思議な光景になっているなど、全てにおいて奇妙な作品となっています。
作品内で、時間経過を伝える、街の映像が挿入されるのですが、物語が進むにつれて、一体どこの風景なのか分からない場所が映し出されるようになり、こういった奇妙な演出の積み重ねが、結果的に笑わずにはいられない作品に仕上がっています。
もちろん、監督と脚本、主演を担当したトミー・ウィゾーは、笑いが起こる作品など狙っていなかったのですが、何故、こうなったのでしょうか?
それは『ザ・ルーム』の裏側に迫った、2017年の映画『ディザスター・アーティスト』で描かれています。
俳優を目指し、友人のグレッグ・セステロとロサンゼルスへ移住したトミー・ウィゾーは、俳優として全く仕事が無い状況に絶望し、自身で映画を作る事を決めます。
そして、製作されたのが『ザ・ルーム』です。
ですが、トミー・ウィゾーは、周囲には理解できないこだわりを持つ男で、前述した、外の風景を合成した場面では「外で撮影すれば良い」と、忠告するスタッフに「手は抜けない」と謎の回答をしています。
トミー・ウィゾーに付いて行けなくなったスタッフ達は、険悪なムードになっていきますが、その中でも撮影は続けられ、次第にトミー・ウィゾー1人になっていく様子が描かれています。
『ディザスター・アーティスト』は、コメディ作品でドキュメンタリーではありませんが、『ザ・ルーム』の裏側に迫った本作は、ゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞にもノミネートされるほど話題になり、『ザ・ルーム』が再び注目されるキッカケになった作品です。
トミー・ウィゾーは実在する人物ですが、無尽蔵にお金を持っている以外は、全てが謎です。けれども『ザ・ルーム』には、観客を楽しませようとするトミー・ウィゾーの情熱が込められている事は間違いなく、唐突に始まるサスペンス展開などは、観客を飽きさせないようにした配慮でしょう。
『ザ・ルーム』に登場する人物の会話は要領を得ず、情緒不安定な印象ですが、中には「活きた台詞」が光っている部分もあり、特にラストにジョニーとリサが交わす最後の会話は、胸を掴まれました。
トミー・ウィゾーは、全てにおいて謎の男ですが、『ザ・ルーム』には、映画を愛した1人の男の本気が詰まっている事は、間違いない作品です。
まとめ
映画作りの知識も技術も無い、トミー・ウィゾーが作り出した映画『ザ・ルーム』ですが、奇妙な演出の数々で、別の意味で見どころが多く、鑑賞していて飽きない作品でした。
もちろん、事前に「どういう映画か?」を知っていたから、という部分はありますが、何も知らない状態だと、怒りすら覚えるかもしれませんね。
海外では、作中の酷い演出に、ツッコミを入れながら鑑賞する文化が定着していて、それが本作が愛される要因の1つとなっています。
トミー・ウィゾーの、意図したようにはいかなかったかもしれませんが、作品がファンの間で独り歩きし、結果愛されてしまうというのも、映画という文化の面白い部分ですね。