シンガーソングライターのmiletが映画初出演の『知らないカノジョ』
フランス・ベルギー合作映画『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』(2021)を恋愛映画の名手・三木孝浩がリメイク。
小説家志望の神林リクは、ミュージシャンを目指す前園ミナミと大学で出会い、互いに恋に落ちます。そして2人は結婚し、リクは超人気のベストセラー作家となります。
しかし、ミナミは志半ばで夢を諦めていました。そんな2人はある日、喧嘩をします。翌日リクが目覚めると、ミナミは有名歌手になり、リクは編集者として出版社に勤めていました。
そしてミナミはリクのことを知らなかったのです……。
シンガーソングライターのmiletが映画初出演を果たし、前園ミナミを演じました。神林リクを演じたのは、『おまえの罪を自白しろ』(2023)の中島健人。
主題歌「I still」は、miletが演じた前園ミナミの心情と重なる歌詞を書き下ろしました。
映画『知らないカノジョ』の作品情報
(C)2025「知らないカノジョ」製作委員会
【公開】
2025年(日本映画)
【オリジナル脚本】
ユーゴ・ジェラン、イゴール・ゴーツマン、バンジャマン・パラン
【監督】
三木孝浩
【脚本】
登米裕一、福谷圭祐
【音楽】
mio-sotido
【主題歌】
milet「I still」
【キャスト】
中島健人、milet、桐谷健太、中村ゆりか、八嶋智人、円井わん、坂ノ上茜、小手伸也、野間口徹、眞島秀和、風吹ジュン
【作品概要】
フランス・ベルギー合作映画『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』(2021)を恋愛映画の名手・三木孝浩監督がリメイク。
『おまえの罪を自白しろ』(2023)の中島健人が神林リクを演じ、本作が映画初出演となるシンガーソングライターのmiletが前園ミナミを演じました。
リクの友人である梶原恵介役には『ラーゲリより愛を込めて』(2022)の桐谷健太、ミナミのプロデューサー・田所哲斗役には『夏への扉 キミのいる未来へ』(2021)の眞島秀和が務めました。
そのほか、風吹ジュンや、八嶋智人など豪華なキャスト陣が顔を揃えました。
映画『知らないカノジョ』のあらすじとネタバレ
(C)2025「知らないカノジョ」製作委員会
小説家を目指す大学生・神林リク(中島健人)は、講義の中で小説を書いていると、教授に見つかり小説を書いていたノートを取り上げられてしまいます。
その日、リクは夜大学に忍び込みノートを取り返しますが、警備員に見つかり逃げ出し、講堂に忍び込みます。
すると、ステージの上で歌っている女性(milet)がいます。リクに驚きステージを降りようとして機材にぶつかり荷物を落としてしまいます。リクも慌てて拾いますが、警備員が気づいてやってきます。
「逃げよう」と女性はリクに言い走り出します。そして穴が空いた金網のところに誘導し、リクにそこから逃げてと言います。そして「私は大丈夫」と言ってどこかに行ってしまいます。
リクはそんな女性の眩しさに心を惹かれます。しかし、ふと気がつくと探しに行ったはずのノートがありません。翌日、大学内の至る所で探しますが、見つかりません。
そんなリクのところに昨日の女性が現れます。女性は「前園ミナミです」と名乗り、ノートを差し出します。ノートはミナミが持っていたのでした。
ミナミに出会ったことで、ビビッときたリクは、自分が書いている小説『蒼龍戦記』にミナミのようなヒロイン・シャドウを登場させます。
小説家を目指すリクと歌手を目指すミナミ。2人は互いに惹かれあい、恋人になり、結婚。あっという間に8年の月日が流れていきます。
リクは『蒼龍戦記』がヒットし、大人気シリーズとなり、売れっ子作家になっていました。一方、ミナミは夢を諦めリクのサポートをしますが、仕事で忙しいリクとはすれ違うようになります。
新たなシリーズに向け執筆をしているリクに、ミナミがコーヒーを淹れて渡します。ミナミが話しかけてもそっけないリク。「できたら読ませてよ」とミナミが言うと、「忙しいしそのうち書店に並ぶから」と言います。
「前は最初に読ませてくれていたのに」とミナミが言うと、「いつの話?」とリクは言い、「大詰めだから邪魔しないでくれ」と苛立って言います。
そんなリクに「私がいつ邪魔した?」とミナミはショックを受けますが、リクの苛立った態度に1人で寝室に向かいます。
小説を書き終えたリクは編集長に電話をして、「今から向かう」と言いますが、「明日でいい」と言われます。ミナミと喧嘩をしてしまったリクは1人出かけてバーで飲んでいます。
深夜、リクは帰宅しそのまま寝てしまいます。
翌朝起きると、隣にミナミの姿はありませんでした。電話がなり、編集長に「何やってるんだ、早く来い」と怒鳴られます。普段と態度の違う編集長にリクは苛立ちながら出版社に向かいます。
「遅刻したのは悪いけど、原作者なしで映画化の会議を進めるなんて……」とリクは言いますが、編集長は「どうかしたのか?」と不思議な反応をします。
会社には親友の梶原の姿もあり、リクは安心して皆の態度がおかしいことを訴えますが、梶原にもおかしくなったと思われてしまいます。
リクはタクシーに乗って家に向かいながら、ミナミに電話をしようとしますが、電話帳からミナミの電話番号が消えています。
ふとタクシーから窓の外を見ると、宣伝カーに歌手としてミナミの姿が映っています。タクシーから流れるラジオで、神宮で公開収録をしていることを知ると、リクは目的地を変更します。
サインをもらうファンに紛れてリクもミナミに話しかけます。夫であるリクに対し知らない人のように「お名前は?」とミナミは言います。
映画『知らないカノジョ』の感想と評価
(C)2025「知らないカノジョ」製作委員会
フランス・ベルギー合作映画『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』(2021)を元に映画化された『知らないカノジョ』。
大枠としては、オリジナル版と同じ展開になっていますが、恋愛映画の名手・三木孝浩監督によって日本らしいラブストーリーになっています。
中島健人演じるリクは、思い詰めるとまっしぐらに突き進んでしまうところがあり、身勝手部分もあります。それでも真っ直ぐで誠実に人と向き合います。
そんなリクだからこそ、ミナミの祖母はリクを信用したのです。
がむしゃらで周りが見えなくなってしまうが故にミナミに誤解されてしまいますが、次第にミナミもリクの誠実さに惹かれていきます。
一方で、田所は歌手としての前園ミナミを愛していました。そのためには何でもしますが、それは人として、素顔の前園ミナミのことは考えていません。
ミナミにとって、田所は必要な存在であり、田所のおかげでここまで来れたという感謝もあったでしょう。
それでも、全てを投げ捨てたとしても、リクは変わらず自分のことを愛してくれる、けれど田所はそうではない……。そのことに気づいたミナミはリクを選ぶのです。
一方、リクは違う世界にきて、歌手である前園ミナミと親しくなり、何でも知っていると思っていたミナミの知らない部分に気づかされます。
それは、リクが仕事にがむしゃらで気づこうとしていなかったミナミの優しさだったのです。
いつのまにか当たり前の存在になり、向き合ってこなかったミナミの存在を失って初めて気づくという皮肉。
しかし、リクは新たな世界に来たことで、やり直せる、変わることができるチャンスを与えられたとも言えるのです。
そのことを教えてくれたのは梶原の存在でした。事故で妻を失った梶原にとって、妻が死なない未来があるなら何だってしたいと思ったはずです。
それでも人生は一度きり、やり直すことはできないのです。
諦めようとするリクの背中を梶原が押し続けたのは、自分はやり直せないけれど、リクはやり直すことができるからなのです。
オリジナル版でも、主人公がパラレルワールドから来たという突飛な話を信じ、協力してくれた親友の存在がありました。
日本版では、オリジナル版よりさらに梶原の存在が大きくなり、重要な存在になっている印象を受けました。
もう1人、オリジナル版と比べ重要な役所になっているのはミナミの祖母です。
認知症を患い、目の前の人が誰だか分かっているような分かっていないような掴みどころのなさを感じる存在ですが、リクに向かって意味深なことを言う場面があります。
最初は何のことだか分かっていなかったリクでしたが「戻るってことは大きな何かを失うってことよ」や「昔は私のことを知らない人はいなかった」と有名な歌手であったことを仄めかしています。
しかし、ミナミは亡くなった両親に代わって自分を育てるために、祖母は歌手の道を諦めたと言っていました。
そのことから、もしかしたらリクと同じくミナミの祖母も、パラレルワールドからやってきた人なのではないかと考えられるのです。
そして、祖母は戻るという選択をしなかったのです。それはミナミのためでした。
同じようにリクもミナミの幸せのために、戻らずこの世界で生きていこうと考えます。しかし、そんなリクに対し、ミナミは勝手に離れていこうとするリクを引き止めるのです。
とっくに巻き込まれていたミナミにとって、ミナミの世界からリクが消すことはもうできないのです。
オリジナル版とは違うミナミの意思が感じられるラストになっていると言えます。
まとめ
(C)2025「知らないカノジョ」製作委員会
本作で映画初出演を果たしたシンガーソングライターのmilet。
三木孝浩監督の『TANG タング』(2022)の主題歌を担当した縁で、三木孝浩監督がMVも手がけました。
その際に、演技に挑戦してはどうかと感じていたという三木孝浩監督。
本作では、大学時代の何者かになりたくてがむしゃらだった前園ミナミから、国民的歌手となった姿まで様々な表情を見せています。
また、劇中歌であり主題歌でもある『I still』は、miletが歌詞を書き下ろしました。
劇中のミナミの心情と重なるような切なくも愛おしい歌手にも注目です。