ホットワインやココアが似合う季節になると、夏よりもなんだか心がそわそわするように感じられるのは気のせいでしょうか。
愛の言葉が似合う言語の国、誰もが恋をする街パリからロマンティックでビターな大人の愛の物語が到着。
フランスの人気監督フィリップ・ガレルの息子で、俳優としても活躍するルイ・ガレルが監督と主演を務めた映画『パリの恋人たち』。
青年アベルの戸惑いを軸に、マリアンヌの幼い息子の不思議な態度、ポールの妹エヴのアベルへの想いなど、様々な感情の往来がテンポよく、そしてユーモアを交えた小粋なロマンティック・コメディです。
映画『パリの恋人たち』の作品情報
【公開】
2018年(フランス映画)
【原題】
L’homme fidele
【監督】
ルイ・ガレル
【キャスト】
ルイ・ガレル、レティシア・カスタ、リリー=ローズ・デップ、ジョゼフ・エンゲル
【作品概要】
監督はフランスの名匠フィリップ・ガレルの息子で、『ドリーマーズ』(2003)や『SAINT LAURENT/サンローラン』(2014)、また『グッバイ・ゴダール!』(2017)に出演してルイ・ガレル。
ルイ監督は以前より短編映画を制作しており、長編映画を手がけるのは本作が初めて。脚本に参加しているのは『存在の耐えられない軽さ』(1988)『つかの間の愛人』(2018)、またルイス・ブニュエルとも仕事経験があるジャン=クロード・カリエール。
共演はルイ・ガレルの実の妻で『歓楽通り』(2002)や『ゲンズブールと女たち』(2010)、『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』(2019)に出演するレティシア・カスタ。
また、ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘、シャネルをはじめ数々のファッションブランドでモデルを務め、俳優業では『プラネタリウム』(2016)でナタリー・ポートマンと共演したリリー=ローズ・デップも出演しています。本作は第66回サンセバスチャン国際映画祭で脚本賞を受賞しました。
映画『パリの恋人たち』あらすじとネタバレ
ジャーナリストの青年アベルは恋人のマリアンヌと三年間同棲中。ある日マリアンヌから妊娠を告げられますが、アベルではなく共通の友人ポールとの子供だと言い出します。
1年半ほど前から関係を持っていたというマリアンヌ。彼女はポールと結婚するといい、アベルは家から出ていくことを余儀なくされます。
それから数年が経ち、アベルがマリアンヌと再会したのはポールの葬式でした。睡眠中に心臓麻痺をおこしたのだと言いました。
アベルはマリアンヌと9歳の息子ジョゼフを家まで送りました。そんなアベルを見つめるのはポールの妹エヴ。
エヴは幼い時からずっとアベルに恋をしていて、彼に気付かれないようにいつも追いかけまわし、写真もこっそりたくさん撮っているほどでした。
アベルがまだマリアンヌが好きだと感じ取ったエヴはマリアンヌを憎たらしく思っています。
不動産の仕事をしているエヴは、ある時道でアベルとばったり再会。アベルもポールの妹の成長に驚き、彼女も女性になったことを知ります。
数週間たち、アベルとマリアンヌは一緒に食事をし、アベルは久しぶりにかつて一緒に住んでいた家を訪れました。
9歳の息子ジョゼフはアベルにこっそり、パパを殺したのはママだと言います。
普通は死んだら、解剖や検査をするからわからないはずがないと言うと、マリアンヌは医者と寝ているとジョゼフ。
アベルはその医者に会いに行きますが、医者は自分はゲイだと言い、マリアンヌとの関係は分からなくなってしまいました。
マリアンヌは、息子が自分が夫を殺したというのは、ミステリードラマのファンで、またアベルを怖がらせて出て行って欲しいからだと言います。
アベルとマリアンヌは再び一緒に住むようになりました。
ある日、エヴはアベルとマリアンヌの様子をうかがうために、道端で遊ぶジョゼフに声をかけました。
ジョゼフはアベルが来てから母親は、彼にばかり世話を焼いているためアベルが嫌いだと言い、また「ママとアベルはセックスの回数が少ないからカップルではない」と言います。
彼はこっそりベッドの下に携帯を仕掛けて盗聴していました。
映画『パリの恋人たち』の感想と評価
三角関係やおかしな大人の恋模様は、何度も何度もいろいろな映画で描かれてきました。
特にフランス映画では、男女の恋愛関係にフォーカスを当て続けたエリック・ロメール監督や、本作の監督ルイ・ガレルの父フィリップ・ガレルの作品など、決して特別なものではありません。
一般の人々の日常を描いた恋愛映画の魅力とも言えるでしょう。
本作には青年アベルらのモノローグの語りや、彼をとりまく奇妙な三角関係と、ルイ・ガレルが憧れてきたヌーヴェル・ヴァーグの騎手として知られるフランソワ・トリュフォーの影響が強く見られます。
『夜霧の恋人たち』(1968)のジャン=ピエール・レオが演じる青年のように、何だか曖昧で、原題でもある“誠実な男”そのままなのに弱々しく憎めない男であるガレルのキャラクター、アベルに愛おしさがこみ上げます。
本作の魅力を倍増させている要因のひとつは、アベルを翻弄する女性ふたりのキャラクター。
リリー=ローズ・デップが演じる女の子エヴは、小悪魔というよりも恋に盲目であることを楽しみ経験が少ないゆえ、突進力を持っている若さが弾けんばかりのキュートな女の子。
ストーカーまがいの行動でアベルを追い続け、彼を手に入れることができますが、それから淡々と冷めていく様子に女性の単純で複雑、アンビバレンツな恋心が見えておかしくてたまりません。
エヴとは対照的に成熟した女性、マリアンヌを演じるのはガレルの実のパートナーであるレティシア・カスタ。
マリアンヌはずっとアベルの他に愛人と呼べる男がおり、子供の父親をコインで決めてしまうようなある意味での無邪気さ、奔放さを持つファム・ファタールと言える女性。
エヴと同居することに関しても、最初から最後までアベルはエヴに翻弄されっぱなし、彼女の本当の愛や心はどこにあるか分からないミステリアスな女性ですが、モノローグで彼女自身の心情が吐露されているのが本作のキャラクター全員に感情移入できる理由のひとつ。
“浮気心”“誠実”そんな言葉を知りながらもその通りには生きられない、また既存の概念に属して生きるなんて叶うか分からない、またそれで恋愛を享受できるかなど分からない…自由で不思議に恋多き男/女である喜びを軽やかに本作は描き出しています。
ミステリアスな女として振る舞うこと、ちょっぴり弱い男であること、時に不格好でも心の赴くままに流れていくことの人間的なあり方の魅力を運び、エネルギーをあたえてくれるラブストーリーです。
まとめ
絶対に分かり合えることは無いのかもしれない、女と男の不可思議で危険な関係。そして“愛という曖昧な賭け”の物語をヌーヴェル・ヴァーグの輝きを持ってアップデートしたルイ・ガレル。
これからは俳優としてだけではなく俳優としても要注目の存在です。
楽しくも心を乱す出来事である“恋愛”ですが、本作が新しい見方と彩りをプレゼントしてくれるかもしれません。