パラレルワールドは存在するのか?
今の自分が生きている世界が本物だと自信を持って言えますか?
これまで数多くの作品が映画化されてきた人気小説家・東野圭吾の1995年刊行の小説『パラレルワールド・ラブストーリー』の実写映画化作品です。
友達に紹介された彼女は、自分が密かに想い続けていた人でした。そして、同時に自分の彼女でもありました。
記憶にズレが生じた時、それは別の世界への鍵が見つかるサインかもしれません。
恋と友情の間で揺れ動く感情は、誰も想像がつかない所へと向かい、あるひとつの真実へとたどり着きます。
現実の世界と並行する別の世界。どちらも現実の世界かもしれません。
映画『パラレルワールド・ラブストーリー』を原作と映画の比較を交えて紹介します。
CONTENTS
映画『パラレルワールド・ラブストーリー』の作品情報
【公開】
2019年5月31日(日本映画)
【原作】
東野圭吾
【監督】
森義隆
【脚本】
一雫ライオン
【キャスト】
玉森裕太、吉岡里帆、染谷将太、筒井道隆、美村里江、清水尋也、水間ロン、石田ニコル、田口トモロヲ
【作品概要】
全く別の世界で全く違う人生を歩む3人の男女の物語。人気小説家・東野圭吾の小説『パラレルワールド・ラブストーリー』の実写映画化作品です。
監督は、『宇宙兄弟』『聖の青春』と、多数の映画賞を受賞している森義隆監督です。
主人公の崇史役にKis-My-Ft2の玉森裕太、麻由子役に吉岡里帆、智彦役に染谷将太と、ドラマに映画にと人気沸騰中の実力派俳優が集結しました。
映画『パラレルワールド・ラブストーリー』のあらすじとネタバレ
敦賀崇史は、大学院在学中、毎週同じ曜日の同じ時刻、同じ車両の同じドアの前に立ち、通学していました。
それは一時、並行して走る電車の中にいる、名前も知らない彼女に会うためでした。電車のドアを挟み、2人の視線が絡まる時、彼女の微笑んだ顔が忘れられません。
就職が決まり、その電車に乗る最後の日。崇史は冒険することにしました。いつも彼女が乗っている電車へ乗り込みます。
彼女がいつも立っている車両のドアに着くも、彼女の姿はありません。周りを見回す崇史の目に映ったのは、いつも自分が乗っている電車の中を誰かを探して走る彼女の姿でした。
急いで乗り換える崇史。しかしそれ以来、彼女の姿を見ることはありませんでした。
まるで蜃気楼のように消えた彼女。「あっちはこっちのパラレルワールドなのかもしれない」。電車越しの恋はこうして終わるはずでした。
やがて時は経ち、崇史は、総合コンピュータメーカー・バイテック社が最先端技術の研究を目的に設立した、MAC技術専門学校で脳の研究をしていました。
その日は、中学からの同級生で、大学も会社も同じ親友・智彦から初めての彼女を紹介される予定でした。喫茶店で待つ崇史の前に現れたのは、恋焦がれていた電車の君でした。
「はじめまして」。「彼女」こと津野麻由子は、崇史が一度みたことのある微笑みを浮かべました。
智彦から麻由子を紹介されたのをきっかけに、崇史と智彦の関係は変化しつつありました。
崇史は麻由子のことが好きでした。親友の彼女だと諦めようとすればするほど惹かれていきます。なんで俺じゃなく智彦なんだ。悪魔のささやきが聞こえてきます。
ある朝、崇史は自分の家のベッドで目を覚ましました。寝室を出てリビングにいくと女性が食事の準備をしています。津野麻由子でした。
崇史は、あたかもその光景が日常であるかのようにリラックスしています。「麻由子、そう言えば智彦って、今何してるんだっけ?急に智彦のことを思い出したよ。友人なのに」。
「三輪さんならロス支局に行ったじゃない。急な移動だったし、あなたも忙しくて疲れているのよ」。麻由子は答えます。
MACに出勤し、智彦のことを同僚に聞いてみても、ロス支局に移動になったと口を揃えて言います。なぜ自分には連絡がないのだろうと崇史は疑問を抱きます。
先輩から麻由子との出会いを聞かれ「智彦から紹介されたんです」と答えるも、どこか違和感を覚える崇史。麻由子と撮った記念写真が歪んで浮かびます。
記憶の中のある夜のこと、崇史、智彦、麻由子の3人で飲み会を開いていました。智彦は自分の研究室で、大きな成果があったことを嬉しそうに話し出します。
その実験とは、少し行き過ぎた人体実験でした。脳の側頭葉への刺激テストを行った研究員が、間違った記憶をあたかも本当の記憶のように話し出したというのです。しかも、それは自分の都合の良い記憶に変わっていました。
自分の経験してきた真実が、書き換えられてしまう。脳の記憶の改変が可能となる。それはパラレルワールドも人工的に作り出せることを意味していました。
飲み会を開いたそのお店には、来店記念にポラロイドで写真を撮ってくれるサービスがありました。3人は写真を撮ってもらうことに。麻由子の肩に手を回したのは、智彦でした。
体がだるい。崇史は家に帰ると麻由子が心配してくれます。どうしても智彦のことが気になった崇史は夜中にロス支局へ電話をかけます。
ロス支局の職員によると、智彦は間違いなく支局にいるが、極秘の研究のため個人的な連絡は取れないとのことでした。やはり不安は拭えません。
記憶は、麻由子の誕生日へと戻ります。何をプレゼントしたらいいかと智彦に相談された崇史は、複雑な思いでした。
並行する電車のドア越しの恋。麻由子も憶えているに違いないと確信した崇史は、麻由子を呼び出し指輪を渡します。
受け取れないと言う麻由子に、崇史は「君と出会ったのは俺の方が先だ。電車でのこと君も憶えているんだろ」と諦めきれない気持ちをぶつけます。
MACの研究室でいつもと同じ実験を繰り返す崇史の元に、ロス支局の智彦から手紙が届きます。
その手紙には元気にやっているから心配いらないと楽しそうな言葉が連なっていました。「こっちは生ガキが最高に美味しいよ」と、結ばれた手紙。しかし、智彦はカキが苦手だったことを崇史は知っていました。
何者かが智彦に成り代わり、手紙を送ったのではないか。その疑問は、真実へと崇史を導きました。記憶の中にある写真を撮った店。そこで智彦が苦手なカキを自分に渡す光景が蘇ります。
崇史はその店に行ってみることにしました。そこには、麻由子の肩に手をかけ微笑んでいる智彦と自分の映った写真が飾られていました。麻由子は間違いなく智彦の彼女でした。
家に戻り麻由子を問い詰める崇史。「麻由子は誰の恋人なんだ?もう信じられない」。悲しそうな麻由子を置いて、智彦の研究室へ向かう崇史。自分の本当の世界はどこにあるのでしょうか?
『パラレルワールド・ラブストーリー』映画/原作比較
多くの作品が映画化されてきた人気小説家・東野圭吾。今回の原作『パラレルワールド・ラブストーリー』の刊行は1995年です。刊行から24年後にして映画化となりました。
脳科学の研究の過程で行われる、人工的な記憶の改変実験。この実験が小説の軸になってきます。
24年前は近未来の出来事と感じたであろう内容が、2019年の現代社会では本当にありそうな内容として受け止めることが出来ます。
主人公の崇史は、現実ともうひとつの世界を行き来し、恋と友情の間で苦しみ、真実へと導かれます。その過程の中で、気になる原作との違いをいくつか紹介します。
友への嫉妬
主人公・崇史の性格は頭が良く、容姿にも自信があり、ゆえにプライドが高く、負けず嫌い。片足の不自由な智彦のことを気遣う優しい一面もありました。
そんな崇史が、智彦に麻由子を紹介されたのをきっかけに、親友への嫉妬心が沸き上がります。
さらに、研究でも先を越されたとわかると、崇史は隠していた黒い気持ちを表に出すようになっていきます。
原作に比べ映画では、玉森裕太の爽やかさで主人公の嫉妬心が柔らかく感じられますが、原作では、意地の悪さがでてしまう場面もリアルに描かれています。
崇史が麻由子に対し、智彦の体についてどう思っているのかと聞く場面があります。「それって同情じゃないのかな」。崇史はどうしても麻由子が自分より智彦を選んだことに納得がいきません。
また、映画では崇史と麻由子がバスケを楽しむシーンがありますが、原作では2人はテニス経験者で、そのことを智彦には秘密にするよう仕向けたりもします。
結果、最後に崇史は智彦の自分への友情の深さを思い知り、自分の弱さに失望することになります。
自分の心の醜さに気付きながらもプライドを捨てられない崇史の葛藤に胸が締め付けられます。
絡まる三角関係 その1
原作では、麻由子の気持ちを試すある出来事が起こります。それは、3人を巻き込む、アメリカ支社への移動の話です。
はじめ、崇史と智彦の元へ同時にアメリカ支社への移動の話が入ります。それは、バイテック社で働くものにとって名誉あるものでした。
しかし、崇史が出した答えは、日本に残るという選択でした。それは、麻由子と離れたくなかったことと、智彦と麻由子が離れる隙をついて自分が麻由子と付き合えるかもしれないという思いからでした。
そのことを告げられた麻由子は崇史を非難しますが、着いてきてほしいと言われた智彦にも返事をしないまま、気持ちが揺れ動きます。
崇史が断ったことで、今度は智彦の助手としてアメリカ行きの話が麻由子の所に持ちかけられます。崇史は自分の考えにバチが当たったと思い、2人でアメリカに行くよう進めますが、麻由子はその申し出を断ります。
なぜと聞く崇史に「私は行く権利がない」と、智彦にはその誘いがきたことも内緒にします。
麻由子は常に2人の才能と友情に傷を付けたくないと遠慮し続けます。
しかしその優しさが、結果的にどちらも選べず2人の気持ちを長引かせることになります。そう踏まえると、麻由子とは実に罪な女性なのです。
絡まる三角関係 その2
智彦から自分の記憶を改変して欲しいと頼まれた崇史は、研究室で智彦と麻由子のことで言い争いになります。
原作では、智彦がここに麻由子も呼び出します。崇史との関係を詰め寄る智彦に「そんなこと言いたくない」と、またしてもはっきりとした答えをだせない麻由子。そのことが智彦の記憶改変を行う最後の決め手となりました。
三角関係は前に進むことも、諦めることも出来ないまま、3人を苦しめていきます。
最後は智彦が記憶を消す事で身を引こうとしますが、麻由子もまた2人の前から姿を消そうと考えていました。
崇史はそんな2人の思いを知り、自分のことしか考えていなかった自分に嫌気がさします。しかし時すでに遅し。
記憶を消し、再び新たなパラレルワールドを過ごす3人の幸せの道はあるのでしょうか?
また、同じ過ちを繰り返す世界が待ち受けているかもしれません。
絡まる三角関係 その3
物語の最後に麻由子は崇史とともに、自らの記憶を消す道を選びます。「やはり私も弱い女なの」。この言葉の本当の意味は麻由子にしかわかりません。
映画では、記憶を消した崇史と麻由子が横断歩道ですれ違い、お互い振り返るシーンで終わりますが、原作では記憶改変装置に崇史が座り、麻由子がヘルメットをかぶせるシーンで終わります。
「向こうの電車で僕のことを見ていたんだろ?」と聞く崇史に、麻由子は「見ていたわ」と答えます。しかしその答えも記憶の中から消されます。
果たして、麻由子は本当に自分の記憶も消したのでしょうか?
それは、原作でも映画でも謎のままです。
映画でのラストシーン、振り返り崇史を見る麻由子のまなざしに「実はすべて憶えているのでは!?」と勘ぐってしまいます。
まとめ
人気小説家・東野圭吾の小説で実写映画化された『パラレルワールド・ラブストーリー』を、原作と映画を比較しながら紹介しました。
ある日、友達が紹介したいと連れて来た女性は、前から自分が密かに思いを寄せていた人物でした。
止められない恋心と、友達への嫉妬心。三角関係の終演に3人が選んだ方法とは?
東野圭吾作品では稀なラブストーリーは、やはり普通のラブストーリーではありませんでした。最新科学を取り入れたミステリー恋愛小説は、切なくも不気味な余韻を残してくれます。
そしてこの難解ミステリーを映像化した映画『パラレルワールド・ラブストーリー』は、カリスマ性がある俳優陣、玉森裕太、吉岡里帆、染谷将太が集結したことで、よりリアリティある物語に生まれ変わりました。
パラレルワールドが人工的に作り出せる時代が、すぐそこまでやって来ているのかもしれません。