映画『男と女、モントーク岬で』は、5月26日(土)より全国順次公開。
ニューヨークのロングアイランド。そこは思い出の地であり、“あの日”に戻りと未来を選びなおす男と女…。
ドイツ・ジャーマン・シネマの名匠フォルカー・シュレンドルフ監督が、どうしても描きたかった艶やかな大人の愛の物語。
違うからこそ求め合い、理解できないからこそ愛おしい、大人のラブストーリーとは?
CONTENTS
映画『男と女、モントーク岬で』の作品情報
【公開】
2018年(ドイツ・フランス・アイルランド合作映画)
【原題】
Return to Montauk
【監督】
フォルカー・シュレンドルフ
【キャスト】
ステラン・スカルスガルド、ニーナ・ホス、スザンネ・ウォルフ、ブロナー・ギャラガー、ニエル・アレストリュプ
【作品概要】
名作『ブリキの太鼓』や『待女の物語』などで知られる、ドイツの映画運動ニュー・ジャーマン・シネマの代表的な監督名フォルカー・シュレンドルフの大人のラブストーリー。
作家マックス役にハリウッドでも活動するスウェーデンの名優ステラン・スカルスガルドが務め、昔の恋人レベッカ役に『東ベルリンから来た女』のニーナ・ホスの共演。
映画『男と女、モントーク岬で』のあらすじ
小説家のマックス・ゾーンは、新作書籍のプロモーションのため、ニューヨークにある書店や図書館を訪れ、自身の作品を朗読して聞かせます。
物語の内容は、「やって、後悔すること。やらずに後悔すること。この二つの公開が人生の物語を形作るのか」というような、実らなかった恋の思い出を綴った小説でした。
マックスの執筆した美しい文章と、彼の絶妙な店舗の朗読で聴衆の心を掴んでいきます。
出版社のインターとして働く妻クララとの再会のほか、かつて、恋人関係にあったレベッカとも、どうにか再会を果たしたマックスは、自身を歓迎する関係者のパーティで、すっかり酔いどれてしまいます。
酔いを覚まそうと店から出たマックスだが、酔いの勢いもあってか、昔の恋人レベッカの自宅を訪ねます。
しかし、レベッカはよそよそしく、別れてから何があったのか何ひとつ語ろうとしませんでした。
その際にレベッカと一緒にいた彼女の親友レイチェルに「彼女は独りか?」とたずねますが、教えてはもらえませんでした。
失意のマックスがニューヨークを発つ3日前、予想外にもレベッカの方からモントーク岬への旅の誘いが舞い込みます。
マックスはクララとの予定があったにも拘わらず、レベッカとの時間を優先、それは、かつて幸せだった頃の2人が訪れた場所だったからです。
そのアリバイ工作に新書の広報担当のリンジーは「クララという人がいるのに」と憤慨しつつも協力をします。
果たしてレベッカの真意は?そして、語られない過去の秘密とは…。
映画『男と女、モントーク岬で』の感想と評価
大人しか感じ得ない年を重ねた空気感
2018年で79歳となった名匠フォルカー・シュレンドルフが、どうしても描きたかった大人のラブストーリー映画『男と女、モントーク岬で』。
派手な演出はないものの、そこに漂う空気感に品格を感じさせられます。
大人になれば誰しも、今に生きながらも過去に過ごした時間とも生きているものです。
それはデジャブのような気配、また、過去をまるで走馬灯のように思い起こすようなことは、案外どなたにもあるものでしょう。
本作の各シーンに登場する場面には、騒がしいバーや独り歩く夜道、また、恋人とのドライブやレストランでの食事などに、深い空気感を感じるはずでしょう。
それはもちろん、マックス役を演じたステラン・スカルスガルドや、レベッカ役のニーナ・ホスの演技力によって、彼らに魅せられ感じるものですが、さすが名匠フォルカー・シュレンドルフ監督といえる演出力が大きいものでしょう。
何が凄いのかというと、それぞれ2人の気配を包み込んだ空気感は、男女の溝に繋がり、やがて、隙間風を吹かせて見せます。
そして、最後には風が凪ぐ。
大人のラブストーリーは、若い頃の燃え上がる思いだけではなく、やはり、空気感で感じる愁いなのだと思います。
本作の撮影監督には、フランソワ・オゾン監督の『危険なプロット』などのジェローム・アルメラが務めたことも、映像に空気感が映った要因でしょう。
フォルカー・シュレンドルフ監督は、信頼関係のあるジェローム・アルメラと、多くの旅行やロケーションハンティングを行なっていたことで、互いの感覚を合わせる時間が持てたと語っています。
そのうえで、フォルカー・シュレンドルフ監督は、このように語っています。
「とにかく私たちは、役者たちを通して物語を語ろうとしているということ。もちろん、素晴らしい撮影場所もある。ニューヨーク、灯台、モント-クのどこまでも続く海岸。しかし、それは肝心なことではなかった。大事なのはむしろ、心に抱いている状況、感情、失った機会への後悔に立ち向かう人間だった」
これらに並べられた全てのことが、合間って大人の“空気感”となっているのでしょう。
物語はシンプルで小品だが、豊かさの詩情を空気感で見る映画を、ぜひ、女性のあなたには感じていただきたい作品です。
印象深いロケ地「モントーク」
映画冒頭のクレジットロールは、主人公マックスが空港に降り立ったことを、実景ではなくデザインとして、おしゃれに見せたことも、本作『男と女、モントーク岬で』の秀でたところです。
その後、マックスの作家としてのプロモーション活動も、喧騒的なニューヨークの人々との間で賑やかに行われます。
しかし、年を重ね少しお腹が出てしまい、服のセンスもイマイチなマックスには、どこか付いていけない、寂しい気持ちを抱きます。
そこで過去に関係のあった恋人レベッカからデートに誘われたマックスは、ニューヨーク最東端にあるモントークに向かいます。
フォルカー・シュレンドルフ監督は、ロケ地の「モントーク」についてこのように述べています。
「モントークはアメリカ先住民のことばで「陸地の終わり」を意味するんだ。それは大西洋に伸びていく沿岸沿い、ロングアイランドの最東端だ。そして灯台が岬の一番端にある。ポルトガルやブルターニュに似てるね。常に感情を波立たせる特別な場所だよ。それは陸地が終わる場所。そこで人生が終わるわけじゃない。でも、その地点からは、実際に振り返ってみることしかできないんだ」
「その地点から、振り返ってみる」というフォルカー監督の言葉が、この映画の全てですね。
熱い思いを抱く関係のあった男女2人。
彼らが「人生が終わりじゃない」けど、見つめ直したことは、成熟してなお過程に過ぎないフォルカー監督の伸びしろなのかも知れません。
フォルカー監督は映画の撮影について、このように語っています。
「今や、デジタルへの過剰評価は終わりに近づき、私たちは再び、最もシンプルな方法へ回帰できる。つまり、技術的可能性のために映画を作らなくてもよいということだ。それは、私にとって、とても大事なことだ」
モントークという場所。男と女。波と風。そこに持つメタファー(隠喩)。
これらと監督の言葉と、映画『男と女、モントーク岬で』を見たことを鑑みた時、映画はシンプルに、場所と男と女があれば成立するとでもいう発言かもしれません。
実際にインタビューの中で、フォルカー監督は「撮影中、多くのことが私にヌーヴェルバーグを思い出させた」と語っています。
本作は年を重ね成熟してきたフォルカー・シュレンドルフ監督にとっては、精神性においては、J=L・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』のような映画なのかもしれません。
都会と田舎に揺れる心情、男と女の埋まらない空気感に、映画好きなあなたは何を見ますか。
大人の映画を好むファンは必見ですよ。
本作を公開する劇場は?
【北海道地区】
北海道 シアターキノ 順次公開
【関東・甲信越地区】
東京都 ヒューマントラストシネマ有楽町 5/26(土)~
東京都 新宿武蔵野館 5/26(土)〜
千葉県 千葉劇場 5/26(土)~
群馬県 シネマテークたかさき 順次公開
静岡県 シネマイーラ 順次公開
【中部・北陸地区】
愛知県 名演小劇場 5/26(土)~
【近畿地区】
大阪府 テアトル梅田 6/2(土)~
兵庫県 シネ・リーブル神戸 6/23(土)~
*上記の公開される劇場リストは4月13日現在の情報です。作品の特性上、全国順次公開やセカンド上映されることが予想されます。
お近くの劇場でご覧になりたい方は、必ず公式ホームページでご確認のうえ、足を運んでみて下さいね。
まとめ
フォルカー・シュレンドルフ監督の作品を初めて見たのは、名作『ブリキの太鼓』。
1979年度カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞やアカデミー外国語映画賞を受賞した作品です。
しかし、公開以後も、原作を忠実な映像表現が世界中で、大きな話題や規制措置をなされたことで知られています。
思春期の自分にとっては、非常に濃厚な性的描写が刺激的でした。
今回ご紹介した本作『男と女、モントーク岬で』でも、ベットシーンはあります。
しかし、“エロスという生きる力”は、実際のそのもの行為のみでなく、空気感に感じるような感じもしました。
きっと、それは老成ではなく成熟というものをフォルカー・シュレンドルフ監督が示したからだと思います。
“大人の雰囲気”という言葉がありますが、真の意味では大人として“足るを知る”ことがエロスのようなかもしれません。
あなたはどう感じられるでしょう。
映画『男と女、モントーク岬で』は、5月26日(土)より全国順次公開。
大人のあなたは、お見逃しなく!