誰がこの心の空白を埋めてくれるの。
映画『溶ける』で高い評価を受け、史上最年少でカンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門に正式出品されるなど、国内外で注目を集める井樫彩監督の初長編作品です。
悲しみを抱えた2人の女性が、お互いを必要としていくストーリー。そこには、性別を超えた愛情がありました。
一人では抱えきれない悲しみを二人なら和らげることができるのでしょうか。心の空白はどうすれば埋まるのでしょか。
性別や歳の差を超え、強く惹かれていく激しい恋の結末は?『真っ赤な星』を紹介します。
映画『真っ赤な星』の作品情報
【日本公開】
2018年(日本映画)
【監督】
井樫彩
【キャスト】
小松未来、桜井ユキ、毎熊克哉、大原由暉、小林竜樹、菊沢将憲、西山真来、湯舟すぴか、山谷武志、若林瑠海、大重わたる、久保山智夏、高田彩花、長野こうへい、中田クルミ、PANTA
【作品概要】
国内外で注目を集める新鋭・井樫彩監督の初長編作品『真っ赤な星』。
2人の女性の愛のカタチを通して、現代のセクシュアル・マイノリティを考えさせられる作品です。
14歳の少女・陽を演じるのは、『みつこと宇宙こぶ』で第11回田辺・弁慶映画祭主演女優賞を受賞した小松未来。相手役の弥生には、『娼年』の桜井ユキが演じています。
映画『真っ赤な星』のあらすじとネタバレ
晴れ渡る青空の中、赤いパラグライダーが舞い降りてきます。
病院では、怪我で入院している陽(よう)を、看護師の弥生が看病していました。
14歳の陽は、優しくて綺麗な27歳の弥生に淡い恋心を抱いていました。触れる手にドキドキが伝わりそうです。
誰が人気看護師かという話題に「私は弥生ちゃんが好きだな」とつぶやく陽。弥生は、陽の純粋な気持ちに「こんな私でも好きと言ってくれて、ありがとう」と涙を流します。
弥生の心の傷に気付くには、陽はまだ若すぎます。
陽の退院の日です。弥生を探す陽。弥生は、前日に看護師を辞めていました。
陽は学校へも行かず、ぶらぶらと日々を過ごしていました。
病院を見ると弥生を思い出します。「弥生ちゃん、どうしてるかな」。幼なじみの大祐は「お前、弥生ちゃん好きだよな」と、陽の気持ちを否定しない良き理解者のようです。
天文台からは、青空に浮かぶ赤いパラグライダーが見えました。
ある日の夜、好奇心で地元では有名な「やり場」に近づいた陽は、駐車してある車の中に弥生の姿を見つけます。
「弥生ちゃん」声をかける陽に、弥生はもう優しい看護師ではありませんでした。「ここにはもう来ちゃダメよ」すっかり変わりはてた弥生の姿にショックを受ける陽。
それでも、弥生へ会いたい気持ちが募ります。夜、家を抜け出し弥生の元へ行こうとする陽は、同居する母親の彼氏・雅弘につかまります。
口答えする陽へ雅弘は、暴力を振るい無理やり犯します。
ふらふらと弥生の車にたどり着く陽。「弥生ちゃんのいる病院に入院したい」。
血まみれの陽の姿にすべてを察した弥生は、自分の家に連れて帰ります。「今夜だけだよ」弥生は、はやり以前の弥生でした。
夜になると弥生は車で出かけます。体を売って金を稼ぎます。揺れる車の中で、赤いパラグライダーの飾りが揺れています。
弥生の帰りを家で待つ陽。掃除、洗濯と弥生の世話が出来ることが嬉しそうです。
朝になっても帰って来ない弥生を心配する陽。部屋で揺れるパラグライダーの飾りが目に付きます。以前、天文台で見たパラグライダーと重なります。
陽は、パラグライダーの着地する場所へと走ります。「見つけた」。そこにはパラグライダーをする弥生の姿がありました。「陽にはいつも見つかっちゃうね」。
部屋に帰るもガスが止められていました。仕方なく銭湯に行く2人。弥生のうなじに赤い痕を発見し「これどうしたの」と聞く陽に、「おこちゃまだね」と同じ痕を残す弥生。陽の背中に残る赤い痕が疼くようです。
夜出かけていく弥生を、行かないでと止める陽。弥生はあきらめたようにキスをし、やはり出かけるのを止めません。
陽の弥生に対する気持ちは、ハッキリと愛でした。
陽は荷物を取りに一旦家に帰ることにします。家では雅弘に出くわしてしまいました。また襲われそうになる陽の所へ、母親が帰ってきます。
母は怒り止めに入るも、「陽が誘ったんでしょ」と責めます。母親の女としての態度にげんなりする陽。
その日、弥生は陽を秘密の場所に誘います。それは、あの天文台でした。自分の鍵で天文台の中へ入る弥生に、陽は驚きながらもついて行きます。
天文台の屋根を開くと、一面に光輝く星空が広がります。「辛い時、いつもここに来て、流れ星に願い事をしていたの」弥生は陽にこの星空を見せたかったのです。
弥生の願い事を聞く陽に、弥生は「お母さんと仲良くできますように。好きな人とうまくやれますように。産める体に戻して欲しい。願い事は一度も叶ったことがない」と答えます。
「陽の願い事は?」と聞き返す弥生に陽は「弥生ちゃんが綺麗なままでいてくれますように。もっと弥生ちゃんの側にいけますように」その答えは告白となりました。
その夜2人は一線を越えます。弥生が導き、触れ合う体。性別を超え、悲しみを慰め合う2人の関係は危ういものでした。
映画『真っ赤な星』の感想と評価
悲しみを抱いて生きる14歳の少女と27歳の女性。2人の女性の性別を超えた愛のカタチ。セクシュアル・マイノリティを考えさせられる作品です。
陽と弥生は、お互いがお互いの鏡のように悲しみを共有します。相手に起こった出来事に胸を痛め、抱きしめたいと思う気持ちに性別は関係ないのでしょう。
陽にとっての弥生、弥生にとっての陽の存在は、暗闇に光る真っ赤な星なのではないでしょうか。その星を目印にして生きて行く。
2人はこれからの人生、お互いを照らしながら進んでいくと信じたいです。
作品の中には、売春、DV、不倫、自殺など目を背けたくなるような問題が詰め込まれています。男女の歪んだ愛のカタチとは対照的に、同性の純粋な愛のカタチが美しく描かれています。
何が正しいのか、何だと正常なのか。今までの囚われた概念を捨て、答えを決め付けることは止めよう。答えは本人にしかわからないものだからです。
相手をもっと知りたい、もっと近づきたい、もっと信じあいたい。恋する気持ちはどんなカタチであれ一緒です。
14歳の陽を演じた小松未来。感情をコントロール出来ず、時に激しくぶつかる陽を、みごと演じています。彼女の強いまなざしが印象に残ります。
まとめ
国内外で注目を集める井樫彩監督の初長編作品『真っ赤な星』を紹介しました。
悲しみを抱えた2人の女性。お互いを必要とし、寄り添い合う2人に芽生えた感情は愛情でした。
赤いパラグライダー、赤い洋服、血の赤、夕日の赤。映画の中では「赤」色が、時に情熱的に、時に穏やかに目に映り込んできます。
赤と青、昼と夜、光と闇、男と女。対照的でいて実は溶け込んでいるものなのでしょう。
「境目はない」そんな気持ちを、映画『真っ赤な星』は、感じさせてくれます。