『黒崎くんの言いなりになんてならない』や『君と100回目の恋』など、人気少女漫画を原作にした作品を手掛けてきた月川翔監督による『君の膵臓をたべたい』をご紹介します。
以下、あらすじや結末が含まれる記事となりますので、まずは『君の膵臓をたべたい』の作品情報をどうぞ!
1.映画『君の膵臓をたべたい』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【監督】
月川翔
【キャスト】
浜辺美波、北村匠海、大友花恋、矢本悠馬、桜田通、森下大地、上地雄輔、北川景子、小栗旬
【作品概要】
刺激的なタイトルからは想像も出来ない物語の美しさと展開に、若い女性層を中心に“泣ける小説”として口コミが広がり、
2016年本屋大賞第2位、Yahoo!検索大賞2016小説部門賞受賞など、
瞬く間にベストセラー小説となった「君の膵臓をたべたい」がこの夏、遂に実写映画化。
重い膵臓の病を患うヒロイン・山内桜良に浜辺美波。桜良の病気を唯一知ることになるクラスメイトの【僕】には北村匠海。
これからの活動に目が離せないフレッシュな2人が、儚くも美しい高校時代を瑞々しく演じる。
さらに映画では、原作には無い12年後の《現在》が描かれ、《過去》と《現在》の2つの時間軸が交錯しながら物語が進んでいく。
そんな《現在》パートで教師となった【僕】に小栗旬、桜良の親友【恭子】を北川景子が演じ、物語を大きく揺り動かす。
主題歌はMr.Childrenの新作「himawari」。心を揺さぶる情感溢れるメロディが感動のラストを彩る。
2.映画『君の膵臓をたべたい』のあらすじと結末
高校時代のクラスメイト・山内桜良の言葉をきっかけに母校の教師となった【僕】。彼は、教え子と話すうちに、彼女と過ごした数ヶ月を思い出していく——。
膵臓の病を患う彼女が書いていた「共病文庫」(=闘病日記)を偶然見つけたことから、【僕】と桜良は次第に一緒に過ごすことに。だが、眩いまでに懸命に生きる彼女の日々はやがて、終わりを告げる。
桜良の死から12年。結婚を目前に控えた彼女の親友・恭子もまた、【僕】と同様に、桜良と過ごした日々を思い出していた——。
そして、ある事をきっかけに桜良が12年の時を超えて伝えたかった本当の想いを知る2人——。
3.映画『君の膵臓をたべたい』の感想と評価
女子中高生をメインターゲットにした少女漫画原作の作品は、ある程度のヒットが必ず見込めることからここ数年ものすごいハイペースで制作されてきました。
その時期の旬の若手俳優が主演を務めるため、そのジャンル以外の作品には一時期全く出られなくなるという現象すら起きています(少し前の山﨑賢人や土屋太凰など)。
それが果たしていいことなのか悪いことなのかはわかりませんが、俳優なら色々な役を演じてみたいと思うのが性でしょう。
例えばこれはハリウッド俳優ですが、ラブコメのイメージを払拭しようと出演作品を選び、『ダラス・バイヤーズクラブ』で見事にアカデミー賞主演男優賞に輝いたマシュー・マコノヒーなどが思い浮かびます。
映画ライターとしては未熟極まりないのですが、個人的にそういったジャンルへの苦手意識が強く、公開されても観に行くことは滅多にありませんでした。
厳密に言えば本作は小説が原作なので少女漫画とは違いますが、予告を観たほとんどの人がよくある学園恋愛ものと難病ものをミックスした作品という印象を受けたのではないでしょうか。
もちろんそういう側面が特に前半部は強いので、苦手な人は恐らく観ているのが辛いと思います。
しかし、決してそこだけで判断して敬遠してほしくないです。
お話としては、膵臓の病気によって余命わずかしかない女の子があるきっかけでクラスメイトの男の子にその秘密を知られてしまい、全く接点のなかった二人がそこから奇妙な関係を紡いでいくというものです。
クラスで人気の女の子と地味で目立たない男の子の恋愛。字面だけでいかにもな感じが伝わってきます。
しかし、仕方なくラブストーリーにジャンル分けしてるだけで、実際はもっと広い意味での青春ものと言えるでしょう。
そして本作は小説ではなく、映画です。
生身の役者によってそのセリフが、そのキャラクターが表現されるわけです。
ここでとんでもないマジックが起こりました。
北村匠海は『ディストラクション・ベイビーズ』で村上虹郎の友達役としてちょこっと出ていて、格好よかったなという印象しかなく、
不勉強ながら浜辺美波に関しては全く演技を観たことがありませんでした。
本作の公開日の時点で北村匠海が19歳、浜辺美波が16歳。撮影当時はもっと若いのかもしれませんが、この10代の二人が見せた何とも可愛らしく微笑ましいやり取りが、まぁ瑞々しい。
浜辺美波が演じた桜良は、常に明るく笑顔で魅力に溢れた女の子。リアルさという観点で言うと、現実にこんな子いるかよと思ってしまうキャラクター設定ではあります。
一方で北村匠海が演じた【僕】は、暗くて地味で友達が一人もいない繊細な男の子。北村匠海だから実際は超男前なわけで正直違和感は拭えません。
ただその違和感は、不思議なことに本当に最初のうちだけです。
明るい桜良と暗い【僕】のバランスが非常にマッチしていて心地よく、この二人をただいつまで観ていたいなという感覚に陥るほどでした。
個人的には博多旅行あたりですっかり二人の魅力にやられていました(真実か挑戦かゲームの甘酸っぱさたるや)。
この二人が今年の新人賞関連で候補に挙がるのは間違いないでしょう。
そして、観客がただの難病ものと思い込んでいたところを逆手にとった脚本による、見事な定石のひっくり返し。
人の死というのはそのほとんどが唐突なものであり、遺される側はいつだって心の準備などできやしないのです。
だからこそ生きている時間を大切にしなければいけない。
そして、キャッチコピーでも散々煽られている『君の膵臓をたべたい』という言葉の意味。
これは劇中でも説明はされますが、臓器の一部を食べることでその臓器の病が治るという昔の迷信から始まった二人のやり取り。
つまりは、その人自身になってしまいたいくらい大切な存在だということ。
憧れや愛情や親しみなど様々に混ざり合った感情をこの作品的に要約すると『君の膵臓をたべたい』という言葉になるわけです。
かの名作『太陽がいっぱい』でもアラン・ドロンが演じたトムは、親友であるフィリップ自身になりたかったということが、映画評論家の淀川長治大先生によって読みとかれています。
本作はそのような倒錯的な愛の表現というよりは、ただただ単純にお互いの人間的な魅力に惹かれ、それを最大限に表したらたまたまそういう言葉になったという感じでしょうか。
ただの恋の喪失ではなく、生きるとは何かを描いた青春映画として、人々の記憶に残る作品になっていくことでしょう。
桜の花は枯れたと見せかけて実は蕾を蓄えているというエピソードは、もうこの世に存在しないはずの桜良が12年もの時を経て二人への想いを届けたことに繋がり、【僕】の下の名前が春樹だったというのも桜とかかっています。こういった細かな目配せも面白い作品でした。
そして、ミスチルの主題歌にもよく耳を澄ませてみてください。その素晴らしい歌詞にも心揺さぶられることでしょう。
まとめ
この作品は、とにかく高校生パートを演じた二人の素晴らしさに尽きます。
その甘酸っぱさと瑞々しさだけで、本作を映像化した価値があるでしょう。
『そこのみにて光り輝く』で菅田将暉を、『海街diary』で広瀬すずを、知った時のような驚きが確かにありました(この二人が声優を務める『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』も非常に楽しみです)。
『ちはやふる』でもインパクトを残していた矢本悠馬の気のおけない感じも素晴らしかった。
ただ、何度も繰り返すように本作は間違いなく
浜辺美波と北村匠海
この二人のための作品になっています。