視力を失いゆくカメラマンとの出逢い、彼女の何かが変わり始めるー。映画『光』のキャッチコピー。
河瀬直美監督は前作『あん』でも社会の片隅の小さな出逢いを、まるで詩集にような作品に仕上げて見せてくれました。
今作のタイトルは挑発的な『光』。
映画そのもの存在をタイトルに確信的な意図を感じさせます。では、その輝きの影はどんなところにあるのでしょう。
2017年のカンヌ国際映画祭にセレクションされ、エキュメニカル賞を受賞した、河瀬直美監督の『光』に注目します!
映画『光』の作品情報
【公開】
2017年(日本・フランス・ドイツ)
【脚本・監督】
河瀬直美
【キャスト】
永瀬正敏、水崎綾女、神野三鈴智子、小市慢太郎、早織、大塚千弘、大西信満、堀内正美、白川和子、藤竜也
【作品概要】
『萌の朱雀』などの河瀬直美監督が、『あん』に主演した永瀬正敏とふたたびタッグを組み、『ユダ』の水崎綾女をヒロインに迎え描いたラブストーリー。
また、『日本のいちばん長い日』の神野三鈴、『るろうに剣心』の小市慢太郎、『龍三と七人の子分たち』の藤竜也が共演で脇を固め、2017年カンヌ国際映画祭にて、キリスト教関連の団体や批評家によって選ばれるエキュメニカル賞を受賞。
映画『光』の主なキャスト
永瀬正敏
永瀬正敏(ながせまさとし)は、1966年7月15日に生まれた、日本の俳優。事務所は有限会社ロケットパンチ所属。
彼の出演作の多くは映画作品だという希少な俳優です。自身でも映像作品を監督することがあり、写真家としても作品を発表しています。
元妻は女優の小泉今日子というのもあまりにも有名な話。
1983年のデビューすると、やがて、1989年にジム・ジャームッシュ監督『ミステリー・トレイン』や、クララ・ロー監督『アジアン・ビート(香港編)オータム・ムーン』に出演します。
また、1991年に日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞した、山田洋次監督『息子』にも出演しました。国内外の100本近くの作品に出演して、数々の映画賞を受賞しています。
2014年に台湾映画『KANO〜1931 海の向こうの甲子園〜』にて、金馬映画祭史上初の中華圏以外の俳優で主演男優賞にノミネートされる快挙。
2016年に『64-ロクヨン-前編/後編』『後妻業の女』など話題作にも出演。今後は、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン(原題)』など注目作が待機しています。
また、写真家としても活動し、現在までに多数の個展を開いて20年以上のキャリアを持つアーティストといえるでしょう。
水崎綾女
水崎綾女(みさきあやめ)は、1989年4月26日生まれの日本の女優。事務所はホリプロ所属。
2004年にデビューの際に雑誌のグラビア、バラエティ番組を中心に活動。やがて女優として活動を始めます。
2008年に『俺たちに明日はないッス』、2009年に『少年メリケンサック』、2011年に『マイ・バック・ページ』などに出演しました。
また、3,000人のオーディションの中から、映画『ユダ』の主演に大抜擢。この作品で人生初の大胆な濡れ場を披露して、女優としての評価を高めた。
アクション演技にも定評があり、2014年に『赤×ピンク』や、2015年に樋口真嗣監督『進撃の巨人』のオリジナルキャラクターのヒアナ役、『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』、2016年に『彼岸島 デラックス』といった大作で披露しました。
今作『光』では、ヒロインが成長しようともがく姿を繊細に演じた姿は新境地といえます。今後が楽しみな女優です。
映画『光』のあらすじ
単調な日々を送っていた美佐子は、人生に迷いながら生きていました。
ある日、彼女は仕事をきっかけに天才カメラマンの雅哉と出逢います。彼もまた、視力を失いつつあることで、カメラマンという悩みを抱えているようでした。
美佐子は雅哉の無愛想な態度に苛立ちます。しかし、彼が過去に撮影した夕日の写真に心を奪われました。
やがて、美佐子はその写真に突き動かされ、この場所にいつか連れて行って欲しいと願うようになります。
命よりも大事なカメラを手にしながら、不条理にも次第に視力を奪われてゆく雅哉。
彼の葛藤する姿勢を見つめるうちに美佐子の中にある、何かが、変わりはじめていきます…。
映画『光』の感想と評価
河瀬直美監督は、前作『あん』同様に今回も明確にテーマを観客に提示をします。それは“生きることの意味”です。
『あん』では、ある傷害事件を起こした男が、どら焼きのあんこ作りに生きがる元ハンセン病患者の老女と出逢いを描きました。
日常を生きる真の物を見る豊かさを、“小豆”のみに生きる喜びである“孤独と豊穣”を見つけた乙女心は感慨の深いものがありました。
同じように今作『光』でも、美佐子と雅哉の小さな出逢いを2人のみに終わらせず、世界の社会や政治、また消費とは別の根幹にある生きる意味を見つめさせてくれます。
ふたたび、河瀨直美監督と永瀬正敏の最強!あるいは、奇跡的といえるダッグに、今回はヒロインとして水崎綾女を迎えて描いたのは、前作同様に、“人生で多くのものを失っても、大切な誰かと一緒なら、きっと前を向ける”ということです。
このことを今作で詩情豊かに描けた理由には河瀬直美監督の才能の輝きのほかにも、スタッフの影なる力があるようです。
第38回木村伊兵衛写真賞した百々新!
映画の撮影を務めた百々新(どどあらた)は、写真集「対岸」で、第38回木村伊兵衛写真賞を受賞したカメラマン。
1974年に大阪生まれ。1997年に大阪芸術大学写真学科卒業した後、1998年に株式会社博報堂フォトクリエイティブ入社している人です。
1995年に新宿、大阪コニカプラザギャラリー、「上海新世紀計画」、1998年に奈良市写真美術館にて「回帰ー奈良・北葛城ー」、2001年にリトルモアギャラリー「街辺」など、写真展を開催。
1995年に新しい写真家登場にてグランプリ、2000年に日本写真協会新人賞、2004年NY ADC 審査員特別賞(WWF)などを受賞しています。
ティナ・バスが編集を務めた作品『めぐりあう日』
また、今作『光』の撮影後作業であるポスプロの1つでは、前作『あん』に引き続き、ティナ・バスが編集を果たしています。
ティナ・バスは、2017年に公開されたウニー・ルコント監督『めぐりあう日』の編集も務めています。
彼の感動を誇張するかのような甘たるすぎないエッジの効いたセンスで、『あん』は心地よい時間の流れを作り出してくれました。
さらには、今回の河瀬直美は撮影現場スタッフに、ロマン・ディムニを録音に配置させました。
なかなか映画を観ていて気づかれることはないですが、編集や音響という作業は映画の完成度を大きく変えるスタッフパートです。
秀でた外国スタッフの影なる力は大きものだといえるでしょう。
最近、少しは実写映画の現場でも増えつつある外国人スタッフの登用。今作のように日本とフランス、さらにドイツによる合作であるなしではなく、スタッフに外国人の力やアイデアの共有のない映画は、もはや、映画としては閉ざした作品といえはいないでしょうか。
河瀬直美監督は、その感覚は非常に秀でた映画人。日本映画界でも先陣切ってそのことを推し進めて、成果を上げている監督なのです。
そのことこそが、河瀬直美監督が世界の監督である証ともいえるでしょう。
例えば、フランス人と映画の話をすれば、日本映画監督の代表の名前に“カワセ”とあげるのは、知名度から当たり前のことになっています。
河瀬直美監督はカンヌ2017で受賞なるか?
河瀬直美監督とカンヌ国際映画祭について振り返って観ましょう。
1997年に第50回カンヌ国際映画祭にて、『萌の朱雀』は、新人監督賞カメラドールを史上最年少(27歳)で受賞。
2007年に第60回カンヌ国際映画祭にて、『殯の森』は審査員特別大賞グランプリを受賞。
2009年に第62回カンヌ国際映画祭は、映画祭に貢献した監督に贈られる「金の馬車賞」をアジア人で初めて受賞。
2013年に第66回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門の審査員に選出。
2015年に第68回カンヌ国際映画祭にて『あん』が「ある視点」部門のオープニング作品として上映。
2016年に第69回カンヌ国際映画祭の短編コンペティション部門と、学生作品を対象としたシネフォンダシオン部門の審査委員長に就任。
河瀬直美監督には、過去にこれだけのカンヌとの関わりがあります。
作品自体がカンヌの映画賞を受けた『殯の森』からは、10年の節目を迎える2017年。
現在5月14日から開催されているカンヌ国際映画祭でも映画『光』は大注目の作品です。
河瀬直美監督をはじめ、出演者キャストに賞が受賞されるか?作品が感動作であることもあが、賞レースのゆくえにも大注目です!!
まとめ
今作『光』というタイトルは冒頭に挑発的と上げましたが、フランス人にはエキサイティングなタイトルです。
なぜならフランスにとって、映画はリュミエール兄弟が初めて誕生させたフランスの文化そのものとういう、自負と誇りがあります。
リュミエールとは“光”を意味しています。つまり、“映画=光”ということがいえるでしょう。
また、今回の作品で河瀬直美監督は、美佐子に視覚障害の音声ガイドに関わる仕事をしています。
“映画(光)という、もうひとつの人生を観客と共有するべく音声ガイドの制作(音)”、そこで視覚障碍者向け映画のモニター会で、視力を失いつつあるカメラマンの雅哉と出逢うのです。
映画という“光”に導かれた2人。音声ガイドの製作過程で衝突しあいながら、映画(光)で心を共有をゆっくりと通わせていきます。
カンヌ国際映画祭で観る審査員をはじめ、観客の心に“光”の温もりを与えること間違いなしです!、
河瀨直美監督の受賞に期待です!そして、映画『光』の公開は2017年5月27日から東京の新宿バルト9ほか、全国順次公開。
ぜひ、お見逃しなく!