名作を再構築したジョー・ライト監督によるミュージカル映画!
1897年のパリでの初演以降、世界中で映画化やミュージカル化されているエドモンド・ロスタンによる戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』。
映画『シラノ』は、2018年にエリカ・シュミットが脚色・演出したオフ・ブロードウェイ・ミュージカル『シラノ』を見た『プライドと偏見』(2005)、『つぐない』(2007)のジョー・ライト監督が舞台を映画化した作品です。
舞台と同じく、ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011~2019)で知られるピーター・ディンクレイジがシラノを演じ、『Swallow/スワロウ』(2019)などのヘイリー・ベネットがヒロイン・ロクサーヌを演じています。
ロクサーヌが恋するクリスチャンには『ルース・エドガー』(2020)、『WAVES/ウエイブス』(2020)などのケルヴィン・ハリソン・Jr.が扮し、17世紀フランスを舞台に、複雑な三角関係に陥る男女の恋愛模様が描かれます。
映画『シラノ』の作品情報
【日本公開】
2022年公開(イギリス・アメリカ合作映画)
【原題】
Cyrano
【監督】
ジョー・ライト
【原作】
戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』(エドモンド・ロスタン)
【脚本】
エリカ・シュミット
【キャスト】
ピーター・ディンクレイジ、ヘイリー・ベネット、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ベン・メンデルソーン
【作品概要】
不朽の名作『シラノ・ド・ベルジュラック』(1897)を、『プライドと偏見』(2005)『つぐない』(2007)のジョー・ライト監督が壮大なスケールで再構築し映画化。
シラノ役をピーター・ディンクレイジ、ロクサーヌ役をヘイリー・ベネット、クリスチャン役をケルビン・ハリソン・Jr.が演じています。
映画『シラノ』あらすじとネタバレ
17世紀のフランス。
軍きっての剣の達人、シラノは、詩の才能にも恵まれた、文武両道の騎士として知られていました。
しかし、自らの外見に自信がもてず、思いを寄せる女性、ロクサーヌになかなか気持ちを伝えることができません。
ある日、ロクサーヌから「ふたりきりで会いたい」と呼び出されたシラノは、「告白したい」と言う彼女の言葉を聞いて、期待で胸が高まります。
しかし彼女の告白は、シラノと同じ部隊に所属するクリスチャンに恋をしているというものでした。彼が部隊でひどい目にあわないように守って欲しいと頼まれ、シラノは失意を抑えてうなずきます。
以前、シラノはクリスチャンからもロクサーヌへの思いを聞かされていました。クリスチャンはハンサムな青年でしたが、まったく文才がありませんでした。
そのため、シラノはクリスチャンにロクサーヌへの手紙を代筆することを提案します。
シラノは自らの溢れる思いを手紙に込めました。2人の文通が始まり、クリスチャンからの手紙を受け取ったロクサーヌは美しい言葉の数々に心ときめかせます。
ロクサーヌは直接話がしたいとクリスチャンと2人きりで会いますが、クリスチャンはシラノが手紙に書いたような美しい言葉を発することができません。
ロクサーヌは手紙とイメージが違うクリスチャンに驚き立ち去ってしまいます。
2人の仲を取り持つため、シラノはクリスチャンと共にロクサーヌの屋敷を訪ね、クリスチャンはバルコニーの下に立ちました。
シラノは陰に身を隠して、ロクサーヌへの言葉をささやき、クリスチャンがその言葉を繰り返してロクサーヌに届けました。
クリスチャン自身の言葉だと信じるロクサーヌはその言葉に酔いしれ、こちらに来てほしいとクリスチャンを呼びます。クリスチャンとロクサーヌはキスを交わし、それを見たシラノは激しく心をかき乱されます。
そんな中、以前からしつこくロクサーヌに求婚し続けているド・ギーシュ公爵からの手紙を預かった司祭がやって来ました。
手紙は強引にロクサーヌをものにしようとするド・ギーシュの欲望が詰まったおぞましい内容でした。
ロクサーヌは、叔母に何の手紙かと問われ、手紙を読むふりをしながらまったく違った内容を口にしました。
いわく、「クリスチャンとの結婚を認める。遣わした司祭のもとで結婚式をあげよ」というものです。皆驚く中、クリスチャンが呼ばれ、シラノと共にロクサーヌ邸にやってきました。
結婚式が行われる中、ロクサーヌのもとに現れたギーシュはその様子を見て、さっと姿を隠し、「兵士と結婚とは正気ではない」と怒りを顕にしました。
彼はロクサーヌとクリスチャンの前に現れ、クリスチャンに出兵するよう命じました。慌ただしく出ていくクリスチャンの姿を呆然と見送りながら、側にいたシラノに「寒さや飢えからクリスチャンを守って」と頼みます。
「約束できない」と応えるシラノ。ロクサーヌは「手紙を書くように伝えて」と言い、シラノは「それは守る」とうなずきました。
映画『シラノ』解説と評価
エドモンド・ロスタンによる戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』は、1897年、フランスはパリで初演されて以来、世界各国で上演され続け、今なお、衰えぬ人気を誇っている作品です。
映画では、ジェラール・ドパルデューがシラノを演じたフランス、ベルギー合作映画『シラノ・ド・ベルジュラック』(1990)や、舞台を現代のアメリカに置き換え、スティーヴ・マーティンとダリル・ハンナが主演した映画『愛しのロクサーヌ』(1987)などがあり、戯曲の誕生秘話を描いた『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』(2018)という作品も制作されています。
また、多少変化球ではありますが、ラブレターの代筆から始まる高校生の三角関係を描き、「高校生版シラノ・ド・ベルジュラック」とも称された『ハーフ・オブ・イット』(2020)といった作品があることも記憶にとどめておきたいところです。
「コンプレックス」と「代筆」というモチーフの面白さ、「内面」と「外面」の美しさについて問うテーマの深淵さ、そして、何よりも胸をしめつけられるような純愛物語が時代を超えて、人々を魅了するのでしょう。
『プライドと偏見』(2005)、『つぐない』(2007)などの作品で知られるジョー・ライト監督は、エリカ・シュミットが脚色・演出した2018年のオフ・ブロードウェイ・ミュージカルの『シラノ』の舞台を観て感銘を受けます。
舞台では、HBO制作の人気ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」や『スリー・ビルボード』(2017)などで知られるピーター・ディンクレイジがシラノを演じていました。
並外れて大きな鼻を持ち、そのコンプレックスゆえに自分は愛される資格がないと思いこんでいる男性というのが、これまでのシラノ・ド・ベルジュラック像でしたが、ピーター・ディンクレイジ扮するシラノは「体が小さい」が故に自分はロクサーヌの愛にふさわしくないと恋の成就を諦めています。
これまでシラノ役を演じた俳優たちは決まって付け鼻を付けてきましたが、小人症として社会から受ける残酷さと戦っているシラノはジョー・ライト監督にとって、非常に新鮮なものでした。
映画化にあたって、ジョー・ライト監督は、舞台と同じく、シラノにピーター・ディンクレイジを、ロクサーヌにヘイリー・ベネットをキャスティングし、音楽も舞台と同じく、アメリカのロックグループ、「ザ・ナショナル」が担当しています。
18世紀が舞台のコスチュームドラマとモダンなサウンドの出会いは新鮮で、ミュージカルという形になることで、登場人物の複雑な心情がよりダイレクトに観る者に伝わってきます。
ピーター・ディンクレイジのバリトンボイスと、ヘイリー・ベネットの美しい伸びやかな声は、驚くほどの調和をみせ、また、戦場に送られ、死を覚悟した兵士たちが歌い上げる国歌は重く強く心に響いてきます。
まとめ
ジョー・ライト監督はまるで煙幕がはっているかのような独特の色合いを全編に施し、個性的なメイクやコスチュームで着飾ったキャラクターの動きをカメラを細やかに移動させながら捉え、まるで絵画のような幻想的な空間を作りあげました。ロケはイタリア・シチリア島で行われたそうです。
舞台版で翻案・演出を務めたエリカ・シュミットが映画ではプロデューサー、脚本を担当。エリカ・シュミットとピーター・ディンクレイジ、ジョー・ライトとヘイリー・ベネットは実はそれぞれ夫婦なのだそうです。
信頼感のある現場で悲しくも情熱的な愛の物語が生まれたことは、想像に難くありません。