結婚=幸せという呪縛に苦しむ人たち
俳優の黒川鮎美が監督・脚本・製作・編集・主演を務め、結婚の平等をテーマに描いた短編作品『手のひらのパズル』が2023年1月14日(土)より大阪シアターセブン、2023年2月11日(土)より池袋シネマ・ロサにて公開されます。
音声SNSアプリ「クラブハウス」内でLGBTQ当事者への取材を重ねて、黒川が脚本を書き上げました。世界各地の映画祭で入賞を果たした秀作です。
親から結婚を期待され、彼氏と同棲を始めた梨沙は、「普通の幸せ」というものに違和感を覚え始めます。
彼女が最後に選び取ったのはどんな幸せだったのでしょうか。
それぞれにとっての幸せを堂々と選べる時代にしたいという、黒川監督の思いが詰まった作品の魅力をご紹介します。
映画『手のひらのパズル』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督・脚本・プロデューサー・編集】
黒川鮎美
【出演】
黒川鮎美、長内映里香、竹石悟朗、なだぎ武、中野マサアキ、斉木きょうこ、川連廣明、イマムラキョウカ、ジェントル、由良朱合
【作品概要】
今回が映画製作初挑戦となる俳優の黒川鮎美が、脚本・プロデュース・監督・編集・主演を務めた短編。結婚を考えて彼氏と同棲を始めた主人公が、自分にとっての本当の幸せを見つめ直す物語です。
音声アプリ「クラブハウス」で黒川がLGBTQ当事者から直接さまざまな話を聞いていたことがきっかけとなり、アプリ内で取材を続け、そこで語られた経験を元に脚本を書き上げました。
アメリカのシリコンバレークィアフィルムフェスティバルをはじめ、世界各国の14の映画祭で入賞を果たしています。
共演は『台風家族』(2019)の長内映里香、竹石悟朗、なだぎ武、中野マサアキほか。
映画『手のひらのパズル』のあらすじ
付き合って一年半の、金沢で生まれ育った梨沙と匠。30歳になり、結婚を期待する周りの進めで同棲を始めました。梨沙は、なくしたピースがひとつ欠けたままのパズルを部屋に飾ります。
結婚を意識するようになった二人は一緒に過ごす中で、少しずつあるズレに気づいていきます。
女友達の真子に泣きながら結婚の相談をしていた梨沙は、彼女とのある出来事をきっかけに気持ちが変わっていき…。
映画『手のひらのパズル』の感想と評価
なくした1ピースのパズルに象徴される諦め
26分という短さの中に、自分らしく生きられる世の中にしたいという黒川監督のメッセージが熱くこめられた濃密な一作です。性別に関係なく、魂がひかれあう相手と堂々と生きられる時代に変えていきたいという思いがギュッと詰まっています。
ヒロインの梨沙は、結婚を前提に恋人の匠と同棲を始めます。母からは、結婚して子どもを生んで、普通に幸せになってほしいと言われていました。しかし、いざ結婚が現実的になってきたとき、梨沙は本当にこれでいいのかと悩み始めます。
結婚前に誰もが悩むマリッジブルーとは、少し違っていました。彼女は「普通の幸せ」と呼ばれるものに対して、違和感を覚え始めていたのです。そんななか、悩みを聞いてくれた真子との間に、温かな関係が生まれます。
世間的なものさしで世界を見る母に育てられてきた梨沙は、母とは違う尺度を自分が持っていることに気づきました。しかし、母の言葉が愛情と善意からくるものだとわかるため、否定しきれずに苦しみます。
みつからないピースがひとつ欠けたまま、パズルを部屋に飾っていた梨沙。なにかを見つけられないまま諦めて生きてきた、梨沙自身の心を映し出しているかのようです。
自分らしく生きるために、なにかを捨てなければならないとしたら、それはとても悲しいことです。しかしおそらく、これまで「普通」とは異なる生き方を選び取った人たちのほうが、多くのものを捨てさせられてきたことでしょう。
「私はこちらが好き」「私はこうやって生きたい」と誰もが堂々といえる世の中になることを、心から願わずにはいられません。
まとめ
ひとりの女性を通して、誰もがそれぞれの幸せを選べる世の中にしていこうという思いを描く『手のひらのパズル』。映画製作初挑戦となる俳優の黒川鮎美が、体当たりで生み出しました。
マイノリティへの心ない発言が咎められる時代にはなってきましたが、まだまだ生きにくさは根強く残っています。ひとりひとりが自分の幸せを堂々と追い求められる世界にするためのきっかけになってほしい。そんな思いが、あふれ出ている作品です。
短編作品『手のひらのパズル』は2023年1月14日(土)より大阪シアターセブン、2023年2月11日(土)より池袋シネマ・ロサにて公開です。