映画『人』は全国順次公開中!
山口龍大朗監督の初の商業映画監督作映画『人』は、山口監督の「友人との死別」という実体験によって企画が始まった、「家族とは何か」「生きるとは何か」を問いかける短編ファンタジー。
不慮の事故で命を落とし“幽霊”となってしまった青年・健一と、幽霊が見える母・彩子、そして数年前に他界し息子同様に“幽霊”となっていた父・拓郎が過ごす数日間を描いています。
このたびの劇場公開を記念して、映画『ミッドナイトスワン』はじめ話題作に出演し続け、本作にて主人公・健一役を演じられた吉村界人さんにインタビュー。
実際に演じたことで気づくことができた「幽霊」の存在意義、ご自身が思う「バガボンド」としての俳優の姿などについて語ってくださいました。
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生きていても、死んでいても
──本作で「幽霊となった人間」を演じられる中で、吉村さんご自身はどのような想いを抱かれたのでしょうか。
吉村界人(以下、吉村):死後10年も経っている幽霊の役ならまた違ったのかもしれませんが、自分が今回の『人』で演じた健一は「死後1日」の幽霊だったので、あくまでも彼は日常を生きる青年なんだと考えていました。その一方で、健一は数年前に亡くなった父親と久しぶりに会ったりする中で、自分が本当に死んでしまったという事実を少しずつ自覚していくわけです。
健一は幽霊になったけれど、元の性格から変わらず血の気が多い。ただ人生に対しては受身なせいで、誰かに人生をかき乱される側の人間として生きていた。だから作中でも、誰かが自分自身の話をしているのに対しリアクションするという場面が多くて、人同士の輪の中で一番主体性がないヤツなんです。あとアホウですね。(笑)
ただアホウながらも、幽霊になってしまったから思い知らされる虚しさや儚さは感じとっていて、ちょっとした瞬間にそれが表情に漂っているので、ぜひ観てもらえるとありがたいです。
また今回「幽霊になってしまった人間」を演じていった中で、人間の感情や機微は生きていても死んでいても、魂としては同じなんじゃないかと考えるようになりました。映画では、変わらない魂がそこにあり続けるわけですから。
生きている人間には物理的に手が届かなくとも、魂そのものは生きていても死んでいても変わらない、普遍的であることを考えさせてくれる存在が幽霊なのかもしれないです。
“楽しんで芝居をする”の意味
──役者としての「先輩」であり、健一の両親をそれぞれ演じられた田中美里さん・津田寛治さんの演技は、吉村さんの目にはどう映って見えたのでしょうか。
吉村:田中美里さんも津田寛治さんも、クランクインまでにご自身の演じる役について深く考え込まれていました。
お二人が脚本から膨らませて作り出していく芝居のオリジナリティをみて「自分も追いつかなくては」という焦りを感じましたし、現場で一番ルーキーである自分よりも、先輩であるお二人の方が純粋に楽しみながら芝居をされている姿に圧倒されました。
吉村:「楽しんで芝居をする」というのは、「その役を愛している」ということだと思っています。それは役作りの深さがあってこそ成り立つものだと思うし、俳優にとって必要なことだとも感じてます。
自分の役作りはまだまだ未熟です。ただその中でも、撮影を通して実際に役を演じ続けることで、役に対する愛着を改めて感じとり、その役がもつ魂を形作っていけるようにしています。
俳優を続けるバイタリティに“完成形”はない
──吉村さんが芸能の道に進もうと決意されたきっかけは何だったのでしょうか。
吉村:映画が好きだったからに尽きます。みんなも好きな『TAXi』(1998)や『ハムナプトラ』(1999)などは何回も観て「最高だな」と感じていました。ああいった作品に憧れて芸能界に入ったんですが、いざ俳優の仕事を始めてみてからは何もかもがあっという間で、これまでを振り返ると、大事なものをいろいろと見過ごしてしまったのではと感じてしまう時もあります。
また、俳優を続ける中でのバイタリティとなるものも、毎年違っていたりします。見過ごしてしまったという想いから、高みを目指そうと改めて決意したり。「ヤベエ、もう25歳か」と焦ってみたり。俳優として新たなステップへ向かうために韓国やハリウッドを目指してみたり……。
吉村:ファッションと同じで、バイタリティとなるものに「完成形」はないのかもしれないです。全部のスタイルを着てみたいし、その時々で着たいものも違う。いろんな役を演じられるようにするためにも、いろんなものを取り入れ続けたいと感じています。
やるべきことはたくさんあるし、しんどいこともある。「大金を手に入れる」「何か成し遂げて他人に認められる」といった欲求を満たすための近道の答えは、明らかに俳優じゃない。「商売」ではなく「生き方」として、俳優を選んでいるんです。
“バガボンド”だから演じられる魂
──最後に、吉村さんが思う「俳優」という生き方をお教えいただけますでしょうか。
吉村:最近、友人から井上雄彦さんのとある漫画を勧められた際に、「バガボンド(vagabond:さすらいに身を置く者、放浪者)」という今の自分が欲しがっていた言葉と出会うことができました。
つくづく、俳優は「バガボンド」だなと自分は思っています。
不良の役を演じた次は、真面目な好青年。その次は父親を殺された男の役を演じていたかと思うと、今度は高校教師の男の役……流れ着いた先では全く違う役を演じるけれど、その一人ひとりには確かに「魂」が宿っている。やがて役を演じ終えると、再びさすらう。それは「バガボンド」以外の何者でもないはずです。
そして何よりも、自分が役を通じて宿した魂に「俺、こいつの気持ちが分かる」と自分自身の魂を重ねてくれたなら、俳優がさすらい続けることに意味はあるんだと思います。
また映画などの映像作品は、俳優というバガボンドが宿していった「魂」をいつまでも残し続けてくれる。だからこそ、「俳優が再びさすらいに出て何年も経った後に、誰かが映像を通じて感動してくれる」ということもあると感じています。
誰かにとっての魂を演じる。それができる俳優は、やっぱり価値のある生業だと思います。
インタビュー/タキザワレオ、河合のび
撮影/山口龍大朗
ヘアメイク/山口貴巳
衣装/小笠原吉恵(CEKAI)
Tシャツ ¥19,000、パンツ ¥35,000/Azuma. その他スタイリスト私物
問い合わせ先 Azuma. / ANTICRAFT design info@azuma-anticraft.com
吉村界人プロフィール
1993年生まれ、東京都出身。2014年『ポルトレ PORTRAIT』で映画主演デビュー。2018年第10回TAMA映画賞にて最優秀新進男優賞を受賞。
主な代表作に映画『太陽を掴め』(2016)『サラバ静寂』(2018)『ミッドナイトスワン』(2020)『神は見返りを求める』『遠くへ、もっと遠くへ』(2022)、ドラマ『左ききのエレン』『ケイ×ヤク-あぶない相棒-』など。映画『人間、この劇的なるもの』が9月19日に公開される。
映画『人』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
山口龍大朗
【キャスト】
吉村界人、田中美里、冨手麻妙、木ノ本嶺浩、五歩一豊、津田寛治
【作品概要】
本作の主人公・健一役は、映画『ミッドナイトスワン』(2020)をはじめ話題作に出演し続けている吉村界人。そして健一の母・彩子役を田中美里が、父・拓郎役を津田寛治が演じる。そのほか冨手麻妙、木ノ本嶺浩、五歩一豊というキャスト陣が脇を固める。
監督は、『東京喰種』(2017)や『来る』(2018)などの制作に携わり、本作が初の商業映画監督作となる山口龍大朗。
また『ラストレター』『チィファの手紙』(2020)など岩井俊二監督作にて撮影監督を務めた神戶千木、『シン・ゴジラ』(2016)や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)など国内外の作品に携わっているCGコンポジター・大槻直貴など、多彩な実績を持つスタッフが多く参加している。
映画『人』のあらすじ
千葉・九十九里浜。実家のサーフショップで働く青年・健一(吉村界人)は、不慮の事故で命を落とし、幽霊になってしまう。
幽霊になった健一が実家に帰ると、そこには数年前に他界し、健一と同じく幽霊になった父・拓郎(津田寛治)の姿が。
さらに、母・彩子(田中美里)が幽霊が見えるということも発覚し……!?
幽霊になった父と息子、そして幽霊が見える母。家族三人と彼らを取り巻く人々が過ごす三日間のファンタジー。
タキザワレオのプロフィール
2000年生まれ、東京都出身。大学にてスペイン文学を専攻中。中学時代に新文芸坐・岩波ホールへ足を運んだのを機に、古今東西の映画に興味を抱き始め、鑑賞記録を日記へ綴るように。
好きなジャンルはホラー・サスペンス・犯罪映画など。過去から現在に至るまで、映画とそこで描かれる様々な価値観への再考をライフワークとして活動している。