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Entry 2024/01/09
Update

【山路和弘インタビュー】映画『エクスペンダブルズ ニューブラッド』ジェイソン・ステイサムに“惚れ込んだ”からこその演技×吹き替えという“吹き込む職人技”

  • Writer :
  • 河合のび

映画『エクスペンダブルズ ニューブラッド』は2024年1月5日(金)より全国ロードショー!

自らを《消耗品》と名乗る最強の傭兵軍団の戦いを描き、豪華アクションスターが多数出演する大人気シリーズの第4弾『エクスペンダブルズ ニューブラッド』。

ジェイソン・ステイサム、シルベスター・スタローン、ドルフ・ラングレン、ランディ・クートゥアらシリーズレギュラーキャストはもちろん、カーティス・“50セント”・ジャクソン、ミーガン・フォックス、トニー・ジャー、イコ・ウワイス、アンディ・ガルシアらが新たに参戦しました。


(C)藤咲千明/Cinemarche

今回の公開を記念し、リー・クリスマス(ジェイソン・ステイサム)の日本語吹き替えキャストを務められた山路和弘さんにインタビューを行いました。

吹き替えを通じて長年活躍を見続けてきた俳優ジェイソン・ステイサムへの想い、吹き替えという「職人技」の仕事、そして吹き替えの「最前線」で戦い続けられるその理由など、貴重なお話を伺えました。

声が好きだから、声が似ていった


(C)2022 Ex4 Productions, Inc.

──「ジェイソン・ステイサム」という名を聞けば日本の誰もが山路さんの声を思い出すほどに、山路さんの日本語吹き替えはステイサムさんご自身の演技と一体となっているといえます。

山路和弘(以下、山路):いつの間にか、そうなってしまいましたね(笑)。

僕はてっきりステイサムさんと元々声が似ているからだと思っていたんだけど、よくよく考えてみると、どうもあの人の声が好きで自分から似せていたようなんです。それが作品を重ねるうちに慣れていって、ステイサムさんが演じやすくなっちゃったわけです。

ステイサムさんの俳優デビュー作でもある『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)で初めて彼を演じたんですが、当時は「こういう俳優の吹き替えの仕事が、僕の所に来るんだな」「不思議なタイプの俳優だな」と感じたのを覚えています。

ただ、吹き替えのためにステイサムさん本人の声を聞き続けていたら「この人の声、いいな」とどんどん感じ始めて、自然と声が近づいていっちゃったんです。

『ニューブラッド』にも出演しているドルフ・ラングレンさんやアンディ・ガルシアさんなども過去に吹き替えを演じたことがあるんですが、私が自然体で喋ろうとすると、やっぱりステイサムさんに一番近くなる。それはやっぱり、演じてきた時間の長さに違いがあるんでしょうね。

「吹き替え」は「吹き込み」の職人仕事


(C)2022 Ex4 Productions, Inc.

──山路さんご自身は、俳優のお仕事において「吹き替え」はどのような演技であると認識されているのでしょうか。

山路:「吹き替え」というのは、ある意味では職人仕事のようなところがあるんです。

実写作品や舞台、アニメーション作品のように自分で作り出していく演技と、一度演技を作り上げた俳優に自分が吹き替えを通じてなり切ろうとする演技は、やっぱり全然違う。ある意味で吹き替えは「吹き込み」でもあるんでしょうね。

吹きガラスの職人さんが、少し息の吹き込み方を変えただけで全く形が異なる作品ができてしまうように、吹き替えでも「吹き込み」の仕方次第で、俳優本人の演技の印象が大きく変わってしまう。それは吹き替えの仕事をしていて、いつも気にしている問題でもあるんです。

ただステイサムさんを演じる時は、吹き替えという職人の仕事に徹しつつも、どうしても違う気持ちになるといいますか、思い入れのようなものを常に感じてはいます。

多分僕は、ステイサムさんに惚れ込んでいるんでしょうね。2023年は本作を含めて、多くの作品で彼の吹き替えをさせていただきましたが、しばらくステイサムさんの吹き替えの仕事がないと「今、どうしているんだろう」と妙に心配するようになっちゃった。「魂がつながってしまった」と言ったら、流石におこがましいですけどね(笑)。

俳優本人の魅力を、より一層膨らませる


(C)藤咲千明/Cinemarche

──山路さんが吹き替えを「職人技の演技」と認識されるようになったのは、かつて多くの海外作品の吹き替えで活躍されていた家弓家正さんの「この仕事は《錯覚》だからね」という言葉の影響もあるのでしょうか。

山路:家弓さんの言葉は、今でも身と心に染み付いています。

たとえば吹き替えを担当することになった映画の本編で、演じている俳優本人はその場面でセリフを一言も発していなくても、「後ろを振り返る」などの何かしらの動作をしていると、吹き替えがないことにどこか違和感が生じてしまう。吹き替えによる錯覚がズレてしまうんです。

そんな時には、俳優本人の演技をもう一度見直して「どんな演技を吹き替えを加えれば、錯覚が失われずに済むのか」「息遣いを付けるべきなのか、それとも舌打ちを入れるべきなのか」と色々な案を考えていくようにしています。逆に自分が吹き込んだ演技が、俳優本人の演技とピタッと一体になった時は、心の中でガッツポーズをしていますね。

「役を演じている」というよりも「錯覚によって、俳優という人間を生かしている」という感覚といいますか、ステイサムさんも「彼が演じた役を同じく演じている」というよりは「俳優ジェイソン・ステイサムを演じている」という感覚の方が強いんです。

そう考えると、吹き替えは割と演技の「糊代」の多いんです。そして「糊代」を通じて、吹き替えをしている俳優の魅力をより一層膨らませられる楽しみもあるわけです。

もう、この世界や商売からは離れられない


(C)藤咲千明/Cinemarche

──今回のシリーズ第4弾『エクスペンダブルズ ニューブラッド』では「継承」が重要なテーマとして登場しますが、40年以上にわたって俳優・声優として活躍し、多くの《ニューブラッド》な人々とのお仕事も増え続ける中で、山路さんが最前線で戦い続けられる力の源とは何でしょうか。

山路:そこまで自分にパワーがあるとは思っていないんですが、一つ言えるとしたら、「吹き替え」という仕事が嫌いじゃないんでしょうね。

俳優の中には「映画に出たい」「ドラマに出たい」という欲が強い方も時にはいるんですが、実は僕にはそれが全然なく、あまり「表に出たい」という気持ちがない人間だったんです。

どうして俳優を始めたのか不思議なくらいではあるんですが、だからこそ何回か吹き替えという仕事をさせてもらえた時に「この仕事は自分に向いているな」と思いましたし、職人技としての吹き替えの魅力に惹かれたから、今まで続けてきたんだとも感じています。

もう、この世界や商売からは離れられないんでしょうね。「少し疲れたから休もうかな」と思うことはあっても、仕事の話を小耳に挟んだら「それ、面白そうだな」と現場に行っちゃう。昔から滾りやすい気質ではあったんですが、それで40年以上も経ったんだからイヤんなっちゃいますよ(笑)。

家では「隠居したいな」なんて考えることもありますが、シリーズも《ニューブラッド》になったばかりですから、そうも言ってられない。もう少しだけでも、がんばりたいですね。

インタビュー/河合のび
撮影/藤咲千明
ヘアメイク/堀川貴世

山路和弘プロフィール

1954年生まれ、三重県出身。1977年に劇団青年座へ第1期生として入所。1979年に劇団青年座へ入団し、舞台俳優として活動を開始する。

2011年には『宝塚BOYS』『アンナ・カレーニナ』で第36回菊田一夫演劇賞・演劇賞を、2018年には『江戸怪奇譚~ムカサリ』『喝采』で第59回毎日芸術賞(演劇・演芸・邦舞部門)を受賞。映画・テレビドラマなどの映像作品にも出演し、原田眞人・水谷俊之・高橋伴明監督作の常連俳優としても知られる。

また声優として数多くのアニメーション作品に出演。さらに海外映画作品の吹き替えキャストとしても活躍し、ジェイソン・ステイサムをはじめ複数の俳優の吹き替えを持ち役としている。

近年の主な出演作は、映画『日本のいちばん長い日』(2015)『帝一の國』(2017)『燃えよ剣』(2022)『SAND LAND』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』(いずれも2023)、ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019)『麒麟がくる』(2020)『連続テレビ小説「ちむどんどん」』『エルピス~希望、あるいは災い~』(いずれも2022)、舞台『メリーポピンズ』(2018・2022)『ジャージー・ボーイズ』(2020・2022)など。

映画『エクスペンダブルズ ニューブラッド』の作品情報

【日本公開】
2024年(アメリカ映画)

【原題】
Expend4bles

【原案】
スペンサー・コーエン、カート・ウィマー、タッド・ダガーハート

【監督】
スコット・ウォー

【脚本】
カート・ウィマー、タッド・ダガーハート、マックス・アダムス

【製作】
ケビン・キング・テンプルトン、レス・ウェルドン、ヤリフ・ラーナー、ジェイソン・ステイサム

【キャスト】
ジェイソン・ステイサム、シルベスター・スタローン、カーティス・“50セント”・ジャクソン、ミーガン・フォックス、ドルフ・ラングレン、トニー・ジャー、イコ・ウワイス、ランディ・クートゥア、ジェイコブ・スキピオ ほか

【作品概要】
豪華アクションスターが多数集結する「エクスペンダブルズ」シリーズの第4弾作品。『ネイビーシールズ』(2012)『ニード・フォー・スピード』(2014)のスコット・ ウォー監督が手がけました。

「ワイルド・スピード」「トランスポーター」「MEG ザ・モンスター」と人気アクションシリーズに出演し続けるジェイソン・ステイサム、「ロッキー」「ランボー」シリーズなどで知られ第1弾『エクスペンダブルズ』では監督・脚本も手がけたシルベスター・スタローンを筆頭に、ドルフ・ラングレン、ランディ・クートゥアらレギュラーキャストが出演。

さらに新たなメンバーとして、カーティス・“50セント”・ジャクソン、ミーガン・フォックス、トニー・ジャー、イコ・ウワイス、アンディ・ガルシアらも参戦を果たしました。

映画『エクスペンダブルズ ニューブラッド』のあらすじ


(C)2022 Ex4 Productions, Inc.

自らを《消耗品》と名乗る最強無敵の傭兵軍団「エクスペンダブルズ」を率いるバーニー・ロス(シルベスター・スタローン)は、CIAから下された新たなミッションに挑むため、かつての相棒リー・クリスマス(ジェイソン・ステイサム)の元を訪ねる。

バーニーとともに再び組むことを決意したリーがアジトに足を運ぶと、そこにはかつての仲間だけではなく、新たなメンバーが顔を揃えていた。

新戦力を迎え《ニューブラッド》として生まれ変わったエクスペンダブルズが挑む今回のミッションは、テロリストが所有する核兵器を奪還すること。

もし失敗すれば、第三次世界大戦が勃発しかねない危険なミッションに挑む彼らだったが、敵の卑劣な策の前にミッションは失敗に終わり、大きな代償を払うことに……。

失われた仲間の意思を継ぎ、そして仇を討つために再びエクスペンダブルズが立ち上がる──!

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche




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