映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』が2021年9月10日(金)より、新宿ピカデリーほかで全国順次公開。
『嘘を愛する女』『哀愁しんでれら』などを輩出したオリジナル作品・企画コンテスト「TSUTAYA CREATORS’PROGRAM FILM 2018」にて準グランプリを受賞し映画化された『先生、私の隣に座っていただけませんか?』。
漫画家の早川佐和子(黒木華)とその夫の俊夫(柄本佑)が、佐和子の執筆する新作漫画を巡って嘘と本音が交錯する心理戦を繰り広げてゆく様を描きます。
監督・脚本は、BSテレ東の人気ドラマ『高嶺のハナさん』で監督を務め、ドラマ・映画と活躍の場を広げている新進気鋭の映画作家・堀江貴大。
このたび堀江監督へのインタビューを敢行し、これまでにない夫婦映画を作った意図、W主演キャストの黒木華さん・柄本佑さんの演技とその魅力について伺いました。
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明るいタッチの不倫映画を目指した
──冒頭、佐和子が漫画を描いていくペンの音で、一気に物語の中へ引き込まれていきました。なお本作の物語は、どのように構想を進められたのでしょうか?
堀江貴大監督(以下、堀江):あのペンの音は、どうしても入れたかったんです(笑)。
実は初めは夫婦ではなく、教習所の先生と主人公・佐和子の駆け落ちの物語を描こうと思っていたんです。教習車で駆け落ちをするという展開なども考えていたんですが、プロットを書き進めるうちに行き詰まってしまい、改めて「なぜ駆け落ちをしたのか?」ということを考えました。そこで、佐和子の夫の存在が前面に出て来て、「夫婦の関係」を中心にした物語へとシフトしていきました。そして夫の不倫を題材に、妻が漫画を描くことで夫に復讐していくという筋書きのアイデアが浮かび、その展開は面白そうだなと思い脚本を書き進めていきました。
──「不倫をネタに復讐」と聞くとドロドロした物語を連想してしまいますが、本作はむしろ明るいタッチの作品だと感じられました。
堀江:ドロドロした展開が続く不倫映画や、シリアスな作品を作りたかったわけではないんです。不倫映画を作ろうとすると大抵物語や展開もシリアスになってしまいがちですが、「漫画で不倫を描いていく」という不倫に対し距離を持った見つめ方をすれば、もしかしたら喜劇になるのでは……という考えがありました。
──実際の映画を観ても、黒木さん演じる佐和子が描く不倫漫画をこっそり読んでしまうたびに、柄本さん演じる俊夫が追い詰められていく様子はコメディそのものでした。
堀江:この映画の喜劇的な部分を担うのは柄本さんだと捉えていましたが、本当に面白く演じてくださいました。
俊夫は脇が甘いタイプで、自分が不倫をしていることはとりあえず棚に上げて、妻が不倫をしているかどうかを確かめたくなるという人間臭い人なんです。そして自分のことを棚に上げて……という矛盾こそが、この映画の中でとても大事だと感じていました。自分が不倫をしておきながら、妻の不倫を疑ってアタフタするところが、俊夫の喜劇的な部分であり、ダメなところだと思っています。
黒木華という存在感が際立つ作品
──一方の佐和子は、冒頭から夫を疑いの目で見る鋭い眼差しや、何を考えているのか分からないところが滲み出ていました。
堀江:黒木さんが演じる佐和子の怖さや、何を考えているか分からないミステリアスな魅力を演出したいと思っていました。その結果「黒木華」さんという女優が持っている魅力、黒木さんが演じる佐和子像が、この映画の中でも存在感があるものとして際立っていると感じています。
佐和子はあまりセリフの多いキャラクターではありませんが、だからこそ自身が思っていることを漫画として描いていく、漫画に描くことで夫に対して復讐をしていくという本作の物語としての魅力を、黒木さんは本当に上手く表現してくれました。
──また二人の周囲にいる個性豊かなキャストの中でも、風吹ジュンさんが演じる佐和子の母・真由美の存在は非常に大きいと感じられました。
堀江:何もかもすべて分かっている大人の女性として、娘のことを全て理解し受け入れられる「母親」として、風吹さんには登場していただきたかったんです。
それを担うのは父親ではなく、娘の気持ちを分かっていながらもあえて何も言わずに「夫婦の問題だから二人で解決しなさい」と伝えられるのが母親なんだと思います。母と娘、女性同士だからこそ何も言わなくても通じ合う関係を描きたかったんです。
また実際の世の中でも、誰かが不倫をしたと知るとみんなでそれを叩く風潮があります。僕はかねてからその風潮に疑問を感じていて「夫婦の問題なのだから、まずは二人の間で解決すべきでは」と思っていました。そうした僕の想いを表現したいという理由からも、真由美を登場させたんです。
「プロと仕事がしたい」と映画制作を学びに
──堀江監督が映画監督になろうと思われたきっかけとは何でしょうか?
堀江:大学を受験する時に、ある大学の映画学科へ進学したいと思ったのですが、学費の事情から結果的に諦めたんです。そこで「映画を学びたい」という気持ちを一度くじかれてしまったんですが、将来やりたいことの選択肢が広がる大学へ行こうと思い立ち九州大学へと進みました。そして大学へ入学してから、改めて「映画を作りたい」と感じるようになったんです。
大学卒業後は大学院へ進学しましたが、その中で当時、北野武監督や黒沢清監督が教授としていらっしゃることで話題になった東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域の存在を知りました。監督領域での学びだけでなく、撮影・照明・録音・プロデュース・美術・編集といった、各領域のプロを目指している人たちと一緒にものづくりをできたらいいなと思った僕は、受験を決意しました。
在学中は、ひたすら映画を作っていましたね。映画を撮りたくて入学しましたし、卒業後も監督として映画を作り続けたいと思っていました。
──改めて、本作の見どころをお願いいたします。
堀江:ストーリーテリングが一つの見どころだと考えて作った話ですし、先読みできない物語をきちんとエンターテインメントとして作りたかったという想いがあります。前情報を入れずにこの映画を観てくださったら、どこに着地するのか分からないと思うので、物語の展開を楽しみにして映画をご覧いただけると嬉しいです。
そして漫画が大事な題材となっている話でもあります。プロの漫画家であるアラタアキさん、鳥飼茜さんによって描かれている漫画も見どころの一つだと思いますので、漫画好きの方も楽しめる作品になっていると思います。
インタビュー・撮影/咲田真菜
堀江貴大プロフィール
1988年生まれ、岐阜県出身。東京藝術大学大学院映像研究科・映画専攻監督領域修了。
「ndjc2015」に参加し、短編映画『はなくじらちち』(2016)を監督。初の⻑編映画『いたくてもいたくても』(2015)は、第16回TAMA NEW WAVEコンペティションにてグランプリ・ベスト男優賞・ベスト女優賞の三冠を受賞した。
2018年、『ANIMAを撃て!』で商業長編デビュー。そして『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は映像クリエイターと作品企画の発掘プログラム「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2018」で準グランプリ受賞作品に輝き、劇場公開を迎える。
映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
堀江貴大
【キャスト】
黒木華、柄本佑、金子大地、奈緒、風吹ジュン
【作品概要】
漫画家・佐和子の描く「不倫」を題材にした漫画は、どこまでが現実で、どこからが創作なのか?夫婦のウソとホンネが交錯するスリリングな心理戦は、観客を混乱の渦へと巻きこむ予想もつかない展開へ。
誰しもが身に覚えのある男女感のズレがユーモラスに描かれ、「結婚5年目夫婦」の“あるある”も、大きな見どころのひとつ。さらに劇中漫画を、漫画家・アラタアキと「サターンリターン」(小学館刊)が好評連載中の鳥飼茜が担当。映画ファンだけでなく、漫画好きも注目の一作に仕上がっている。
『先生、私の隣に座っていただけませんか?』のあらすじ
漫画家・佐和子(黒木華)の新作漫画のテーマは……「不倫」。
そこには、自分たちとよく似た夫婦の姿が描かれ、佐和子の担当編集者・千佳(奈緒)と不倫をしていた俊夫(柄本佑)は、「もしかしたらバレたかもしれない!」と精神的に追い詰められていきます。
さらに物語は、佐和子と自動車教習所の若い先生・新谷(金子大地)との淡い恋へ急展開。この漫画は、完全な創作?ただの妄想?それとも俊夫の不貞に対する、佐和子流の復讐なのか!?
恐怖と嫉妬に震える俊夫は、やがて現実と漫画の境界が曖昧になっていきますが……。