映画『とら男』は2023年2月17日(金)にシアターキノにて限定上映!
石川県・金沢で実際に起きた未解決事件「女性スイミングコーチ殺人事件」の真相に迫る、セミドキュメンタリータッチの異色ミステリー映画『とら男』。
未解決事件のことが忘れられないまま孤独に暮らす元刑事・とら男。ある時、東京から植物調査に来た女子大生・かや子はとら男の話に興味を持ち、事件を調べ始めます。
Cinemarcheでは、本作の脚本も手がけた村山和也監督にインタビューを敢行。
劇場公開における映画をご覧になった方々からの反響。そして、「かつて起きた未解決事件」を描く本作に込められた、村山監督ご自身の記憶や“弔い”の思いなど、貴重なお話を伺いました。
元刑事・西村虎男の“本物”を活かす
──2023年1月現在、映画『とら男』は全国順次公開中ですが、映画をご覧になられた方からの反響はいかがでしょうか。
村山和也監督(以下、村山):やはり、ドキュメンタリーとフィクションを行き来するような構成を映画の特徴として注目してくださる方が多かったです。
自分は本作で、映画をよく観られている方に「こんな映画観たことない」と感じてもらえるような作品を目指しました。渋谷ユーロスペースでの上映時、およそ3人に1人のお客さんにパンフレットをご購入いただけたのも、多くの方に鑑賞後「こんな映画観たことない」「だから、映画のことをより深く知りたい」と思ってもらえたからだと感じています。
また、「元々役者ではない西村虎男さんの“本物”の目つきがいい」「出演者の芝居がみんなナチュラルで、リアリティがある」という声も多かったです。
村山:実際の撮影でも、本作の芝居の中心に立つ虎男さんが役者でないため、かや子役の加藤才紀子さんなど虎男さんと共演する役者さんがされる芝居の“芝居らしさ”がより表れてしまうからこそ、その“芝居らしさ”をなるべく抑えられるように配慮を尽くしていました。
その他にも、カメラマンのEvgeny Suzukiさんとは、「各場面をどう撮り進めるか?」をあえて細かく打ち合わせをせず、虎男さんのフォトジェニックな顔をなるべく活かせるようなカメラワークを常に意識していました。
また演出面でも、撮影現場の雰囲気作りに重きを置き、「スタート」のかけ声で虎男さんを無闇に緊張させてしまわないよう、かけ声の前からカメラを回してスタンバイすることで虎男さんの自然な素振りを捉えようとするなど、虎男さんが元々持つ“本物”を活かせるように努めました。
自身の“事件にのめり込む感覚”を反映
──元刑事である西村虎男さんが“元刑事・西村とら男”として本作に出演された経緯には、映画という“情報を伝えるメディア”の力も関わっていると伺いました。
村山:虎男さんが本作へ出演してくださったきっかけの一つには、かつて「被害者の父親が犯人なのでは?」という謂れもない噂が地元で広まってしまったことがあり、その噂を何とかして払拭したいという思いがありました。
実はそのことに言及する場面も撮影自体はしていたんですが、映画の中では事件や虎男さん自身の背景を全ては描き切れないと考え、残念ながら本作からはカットしました。
村山:その一方で、上映時のトークショーなどで映画をご覧になった方から感想を伺う中で、虎男さんの噂を消したいという動機はもちろん、「かや子の親族・知人も、過去に『事件の犯人じゃないか?』と噂を立てられていた」などの設定を描いていたら、かや子が事件の捜査にのめり込む動機も理解しやすかったのだろうかと感じることもありました。
ただ、かや子は私自身の分身でもあるので「事件にのめりこむ動機」に対して“映画らしい分かりやすさ”を付け足そうとは当初から考えていなかったです。自分自身が事件にのめり込んでいった“本物”の感覚を大切にし、それをかや子に反映させていきました。
“あの時”を生かし続けるために
──村山監督の地元であり、「女性スイミングコーチ殺人事件」が起こった地でもある金沢での上映では、どのようなご感想をいただけましたか。
村山:被害者の方の同級生など、事件と近しい関わりを持つ方が劇場にいらっしゃっていたので、いつも以上に感想に対する“重み”を感じたといいますか、お客さんの映画への関心自体が非常に強かったです。
時効を迎えた時もニュースになり、「平成の未解決事件」としてもメディアで紹介されることの多い事件でもあったので、地元で長く暮らされている方ほど「あの事件の真相は、結局何だったのか?」という問いが残っていたんだと思います。
また、謂れのない噂だけが錯綜し続ける状況で本作が上映されましたが、「“犯人がいた”ということを提示してくれただけでも、救われた」とおっしゃってくださる方も中にはいました。
──映画を通じて「女性スイミングコーチ殺人事件」を描こうと考えられたのは、村山監督ご自身も「あの事件の真相は、結局何だったのか?」という問いを長年抱えられていたからなのでしょうか。
村山:やはり、個人的な思いが一番大きいです。
私が人生で一番幸せだったのは小学生ぐらいの頃だと感じていて、その時期を象徴する場所が、当時野球をしていたグリーンパークという地元の公園でした。また高校生の時に父が亡くなり、昔一緒に野球をやっていた親友も22歳の時に交通事故で亡くなりましたが、当時はみんな元気に生きていたんです。
その頃にちょうど起こったのが、女性スイミングコーチ殺人事件でした。現場も公園の敷地のすぐ隣ぐらいの場所にあり、現実感のなさからなのか奇妙な感覚に襲われました。そして「怖い」と感じながらも、自分が幸せだった時期に起きた事件として、記憶に深く刻み込まれました。
事件を描くことで、あの頃の父や親友との個人的な記憶も、映画に焼き付けられる。私がこの映画を作ったのは「犯人を突き止めたい」という思い以上に、被害者の方はもちろん亡き父や親友への“弔い”の思いに基づいています。現実として観てもらうことは叶いませんが、この映画を観てほしい人間には、亡き父や親友も含まれているんです。
本作のカメラマンを務めてくれたEvgenyさんも、残念ながら亡くなってしまいました。それでも「作品を通じて“あの時”が残り続ける」という映画の力を私は信じていますし、例え私自身が死んだ後でも、作品は永遠に生き続けます。
作品を残し続けることが、先にいなくなった人々に対して私が唯一できることだと思っています。
インタビュー/出町光識・タキザワレオ
村山和也監督プロフィール
1982年生まれ、石川県出身。2002年ニューヨーク市立大学在学中に、短編映画から映像制作を始める。
帰国後、CM制作会社を経てCM・MVを中心に映像ディレクターとして活動をスタート。2017年公開の映画『堕ちる』が32分の短編映画ながら映画館で単独上映されるなど、国内外で話題を呼ぶ。
2021年に完成した初の長編映画『とら男』は、2022年に新藤兼人賞(新人監督賞)へノミネート。KINOTAYO現代日本映画祭(仏)では審査員賞を受賞した。
映画『とら男』の作品情報
【日本公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本】
村山和也
【キャスト】
西村虎男、加藤才紀子、緒方彩乃、河野朝哉、河野正明、長澤唯史、南一恵、 吉田君子、中谷内修、深瀬新、安澄かえで、大塚友則、河原康二、石川まこ
【作品概要】
実在する刑事歴30数年の元刑事が本人役として主演を務め、かつて自身が捜査にあたった石川県・金沢の未解決事件「女性スイミングコーチ殺人事件」の真相に迫る、セミドキュメンタリータッチの異色ミステリーです。
主人公のとら男役を元・石川県警特捜刑事の西村虎男、女子大生のかや子役を『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(2019)の加藤才紀子がそれぞれ演じます。
監督は『堕ちる』(2016)の村山和也。現実とフィクションの二重構造によって、闇に葬られた事件の謎と真実を世間に問いかける作品となっています。
映画『とら男』のあらすじ
東京から植物調査に金沢に来た女子大生・かや子は、おでん屋に立ち寄ったときにそこで吞んでいた元刑事のとら男と出会います。
実はとら男には、刑事として後悔にも似た大きな心残りがありました。
1992年に金沢で起きた「女性スイミングコーチ殺人事件」の担当刑事だったとら男は、犯人の目星をつけながらも逮捕に至ることができなかったのです。
その事件は、未解決のまま2007年に時効が成立。そして事件から15年後、警察を退職したとら男は、事件のことが忘れられないまま孤独に暮らしていたのです。
とら男の話に興味を持ったかや子は、当時の事件について調査をスタートさせます。
まずは聞き込みからと当時の状況を知っていそうな人に事件について何か知っていることはないかと、行動を起こすのですが……。