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Entry 2020/02/05
Update

【仲野太賀インタビュー】映画『静かな雨』中川龍太郎監督との同世代タッグを通じて“普遍的な人間”を演じる

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『静かな雨』は2020年2月7日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー!

事故により新しい記憶を一日で失ってしまうようになった女性と、足に麻痺がある青年の出会い、そしてともに人生を歩んでいく姿を描いた映画『静かな雨』

「羊と鋼の森」で知られる作家・宮下奈都のデビュー作を原作に中川龍太郎監督が映画化した本作は、お互いに傷をもつ一組の男女の複雑な思いを描いています。


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本作では中川監督作『走れ、絶望に追いつかれない速さで』で主演を務めた仲野太賀さん、そして「乃木坂46」の卒業生である衛藤美彩さんがダブル主演を務めました。また本作は釜山国際映画祭、東京フィルメックスにも出品され、コンペティション部門にノミネートされた東京フィルメックスでは観客賞を受賞しました。

今回は本作で衛藤さんとともに主演を務められた行助(ゆきすけ)役の仲野さんに、作品や役柄への向き合い方はもちろん、本作で二度目となった中川龍太郎監督との仕事への思いなどをおうかがいしました。

“フラットさ”が生み出すクリエイティブ


(C)2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋

──仲野さんが中川監督とタッグを組まれるのは『走れ、絶望に追いつかれない速さ』(2016)以来2回目となりますが、お二人はほぼ同世代でもあります。中川監督とのお仕事にはどのような印象を持たれていますか?

仲野太賀(以下、仲野):中川監督はやはりコミュニケーションが取りやすいですし、「友人」という距離感の中でモノを作れるんですよね。例えば通常であれば、打ち合わせ一つにしても事務所を通して、日時を決めて……と間にいろいろ挟まれるんですが、本作では疑問やアイデアが浮かんだらすぐに連絡を取り合ったり、クランクイン前にも脚本について相談したりといつも以上に密なコミュニケーションが取ることができました。

普段は俳優部から作品に関する提案をしたり、クランクイン前にスタッフさんたちとお話しさせていただいたりすることは少ないんですよね。ただ以前、深田晃司監督の『海を駆ける』(2018)に出演した際にインドネシアのスタッフさんたちとともに作品を作ったんですが、製作はもちろん衣装や撮影のスタッフさんんとも“隔たり”がなく、非常にフラットな雰囲気の現場だったんです。一つのオフィスに集まり、みんなで昼食を食べながら撮影について相談したり。

そういったスタイルはとても素敵だと思っていましたし、中川監督や深田監督の作品という限られた環境だけではなく、できることなら今後もさまざまな作品でそのような映画作りをしたいと考えています。あらかじめ決められたものに乗っかっていくだけでなく、撮影前の段階からさまざまなディスカッションに参加し、“映画を作る者”という同じ目線でスタッフとやりとりをすれば、よりクリエイティブな形で作品を生み出すことができるじゃないかと。

原作の“純粋な美しさ”を映画という“カオス”へ


(C)2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋

──本作の「ヒロインが新しい記憶を失ってゆく」という設定をお聞きしたときには、以前仲野さんが出演された『50回目のファーストキス』(2018)を思い出しました。

仲野:当初はあの作品に出演していたということもあり、その上で「僕が主人公を演じるのはどうなんだろう?」という印象もありました。

そもそも「“失われてゆく記憶”という壁に隔てられた恋愛」という物語自体が、映画のみならず多くの作品にみられるモチーフでもあります。その中で自分が出演してしまうと観客のみなさんも既視感を抱いてしまうのではと不安だったんですが、クランクイン前にその点も含めて中川監督と話した際、彼からは「全く異なる作品になるだろう」と言われたんです。

そうして中川監督から本作について多くの言葉を聞いたことで、「原作小説で描かれているような純粋で美しい部分を核としながらも、映画化という過程の中であらゆる要素をより加え、混ざり合ってゆくことで生じたカオスを描くことができたら、この映画にも一つの新しい道ができるのでは」と思うようになりました。

また本作では中川監督といつも組まれているスタッフチームのみではなく、音楽を担当された高木正勝さんをはじめいつもとは異なる座組でしたし、俳優部も非常に強力なキャスティングとなっているため、その点も面白く感じてもらえると嬉しいですね。

“観客と地続きの人間”としての行助


(C)2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋

──行助という役柄を演じるにあたって、どのようなことを特に意識されていましたか?

仲野:行助が抱えている状況は非常に寓話的であるため、彼の内にある感情やその機微自体は逆に寓話であってはいけない。そこはやはり普遍的であるべきだと思いましたし、観客のみなさんが感情移入をできるような余地を絶対残した方がいいと考えていました。

また「いつも足を引きずっている」という設定に関しても、その設定通りに“足を引きずっている男の人”を演じるではなく、あえて“どこにでもいそうな人間”であることを意識していました。本作を普遍的な物語にするためにも、そしてこよみが持つ存在感をより意識してもらうためにも、観客と地続きに存在しているような感覚を抱ける人物にした方がいいと思ったんです。

──「いつも足を引きずっている」という行助の設定を、「人間の誰しもが抱えている傷や負い目」と捉えた上で演じられたわけですね。

仲野:「足を引きずっている」というコンプレックスから、現在の行助の人間性は構築されていったんだと思うんです。傷や負い目を抱えているからこそ彼は同じような人間への優しさを持っているし、他者に対する感度も高い気がするんですよね。だからこそ物語の中で行助はこよみとつながれたと思いますし、「同棲を始める」という突飛にも思える展開に対しお互いが相手に寄り添おうとする理由になる“何か”があればいいと感じていました。

そして、ハンディキャップがあるためにお互いが相手の傷を補おうとする営みの中だからこそ、映像における美しい光景を自然に見せられているんじゃないかとも思っています。

──その一方で、劇中での行助は優しくあり続けることに耐えられず、苛立ちを露わにしてしまう場面もありました。

仲野:それこそ、やはり普遍的な感情だと思うんです。人はどうしても良い面だけでは生きていられない。「この人に対して優しくしよう」「寄り添ってあげよう」という思いはありつつも、当たり前のようなことが起きて、毎日のようにそれが積み重なってゆく。さらにこよみは昔のことは覚えているけど、新しい自分との記憶はない。「“同じ時間”を生きていない」とどうしても感じてしまうんです。

そういったジレンマは誰しも納得できる状況だと思いますし、そこが行助の人間味として興味深いポイントになると思っています。

“見せ方”を知っている衛藤美彩


(C)2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋

──本作が映画初出演/初主演だった衛藤美彩さんとの共演には、どのような思いを抱かれましたか?

仲野:単独で演技をされたのは本作が初めてということでしたが、それでもアイドル時代で培われてきた“見せる力”といいますか、表現における圧倒的な瞬発力を持たれていると感じました。

「お芝居のキャリアが無く、どうしていいのかわからない」となったら大抵の方は立ち止まってしまいがちなんですが、自分の見せ方を一瞬で思いつき作り上げてしまうので、初めてとは思えない魅力的な演技をされていましたね。演技を成立させるための何かを彼女はパッと出せてしまうんです。また作品そのものに対してもとても真摯に向き合われていたので、役としても共演者としても強く寄り添っていただいたと思っています。

“よりよい30代”を俳優として迎える


(C)Cinemarche

──釜山国際映画祭、東京フィルメックスにも出品された本作を経て、仲野さんは今後俳優としてどこを目指していきたいのかを改めてお聞かせ願えませんか?

仲野:「出演作の映画祭への出品」は狙っては行き着けないという側面もありますし、その中で映画祭に登壇する機会もいただけることはある意味ではご褒美に近いのかもしれません。そもそも、他にも多くの作品がある中で本作を選んでいただけたという時点で、どこか報われる気持ちもあります。

現在の自分はすでに20代後半なので、やはり“よりよい30代”を俳優として迎えるためにも慎重にチャレンジをしていきたいですね。30代に至るまでにできることはまだまだたくさんありますし、その中でいい映画、いい役に出会えたらと思っています。

インタビュー・撮影/桂伸也

仲野太賀(なかのたいが)のプロフィール


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1993年生まれ、東京都出身。2006年にドラマ『新宿の母物語』(フジテレビ系)で俳優デビュー。翌年公開された映画『バッテリー』の出演でさらに注目を集めます。

以降、NHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~ 』、映画『私の男』などに出演し『第6回TAMA映画賞』では、最優秀新進男優賞を受賞。そして2019年から芸名を「太賀」から現在の「仲村野太賀」へと改名しました。

映画『静かな雨』の作品情報

【公開】
2019年(日本映画)

【英題】
Silent Rain

【原作】
宮下奈都『静かな雨』(文春文庫刊)

【監督】
中川龍太郎

【脚本】
梅原英司、中川龍太郎

【音楽】
高木正勝

【キャスト】
仲野太賀、衛藤美彩、三浦透子、坂東龍汰、古舘寛治、川瀬陽太、河瀨直美、萩原聖人、村上淳、でんでん

【作品概要】
2016年本屋大賞受賞作「羊と鋼の森」を執筆した作家・宮下奈都のデビュー作を原作に、事故により「事故以降の新しい記憶が留められなくなる」という後遺症を抱えることになった女性と、足に麻痺がある一人の青年が出会い、ともに歩んでいく姿を描きます。

監督を務めたのは『四月の永い夢』『わたしは光をにぎっている』などの中川龍太郎。また中川監督作『走れ、絶望に追いつかれない速さで』で主演を務めた仲野太賀と、「乃木坂46」の卒業生である衛藤美彩がダブル主演を務めています。

映画『静かな雨』のあらすじ


(C)2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋

大学の生物考古学研究室にて助手をしている行助(仲野太賀)。幼いころからの抱える麻痺により、片足を引きずりながら歩くのが日常となっている彼は、ある日大学の近くにたいやき屋があるのを見つけ、そのお店を一人で経営する女性・こよみ(衛藤美彩)と出会います。

二人は徐々に親しみを覚えていきますが、ほどなくしてこよみは交通事故に遭い、意識不明に。彼女は奇跡的に意識を取り戻しますが、「事故以降の新しい記憶が1日経つと消えてしまう」という後遺症がもたらされてしまいました。

そんなこよみに対して行助は、彼の家で一緒に住むことを提案。かくして人生に傷を負い、お互いに不安を抱えた二人の共同生活が始まったのでした……。

映画『静かな雨』は2020年2月7日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー!





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