映画『ストレージマン』は2023年5月20日(土)より池袋 シネマ・ロサほかにて全国順次公開!
コロナショックによる派遣切りによって職を失い、住む家も家族も失った男が、住むことを禁止されているトランクルームでの生活へと追い詰められていく現代の閉塞感を描いた問題作『ストレージマン』。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022・短編部門では観客賞を受賞し、福岡インディペンデント映画祭2022ではグランプリに輝くなど、数多くの映画祭で高い評価を受けました。
このたびの2022年12月16日(金)からの池袋HUMAXシネマズでの劇場先行公開を記念して、Cinemarcheでは萬野達郎監督にインタビューを敢行。
自身がかつて観た「胸糞映画」から学んだ手段としての「胸糞」の演出、創作者として対峙する「当事者」という言葉などなど、貴重なお話を伺いました。
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心に「引っかき傷」が残る映画を
──映画祭での反応や作品を観た方の感想の中でも、特に心に残っている言葉はありますか。
萬野達郎監督(以下、萬野):いきなりネタバレになってしまいますけど、物語の終わり方について触れてくださる言葉が多かったですね。
本作のテーマを描く上で「希望」を感じさせた方が良いか否かは迷いがあったのですが、最終的に選んだ結末は映画をご覧になった多くの方の心に刺さったようで、「オチが良かった」「終わり方に希望をもらえた」という感想を直接いただけたり、TwitterなどのSNSでも「最後に救われた」という声が大きかったです。
私自身もその反応に救われましたし、結末が広く受け入れられたという意味で正解だったのだと実感できました。
ただ私自身は、前作の『Motherhood』(2019)もそうであったように、作風としては鑑賞後に「傷跡」が残るエンディングの方が好みなんです。
──映画を観た者の心に「傷跡」が残るような感覚をもたらす演出は、キンバリー・ピアース監督の映画『ボーイズ・ドント・クライ』(1999)に影響を受けたとお聞きしました。
萬野:私自身も作品作りの衝動は、映画を観た後の余韻や後味に触発されています。
幼少の頃は爆発シーンが多く、最終的にハッピーエンドで終わるのがハリウッド映画だと思い込んでいたからこそ、その後『ボーイズ・ドント・クライ』(1999)やデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』(1995)を初めて観た時の衝撃、バッドエンドによって強烈に打ちのめされた感覚は、いまだに映画の原体験として残っています。
特に『セブン』のバッドエンドな結末はあまりにも有名ですが、その後味の悪さにより映画を何度も反芻することで、七つの大罪について改めて考えさせられる作りになっています。
作る側としては「あの衝撃を超えたい」と思いながら、鑑賞後の心に「引っかき傷」が残る映画を目指しています。
「ツールとしての胸糞」で観客に伝える
──いわゆる「胸糞」と呼ばれる演出を映画で用いるにあたって、萬野監督が意識されていることは何でしょうか。
萬野:思春期の頃、胸糞映画に心をギュッと鷲掴みにされたという個人的な原体験を大事にしている一方で、映画を観た方にセンセーショナルな胸糞展開を通してメッセージを受け取ってほしいとも思っています。
単に悪趣味な「胸糞演出」で観客の気分を害すること自体を目的とせず、私がテーマとして取り上げた社会問題も含め、鑑賞後に映画を反芻してもらうためのツールとして「胸糞」を用いるという感覚を大事にしています。
例えば、映画館で観終わった後に友だちと別の話をして、家に帰って、お風呂で湯船に浸かりながら「今日の映画、すごい胸糞悪かったな」と思い出すその時に、自身が抱いた感情と紐づけられた社会問題についても改めて考えてもらいたいのです。
「社会問題への関心」でいつも思い出すのが、小学校の道徳の時間です。授業の中で、社会問題に関する再現ドラマを鑑賞させられ、それが子どもに思考を促す目的で過度な感動仕立てに演出されているのを目の当たりにした時、興醒めした経験がありました。
幼いながらに、現実で起こっている問題や映し出される事象に対し「観る」という行動しかできない無力感に似たもどかしさ、映像に突き放された感覚を覚えたんです。
作り手として上手くできているのかは分かりませんが、物語にキャッチーさやエンターテインメント性を持たせつつ、ちゃんと問題提起もするというバランスを理想としているので、ショッキングな画をあえて入れ込んでお客さんをハッとさせるのは、今後もやっていきたいですね。
「当事者」になり切れない、それでも作り続ける
──社会問題を作品を通じて描く際、誰もが直面するであろう「当事者」という言葉を、萬野監督はどう受け止めた上で映画を作られているのでしょうか。
萬野:私のレベルなんてまだまだ甘いと思われるかもしれませんが、常に「自分事」の不安に駆られながら作っています。
「もし優生保護法が現在でも施行されていたら、自分もそうなっていたかもしれない」という恐怖から『Motherhood』を撮りましたし、『ストレージマン』に関しても作中の主人公・森下ほどの目には遭いませんでしたが、「この先どうなるか分からない」という不安と周りの人の不幸に心を打たれたことは作品に強く反映されています。
コロナ禍の中で「自ら亡くなる」という選択肢を選んでしまったその人たちに対し、「何もできなかった」と沈んだ時期もありました。彼らの声無きSOSに気づけなかった自分自身が嫌になったんです。
萬野:映像を作っている者として、しかも経済メディアでコロナなどのニュースを取り扱っている身としてはこのまま何もしないのはダメだと思い、彼・彼女へのメッセージとして「何か、SOSを出してほしかった」という思いを『ストレージマン』には込めました。
私自身、他人に助けを求めづらい性格ですし、自分の弱さを認めるのができない人間です。ただ、もし何か助けを求める一言が言えたとしたら、少しは楽になるかもしれない、状況も変わるかもしれないと考えると、やはり社会問題を「自分事」として捉えることができます。
しかしながら、「本当の意味で当事者なのか」と自問自答すると非常に不安になるので、それをかき消すためにリサーチに努めるのですが、「いや、全然足りなかった」と完成後にいつも後悔しています。
そんな「どこか当事者になり切れない」というコンプレックスを抱えながら、それでも作品を作り続けるべきなのだと、今はそう思っています。
インタビュー/タキザワレオ
撮影/出町光識
萬野達郎プロフィール
大阪府出身。カリフォルニア州立大学ノースリッジ校映画制作学科を卒業。日本帰国後、市川海老蔵の映像作品や、カナダ建国150周年記念番組などを演出し、映画監督としても精力的に活動。
映画『Motherhood』(2019)は国内外で20以上の映画祭に入選し、「Action On Film International Film Festival」の最優秀外国作品賞をはじめ、数々の映画祭で賞に輝いた。
現在は経済メディア「NewsPicks」の番組を演出している。
映画『ストレージマン』の作品情報
【日本公開】
2022年(日本映画)
【英題】
Storage Man
【監督・脚本】
萬野達郎
【プロデューサー】
れんげひろたか
【キャスト】
連下浩隆、瀬戸かほ、渡辺裕之、矢崎広、渡部直也、米本学仁、古坂大魔王
【作品概要】
萬野達郎監督が手がけた『ストレージマン』は、人が住むことを禁止されている密室空間であるトランクルームを舞台に、コロナ禍の閉塞感を描き、設定自体にダブルミーニングを持たせています。
本作で主演を務めた連下浩隆はプロデューサーとして参加。全く異なる性格のキャラクターを一人二役で挑戦している瀬戸かほや、ベテランの渡辺裕之らが脇を固めます。
経済情報メディア・NewsPicksやNHKワールドの経済番組で演出を担当してきた萬野監督の手腕が光る本作は、国内コンペティション部門観客賞(短編部門)を受賞。
福岡インディペンデント映画祭2022ではグランプリに輝き、その後もロサンゼルス・アジア映画祭にて作品賞と主演男優賞にノミネート、北九州最大の映画フェス「Rising Sun International Film Festival」で入選、カナダ・スクリーン・アワード認定の映画祭「Silver Wave Film Festival」にて最優秀外国作品賞を受賞し、国内外問わず高い評価を受けています。
映画『ストレージマン』のあらすじ
自動車工場の派遣社員・森下は妻と娘の3人暮らし。社宅に住み、娘の誕生祝を家族で祝うなど、慎ましいながらも幸せに暮らしていました。
しかし、コロナショックで派遣切りにあい、職を失ってしまいます。同じ頃、妻もパート職を失い、将来に不安を抱き、森下と口論になります。
妻に対していらだった森下は、手を上げてしまいました。それが原因で妻の両親がやってきて、妻との離婚を要求します。
結局妻は子どもを連れて実家に戻り、会社からは社宅の立ち退きを迫られた森下。
荷物を持ち、途方に暮れていた時、目についたのはトランクルームです。トランクルームは荷物を預ける狭い部屋ですが、雨風もしのげ、鍵もちゃんとかかります。
誘惑に負けた森下は、トランクルームでこっそりと生活を始めました。
映画『ストレージマン』は2023年5月20日(土)より池袋 シネマ・ロサほかにて全国順次公開!