中田秀夫監督の最新作『“それ”がいる森』、劇場公開中!
「不可解な怪奇現象が多発する」という実在の森を舞台に、 得体の知れない“それ”に遭遇した息子と父親が未知の恐怖に立ち向かっていく映画『“それ”がいる森』は、ホラー要素のみならず、新しいエンターテインメント作品です。
主演を務めるのは、本作が初のホラー映画出演となる相葉雅紀。嵐活動休止後初の映画作品では『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』(2014)以来、8年ぶりの主演となります。
演出を担当するのは『リング』(1998)、『事故物件 恐い間取り』(2020)など数々のヒット作を生み出してきたジャパニーズ・ホラー界の名匠・中田秀夫監督。
このたび、映画『“それ”がいる森』の劇場公開にあたり、中田秀夫監督にインタビューを敢行。主演を務めた相葉雅紀さんからの二つの提案、主人公の息子役に抜擢された上原剣心くんの本作での成長、ジャパニーズ・ホラーを牽引する中田秀夫監督のホラー映画に対する心境について、大いに語っていただきました。
CONTENTS
“実在の森”がモチーフのオリジナル作品
──『事故物件 恐い間取り』(2020)で初タッグを組んだ松竹の秋田周平プロデューサーから監督オファーを受けられたとうかがいました。
中田秀夫監督(以下、中田):『事故物件 恐い間取り』の成功を受け、「方向性がまったく違うものを作りたい」と秋田さんからオファーをいただきました。その時点で、すでに秋田さんと脚本家のブラジリィー・アン・山田さんが不可解な怪奇現象が多発する実在の森に取材に行かれていて、それをモチーフにオリジナル作品を撮ることを秋田さんは考えていました。
主人公を中心とした家族関係をどのようにするのか。また森の中に潜む“それ”に、誰がどのように遭遇したらいいか。まずは秋田さん・山田さんと私の3人で具体化するアイデア出しから始めました。1本のホラー映画を仕立てるにあたり、脚本化に加わっていただいた大石哲也さん含め、皆さんとの試行錯誤が続きました。“それ”が何のために森に潜んでいるのか、そこがきちっとしないとリアルなストーリー展開が作りにくいからです。
最近製作される邦画は、原作があるものが圧倒的に多い。そのため、原作のないオリジナル作品を制作する機会は久しくありませんでした。オリジナルならではの自由さはありますが、題材が題材なだけに悩む部分も多い。脚本開発ではじっくりと秋田さん、山田さん、大石さんと話した記憶があります。
相葉雅紀からの2つの提案
──主人公・田中淳一役を、相葉雅紀さんが演じられています。
中田:田舎に戻って農業をやっているという設定の主人公でしたが、当初はキャストを想定せずに脚本を書き始めました。しかし、相葉さんはこのイメージに近い方です。キャスティングについて話している時、秋田さんから相葉さんの名前が挙がり、年齢的にもキャラクター的にもいいんじゃないかと合点がいきました。それからは相葉さんをイメージしながら、脚本も当て書き的に書き進めることになりました。
──キャスティングとしてピッタリであった相葉さんとは、実際の撮影にあたって役作りについてどのようなお話をされたのでしょうか。
中田:リハーサル時に突っ込んだお話をした記憶はあまりないですね。ただクランク・インしてからは、相葉さんから二つの提案がありました。
一つ目は、父親としての自覚についてです。淳一は離婚をして東京から田舎に戻り、息子とは3年以上会っていないという設定。息子にいきなり来られて、父親として戸惑っているはず。息子が暗くなるまで帰ってこなくても、そこまで遅い時間ではないので、のほほんとしてあまり心配していなかったのが、森の中で意識を失っている息子を発見し、事情を聞いた息子が暴れ出した辺りで、父親としての自覚を取り戻すようにメリハリをつけたいと演技プランを伝えられました。
もう一つは、“それ”に対する不安から淳一が一也を東京に戻そうとした時のセリフです。相葉さんご本人ともディスカッションをして意味合いとしては同じようですが、響きが違うセリフに変更しました。相葉さんからの提案がなかったら当初、脚本に書かれていたままでした。
相葉さんという俳優は、脚本に書かれたことを自分なりに解釈して作品に提案をされます。そうした姿勢をもった相葉さん、彼のように経験値が豊富な方には、演出について事細かに言わないように心がけてはいますが、相葉さんの映画へ取り組む真摯な気持ちを強く感じましたね。
「一也を演じたい」という熱量があった上原剣心
──淳一の息子・一也を演じられた上原剣心くんは、オーディションで選ばれたそうですね。
中田:離れて暮らしていた父親への思い、一緒に暮らしている母親への不満やそれでも大切に思う気持ち、“それ”と遭遇するという強烈な体験など、さまざまな葛藤を一也は抱えることになります。
子役として十分な経験があり、巧みに演じられる子は大勢います。ですが、子役としての演技力の高さよりも「一也を演じたい」という熱量が大切だと私は思っていました。
助監督が100人単位で予備審査を通じて面接を行い、実際に私が会うことになったのは20~30人ほどでした。その中で、1番に熱量を感じたのが剣心くんでした。剣心くんはまだキャリアが浅いのですが、何も迷わずに決められました。相葉さんがお父さんで、江口さんがお母さん。ルックで選んだわけではありませんが、面影としてもしっくりくる感じでよかったと思います。
──撮影現場に入ってからの上原くんはいかがでしたか。
中田:現場に入る前に、リハーサルを5~6回、1回につき3時間ほど行いました。役についての抽象的な話をするのではなく、実際にリハーサルで演じてみて「この時の一也の気持ちはこうかな」とじっくりと話をしました。またリハーサルでは、助監督が代わりに父親役で入る予定でしたが、ほとんど毎回、相葉さんが来てくれました。とてもありがたいですし、感謝しかありませんね。
撮影初日は東京で家族3人、暮らしていた家を父親が出て行く過去の場面でした。剣心くんの演技は緊張のため硬かったのですが、それでも撮影を始めなくてはならない。緊張のせいでセリフが全部言い切れなかったり、とちってしまったりする時もありました。剣心くんは自分のせいで撮影が遅れることをすごく悔しがって「自分がもっとキチッとセリフを言えていれば」と悔し涙を流していたらしく、それを相葉さんがフォローしてくれていたと聞きました。
撮影当時、剣心くんは4月から中学1年生になるという、ギリギリ小学生の頃でした。同級生役は男の子が4年生、女の子は5年生がメインで、自分より年下ですが、子役として熟れている子が多い。一方で自分は、子役の中ではいちばん大きな役。彼らの演技を見ながら、自分の感覚で何か掴んでくれたと思います。この作品を通じて、演技することが楽しくなったのかもしれませんね
その後、ジャニーズJr.の新グループ「Go!Go!kids」に所属したそうですが、アイドル活動と同時に演技もこの先、続けてくれればいいなと願っています。
ホラー映画は“それ”だけじゃない
──中田監督がホラー映画を作られる際に、最も意識されていることとは何でしょうか。
中田:人間を登場させ描いている以上、そこには感情の交わし合いが必ずある。私はホラー映画を制作する際に、そういった部分にこだわりを持って作りたいと考えています。
『“それ”がいる森』というタイトルからも、「“それ”って何だろう?」という疑問が観客の皆さんにとって一番気になる点かと思います。ただ、“それ”に対する恐怖心を描くことだけでなく、登場人物の内面や彼らの関係性における心情の揺らぎや成長も、しっかりと物語に即して描いています。
ですから「ホラー映画」であっても、そこには葛藤する家族ドラマがあり、また子供たちが友情を育む姿を描いた物語でもあります。観客の皆さんがその部分に共感を覚え、ホラーエンタメ映画以外の部分も十二分に楽しんでいただきたいです。
そのことこそが、キャストで主演を務めて現場を引っぱってくれた相葉雅紀さんはじめ、本作を通じて成長できた剣心くんにとっても嬉しいことなのではと思います。
インタビュー/ほりきみき
中田秀夫プロフィール
1961年生まれ、岡山県出身。東京大学卒業後、にっかつ撮影所に入社。1992年、テレビドラマ「本当にあった怖い話」シリーズの演出を務める。
1996年に『女優霊』で映画監督デビューを果たし、その後『リング』(1998)、『リング2』(1999)など立て続けて作品を公開。日本映画界にジャパニーズホラーブームを巻き起こす。
その後ハリウッドに招かれて『ザ・リング2』(2005)を自ら監督。近年の監督作品として『クロユリ団地』(2013)、『劇場霊』(2015)、『スマホを落としただけなのに』(2018)、『貞子』(2019)、 『事故物件 恐い間取り』(2020)、『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(2020)、『嘘喰い』(2022)などがある。
映画『“それ”がいる森』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
中田秀夫
【脚本】
ブラジリィー・アン・山田、大石哲也
【キャスト】
相葉雅紀、松本穂香、上原剣心(ジャニーズ Jr.)、 江口のりこ
【作品概要】
『リング』『事故物件 恐い間取り』など数々のヒット作を生み出してきたジャパニーズ・ホラー界の名匠・中田秀夫監督による、新しい発想のオリジナル・ホラーエンターテインメント。
主人公の田中淳一を演じるのは、ホラー映画初出演となる相葉雅紀。嵐活動休止後では初の映画出演でもある本作は、『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』(2014)以来8年ぶりの主演作となった。
淳一の息子・赤井一也役は、オーディションで抜擢され映画初出演となる上原剣心(ジャニーズ Jr.)。一也の担任教師で、淳一とともに不可解な事件や怪奇現象に巻き込まれていく北見絵里には松本穂香。淳一の元妻・赤井爽子には、中田秀夫監督の『事故物件 恐い間取り』で第44回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞した江口のりこが演じる。
映画『“それ”がいる森』のあらすじ
田舎町でひとり農家を営む田中淳一(相葉雅紀)は、元妻・爽子(江口のりこ)と東京で暮らす小学生の息子の一也(上原剣心)が、突然ひとりで訪ねて来たのをきっかけに、しばらく一緒に暮らすことになる。
ちょうどその頃から、近くの森では不可解な怪奇現象が立て続けに発生し、淳一が住む町でも、住民の不審死や失踪事件が相次いでいた──。
そんな矢先、淳一と一也も偶然得体の知れない“それ”を目撃してしまう。
「“それ”の正体とはいったい──!?」
淳一は一也の担任の絵里(松本穂香)とともに、怪奇現象に巻き込まれていくが、それは未知なる恐怖のはじまりに過ぎなかった。
堀木三紀プロフィール
日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。
これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。